YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週刊連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで12月22日から12月28日にかけて集計されたミュージックビデオランキング、および楽曲ランキングのトップ100の中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、当連載で先週取り上げたKinKi Kids & King & Princeによる「シンデレラガール」が9位、カラフルピーチの「マイヒーロー」が29位に初登場。また以前からSpotifyバイラルチャートをにぎわせていたtuki.の「晩餐歌」、シャイトープの「ランデヴー」の公式MVが12月後半に公開され、それぞれ47位、82位に輝いた。
26位にはJIMINの「Closer Than This」がランクイン。この曲はARMY(BTSファンの呼称)に向けたJIMINの真心が表現されたファンソングとなっている。41位は桑田佳祐&松任谷由実の「Kissin' Christmas(クリスマスだからじゃない)2023」。この曲は1986年放送の、桑田が中心となって企画した音楽番組「メリー・クリスマス・ショー」(日本テレビ)のために制作された「Kissin' Christmas(クリスマスだからじゃない)」がもとになっていて、原曲の世界観はそのままに、大胆なアイデアでリメイクされている。
51位にはYOASOBIの「HEART BEAT」が登場した。この曲はNHKが全国の18歳に届ける1回限りのステージ「YOASOBI18祭(フェス)」のテーマソング。“心音”をテーマに募集した18歳からのメッセージ、文章、パフォーマンス動画をもとに書き下ろされた。イベントに参加した1000人の18歳世代による、実際の合唱、クラップ、ストンプを使用しており、コーラスにはぷらそにかのメンバーも加わっている。MVのディレクションは「群青」を手がけたクリエイター・牧野惇が担当。己と向き合い、悩み、もがきながら自分らしさを見出していく姿を、ブラックライトを使用した人形劇で表現した映像となっている。幅広い年齢層のリスナーを持つベテランアーティストから、10代や20代を中心に支持されている新世代アーティストの楽曲が並んだ今週は、下記の3曲をピックアップする。
中森明菜「北ウイング-CLASSIC-」
※YouTubeウィークリー楽曲ランキング初登場9位
去年12月24日、中森明菜はX(Twitter)公式アカウントにて「クリスマスプレゼント…とは言えないかもしれませんが…レコーディングの様子をお届けしますね。みなさまにとってステキなクリスマスとなりますように…!あきな」とポストした。その直後、スタッフがURLを添えて「中森明菜の公式YouTubeチャンネルを開設いたしました」と報告。その一発目に投稿された動画が、林哲司のデビュー50周年を記念したトリビュートアルバム「50th Anniversary Special A Tribute of Hayashi Tetsuji -Saudade-」に収録されている「北ウイング-CLASSIC-」のレコーディング映像だった。
同曲は1984年に当時18歳だった中森が発表した「北ウイング」をクラシックバージョンとして新録したもので、12月17日放送のラジオ番組「中森明菜オールタイムリクエスト」(ニッポン放送)で中森の肉声メッセージとともにオンエアされた。ちなみに中森がメディアに出演をしたのは、2014年の「第65回NHK紅白歌合戦」以来、およそ9年ぶりのことだった。
MVに映る中森は、以前と変わらない美しさをまとっている一方、歌声は艶っぽさと深みが増している。2018年から体調不良を理由に活動をセーブしていたが、1月2日放送の特番「中森明菜 女神の熱唱~新たな歌声&独占メッセージ~」(BS-TBS)でも肉声インタビューが公開されたりと露出が増えており、伝説の歌姫が完全復活する日は近いかもしれない。
RYKEYDADDYDIRTY「MOTHER JANE feat. 柊人」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場62位
RYKEYDADDYDIRTYが自身の誕生日である12月12日にリリースしたニューアルバム「MOTHER JANE」には、客演でCOCRGI WHITE、漢 a.k.a. GAMI、D.D.S、JNKMN、D.O、SALU、T2Kらが参加。そんな豪華なアルバムの中から、表題曲「MOTHER JANE feat. 柊人」がランクインした。
この曲のもとになったのは2022年に発表された柊人の「好きなこと」。原曲の「いつか好きなことだけで稼ぐまで 今は嫌なことだけどやり続けて」という逆の意味を持った言葉が交錯するフレーズをそのまま引用しつつ、「泣いてばかりいて 笑ってばかりいられている」や「犯しているようで人に抱かれているような悪夢」など、あえて相反する言葉を使うことで、人間とは“矛盾”をはらんだ生き物であるということを表現している。一面的には捉えられないのが、人間であり世の中。そんな表も裏も歌うのがヒップホップであると示すように、曲の後半で「反面を教えてやるのがHIPHOPの価値」というフレーズに着地する。
素晴らしいのは、自分の都合のいいところだけを見せるのではなく、心の強さと弱さをしっかり描いたうえで先述した「いつか好きなことだけで稼ぐまで 今は嫌なことだけどやり続けて」と歌っていること。だからこそ、RYKEYの人間性がしっかりと浮き彫りになり、曲自体の説得力が増幅している。彼のリリックはどんなに強いワードを使っていても、その言葉の端々には優しさが感じられるのだ。
じん「JUVENILE」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場69位
去年8月31日に始まった、ポケットモンスターと初音ミクのコラボレーション企画「ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs」。これまでDECO*27の「ボルテッカー feat. 初音ミク」、稲葉曇の「電気予報」、Mitchie Mの「ミライどんなだろう」、ピノキオピーの「ポケットのモンスター」、cosMo@暴走Pの「戦闘!初音ミク」、傘村トータの「きみとそらをとぶ」、Gigaの「ガッチュー!」とコラボを展開し、大きな話題を集めてきた。
コラボ第8弾となる今回は「カゲロウデイズ」や「サマータイムレコード」などを手がけたじんによる「JUVENILE」だ。明るく掻き鳴らされるギターに加えて、まらしぃの力強いピアノも印象的。歌詞ではトレーナーとその相棒・イーブイの成長が描かれている。MVは楽曲同様に、うれしいときも悲しいときもともに分かち合い支え合ってきた2人が、最後に大舞台に挑戦する感動的な映像になっている。