作家 / イラストレーターのしまおまほさんがミュージシャンのお子さんにインタビューする連載「しまおまほの おしえて!みゅーじしゃんのこどもNOW」。ミュージシャンが子育てについて語るインタビュー記事は世の中に数あれど、当の子供たちはミュージシャンという仕事を持つ親の存在をどのように思っているのでしょう? 自身も8歳のお子さんを持つしまおさんが、子供たちへのインタビューを通してパパママミュージシャンの日常の姿に迫ります。第8回となる今回はコーラスグループSmooth Ace・重住ひろこさん&岡村玄さんご夫妻の息子、SOTAROくん(12歳)にお話を聞いてきました。自らもシンガーとして活動するSOTAROくん。歌と児童館をこよなく愛するSOTAROくんの日常に迫ります。
取材・文・イラスト / しまおまほ
しまお家との不思議な縁
ご両親はもちろん、本人もミュージシャンといういつもとはちょっと違う今回の「こどもNOW」ですが、それだけではなく実は個人的にも不思議なご縁のあるSOTAROくんです。
まほ SOTAROくんと初めて会ったのって、ウチの近くの遊歩道だよね?
SOTARO あ、そうかもしれないです。
まほ SOTAROくんがツムギと一緒に歩いてて……そこで会って紹介されたんじゃないかな。
SOTARO その後、児童館でも会った気が。
まほ 会った会った。ウチの子がスパムおにぎりを家から3つ持ってきていて。ツムギに1つあげて裏の駐輪場で食べてたところにSOTAROくんも来て。「食べたい」って言ってくれてたのに、あげなかったんだよね。ウチの子が。「オレが2つ食べる!」とか言って。
SOTARO あれは食べてみたかった。
まほ あのときは申し訳なかった。
SOTARO いえいえ。
落ち着いた受け答えのSOTAROくん。話すたびにサラサラの髪が揺れます。冒頭の会話の通り、SOTAROくんは我が家とご近所さん。そのうえ息子の保育園時代の同級生ツムギくんと大親友!
まほ ツムギとは同じ学校なんだっけ?
SOTARO え、いや、違う。
まほ あ、そうなんだ。同じ学校だから仲よくなったのかと思った。
SOTARO 違うんです。
母(重住ひろこ) 遊歩道にあったカフェに、たまたま同じタイミングで入って。ツムギくんはママと妹さん、弟さんと来ていたんですけど、妹さんがこっちのテーブルに興味津々で遊びに来て……。
まほ ホーちゃんですね(笑)。妹弟3人とも同じ保育園だったから、よく知ってる。人懐っこくてかわいいですよね。
母 先にツムギくんたちが食事を終えて店を出ていたんですけど、こちらが帰ろうとしたらまだ遊歩道で遊んでいて。そのまま一緒に遊ぶことになり……。
SOTARO 親友になった。
まほ 子供って予想外のタイミングで友達作ったりしますよね。
SOTARO ツムギも、もう小2ってことは……後輩ができたんだな。
まほ 後輩(笑)。小1が入ってきたから、まあそうだよね(笑)。
SOTARO 大きくなったなあ(しみじみ)。
まほ (笑)
SOTAROくんはとにかく児童館が好きで、学校が終わると児童館に直行して体育館でドッジボールやバスケ、サッカーに卓球などを楽しんでいるそう。学校の違うツムギともそこで遊ぶことが多いとか。休日もだいたい朝の10時から夕方6時まで、お昼ご飯で家に一瞬戻る以外は児童館で過ごしているとのこと! これは、親にとってはむちゃくちゃありがたい!
まほ 歌手デビューしたのは4年生のとき?
SOTARO えーっと、そうですね、そうです。で、ライブとか始めたのが、5年生の半ば。
まほ じゃあ去年だ。なんだか長いキャリアがあるのかなって勝手に思ってたけど。
SOTARO 歌はもう、ちっちゃい頃から好きで。とにかく声を出すことが好きだった。
母 ちっちゃい頃の夢が「テレビ通販の販売員」でしたね(笑)。
まほ 確かに、すっごい声出す仕事だね(笑)。
SOTARO 声を出すことは、自分にとっての快楽。
まほ デビューのきっかけって?
母 今、SOTAROのプロデュースをしてくれてる冗談伯爵が、SOTAROが2年生のときにCMで使う曲を歌ってくれる子供を探しているっていうので、SOTAROと兄が行くことになり、スタジオで歌ったら「楽しい~!」ってなって。
SOTARO あー、そうだっけ。
母 そうだよ、マルエツカードの……。
SOTARO ああ、あのとき。そっか。
母 それで、もっとやりたい!ってなって、じゃあとりあえず資料を作ってみようかっていうことで、音声資料を作って関係者に渡したりして。当時コロナ禍で、子供の声の素材が欲しいときに自宅で収録して納品できる我が家がちょうどニーズに合ったということもあり、お仕事をいただけるようになって。
まほ なるほど。
母 あの頃はホントたくさん歌ったね。覚えてる?
