研ナオコが10月19日に東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でデビュー53周年記念コンサート「研ナオコ デビュー53周年記念ファイナルコンサート ~すっぴん人生 70歳~ みなさんお世話になりました」を開催した。
満員のデビュー53周年記念コンサート
研はデビュー30周年、35周年、40周年、45周年と節目の年にコンサートを行ってきたが、67歳で迎えるはずだった50周年の公演はコロナ禍の影響で延期に。このたび彼女が古希を迎えたこともあり、「53周年記念ファイナルコンサート」と銘打って開催される運びとなった。この日は研の代表曲を手がけた宇崎竜童と小椋佳、そして舞台でともに各地を回る梅沢富美男がゲスト出演することが事前にアナウンスされており、この記念すべき一夜を見届けるべく会場には大勢のファンが詰めかけた。
定刻を迎え客電が落ちるとステージ上のスクリーンに、研がコミカルなダンスを披露する「プチシルマ」のCMや、認知症の女性を熱演する2024年公開予定の映画「うぉっしゅ」の予告編が映し出され、彼女の多岐にわたる活動や、表現者としての引き出しの多さが垣間見える。そんなオープニングを経て、研はバンドメンバーの待つステージに現れると、1曲目に彼女の音楽人生を語る上で欠かすことのできない存在・中島みゆきの「りばいばる」をカバー。どこか憂いを帯びた歌声を会場に響かせてオーディエンスを魅了した。彼女は開口一番「皆さんこんばんは、吉永小百合です。どこから見ても吉永小百合です。そう思わないとやってられません」と挨拶すると、加齢について自虐を交えたユーモアあふれるトークを展開して会場の笑いを誘った。
弟・田原俊彦のサプライズ登場に涙
研が満員の客席を眺めながら「LINE CUBEのステージは初めてで、お客さんは半分くらい来てくれたらいいなと思ったら3階までいっぱいなんですよ」としみじみ語っていると突如、彼女が1985年に田原俊彦とToshi&Naoko名義で発表した楽曲「夏ざかりほの字組」のイントロがスタートする。すると「ナオコさーん! おめでとう!」という声が響き、ステージ袖から田原本人が登場。研はこのサプライズにたまらず涙を流しながらも、田原と息の合ったデュエットを披露した。田原は研に「弟としてはナオコさんにはまだまだバリバリがんばってもらわないと困る。いつまでもよき姉で元気でいてください」と伝えて、彼女の年齢に合わせた70本のバラの花束をプレゼント。最後は客席に向けてキレのある華麗なターンを披露してステージをあとにした。
数少ない友達・梅沢富美男と軽快トーク
6曲目「Tokyo見返り美人」の演奏が終わると、この日2人目のゲストとして梅沢が登場。彼はステージに現れるやいなや「私はステージ袖で研ナオコ様のお歌をじっくりと聴いておりましたけど、いつに変わらず素晴らしい歌声で感服いたしております! 本当におめでたいと思っております。研ナオコ様の歌手生活53周年という、この中途半端なコンサート!」と、愛のある毒舌を交えた軽快なトークで会場を大いに盛り上げた。
2人が息の合ったコミカルなやり取りでファンを楽しませたあとは、梅沢の前口上を挟んで「別れの朝」が披露された。研は梅沢の出演について「梅沢さん、本当は呼んでないんですよ。一緒に舞台をやっているときに今回のコンサートの告知をしてくれたんですね。そしたら途中から『俺も出ようかな』と言い出して……」とぼやきつつも、「私は芸能界に友達がいないんですけど、あの人もいないんです。数少ない友達のうちの1人が私。私にとっては梅沢さんがそうだから似た者同士(笑)」と笑顔で語っていた。
小椋佳が明かす「泣かせて」誕生秘話
