King Gnuが5月20日と21日に大阪・ヤンマースタジアム長居(長居陸上競技場)、6月3日と4日に神奈川・日産スタジアムでスタジアム単独ライブ「King Gnu Stadium Live Tour 2023 CLOSING CEREMONY」を行った。バンドにとって初の東西スタジアム単独公演のチケットは完売。約23万人がKing Gnuの一世一代の舞台を目撃した。この記事では最終公演となった6月4日の日産スタジアム公演の模様をレポートする。
約10年前、常田大希(Vo, G)によって前身バンドSrv.Vinciが結成され、2017年4月に現在のバンド名へと改名したKing Gnu。改名後は多くの人が知る通り、チャートをにぎわせる楽曲を次々と発表しつつ、コロナ禍においても破竹の勢いを見せ、一躍スターダムにのし上がった。なお、常田はKing Gnu活動初期からスタジアムを埋めるバンドになることを宣言しており、2022年11月には初のドーム単独公演を東京・東京ドームで行い、スタジアムライブへの布石を打っていた(参照:「やっとKing Gnuになれた」King Gnuが初東京ドーム公演で見せたロックバンドとしての貫禄)。
梅雨入り間近という天候が懸念される時期ではあったが、この日の関東地区は初夏らしい気候に。暖かな日差しが差し込むスタジアムに人が集まる中、スピーカーから流れてきたのはKing Gnuの映像作品には欠かせないクリエイターであり、スタジアム公演の総合演出を手がけるOSRIN(PERIMETRON)による影アナだった。「伝説の日にしたいので、皆さんのパワーをくれますか?」と彼が呼びかけると、その言葉に賛同するように大歓声が沸き、開演前から強固な一体感が生み出された。
日がゆっくりと傾く中で、ステージに設営された巨大な聖火台の下にMELRAWこと安藤康平が率いるホーン隊と常田俊太郎率いるストリングス隊がスタンバイ。King Gnuが2020年1月に発表した最新アルバム「CEREMONY」よりオープニングを飾る「開会式」を高らかに奏でる。それを合図に、レッドカーペットを想起させるステージにメンバー4人が足を踏み入れると、聖火台に火が灯り、同時に激しい火柱がステージのあちこちから吹き出し、アリーナエリアにフラッグがはためく。かくしてKing Gnuにとって4日間におよんだスタジアム公演の千秋楽は、巨大な会場に似つかわしいエネルギッシュな演出とともに幕を開けた。
開演を待ち焦がれていたオーディエンスの歓声が飛び交うスタジアム。常田はゆっくりと客席を見渡すと、ノイズ混じりの獰猛なギターを轟かせ「飛行艇」の世界へと7万人を導く。それを呼び水に盛大なシンガロングが沸き起こり、演者たちのプレイに加勢。スクリーンにはイヤモニを外した新井和輝(B)が合唱にを耳を傾け、早くも感慨深そうな表情を浮かべる姿が大きく映し出された。「King Gnu始めるぜ!」。常田が叫んだそのひと言をトリガーに、生のホーンとストリングスの音色をフィーチャーしたアレンジで「Tokyo Rendez-Vous」が届けられ、大合唱が再び会場にこだました。
「6、7年前は下北のライブハウスで、誰も聴いてないところで演奏してたけど、今はどうよ? 7万人が聴いてますね」と照れ笑いを浮かべた井口理(Vo, Key)。「今日という日を、この先の人生で何度も思い出したくなる日にしませんか? どうか今日よろしくお願いいたします」と口にした彼が歌い出したのは、これまではライブの終盤に据えられることが多かった「Teenager Forever」だ。King Gnuにとってはキャリア最大規模の大舞台とも言えるスタジアム公演だが、ステージに立つ4人のムードは朗らか。勢喜遊(Dr, Sampler)の刻むビートを背に、常田、井口、新井は頬を寄せ合い、笑顔で声を重ねるなどリラックスした様子。その後も優しい表情を浮かべたまま、「BOY」「雨燦々」といったKing Gnuのピュアな一面を押し出したチャーミングなポップチューンでスタジアムを清々しい空気で満たしていく。
パフォーマンス中は堂々とした佇まいの4人だが、MCでは楽屋にいるようなフランクなトークを展開。井口が散歩しているときに警官に声をかけられたというエピソードを明かせば、常田と勢喜も職務質問を受けた出来事を語り観客を笑わせる。すると新井が「今のところ(MCは)何も収録できないよ!」とツッコミを入れ、勢喜が痺れを切らし「やろうか?」と次の曲を促すという、ライブハウスに立っていた頃と変わらないアットホームな空気を醸し出していた。その雰囲気を引き継ぐように始まったのは、アコースティックギターの素朴な旋律が耳に残る「ユーモア」と、ストリングスを交えての「Don't Stop the Clocks」。いつしか空は桜色に染まり、マジックタイムがロマンチックなサウンドの魅力を引き立てていた。
