今年6月21日、デビュー37周年を迎えたことを機に代表曲「C-Girl」「セシル」や、ドラマ「スケバン刑事Ⅲ 少女忍法帖伝奇」で主演を務めた大西結花、中村由真と風間三姉妹としてリリースした楽曲「Remember」など全157曲を各音楽ストリーミングサービスで配信してファンを喜ばせた浅香唯(参照:浅香唯の全楽曲をサブスク解禁)。それから約2カ月後、今度はまったく別のニュースでファンを驚かせた。日本プロ麻雀協会のプロテストに合格したことを発表したのだ。実は麻雀歴は30年近いという浅香。この記事では彼女が麻雀を始めたきっかけから自身の麻雀スタイルまで、知られざる一面を紐解いていく。
取材・文 / 丸澤嘉明 撮影 / 小原泰広
父と共通の趣味を持つために始めた麻雀
──浅香さんはどういうきっかけで麻雀に興味を持ったのでしょう?
もともとは父と共通の趣味を持ちたいと思って始めたんです。23歳の頃ですね。母とは女性同士いろいろ話すこともあるんですけど、父とはそんなに会話もなく、同じ趣味を持てばもっといろんな話ができるんじゃないかなと思って。父がゴルフをやっていたのでまずはゴルフを始めたんですけど、センスがなさすぎて挫折しまして(笑)、ほかに何かないかなと思ったときに、父が好きな麻雀を覚えてみようと思ったんです。父と一緒に麻雀を打てる日が来たらいいなって。
──お母様だったりほかのご家族の方も麻雀をやっていたんですか?
いえ、母はまったくやらなかったので、覚えてもらいました。
──家族麻雀ができるように。
はい。宮崎に帰省したときなど、時間があれば家族麻雀を楽しむこともあります。あとは父の仕事関係の人たちとホテルの広間を借りて麻雀大会をやることもあったので、それに参加させてもらったりとか。
──当時はすでに芸能活動をされてたわけで、浅香さんがいたら周りの人がびっくりしません?
いえいえ、父の娘ということはみんな知っていたので。基本は知ってる人たちと打つ感じで、あとは仕事場で出会った人と麻雀話で盛り上がったらたまに打ってました。麻雀が好きな人たちって、打てることがわかるとすぐに卓を囲みたがるので(笑)。
──基本的に4人そろわないと打てないから、「メンツ見つけた!」ってなりますよね(笑)。麻雀を覚えてからどのくらいの頻度で続けてこられましたか?
頻度としては年に数回打つくらいでしたけど、離れていたときはないですね。
オンライン麻雀の魅力
──今はオンラインで麻雀をやる人もだいぶ増えましたよね。
コロナ禍になって一時期はリアルで卓を囲むことがまったくできませんでしたからね。私もここ最近はオンラインで打つことが増えました。これまでもたまにやってはいたんですけど、頻度はだいぶ増えましたね。
──対面で打つのとオンラインでやるのって、同じようで違いませんか?
全然違いますよ! 生身の人間同士で卓を囲んで、「あ、この人テンパったな」(※1)とかいろいろな気配を感じながらやるのが麻雀の醍醐味でもあるので。実際に牌に触れながら考える思考力と、オンラインでの画面上の思考力はまったく違うと思います。オンラインはオンライン。そこまで真剣にはやらない。
──オンラインだと考えているうちに時間切れになってしまい、ツモってきた大事な牌を自動的に切られてしまうこともありますよね。
そうそう! 麻雀って長考しても全然問題ないので本当はゆっくり考えていいはずなんですけど、ネットだとせっかちな人が多いので。
──一方で今はプロ雀士の方もオンライン麻雀をやられています。浅香さんから見てオンライン麻雀の魅力はどういうところにあると思いますか?