続いて登場したゲストは、1983年発表のシングル「泣かせて」の作詞作曲を手がけた小椋。研から「古賀政男記念音楽大賞」の優秀賞を獲得したこの曲の制作秘話について尋ねられた小椋は「僕はあの頃、毎年50曲ほど歌を作っていたんですけど、その中からよさげな歌を10曲選んでレコーディングしていたんです。でも50曲から選ぶのは10曲だからあとは余っちゃう。あるとき『研ナオコさんの曲を作りませんか?』というお話をいただいて、でも研さんの顔を見るとイメージが湧かない(笑)。それで弟に『去年作って余ってるあの歌がいいんじゃないの?』と言われて、要するに不良在庫から持ってきた曲なんです」と語って観客の笑いを誘う。研は「不良在庫の中にあんな名曲があったんですね(笑)。でも、いいんです。素晴らしい曲ですから」と返すと、小椋と「泣かせて」をデュエット。トーク時の和気あいあいとした雰囲気とは異なる2人の情感のこもった歌声に、観客はじっくりと耳を傾けていた。
研ナオコと宇崎竜童が語る「愚図」
この日最後のゲストとして呼び込まれた宇崎は、研のリクエストに応えて「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」を熱唱。その重厚な歌声と年齢を重ねても色褪せない色気に、研は「カッコいい! これを聴かないと落ち着かないんですよ」とうれしそうに語った。その後は研にとって初のヒット曲となった1975年発表の「愚図」の話題に。「愚図」は作曲を宇崎、作詞を妻の阿木燿子が手がけた1曲。宇崎は研に当時抱いていた印象について「人を笑わせたりしている人は、家に帰ったらホロッと泣いていたりするんだろうなと思った」と語り、妻・阿木が書いた歌詞について「その詞を見た瞬間に曲が思い浮かんで、1番から3番までストレートで録音して、そのまんまをナオコさんに渡したの」と制作を振り返る。「愚図」がヒットしなければ引退を考えていたという研は、「初めて『愚図』を歌ったらお客様の反応が全然違ったんです。歌い終わったら今まで聞いたことのない拍手をいただいて。『もしかしたら売れるかも。歌手として認めてもらえるかも』と本当に思ったんです」と、宇崎への感謝の思いを述べた。
研ナオコ「歳なんか考えてる暇はないんです」
コンサート終盤、研は1日を振り返り「今日は本当にすごい方々にゲストとして来ていただきました。小椋佳さんが79歳、宇崎竜童さんが77歳、呼んでない梅沢富美男が72歳、私が70歳。全員70代だけど強いぞ(笑)」と笑顔でひと言。そして「私はまだまだやりたいことがいっぱいあるので、歳なんか考えてる暇はないんですよ。皆さんも年齢なんてどうでもいいんです。とにかく健康で、やりたいことがあったらその目標に向かって、人生を楽しんでいただきたいです。私もそうします!」と呼びかけると最後は「かもめはかもめ」をしっとりと歌い上げてステージをあとにした。
鳴り止まない拍手を受けて再びステージに現れた研は、10月8日に死去した谷村新司の話題に触れ、「ベストアルバムを出したんですけど、その最後に谷村さんに書いていただいた曲が入っているんですね。この歌は締めくくりの曲なんだと思いました。谷村さんに感謝の気持ちを込めて」と涙ぐみながら告げると、1992年発表のシングル「悲しい女」を歌唱。途中、研が涙で声を詰まらせた場面では、サポートメンバーの大浦祐一(Cho)がすかさずフォローし、観客も手拍子でサポートした。研は最後に「私、暗い歌ばっかりだから最後は明るく歌いたいんですよ」と呼びかけ、その言葉の通り「LA-LA-LA」で底抜けに明るいステージを展開し、大盛況の中でデビュー53周年記念コンサートの幕を降ろした。
セットリスト
「研ナオコ デビュー53周年記念ファイナルコンサート ~すっぴん人生 70歳~ みなさんお世話になりました」2023年10月19日 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
01. りばいばる
02. アザミ嬢のララバイ
03. わかれうた
04. 夏ざかりほの字組
05. 時代
06. Tokyo見返り美人
07. 別れの朝
08. 泣かせて
09. 愛燦燦
10. 港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ
11. 愚図
12. 夏をあきらめて
13. あばよ
14. かもめはかもめ
<アンコール>
15. 糸
16. 悲しい女
17. LA-LA-LA