夜の帳が下りた頃、狂おしい感情をひたむきに歌い上げる「カメレオン」「三文小説」といったバラード、アンビエントな雰囲気をたたえた「泡」を通して、深淵な世界を描き出したKing Gnu。なお、「三文小説」の前には常田がピアノに向き合い、今年3月に亡くなった坂本龍一を追悼するように「戦場のメリークリスマス」を独奏し、圧倒的な表現力でオーディエンスを唸らせる場面もあった。そして、ホーン隊とストリングス隊を交えての「幕間」を挟み、「CLOSING CEREMONY」は後半戦へ。スリリングなセッションが展開される「どろん」を皮切りに、メンバーは「Slumberland」「Stardom」など新旧のライブチューンをスタジアム仕様のダイナミックなアレンジと、夜に映える煌びやかな演出とともに奏でる。オーディエンスはさまざまなことが制限されていたこの3年間の鬱積とした思いを解放するように、大いに歌い、何度も快哉を叫び、祝祭的な空間を作り上げた。
温かな調べとシンクロするように、会場に優しい風が吹き込んだ「逆夢」が終わると、場内が一瞬静まり返る。スクリーンには再びピアノの前に座った常田の姿が浮かび上がり、「壇上」が厳かに始まった。煙草の箱やギターのピックが置かれた鍵盤と対峙しながら、独白のような歌詞を訥々と紡ぐ常田。1番は彼の弾き語りだったが、2番から井口、新井、勢喜の音や声が加わり、スクリーンにはインディーズ期から今に至るKing Gnuのモノクロの写真が走馬灯のように映し出されていく。「そばにいて欲しいんだ どんな未来でも」。その一節がオーディエンスの耳に入った瞬間、それまで張り詰めた空気がほどけていき、穏やかなひとときがスタジアムに流れた。深い余韻を残しながら始まった「サマーレイン・ダイバー」には、ホーン隊とストリングス隊の両方が合流。観客がスマホのライトを灯し、美しい景色を作り出す中、芳醇なアンサンブルがファンファーレのように響きわたった。
アンコールの幕開けを飾ったのは、常田のチェロ独奏による「閉会式」。そして「CLOSING CEREMONY」を象徴する1曲に続き、King Gnuの代表曲である「白日」、インディーズ時代から愛され続けている「McDonald Romance」の2曲が披露される。「McDonald Romance」では4人はひたすらにシンガロングを求め、その声に7万人は美しく力強い合唱で応えてみせた。このままライブは大団円へ……そう思われたとき、勢喜のアタックから「Flash!!!」になだれ込み、オーディエンスのボルテージはピークに達する。そのタイトル通りフラッシュのように明滅する照明にステージ後方から上がる極彩色の花火、ステージ上で躍動するメンバーに全力で体を揺らしシンガロングするオーディエンス。すべてがハイライトとも言える景色の中で、「変わらない思いのままで 歯止めは最早効かねえんだ」というフレーズが夜空を切り裂く。その光景は、“大群のヌーを率いる王者”を意味するバンド名を体現するように、これからも躍進していくKing Gnuの意気込みを証明していた。
「また会おうぜ!」という井口の言葉とともに肩を組み、笑顔で観客に一礼したメンバーたち。この日の「CLOSING CEREMONY」をもって “新章”に突入することを示唆しており、誰しもが自ずと次の一手に期待するフィナーレとなった。
King Gnu「King Gnu Stadium Live Tour 2023 CLOSING CEREMONY」2023年6月4日 日産スタジアム セットリスト
00. 開会式
01. 飛行艇
02. Tokyo Rendez-Vous
03. Teenager Forever
04. BOY
05. 雨燦々
06. 小さな惑星
07. 傘
08. ユーモア
09. Don't Stop the Clocks
10. カメレオン
11. 三文小説
12. 泡
13. 幕間
14. どろん
15. Overflow
16. Prayer X
17. Slumberland
18. Stardom
19. 一途
20. 逆夢
21. 壇上
22. サマーレイン・ダイバー
<アンコール>
23. 閉会式
24. 白日
25. McDonald Romance
26. Flash!!!