2024年の幕開けに合わせて音楽ナタリーでは、さまざまなアーティストに「2023年にもっとも愛聴した3曲」を聞くアンケート企画を実施。回答者のジャンルごとに分けた全8本の記事を公開していく。今回は「トラックメイカー編」として、Aiobahn、佐々木喫茶、柴田(パソコン音楽クラブ)、CHOBO CURRY、原口沙輔、yonkey(Klang Ruler)が選んだ2023年の3曲を紹介する。
構成 / 橋本尚平
Aiobahn
THE BLUE HEARTS「終わらない歌」
2023年は自分が作り上げたものが恐らく今までで一番色んな人々に届いた年で、創作について色々考えさせられる年でもありました。
人々が音に接する媒体は常に変化して行くし、軽く触れただけで作品の奥まで理解することは難しいはずだから、意図通り伝わらなかったり、想定していたのと違うイメージが作り上げられていたりで、かなり悩みを感じました。
悩みというか、疲れてるから常に捻れている性格がさらに捻れた状態になったというか、前向きな状態だとは言えなかったかも。
そんな中で今更ながらTHE BLUE HEARTSの音楽に触れてみました。ここまで前向きな歌詞、今は逆にない。空に向けて叫びたくなる歌です。
宇多田ヒカル「Can You Keep A Secret?」
自分が音楽作るようになったのってもはやDTMというワードが定着していて、完全にデジタルでこなせるようになった時代なので、この時代はどのようなプロセスで音楽を仕上げたのかが未だ謎です(当時の人に聞けばわかるとは思うのですが、こういうことを話せる機会ってなかなか無いですね)。自分としてはこの時代の音楽はアナログとデジタルの間に挟まってると感じます。アナログのような質感を感じさせつつ、デジタルのような的確さも同時に感じさせてくれます。今は20年前と比べて機材もソフトも何もかも優れているので当時の音をまんま再現させるのは絶対できないと思います。これは音楽だけでなく当時のノスタルジックさを求める全てのコンテンツに該当する話だと思います。いくら当時を極限まで再現しても、今の環境で作り上げたものはただの当時のニュアンスを持ったものだけにすぎないと。それでも当時の感覚に近づけ、存在しないノスタルジーを感じさせるものを作るのは好きです。この曲は今の自分が求めている音と質感全てを持ってる、そんな曲です。90年代が残っていながらも00年代の雰囲気も存在する、色褪せのない曲です。
m.o.v.e「Rage your dream」
僕は1998という数字から存在しないノスタルジーを感じます。96年生まれなので世代だと言うと世代ですが、2歳の自分が当時のカルチャーに触れた訳でも覚えてる訳でもない(笑)。だからこそ不思議な1998年が僕は大好きで、この時代のJ-POPを探るのもかなり好きです。当時の「CDTV」などの資料を見るだけで今この瞬間1998年を生きてるような感覚にさせてくれます。
色んなヒットソングが出たこの時代の邦楽の中から何故この曲が真っ先に思い浮かんだのかと言うと、この曲に自分の思う1998年の音が全部揃っているからです。909の音、90年代あるあるのコード進行、後半のキーの変化、今の音源では感じることのできないボーカルの自然さ、分かりやすいくらいの当時のシンセ。私にとって最も1998です。最高にノスタルジーです。
<プロフィール>
Aiobahn(アイオバーン)
1996年生まれの音楽プロデューサー / DJ。アドベンチャーゲーム「NEEDY GIRL OVERDOSE」の主題歌「INTERNET OVERDOSE」で注目を浴び、その続編となる2023年3月リリースの「INTERNET YAMERO」がSpotifyの国内バイラルチャートにて1位を獲得した。同年4月にやなぎなぎをフィーチャーした「Re: searchlight」でavex traxからメジャーデビュー。2024年1月19日に「non-reflection feat. 牧野由依」をリリースした。
Aiobahn(@Aiobahn) / X
Aiobahn - YouTube
佐々木喫茶
เต็มแม็กซ์「บูม สหรัฐ x ภูมิ พงศ์รชตะ」
タイのシンガー、Boom Saharatという方のコラボ曲?なんですが正にこれこれ!これでいいんだよ!って感じのサウンドとキャッチーさに一瞬で惚れてずっと聴いてましたね。
国内でこんな感じの曲はとんと聞かなくなりましたが、どっかのメンズアイドルさんがやってくれる事を期待してます!
