5月20日と21日に福岡・海の中道海浜公園 野外劇場で野外フェス「CIRCLE '23」が開催された。「CIRCLE」は2007年に海の中道海浜公園で初開催されたイベントで、5年後の2012年からは年1回の恒例イベントとして定着したが、2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止に。2021年はオンライン形式、2022年はマリンメッセ福岡 B館に場所を移して有観客形式で行われた。10回目の開催となる今回は、4年ぶりに海の中道海浜公園を舞台に行われた。2日間で計20組のアーティストたちが出演し、CIRCLE STAGE、KOAGARI STAGE、DJブースのKAKU-UCHI Annexという3つのステージでパフォーマンスが繰り広げられた。本稿では20日公演の模様をレポートする。
畳野彩加(Homecomings)
弾き語り中心のKOAGARI STAGEでトップバッターを務めたのはHomecomingsの畳野彩加。「Blue Hour」で彼女がライブを開始すると、アコースティックギターのみずみずしいアルペジオに乗って凛とした歌声が響き渡った。畳野はその後、力強い歌声を聞かせる「Here」や、マンガ家のさくらももこが亡くなったときに作ったという「continue」など7曲を演奏。ひと言ひと言を丁寧に歌い届けていくような彼女のパフォーマンスに観客は静かに聴き入っていた。
Tempalay
CIRCLE STAGEに登場したTempalayは小原綾斗(Vo, G)の激しいシャウトを合図に「のめりこめ、震えろ。」でライブをスタート。アグレッシブなパフォーマンスで会場の空気をヒートアップさせていく。「トップバッターとして勝手に遊んでいきたいと思いますんで、皆さんも自由に楽しんでください」という小原のMC通り、Tempalayは、センチメンタルなミドルチューン「どうしよう」、後半にかけてカオティックな盛り上がりを見せる「my name is GREENMAN」など持ち前の変幻自在なサウンドを展開。「大東京万博」では「ラッセーラー、ラッセーラー」という青森ねぶた祭風の掛け声を観客とともにシンガロングし会場に一体感をもたらした。
Mikan Hayashi(ゲシュタルト乙女)
KOAGARI STAGEに2番手として登場したのは台湾のバンド、ゲシュタルト乙女のMikan Hayashi。ゲシュタルト乙女は全楽曲を日本語で歌うバンドとして知られており、この日のライブでもMikanは流暢な日本語でオリジナル曲を演奏。アコースティックギターをかき鳴らしながら、時に激しく、時に穏やかに、表情豊かな歌声を届けていった。彼女はMCもすべて日本語で行い、キュートな語り口で観客を和ませていた。またライブの終盤では、大きな影響を受けたというZAZEN BOYSの「KIMOCHI」をカバーして自らのルーツを示してみせた。
SOIL&"PIMP"SESSIONS
ホーンの音色がけたたましく鳴り響きCIRCLE STAGEにはSOIL&"PIMP"SESSIONSが登場する。SOILは「Suffocation」「閃く刃」「初恋の悪魔」といったアップチューンを序盤から畳みかけるようにプレイ。タブゾンビ(Tp)とサポートサックス奏者・栗原健の2管を中心に据えたパワフルなアンサンブルで大きな音のうねりを巻き起こしていく。社長(Agitator)が火に油を注ぐように、拡声器で激しく観客をアジテートすると会場の熱気はさらに上昇していった。爽快なスカチューン「I’LL CLOSE MY EYES」で観客を一旦チルさせると、SOILは続けて「SUMMER GODDESS」を演奏。強い日差しが降り注ぐ昼下がりの会場に一足早い夏ムードを演出した。
角館健吾(Yogee New Waves)
一方、KOAGARI STAGEではYogee New Wavesの角館健吾がのんびりとリハーサルを進めている。芝生に座ってその姿を眺めている観客たちに「気持ちいいですね」と語りかけると角館はおもむろに本番開始。1曲目の「kaze no tori michi」を歌い上げると伸びやかなボーカルが晴天の空に広がっていった。なおこの日のライブは、前日に書き上げたという「Sheeps」や友達の結婚をきっかけに生まれた「ippo」など、ここ最近作り溜めてきたという新曲のみで構成されていた。
ムーンライダーズ
