「R-1グランプリ2022」で優勝を果たし、今やバラエティに引っ張りだこのお見送り芸人しんいち。彼がテレビやYouTubeに出演する際にたびたび着用している服が、一部で話題になっている。それは、2013年に解散したバンド・GARNET CROWのグッズTシャツだ。GARNET CROWは、中村由利(Vo)、AZUKI七(Key)、岡本仁志(G)、古井弘人(Key)の4人編成で活動していたバンドで、「夏の幻」「夢みたあとで」といったアニメ「名探偵コナン」のテーマ曲でも知られている。10年以上前に解散したバンドのTシャツを、彼はなぜ今でも着続けているのだろうか? きっとそこには、GARNET CROWへの並々ならぬ思いと愛情があるに違いない。
そこで音楽ナタリーは、さまざまな著名人に“愛してやまないアーティスト”について話を聞く連載「私と音楽」にて、お見送り芸人しんいちに取材を実施。GARNET CROWとの出会いから、Tシャツを着用している現在の思いまで、たっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 石井佑来 撮影 / 山口真由子
GARNET CROWの曲がこれからも生き続けてほしい
なんでGARNET CROWのTシャツを着ているか、ですか? うーん、「今でもGARNET CROWのことを好きな人がいる」って伝え続けたいからですかね……。いや僕ね、解散してからもGARNET CROWの曲を聴き続けてる人ってたくさんいると思うんですよ。自分もその1人ですし。それを本人たちやGARNET CROWのファンに伝えたいんですよね。そして何より、GARNET CROWの曲がこれからも生き続けてほしい。「そういうバンドいたなあ。懐かしいなあ」じゃなくて、例えばバラエティ番組のBGMとして使われるとか、誰かのカバーがドラマの主題歌になるとか、そういうことでもいいから、みんなに聴き継がれていってほしいんです。そして、ぜいたくを言わせてもらうと、いつか一度でいいから復活ライブを……。もちろん、いろんな事情があるだろうし、そう簡単にいかないことはわかってますけど、いちファンとして「ライブを観たい」と思っちゃうじゃないですか。だから、「もしかしたら自分の行動が何かのきっかけになるかもしれない」と思って、今でもこうしてTシャツを着続けています。若い世代にはGARNET CROWを知らない人も多いと思うけど、そういう人が「しんいちのTシャツ何?」と思って調べてくれるだけで、こっちの勝ちというか。そういうことを積み重ねていった先に、もしかしたらいい知らせが待っているかもしれないので。
「今でもGARNET CROWの曲を聴き続けてる人はたくさんいる」と言いましたけど、その証拠に、Tシャツを着てるとけっこう反響があって。「水曜日のダウンタウン」とか鬼越トマホークのYouTubeチャンネルとかいろんなところで着てるんですけど、そのたびに「今、芸人がGARNET CROWのTシャツ着てた!」とか「お見送り芸人しんいちのGARNET CROWのTシャツ渋いな」とか、コメントが付くんですよ。そうやってGARNET CROWファンの方が気付いてくれるのはめちゃくちゃうれしいですね。あと、去年発売された写真集(「GARNET CROW photoscope 2000-2013」)の画像をXにあげたら、東海オンエアの虫眼鏡さんが「僕もGARNET CROW好きなんですよ」と連絡をくれて。ほかにも、山本彩さんがライブで「夢みたあとで」をカバーしていたり、いろんな人がGARNET CROWや4人の曲を愛し続けているんですよね。
「こんな歌声、今まで聴いたことない!」
初めてGARNET CROWの存在を知ったのは中学生の頃でした。録画した「名探偵コナン」を観ていたら、オープニングで「もう二度と迷わない様に~」(2000年リリースの1stシングル「Mysterious Eyes」の歌詞)と流れてきて。「この声、誰?」と思って、巻き戻して確認したんです。そしたらアーティスト名が書いてあったけど、当時は英語なんてまったくわからないから「ガーネット……? クロウ……?」という感じで。作詞のところには「AZUKI七」と書いてあるけど、それもなんて読むかわからないし、そもそもアニメのオープニング映像だから、どんな見た目かもわからない。でも、とにかく歌声が衝撃的で。「こんな歌声、今まで聴いたことない!」と思って、急いでCDを買いに行きました。そのときにジャケットを見て、そこで初めて「この4人が作った曲なんや」と知りましたね。