何より手軽なのが一番の魅力ではないでしょうか。あとは、私も何人かプロの方とオンラインで打たせていただきましたけど、プロの方でも雰囲気がわからないのでポロッと当たり牌(※2)を出してくれることがあるんですよ。対面でやると、プロの方って私がやろうとしていることを見透かしてなかなか振り込まないけど、オンラインなら勝てる可能性が出てくる。
──気配を感じ取れないことが、むしろメリットになるわけですね。
そうですね。オンラインでプロと対戦して「プロってそんなに強くないな」と思う方がいるかもしれないですけど、あれはまったく実力ではないというのは声を大にして言いたいですね。「私たちが下手でも勝てる可能性があるのがオンラインなんです」って。
※1. 上がりの一歩手前の状態のこと。他プレイヤーからすると上がられるリスクがあるので注意が必要。
※2.他プレイヤーの捨てた牌に対してロンを宣言できる牌、もしくはツモ上がりを宣言できる牌のこと。
放送対局でまさかのダブル役満
──ここ最近「THEわれめDEポン」(※3)などの放送対局にも出演されていますが、以前から参加されていましたか? あまりお見かけした記憶がなくて……。
いえ、してないです。ホントここ最近ですね。趣味が麻雀というのもあまり言ってなかったですし。「女流雀士 プロアマNo.1決定戦 てんパイクイーン」という番組があって、2017年に放送されたシーズン2に出たのが私の“放送対局デビュー”ですね。
──その番組に出演したきっかけはなんだったんでしょう?
プロデューサーがよく知っている方で、その方に誘っていただいたので出てみようかなと思って。
──なるほど。昨年はオンライン麻雀ゲーム「雀魂」とマンガ「1日外出録ハンチョウ」のコラボイベント「大槻班長杯」に出演して、見事に優勝されていましたよね。そのときの感想もお聞かせいただけますか?
私は「放送対局はTVショー」という意識があるので、普段とはちょっと違う打ち方をしているんですよ。本当は守りたいんだけど、守りすぎてもテレビ的には面白くないよねっていう。
──確かに倍満(※4)のような高い手を上がっていましたね(※5)。
普段めったにやらないことやるので。放送対局でプロの方からダブル役満(※6)を上がったこともあるんですよ。
──小林剛プロから小四喜・字一色(※7)を上がったやつですね。
そうそう。あれは本来だったら絶対ないことで。というのも、私もあのときは無理に大きな手を狙いに行ったし、こばごーさんも本気の対局だったら絶対に西なんて出すわけないので。私のYouTubeチャンネルでの放送対局という偶然の産物でダブル役満になっただけなので、ショーだからできたというか。
──でもそこで小四喜・字一色を上がれるというのは、生まれ持ったスター性があると思います。
もちろん狙ったところではありますけど、あれはうっかりこばごーさんのおかげで成立した感じですね。
──番組的には最高ですよね(笑)。
ホント最高なんですよ。番組の企画としては、私は多井隆晴さんと一騎討ちの勝負だったところ、まさかの展開になるっていう(笑)。プロの対局は普段しゃべりながら打てないルールなので、そういう方たちとおしゃべりしながら打てたのも新鮮で楽しかったですね。
※3. 1995年にスタートしたフジテレビの麻雀バラエティ番組。現在はCS放送フジテレビONEで放送されている。
※4. 上がりの際に獲得できる点数のこと。役の合計が8~10翻あり、子の場合は16000点、親の場合は24000点という高得点。
※5. 「上がり」は役を成立させてその局での勝者となり、他プレイヤーから点数をもらうこと。麻雀には東1~4局、南1~4局まであり、最終的な持ち点の多い人が勝者となる。
※6. 役満の2倍の点数を得ることができる役のこと。役満の複合形のほかにも、四暗刻の単騎待ち、国士無双の十三面待ちなどをダブル役満とするルールもある。一方、ローカルルールのためダブル役満自体を認めないケースもある。子の場合は64000点、親の場合は96000点。
※7. 小四喜は4種類の風牌(東、南、西、北)のうち3種類を3枚、残り1種類を2枚含んだ役。風牌以外の部分はどのような形でもよい。字一色は字牌だけで作った役。浅香は「東東南南南西西北北北白白白」の形から小林の捨てた「西」で上がった。
麻雀のスタイル
──放送対局と離れたところでの普段のご自身の麻雀スタイルはどんな感じでしょう?
私は守ります。勝負に出て1回満貫(※8)を上がったら守ります。
──確かに一局の中で満貫もそうそう上がれるものでもないから、上がれたらそのプラス分を守り抜くと。
もっと点数を取ろうという方向にはいかないですね。ポンやチー(※9)を多用して1000点、2000点で上がる人たちが多いときは、逆に大きな手を狙ってゆっくり打ちます。
──鳴き重視(※10)で安く上がる人が多い場だと、こっちも合わせないとスピード負けしてしまうと思うんですが、そこはどっしり構えるんですね。
そうですね。ただ条件として必ず自分が大きな手で上がる。どこかで勝負はしないといけないので。
──ということは、面前(※11)重視?