AIR-CON BOOM BOOM ONESAN「っぽ(NO WAVE)」
80sオマージュは世に溢れてるんですがこっちのアプローチは超新鮮で脳天をぶったたかれた1曲。曲もとにかくカッコいいんですが、歌詞とボーカルの抑揚が完璧すぎて大満足です。ライブで見てみたい!
Jairo「GBB23 World League Tag-team Wildcard Fuego」
ここ数年はビートボックスってジャンルにどっぷりなんですが、去年はJairoが衝撃でしたね。体一つで曲を奏でられるって音楽における正当な進化って感じがしてめちゃくちゃ好きです。
リリースのないカバー楽曲なんですがシンプルに去年一番再生したと思うんでこちらをチョイス。どんどんオリジナル曲出してほしい!!
<プロフィール>
佐々木喫茶(ササキキッサ)
2023年に解散したシンセパンクバンド、レコライドのリーダー。KOTOやfemme fatale、ピンキーポップヘップバーンなどに楽曲を提供している。2019年8月に初のソロ曲「versus nervous」をリリース。2020年4月からは戦慄かなの、頓知気さきならをボーカルに迎えた“佐々木喫茶フィーチャリング企画”を行っている。
佐々木喫茶(レコライド)(@sasakikissa) / X
柴田(パソコン音楽クラブ)
2023年はそれ以前にリリースされていたものを多く聴いていた年でしたが、そんな中でも2023年にリリースされたもので印象的だったものを3つ選ばせていただきます。
セカンドワルツ「テレパスガール」
セカンドワルツのファーストアルバム「テレパスガール」は今年聴いた音楽の中でもとびきりにチャーミングでした。あたたかく、可愛い装いを感じさせるサウンドでありながら、ときどき物悲しさをのぞかせる音楽たちは、現実は受け入れがたいものばかりだと思う日々の処方箋、あるいは空想の旅への片道切符としてはぴったりでした。
ジェネヴィーヴ・アルターディ「Watech For The View」
ルイス・コールとのユニットKNOWERのボーカルとして知られるGenevieve Artadiのソロ作品。スリリングな響きとプログレッシブなリズムの連続をさらりとやってのける様は、なにか素敵な実験を見ているよう。ぬくもりある質感のエンジニアリングも好みでした。
アンドレ3000「New Blue Sun」
アウトキャストのメンバーであるAndré 3000の初ソロ作品。フルートによるジャズアンビエント、と言ってしまうと少しとっつきにくいイメージを抱いてしまうかもしれませんが、ひじょうにポップな印象を受けました。フルート演奏は勿論、その断片に施されたグラニュラー処理に耳を惹かれましたが、Living Recordsの設立者であるMatthewdavidも参加しており納得です。普段シンセサイザーばかり触れている身からすると、息遣いや、それによるアーティキュレーションがダイレクトに伝わる楽器の表現力の魅力をひしひしと感じました。
<プロフィール>
柴田(シバタ)
西山とともに2015年に関西で音楽ユニット・パソコン音楽クラブを結成。パソコン音楽クラブはRoland・SCシリーズやヤマハ・MUシリーズなどの1990年代のハードウェア音源モジュールを用いたサウンドを特徴とし、2018年6月に初の全国流通盤となるフルアルバム「DREAM WALK」を発表した。最新作は2023年5月発表のアルバム「FINE LINE」。他アーティストへの楽曲提供やリミックスでも個性を発揮している。個人ではDJなどでも活動。
柴田(@lnu_wanwanwan) / X
PASOCOM MUSIC CLUB
CHOBO CURRY
リル・ヨッティ「running out of time」
かつてサイケポップヘッズだった僕にとって、プロデュース陣にサイケのスター大集合となったご褒美みたいなアルバムでした。全部の音が気持ちいい。これが2023年一番聴いた曲です。
ピンクパンサレス&アイス・スパイス「Boy's a liar Pt.2」
2人ともTikTokで爆発した新世代スターですよね。特にIce Spiceは大好きで、今年ドリルをポップスに押し上げたMVPだと思います。イギリスのダンスミュージックの盛り上がりも本当に楽しいよなぁ。カワイイし踊れるし歌えるし、間違いなく2023年を象徴する名曲です。
Jacques「Absolve」
この曲ヤバい。俺の好きなものが最初から最後までギチギチに詰まってます。トリッピーすぎて酔いそう。MVのビジュアルも最高。髪型がクールすぎる。曲作り興味ある人は彼のAgainst The Clockもおすすめです。
<プロフィール>
CHOBO CURRY(チョボカリー)