それからもCDやDVDは買っていたけど、いかんせんお金が全然なくて。当時好きだったゆずとGARNET CROWのCDだけは絶対に欲しかったので、親の手伝いをがんばって、お小遣いを貯めてました。ただ、ライブに行けるほどの余裕はなかったから、結局一度も生で観れなくて……。だからこそ「もう一度だけライブをしてほしい」と願ってるんです。今になって通販でグッズを買ったりしてるのも、「R-1グランプリ」で優勝して、やっとお金を自由に使えるようになったから。そう考えると、解散した今でも“GARNET CROWにお金を使える場所”を残してくれているのは、すごくありがたいですね。
自分にはないものを持っているところに憧れた
「Mysterious Eyes」を買ったのをきっかけにCDを集めるようになったんですけど、より深みにハマったのは「ミュージックステーション」で「夢みたあとで」を歌ってるのを観たときでした。おそらくそれが「Mステ」初登場だったんですけど、ボーカルの中村由利さんがめちゃくちゃ緊張してて。そこに人間味を感じて好きになったんですよね。それまではジャケットに写ってる姿しか見たことなかったから、“天才クリエイター4人”という印象しかなかったし、どんな人たちかまったく知らなかった。そんな中、いざテレビに出てる姿を見たらすごい緊張してるから、「めっちゃ人間やん!」と思って(笑)。「あんな天才的な曲を作ってるのに中身は普通の人なんだ」と知れたのが、すごくうれしかったんです。
のちにDVDでライブのMCとかも観るんですけど、特に初期のほうはだいぶつたなくて(笑)。でも、曲が始まると自分たちの世界を作り出してしまう。そのギャップがカッコよくて、そういうところもグサッときました。学生時代に“普段は目立たないけど、美術の授業ですごい才能を発揮する”みたいな人っていたじゃないですか。そういうタイプなんですよね、4人とも。僕は学生時代からとにかく前に出ていくタイプだったし、その代わり何か突出した才能があるわけでもないので、自分にはないものを持っているところに憧れたんだと思います。
GARNET CROWのCDはジャケットの雰囲気が渋くて、そこも好きですね。「このCDを持ってる自分ってカッコいい」と思えるような魅力があるというか。GARNET CROWのことを好きなのって、「4人のよさをわかってる自分がすごい」という感覚も正直ちょっとあるんです。いや、これはかなりダサい発言だってわかってますよ? でも、みんな言わないだけで、“何かを好きになる”って少なからずそういう部分もあると思っていて。「クラスのみんながミスチルとかドリカムを聴いてる中、GARNET CROWに目をつけた自分!」っていう(笑)。それはもちろん「自分のことをよく見せたい」という気持ちもありますけど、結局は“そういうふうに酔いしれさせてくれるGARNET CROW”のことが好きだし、そういう感覚を持たせてくれる4人がすごいってことなんだと思います。
歌声と歌詞に表れる、さみしさや儚さ
自分は中村由利さんの声がきっかけで好きになったので、GARNET CROWの魅力を聞かれたら、歌声を真っ先に挙げますね。だって、中村さんっぽい歌声のアーティストってほかにいなくないですか? 単純にうまいとかではなくて、あの人にしか出せない声と、あの人にしかできない歌い方がある。もしかしたらボイトレの先生に「その歌い方やめなさい」と言われるかもしれないような、すごく“わがまま”な歌い方をしてると思うんです。なんか、ずーっと寂しそうなんですよ、中村さんの歌声って。そのうえで、悩みとか恥ずかしさとか、そういうものを全部さらけ出してるのがめちゃくちゃカッコいい。
中村さんのボーカルで特に好きなのは「Over Drive」。この曲はローなところからスタートして、徐々に明るくなっていくんですけど、ローの部分がすごく中村さんっぽいなと思います。あとはベタですけど、「夢みたあとで」とか。あの曲を聴いてると、いまだに泣いちゃうときがある。しかも「夢みたあとで」は、中村さんが人生で初めて作った曲らしくて。大人の知恵や打算がない状態で作られた曲だからこそ、こんなにも刺さるのかなと思います。
AZUKI七さんの歌詞もGARNET CROWの魅力の1つですよね。僕は「千以上の言葉を並べても…」の歌い出しの「公園で髪を切る 落ちてゆく毛先を払う」という歌詞がすごく好きで。この場面1つで、「あんまり裕福ではないんやろな」とか、いろんなことを想像させてくれるんですよ。実際に公園で髪を切ってる人なんて見たことないけど、自分も子供の頃に家でおかんに髪を切ってもらったことがあるから、そういう思い出と重ねて聴いたりもできますし。あとは1stアルバム(「first soundscope ~水のない晴れた海へ~」)に収録されてる「Rhythm」も大好きです。アップテンポなのにめっちゃ暗くて、そこがGARNET CROWらしいなと。中村さんの歌声もそうですけど、AZUKI七さんの歌詞も寂しさとか儚さが全面に出てるんですよね。
あの代表ネタは「夢見たあとで」が元ネタ?
