コロナ禍以降、国内のみならず海外でもライブを開催するアーティストが増加。アーティストの生のパフォーマンスを体感するうえで「海外公演に参加する」という選択肢が脳裏をよぎる人も少なくないのでは。
このコラムでは、世界最大級の韓国カルチャーフェスティバル「KCON」の香港公演参加のため初の海外遠征を経験したライターの岸野恵加が、事前準備から到着後の過ごし方、現地の熱気までを詳細にレポートする。前編にあたる本稿では、日本とは勝手が異なるチケッティング(チケットの確保)やホテル、e-SIMの選定などについて記した“準備編”をお届け。海外遠征への参加に興味がある読者はぜひ参考にしてほしい。
取材・文・撮影 / 岸野恵加
「海外公演を現地で体感したい」
遠征で観るライブが大好き。コンサートそのものの幸せな余韻に、その土地で目に映った景色、おいしかった食事、現地で出会った人との会話……あらゆる記憶が加わることで、さらに忘れがたい思い出として刻み込まれるから。同じような思いを抱いている人は、けっこう多いのではないでしょうか?
コロナ禍が明けて以降は、ワールドツアーを回るアーティストが増加。現在はRADWIMPSや宇多田ヒカル、LiSA、Perfume、imase、羊文学、XGらが海外ツアーの開催を控えています。アーティストが公演地に合わせた言語でMCを繰り広げたり、観客の多くがスマホをステージへ向けて撮影したりと、独特の光景が広がる海外公演。さらに日本とは違うグッズ、日本とは違うセットリスト、日本とは違う観客のノリ……。日本を飛び出して実際に現地に向かった人の体験談も時折見かけますし、挑戦してみたいと考えている人も少なくないように感じます。
フリーライター兼編集者の私は近年、K-POP関連の取材や執筆を担当する機会が多く、音楽ナタリーでも連載「土岐麻子の『大人の沼』 ~私たちがハマるK-POP~」の編集と「K-POP、最近どう?」の執筆を担当しています。K-POPアーティストも近年は精力的にワールドツアーを行っているので、日々K-POPを追う中で、海外公演を現地で味わってみたいという思いが高まっていました。この記事では、海外遠征ビギナーの私が実際にチャレンジするまでに準備したことや、現地で感じたことをつづっていきます。
香港公演開催の知らせ、滞在時間1日半の弾丸遠征を決意
2月上旬、「KCON」の初の香港公演「KCON HONG KONG 2024」が3月30、31日に行われるというニュースが飛び込んできました。「KCON」は、韓国の巨大エンタテインメント企業CJ ENMが主催するKカルチャーの祭典。K-POPアーティストがここでしか観られないカバー曲のパフォーマンスを披露するなど、毎回見応えのあるステージが繰り広げられるイベントです。私はこれまで観客として、そしてレポート記事を執筆するライターとして何度も日本公演の会場に足を運び、また海外公演をオンラインで視聴してきました。
「KCON」はロサンゼルスやタイ、サウジアラビアなどさまざまな地域で開催されており、現地に行った人のレポートを読んで、日本とはひと味違う海外公演にいつか足を運んでみたいと思っていたのです。香港は今までの開催地と比べたら、距離的にも費用的にも行きやすいかもしれない。そんなことをぼんやり考えていたところ、なんと仕事の関連でお声がけをいただき、このイベントに足を運べるチャンスが到来。ただし渡航費などは自費で、チケットも自分で手配する必要があります。
家族が快く送り出してくれるならば……と、恐縮しながら夫に相談してみたところ、すぐさま了承を得ることができたのでした。神様夫様! とはいえ30日の夕方に用事が入っていたため、31日のDAY2公演のみに足を運ぶことに。せっかく香港に行くのだし、できる限り楽しみたい思いはもちろんありましたが、春休み中で何かと子供たちの用も多い時期なので、深夜便で向かいイベントを鑑賞した翌日に帰国するという、実質滞在時間1日半の弾丸スケジュールを組むことに。でも弾丸ツアーはわりと慣れっこだし、すぐ日常に帰れる感覚が個人的には逆に好きなのです。
【1】チケットの確保
非抽選式のチケット争奪戦
香港は一度旅行で行ったことがありますが、実に18年も前。海外に行くこと自体4年半ぶりだったので、航空券やホテルなどをどのような順番で押さえるべきか、すっかり勘が鈍っていました。しかし目下の最優先事項は公演チケットの確保。そもそもチケットが取れないことには、スタート地点に立つことも許されません。情報を収集していくと、日本で開催される「KCON」は抽選販売でチケットがなかなか入手できないけれど、タイでの「KCON」はチケットが直前でも購入できたという情報も目にしました。香港公演は初の開催とあって、どのくらいの競争率になるのか、まったく予想ができません。