2021年にYouTube上で活動を開始した音楽プロデューサー / コンテンツクリエイター。アメリカ・イリノイ州シカゴ在住。ヒップホップなどの楽曲を声だけでカバーする「全部俺の声」シリーズで多くの視聴者の支持を得る。音源制作だけでなく、描画・アニメーション・動画制作をすべて1人で担当。2021年に投稿した槇原敬之「もう恋なんてしない」のドリルリミックス「槇原ドリル」が、2023年にTikTokで大ブームとなった。
原口沙輔
Tdstr「paper is made from paper」
周防パトラ「イミグレーションfeat. Yunomi」
フロクロ「ビビビビ」
2023年、聴いた物を遡っていると混沌としておりました。一定期間同じ曲を聴き続けているという時期が殆ど無かった。それはジャンルにしても、アーティストにしても。
自分の事だったり、仕事の事だったりで、ゆったりと音を聴く時間を取れていなかったのかもしれない。様々な音楽を別々の文脈からつまむようにプレイリストに並べられていた。フルコーラス聴けていたのかも怪しい。
それで、長く聴いた物の代わりに2023年の気分だった曲を選ぶことにしました。
<プロフィール>
原口沙輔(ハラグチサスケ)
2003年生まれ。10歳でニューヨークのアポロシアターで「アマチュアナイト」に出場しダンスで優勝。14歳のときにフィンガードラムの路上パフォーマンスをきっかけに注目され、2018年12月に「インフルエンザー」でメジャーデビューした。新しい地図 join ミュージック「#SINGING」の作詞作曲を15歳にして手がけたことも話題に。2021年9月に東京・国立競技場で開催された「東京2020パラリンピック競技大会」の閉会式に出演し、音楽制作を担当した。2023年5月に「SASUKE」から「原口沙輔」に名義を変更。同年8月に発表した初のボーカロイド楽曲「人マニア」がバイラルヒットとなった。
yonkey(Klang Ruler)
スクリレックス with ナイ・バルグーティ「XENA」
僕が最も尊敬するプロデューサー・Skrillexの最新アルバムの1曲です。トライバル系のパーカッションがメインとなるトラックですが、全体的にシンプルな音数で楽曲として成立しているところが本当に素晴らしいです。ジャングル系のサンプルなどがちりばめられているのもSkrillexのカラーを感じますね。
トラックメイクはパズルだと思っていてその一つ一つのピースが存在感を放っていて精密にハマっているトラックだと思います。
コイ・リレイ「Get Loud」
ブラスのパキッとしたキレのあるうわものにjersey clubスタイルのシンプルなドラムが合わさったトラックです。この曲のプロデューサーのNick Leeとは去年の夏にLAで一緒に制作する機会がありまして、彼はトロンボーンを生かしたキャッチーなヒット曲Lil Nas X「INDUSTRY BABY(feat. Jack Harlow)」を作った名プロデューサーです。そんな彼の魅力がたくさん詰まったクールなトラックです。
新しい学校のリーダーズ「Tokyo Calling」
最後の曲は僕がプロデュースをした新しい学校のリーダーズ / ATARASHI GAKKO!の「Tokyo Calling」です。
昭和の怪獣映画を連想させるレトロ加工されたブラスに和太鼓を織り交ぜた現代のドラムサウンドが綺麗に噛み合ったトラックです。808のベースを怪獣の足音に見立てたりと、ここで全て紹介しきれないほどこだわりました。去年僕がプロデュースした「オトナブルー」で社会を席巻した彼女たちのステージをさらに一つあげるために、しっかり日本発を意識したスケールの大きいアップリフティングな曲を作りました。
<プロフィール>
yonkey(ヨンキー)
1997年生まれの音楽プロデューサー / シンガー。高校在学中に自身がフロントマンを務めるバンド・Klang Rulerを結成した。18歳の頃にスクリレックスなどEDMシーンのアーティストに感銘を受け、トラックメイキングに没頭。2018年にアソビシステムが行った全国オーディションでLINE MUSIC賞を受賞し、2019年7月にAAAMYYYを客演に迎えたによるソロ曲「ダウナーラブ feat. AAAMYYY」をリリースした。2020年にプロデュースした新しい学校のリーダーズの「オトナブルー」が、リリースから3年後の2023年に大ヒットを記録。またKlang Rulerも2021年末に発表したブラックビスケッツのカバー「タイミング ~Timing~」がヒットするなど、音楽シーンへ鮮烈な印象を与え続けている。
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Klang Ruler Official Website