実は僕、ネタを作るときもGARNET CROWの曲を参考にしてまして。「R-1」で優勝したときの「僕の好きなもの」というネタも、「夢見たあとで」のコード進行を真似してるんですよ。実際に聴いてもらったらわかると思いますけど。(ギターを取り出して演奏する)「朝がくるたび君のことを想う 一日の始まりさえも切なくて…………アスファルトに咲いてる花好き 雨上がりの虹好き タトゥーだらけの男が1ラウンドで負けてるところ好き」っていう感じで、コード進行がほぼ一緒なんです。Gから入って、C、D、Emあたりを使うっていう。ほかの部分も「ユメヲミタアトデ 君はまだ遠くて 気持ちだけ先走って空回り 花の雨が降るこの道は変わらず 腕を絡め歩きたいな…………キャンプ2泊3日全部雨だった家族好き ディズニーランドで喧嘩してるカップル好き」みたいなね(笑)。
「このコード進行を使ったら儚い雰囲気になるんやな」とか「このテンポで歌ったら寂しさが出るんやな」とか、そういう部分でGARNET CROWの曲はめっちゃ参考にしてて。そのおかげで「R-1」も優勝できたんです。だから、本当にGARNET CROWのおかげで人生が変わったし、GARNET CROWのおかげで温かいごはんを食べられるようになったんですよ。GARNET CROWと、あとさっき挙げたゆず。この2組と出会ってなかったら全然違う人生になっていたと思います。
いつか特番でGARNET CROWを歌いたい
「R-1」の決勝に向かう車内では、GARNET CROWの「スパイラル」を聴いてました。あの曲を聴くと、めちゃくちゃテンションが上がるんですよ。気持ちがぐわーっと高まるというか。僕はDVDでしか観たことないですけど、「スパイラル」はライブでの定番曲で。サビを何回も繰り返したり、ファンの人たちと一緒にジャンプしたりするんです。それをDVDで観るたびに「いいなあ。現場にいたかったなあ」という気持ちになりますね。あの4人が一生懸命盛り上げようとしてる姿もまたよくて。それこそゆずの北川(悠仁)さんとかだったら、「1、2、3、4!」みたいなことをやってもすごく様になるけど、中村さんがそれをやるとちょっと無理してる感じが出るというか(笑)。それがめちゃくちゃかわいいし、そういう人間味が見えるところが大好きなんですよね。
でもやっぱり、こういう話をしてるとライブを観たくなりますねえ。署名を何枚集めたらやってくれるんかな。もちろんいろいろあっての解散だと思いますけど、わがままを言わせてもらうなら一度だけでもいいから復活してほしい。あとは、いろんな人に歌い継がれていってほしいです。僕もいつか特番とかの大きな舞台でGARNET CROWの曲を歌うのが夢なんですよ。そうやっていろんな形でGARNET CROWという存在が生き続ければいいなと思うし、「今でもGARNET CROWを好きな人がたくさんいる」ということが本人たちに届くことを願ってます。
プロフィール
お見送り芸人しんいち
1985年4月21日生まれ、大阪府出身のお笑い芸人。2009年に芸人としてデビューし、2013年に現事務所グレープカンパニーに所属する。2022年に「R-1グランプリ」で優勝を果たし、以降さまざまなバラエティ番組で活躍している。
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