YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週刊連載「再生数急上昇ソング定点観測」がスタート。今週は9月28日発表のミュージックビデオランキングと楽曲ランキングのトップ100から、要注目トピックをピックアップします。
取材・文 / 真貝聡
YouTubeのミュージックビデオランキングで今回初めてランクインしたのは、11位のKing & Prince「愛し生きること」、13位の櫻坂46「承認欲求」、17位のIVE「Either Way」、23位のジャニーズWEST「Beautiful」、48位のKep1er「Galileo」、49位のXG「PUPPET SHOW」。日本や韓国のアイドルグループ、ガールズグループが目立つ結果となった。一方で、55位にはJYPオーディション番組発の米国ガールズグループ・VCHAのデビュー曲「Y.O.Universe」もランクイン。
そんな今週は、下記の3曲に注目した。
ナヨン「NO PROBLEM(Feat. Felix of Stray Kids)」Band Live Clip.
※YouTubeミュージックビデオランキング 週間44位
TWICEでリードボーカルを務めるナヨンが昨年6月にリリースした1stソロミニアルバム「IM NAYEON」に収録されている「NO PROBLEM」は、ナヨンのどんなメロディラインもポップに染める歌声と、Stray Kidsのフィリックスが放つエッジの効いた低音ボイスが交じり合い、楽曲全体に漂うきらびやかさと心地よさから、ファンの間で人気の高い楽曲。ただ現在に至るまで、歌番組で彼女がこの曲を披露することはなく、「いつか歌っている姿が見たい」と熱望されていた。
しかしナヨンが28歳を迎えた9月22日に、彼女が生演奏をバックに歌う「NO PROBLEM(Feat. Felix of Stray Kids)」のMVが公開され、わずか10日間で300万回再生を突破。ナヨンが初めて「NO PROBLEM」をパフォーマンスしているだけでなく、バンドを従えている様子も新鮮で、そのうえフィリックスも参加したとあって、瞬く間に世界中のK-POPファンの間で話題となった。
槇原敬之「もう恋なんてしない」
※YouTubeミュージックビデオランキング 週間63位
この曲がリリースされたのは1992年のこと。ポケベルが誕生した年に生まれた失恋ソングで、100万枚を超えるミリオンセラーを記録し、30年が経った今も多くの人に歌い継がれている名曲だ。実は今、TikTokで「槇原ドリル」というアンオフィシャルなこの曲のリミックス音源がバズり、これでダンスすることが若者の間で大流行している。
ドリルミュージックとは、2010年代にシカゴで流行ったヒップホップのサブジャンル。銃、暴力、ギャングの抗争を想起させる不穏な音楽で、チーフ・キーフとDJ Kennが作ったと言われている。その後、UKドリルやブルックリンドリルと派生し、グローバルなジャンルへと進化を遂げて、日本でもドリルスタイルのラッパーやビートメイカーが増加した。そんなドリルと槇原敬之の楽曲は、月とスッポンぐらい対極な気がするが、だからこそそのギャップを面白がる人が続出。そしてドリルという攻めたアレンジのリミックスをきっかけに、槇原の作るメロディや歌詞の完成度の高さに気付かされた若年層のリスナーが、彼の発表した過去の楽曲を再評価する動きが起きているようで、YouTubeのコメント欄には「初めて本家を聴いたけどいい曲」「ドリルよりこっちのほうがいい」といった書き込みが目立っている。
原口沙輔 feat. 重音テト「人マニア」
※YouTube楽曲ランキング 週間89位
楽曲ランキングからは89位の「人マニア」を紹介する。原口沙輔は2歳でダンスを習い始めて、10歳のときにはアメリカ・ニューヨークのApollo Theater「Amateur Night」で優勝。14歳のときにフィンガードラムの路上パフォーマンスをSNSにアップすると、それがレコード会社の目に留まり、翌年にメジャーデビューした。
若くして華々しい実績を持つ彼は、今年5月にアーティスト名をSASUKEから原口沙輔に変更し、1stアルバム「アセトン」をリリース。その後、自身初のボーカロイド楽曲「人マニア」を発表すると、この曲がネット最大級のボカロイベント「ボカコレ2023夏」で投稿数6600曲中の11位に輝いた。さらに、Billboard JAPANが発表するニコニコ動画ランキング「ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20」では9月20日公開分から3週連続で1位を獲得している。9月24日には月ノ美兎がにじさんじの面々と「月ノ美兎withブラクラーズ」名義でこの曲をカバーしており、それも追い風となってボカロリスナー以外の人にも届き始めているようだ。
「ポリエステルの仕事はムリか」「金で殺して愛を買うね」など無機質な歌声から繰り出される批評性の高い歌詞。そして1音目から釘付けになるサウンドに加え、何度も聴きたくなる中毒性のあるメロディは、CDの売り上げ以上にストリーミングの視聴回数が重要視されている今の音楽シーンにおいて、まさにヒットするべくしてヒットした楽曲と言える。