完全に面前派ですね。よほどのことがない限りは鳴かないです。
──鳴くと1飜下がる役も多いですからね。
せっかく2回上がってもそれが1000点、2000点だと、次に誰かに満貫を上がられたらあっという間にリードがなくなっちゃうので。
──流れやジンクスみたいなのは意識しますか?
すごくします。北家(※12)に座れたときは「今日は勝ったな」って思います。北家って最後になんとでもできるので、そこを取れるかどうか。東家が一番嫌いなんですよ。
──場所決めのときからもう意識されているんですね。
そうですね。最初の場所決めである程度その日の運勢が決まっている気がします。
※8. 上がりのときに手役に応じて獲得できる点数のこと。子の場合は8000点、親の場合は12000点。
※9. 「ポン」は他の人が捨てた牌をもらって同じ数字や種類の3枚の組み合わせを作ること。「チー」は左隣に座った人の捨て牌をもらって、数字が連続した3枚の組み合わせをそろえること。
※10. ポンやチーなど、ほかの人が捨てた牌をもらって自分の面子をそろえることを「鳴く」と言う。
※11. ポンやチーなどの鳴きを使わず、高打点を目指す雀風。麻雀では鳴くと1飜下がる役が多い。
※12. 親から見て左側に座っている人。麻雀は座る位置によって東家、南家、西家、北家の4つの風に分かれ、東家のプレイヤーが最初の親を担当する。東家から反時計回りに親が交代していくため、北家は最後に親が回ってくる。
ブログタイトルにするくらい七対子が好き
──好きな役はありますか?
七対子(※13)がすごく好きです。私のオフィシャルサイト内のブログコーナーのタイトルを「HELLO!ちぃ~といつ」にするくらい(笑)。
──七対子ってけっこう難易度高くありません?
狙ってやるときと、七対子以外やりようがないときがあると思うんですけど、大抵の場合は後者だと思うんですよ。でも私は配牌時点で「よし、七対子だな」と決めることがあります。筋ひっかけ(※14)が意外とうまく実ってきていて。七対子で上がる確率が高いので好きになっています。
──今までの経験則でいいイメージがあるということなんですね。普通はトイツが4つくらい重なってからようやく考え出す感じだと思うんですけど。
そこで暗刻(※15)ができたりしたら、大抵の人がそこから四暗刻(※16)も頭の片隅で意識し始めると思うんですけど、私は一切見ないですね。
──遠くの四暗刻よりも近くの七対子なんですね。
はい。見る人が見たらもったいないと思うかもしれないですけど。プロの人には「好きな役は作らないほうがいい」とよく言われます。
──そのときの手材料の中でベストを考えたほうがいいと。
まあでも好きなものは好きだから別にいいじゃんって思います(笑)。
※13. トイツ(同じ牌が2枚ある状態のこと)を7組そろえると成立する25符2飜役。
※14. あと1枚そろえば順子(シュンツ / 234など連番の数牌でそろえた面子)が完成する場合の両面待ちとなる牌を筋という。例えば手牌に2と3を持っている場合、1と4が筋となる。麻雀には「1-4」「2-5」「3-6」「4-7」「5-8」「6-9」という筋があり、4を切っている人には1は両面待ちでは当たらない。この性質を逆手に取って4を切っておいて1で待つのが筋ひっかけである。七対子は順子を必要としない役なので、筋ひっかけをやりやすい。
※15. ポンやチーをせずに同じ種類の牌を3枚そろえること。
※16. 手の中で暗刻を4つ作ると成立する役満。面前役なので鳴いたら成立しない。
<後編に続く>
浅香唯
1984年にマンガ雑誌「少女コミック」主催の「ザ・スカウトオーディション’84」にて、同誌に連載されていたマンガ「シューティングスター」のヒロイン名を冠した“浅香唯賞”を受賞し、翌1985年6月にシングル「夏少女」でデビュー。1986年にドラマ「スケバン刑事Ⅲ 少女忍法帖伝奇」に3代目麻宮サキ役で出演して一躍トップアイドルの仲間入りを果たす。2022年6月21日、デビュー37周年記念日にこれまでリリースした全シングル&アルバムの音楽ストリーミングサービスでの配信がスタートした。また同年8月、日本プロ麻雀協会のプロテストに合格したことを自身のYouTubeチャンネルにて発表。代表曲に「C-Girl」「セシル」「Believe Again」などがある。
浅香唯 音楽配信サービス
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