SOTARO うん。
「もう音楽はいいんで、児童館の生活に戻ります」
まほ お父さんお母さんもミュージシャンだけど、よくライブは行くの?
母 昔は連れて行ったりもしましたが……。
SOTARO 今は誘われても断る。
まほ そうなんだ!
SOTARO 電車酔いあるし……。
まほ あ、そういう理由もあるんだね。
SOTARO けっこうひどいんです。だから移動はあんまり好きじゃない。
まほ でも活動してたら移動も必要になってくるよね。
SOTARO そこは……がんばるしかない。前よりはよくなってきてるし。新幹線はわりと大丈夫。
まほ SOTAROくん自身がライブしたのは何回くらい?
SOTARO インストアライブが3回。あとは野外のステージとか公園でやったりとか。
まほ 初めてのときはどうだった?
SOTARO いや、もー、生でみんなの前で歌うのが初めてで……楽しく歌うっていうより、ミスしないかなっていう心配のほうが強くなっちゃって。緊張も強くて。
まほ そりゃそうだよね……。
SOTARO そういうときになんか、上手に、楽に歌えればなーって思った。
まほ 3回とも緊張したの?
SOTARO いや、1回目緊張したからか、2回目は楽勝って感じで楽しく歌えて。でも、3回目まで時間が空いて、3回目が一番緊張した。
まほ その流れ、“あるある”!
SOTARO もう、怖いっていう記憶。
まほ お父さんお母さんはどこにいるの?
SOTARO 親は……いや、“りょうしん”はコーラスやってた。
まほ そっか! じゃあ、緊張するSOTAROくんを後ろから見守りながら、自分たちも仕事をするんだね……心配になったりしませんか?
母 3回目のときはさすがに心配しましたね。行きのエレベーターでずっとえずいてて。
まほ よく乗り切ったね(泣)。
母 ステージで気持ちとは裏腹に声が出ていたから、それで「あ、やれてる、オレ!」って思えたみたいで。声が震えたりしてたらもっとナーバスになってたと思うんですけど。
SOTARO やっぱり……その緊張しててもクオリティは下がりた……ん? 下がれ……えっと、さが……(しばし悩んで)下がらせたくない!から。できるだけ本気出して歌った。
まほ おお~。
母 でも、インストアライブが終わったときに「僕はもう音楽はいいんで、児童館の生活に戻ります」って言ったんですよ。
まほ 児童館の生活(笑)。
SOTARO 「もう遊びたいー!!」ってなった。
まほ 切実な心の声が思わず出たんだね。
母 もうしばらく無理かな……って思っていたんですけど、今年の夏に上野の野外ステージで歌う機会があって。そのときは開放感もあってすごく楽しく歌えたみたいで、また人前に出たいという気持ちになったみたいです。
SOTARO 1年ぶりだったのに、緊張しないで自信持って歌えた。
まほ じゃあ今は、また歌手活動をしたいって思ってるんだね。
SOTARO そうですね。メンタルが強くなったのか、んー、わかんないですけど。
まほ 仕事するにあたって、同業者であるお父さんお母さんからアドバイスもらったりとかは?
SOTARO うーん? どうかなあ……。
まほ ライブ前にコーラ飲むとゲップ出るからやめておいたほうがいいよ、とか。
SOTARO ボク、炭酸飲まないんで。
まほ そっか(笑)。
母 CMのお仕事は先方のリクエストに合わせて声の表情についてアドバイスしたりはするけど、SOTAROのライブやレコーディングのときは基本自由にって感じですね。
まほ 学校の音楽はどう? 好き?
SOTARO 学校の音楽は音程が高いし、テンポがゆっくりで……もう裏声じゃないとキツくなってきてて。
まほ そっか。やっぱり学校の音楽と自分がやってる音楽は違うよね。
SOTARO 音楽の授業は楽しく歌うっていうよりかは、音程をとるのが優先ですね。
まほ うーん、発言がプロっぽい。
SOTARO そのほうが成績が上がるんで。
まほ そっか(笑)。
SOTARO 学校の音楽は、好きっていうより得意って感じですね。
まほ ライブではみんなの前で歌うわけだけど、学校の発表とかも得意なの?
SOTARO うーん、ライブでは自分がメインっていう気持ちが強いけど、学校の発表はちょっと違う。
まほ 学芸会ではメインになりたい? 主人公の役をやるみたいな。
SOTARO いや、それよりも口数が多い役を選ぶ。
まほ 台詞が多いってことね。
SOTARO そう! 声を出すのが好きだから。
まほ 苦手な教科はある?
