YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週刊連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeの、9月29日から10月5日にかけて集計されたミュージックビデオランキングのトップ100、および急上昇チャートの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
YouTubeのミュージックビデオランキングで初登場3位となったのは、テレビアニメ「葬送のフリーレン」のオープニングテーマであるYOASOBIの「勇者」。MV全編が同アニメのオリジナル映像で構成されているのに加えて、何より原作への理解度が高い楽曲であることから多くの人々に支持されている。
BTSのメンバー・JUNG KOOKの「3D(feat. Jack Harlow)」はミュージックビデオが8位、パフォーマンスビデオが16位にランクイン。MV監督はImagine Dragons、シャキーラ、テイラー・スウィフトなどと過去にタッグを組んだドリー・キルシュが務めた。ミュージックビデオ26位のAdo「DIGNITY」は、稲葉浩志が作詞、松本孝弘が作曲とギター演奏を手がけたことで話題に。今週は今の音楽シーンを代表する若手トップアーティストの楽曲が多い中、下記の3曲に注目した。
DECO*27「ボルテッカー feat. 初音ミク」
※YouTubeミュージックビデオランキング 週間6位
1996年にゲームボーイ用ソフトとして誕生し、世界中から愛されている「ポケットモンスター」。そんなポケモンと初音ミクがコラボした「Project VOLTAGE」が今注目されている。「くさ」「ほのお」「みず」などの18種類あるポケモンのタイプになぞらえて、18名のボカロPが楽曲・MVを制作し、9⽉29⽇から数カ⽉間にわたって順次公開していくプロジェクトだ。
その第1弾として発表されたのが、DECO*27が歴代のポケモンゲームシリーズのBGMやSEをサンプリングして制作した「ボルテッカー feat. 初音ミク」。さらにポケモンと初⾳ミクが登場するMVも話題となり、公開からわずか12日で600万回再生を超えた。タイトルの「ボルテッカー」とは、ピチュー、ピカチュウ、ライチュウが使える専用技のこと。歌詞にはさまざまな技の名前が登場するだけでなく、アイテムや特性なども随所に織り交ぜられている。曲単体としても十分楽しめるが、ポケモンをプレイした人なら、MVを観ればその魅力をより深く堪能できる。
なお「Project VOLTAGE」の第2弾として10月6日に公開された稲葉曇「電気予報」も、1週間で170万回再生を突破し急上昇ランキング入り。本日10月13日には第3弾となるMitchie M「ミライどんなだろう」が公開されていて、20日には第4弾となるピノキオピーの楽曲がアップされる予定だ。
Mr.Children「Fifty's map ~おとなの地図」
※YouTubeミュージックビデオランキング 週間46位
とぼとぼと歩道を歩く、くたびれた服装の中年男性。手のひらの180円をぼんやり眺めていたら、すれ違う人とぶつかりお金を落としてしまう。必死にかき集めてチラッと上を見たとき、ショーケースに飾られたアコースティックギターが目に入った。まるでギターに呼ばれているかのように、男はそれを買い、家でバンド名を考えつつオリジナル曲を作り始めた。離ればなれになった家族を思って書いたその曲の名前は「くるみ」。そして友人の元を訪ねた男は、1人ひとりにその楽曲を聴かせて、中年3人の同士とともにバンド・Mr.ADULTSを結成する。満を持して臨んだライブはまったく盛り上がらなかったが、全力を出し切り、晴れ晴れとした表情の彼ら。4人で一本道を歩いているとき、男はコートのポケットから紙を取り出し、丸めて捨てた。それを拾った若者は、桜井和寿。紙に書かれていたバンド名の候補、"Mr.Children"を桜井が見つめ、ラストシーンで「1989年 Mr.Children結成前日。」というテロップが流れる──。
これは2003年にリリースされたMr.Childrenのシングル「掌 / くるみ」に収録されている「くるみ」のMVのストーリーだ。同シングルはオリコンチャートで2週連続1位を獲得、10週連続トップ10入りを記録。先述したMVは「SPACE SHOWER Music Video Awards 04」で「BEST VIDEO OF THE YEAR」「BEST GROUP VIDEO」の2つの賞を受賞している。
あれから20年が経ち、「くるみ」の映像素材を再利用して作られたのが「Fifty's map ~おとなの地図」のMVだ。この曲とのリンクを感じるのは「くるみ」だけではない。歌詞には「嘘とコーヒーと友と胃袋」「つよがり」「REM」「花言葉」「ロードムービー」など、過去のミスチルの楽曲を想起させるワードが随所にあるだけでなく、桜井の敬愛する尾崎豊のオマージュが曲名のみならず歌詞にも散見される。それでいてリズムには「NOT FOUND」っぽさがあるなど、聴けば聴くほど、観れば観るほどに魅力を光らせる。
桜井が33歳のとき"来る未来"の自分を想像して「くるみ」を発表し、そして53歳になり"20年前の自分"へのアンサーソングとして作られた「Fifty's map ~おとなの地図」。「くるみ」のラストでMr.ADULTSが前に進んでいった土手を、20年後の「Fifty's map」のラストでは、ミスチルの4人が前に進んでいく。その姿に彼らの歩んできた道程が深く胸に響いて、どうしたって感動してしまう。
BAD HOP「TOKYO DOME CYPHER」
※YouTube急上昇ランキング入り
最後に紹介するのは、ミュージックビデオランキングのプレイリストには入っていないが、公開以来ずっとYouTubeの急上昇ランキングにいるBAD HOPの「TOKYO DOME CYPHER」。川崎出身の幼なじみで2014年に結成されたBAD HOPは、これまでの日本のヒップホップカルチャーからは考えられない伝説を作り続けながらも、今年5月に解散を発表した。2024年2月19日に行われる解散ライブの場所は、国内ヒップホップアーティストでは史上初となる東京ドーム。野球用語のイレギュラーバウンド(どこにボールが行くのか予想できない跳ね方。和製英語で、海外ではバッドホップと言う)からインスピレーションを受けてBAD HOPを名乗り始めた彼らが、最後の最後に日本最大のドーム球場へバウンドした。
開催に先駆けて東京ドームでワンカット撮影された「TOKYO DOME CYPHER」は、約8年ぶりにメンバー全員でサイファーをする動画。彼らの道程も生き様もアイデンティティも、すべてが美しく集約されている。各々のヴァースでシンセやベースで変化をつけた秀逸のビートを作ったのはFoux。ラップは8人のスキルや個性が光っているだけでなく、有終の美と言えるキラーフレーズばかり。個人的には、patoのヴァース「夏なのに震えが止まらねえ武者ぶるい そりゃあそうだろ ずっと想像した東京ドームでするワンマン 茨の道の遥か向こうのチャンピオンロードを仲間とラン」を満員のドームで堪能したい。