「スカーレットの誓い」を本番さながらに演奏してサウンドチェックの段階から観客を沸かせていたムーンライダーズ。彼らが福岡でライブを行うのは17年ぶりのことだという。ライブは鈴木慶一(Vo, G)がボーカルを取る「あの娘のラブレター」でスタート。この日のステージでは、武川雅寛(Violin, Trumpet)、白井良明(G)、鈴木博文(B)がそれぞれボーカルを担当するナンバーが用意され、また楽曲の途中で緊張感あふれるインプロビゼーションが突然繰り広げられるなど、結成48年のベテランバンドらしい懐の深さが存分に発揮されていた。最後はサポートギタリストの澤部渡(スカート)が、さる2月に死去した岡田徹(Key)作曲によるバラード「さよならは夜明けの夢に」を歌唱。感動的なムードが会場を包み込んだ。
長岡亮介(ペトロールズ)
「駆けつけでビール5杯くらい飲んでしまいました(笑)」とほろ酔いモードで演奏を始めたのはペトロールズの長岡亮介。深くリバーブを効かせた浮遊感のあるギターインスト「Yukon」で会場の空気をほどよく緩めると、「湖畔」「Lounge Lover」といったメロウな楽曲を続けて届けていく。ジミー・ロジャースのカントリークラシック「Miss the Mississippi And You」のカバーでは美しいヨーデル唱法も飛び出した。最後に長岡は「いい天気だけど、あえてこの曲を」という前振りから「雨」を演奏。終始リラックスした様子でKOAGARI STAGEでのライブを楽しんでいた。
UA
「みんな、バリ好いとっちゃんね!」と笑顔でCIRCLE STAGEに現れたUAは、「太陽手に月は心の両手に」をパワフルにパフォーマンス。疾走感あふれる「愛の進路」を届けたのち、UAがアカペラで「情熱」を歌い始めると大きなどよめきが起こった。グルーヴィなミドルチューン「お茶」に続けて、「甘い運命」「閃光」といった楽曲が届けられるとメロウなムードがゆっくり広がっていく。トライバルな雰囲気の「AUWA」と「TIDA」を続けて披露するとUAは豊かな自然に囲まれた会場を見渡し「みんなでこの豊かな緑を守っていきましょう」と観客に語りかけて「プライベートサーファー」を歌唱。最後に「微熱」を届けてステージをあとにした。
向井秀徳アコースティック&エレクトリック
向井秀徳アコースティック&エレクトリックのライブは、「MATSURI STUDIOからやってきました。This Is 向井秀徳!」というおなじみの前口上から始まった。向井は、まずアコースティックギターで「Pixie Du」「夏のユーレイ」を演奏。缶ビールを一気に飲み干すとエレキギターに持ち替え、LEO今井と共作した「YURERU」を朗々と歌い、「永遠少女」では循環するコードに乗せて情念ほとばしる歌声を轟かせた。続けて「BEAの森裕史さんに捧げます」と静かに告げると「天国」をしみじみと歌唱。2月に亡くなった森氏はNUMBER GIRLの元マネージャーであり、イベンターとして九州のライブシーンを盛り上げてきた人物だ。向井は楽曲を通じて盟友である森氏に哀悼の意を捧げた。
電気グルーヴ
CIRCLE STAGEのトリを務めたのは電気グルーヴ。石野卓球がサポートメンバーの牛尾憲輔(agraph)、吉田サトシ(G)ともにステージに現れると大きな声援が上がる。ほどなくしてピエール瀧が「夕暮れの中こんばんは。電気グルーヴでございます!」と挨拶してステージに合流すると4人は「Set you Free」でライブを開始。2曲目の「人間大統領」では瀧の呼びかけに観客が「大統領」コールで応え、「Shangri-La feat. Inga Humpe」のイントロが鳴り響くやいなや会場には悲鳴にも似た歓声が沸き起こった。卓球がマイクを片手にステージ前方でエネルギッシュに歌唱した「Missing Beatz」を経て、中盤では「Shameful」「Baby's on Fire」「Flashback Disco(is Back!)」といったアッパーな楽曲がシームレスに届けられ会場のボルテージがグングン高まっていく。「どうだ! カッコいいだろ? 俺たちが電気グルーヴだ!」と卓球が叫ぶと、観客たちは一斉に手を挙げてそれに応える。続けて代表曲「N.O.」がプレイされると会場はこの日最高潮の盛り上がりをみせた。「レアクティオーン」に続けて、最後のナンバーとして電気がチョイスしたのは「富士山(Techno Disco Fujisan)」。カオティックなサウンドで会場はお祭り騒ぎになり、「フージーサーン!!」という瀧の雄叫びで「CIRCLE '23」の初日は盛大にフィナーレを迎えた。
撮影:ハラエリ、勝村祐紀、chiyori