SOTARO 社会、理科……記憶系がほんっと苦手で。偉人の名前とか、ひらがなでも覚えられない。無理。
まほ 好きな給食は?
SOTARO くじらの竜田揚げ。
お菓子は絶対に我慢。努力義務的な感じです
まほ 今、小6なわけだけど、自分が大人になったなあって思うことある?
SOTARO やっぱり、その~「もし、こうしたら、その次どうなるか」っていう、あとのことを考えるようになった。
まほ それは、最近そうなったってこと?
SOTARO はい。翌日パーティがあるとして、そしたら、お菓子食べたいけど、今食べちゃったらなくなるかもしれない……のに食べちゃってた。
まほ 前までは?
SOTARO はい。ですけど、今は絶対にそんなことない。
まほ 我慢できると。
SOTARO 「ヤバい、今食べたらなくなるやん」って思って絶対我慢する。
母 ……(疑いの目)。
SOTARO (母の様子に気付き)はぁ⁉ ええっ⁉ ナニ?
母 ふふふ。
まほ その目は……いや、我慢できるんだよね⁉
SOTARO (まっすぐな目で)できる。絶対。1年くらい前から。努力義務的な感じです。
まほ SOTAROくんは子供でいたい? 大人でいたい?
SOTARO オレが? 大人になるか、今のままか?
まほ そうそう。
SOTARO う~ん、見た目は子供で、やることは大人がやることをやる。
まほ あ~、それはズルい。ズルいな。
SOTARO でもさ「うれしい」って感情が強いのって大人のほうだと思う。
まほ え~、そうなのかな?
SOTARO 知識があると、喜びが強くなる。
まほ 例えば?
SOTARO 例えば、すごい有名人だと、大人は知ってるから「ワー、すごい! サインください!」ってなるけど、3歳の子はそれが誰かもわからない。
まほ なるほど~。知識や経験があるからこそ喜べることもあるもんね。でも、逆に大人って初めての経験が少ないよ。
SOTARO 人生の半分って、20歳までに体感してるらしい。
まほ ……あ~、20歳までの経験が体感的には人生の半分ってことか。確かに0歳から20歳までの経験と21歳から80歳までって濃度が違いそうだもんね。
SOTARO (習い事の)ダンスの帰り道って行きの道よりも早く感じる。
まほ まさにそれだよね。初めての道はなおさら、ね。SOTAROくん、そんなこと考えてるんだね。じゃあ、12歳のSOTAROくんは今人生の前半部分を経験中なわけだけど、その中で何か事件ってあった?
SOTARO 事件……あ~、死なない程度のヤツは。
まほ (笑)
SOTARO 走り高跳びの授業でぇ、着地に失敗して首を捻挫した。
まほ うわ~、それキツい。
SOTARO (全治)3カ月ぐらい。
まほ 長い~(泣)。
SOTARO でも、痛みがひいたら普通に飛べるようになってぇ、学年1位。
まほ おー。
SOTARO 明るいオチでしょ。
まほ (笑)!
児童館が好きで、声を出して表現がしたい!という気持ちであふれているSOTAROくん。話すことがすごく直感的で、SOTAROくんの心と直に触れているような瞬間が何度もありました。SOTAROくんはこのまま突き進むのか? それとも変化するのか? また児童館で会いましょう!
Smooth Ace
重住ひろこ、岡村玄からなるコーラスグループ。1990年、大学のアカペラサークルで出会った重住、岡村がいくつかのグループを経て1998年に結成。4人混声のコーラスグループとして活動を開始する。2000年メジャーデビュー。ポップス、歌謡曲、ニューミュージックをルーツに紡いだオリジナル楽曲に、高橋幸宏、細野晴臣、清水靖晃、渡辺香津美、小西康陽らをプロデュースに迎えて、数々の作品を発表している。2005年より現メンバーの2人にアディショナルボーカルを迎える形態でライブ、レコーディング活動を行っている。
しまおまほ
1978年東京生まれの作家、イラストレーター。多摩美術大学在学中の1997年にマンガ「女子高生ゴリコ」で作家デビューを果たす。以降「タビリオン」「ぼんやり小町」「しまおまほのひとりオリーブ調査隊」「まほちゃんの家」「漫画真帆ちゃん」「ガールフレンド」「スーベニア」「家族って」といった著作を発表。最新刊は「しまおまほのおしえてコドモNOW!」。イベントやラジオ番組にも多数出演している。父は写真家の島尾伸三、母は写真家の潮田登久子、祖父は小説家の島尾敏雄。