「KCON」は毎回さまざまな券種が用意され、SHOW(いわゆるコンサート本編)とMEET&GREET(トークやゲーム中心の交流イベント)のそれぞれにチケットが必要とされるなど、しっかり読み込まないと販売概要を正確に把握できないこともしばしば。苦戦しながらも、翻訳アプリを駆使して公式サイトを読み解いていくと、どうやらMPSPという優先パスを購入した人のみが参加できるPRESALE(先行発売)が2月21日、GENERAL SALE(一般発売)が2月23日に行われることがわかりました。
SHOWのチケット価格は3種類あり、アリーナ確約のPREMIUM (2日間通し券)が2688香港ドル、1日券のみのP1(ステージに向かって左右のスタンド席)が1488香港ドル、同じく1日券のみのP2(後方スタンド席)が988香港ドル。1香港ドルが約19円なので、それぞれ日本円に換算すると約5万1000円、2万8000円、1万3800円ほどとなります。ちなみに日本で5月に行われる「KCON JAPAN 2024」のチケットは、1日券が1万5900円、3日通し券が3万6900円。海外公演は日本よりチケット代が高いと耳にしていましたが、身をもって実感しました。
4時間にわたるチケッティングの一部始終
海外公演のチケットを購入するにあたっては、代行業者に委託する方法もよく知られています。日本語でやりとりができること、不慣れなチケット争奪戦をプロに任せられる安心感は魅力ですが、問い合わせてみたところ、かなり割高な価格設定。無事にチケットを手に入れられるのか、正直不安は募る一方でしたが、今回は一か八か、自力でがんばってみようと腹をくくりました。
「KCON HONG KONG 2024」のチケットは、Citylineという香港のプレイガイドのサイトで販売されます。悩みつつもMPSPの購入は見送り、一般発売にチャレンジしてみることに。サイトを英語表記に切り替え、販売開始時刻を待ちます。
日本時間の2月23日11時。ドキドキしながらもアクセスすると、すぐさま「You are in-line, please wait a moment」という、回線が混み合っていることを示す表示が続きました。PCとスマホの両方を駆使し、30分ほど待ってもうんともすんともいわなかったため、「ああ、これは売り切れてしまうかな……」と落ち込みつつ、一度気持ちを切り替え、子供たちが熱望していたカービィのハッピーセットをゲットするため、一時離脱してマクドナルドへ。家事をしたり子供と遊んだりしながら気が向いたタイミングでリロードを繰り返していると、14時ごろ、やっと次の画面に進む兆しが。しかしまだ混み合っているようで、急に弾かれて前の画面に戻ってしまったりと、もどかしい展開が続きます。
もう残っていないのでは……と諦めかけた15時過ぎ、ついにページの表示がスムーズになり、決済方法を選ぶ画面まで進むことができました。P1チケットを選択すると、座席番号がランダムで自動的に表示されます。「こういう感じなんだ!」と慣れない展開に戸惑いながらも、できるだけ良席がいいという欲が湧いてきて、何度か操作を繰り返してみると、そのたびに違う席が表示されました。結果、15ブロックという、メインステージに近く、真横から花道を見下ろせる席(とはいえ、列は最後列から2番目ということをのちに知る)に。自分で座席を選ぶことができない完全抽選の日本式に比べると、かなり新鮮。チケットは開催直前まで購入可能だったので、結果的には焦る必要はまったくなかったのですが、かなり心臓に優しくない1日でした。ちなみにこうした海外サイトではクレジットカードが使用できず弾かれてしまうケースもあるそうですが、私はPayPayカードで問題なく決済できました。
【2】航空券&ホテルを予約、その他の事前準備
航空券は価格変動を注視
ここで、長年の友人であるサトコちゃんも「KCON HONG KONG 2024」に行くことを知りました。サトコちゃんは昨年からATEEZにどハマりし、ATINY(ATEEZファンの呼称)として日々推し活に勤しんでいるのです。現地で一緒に行動できるのであればこんなに心強いことはありません。それまでは「自分は本当に現地に行くのだろうか。行けるのだろうか」と現実感のなさが大きかったのに、チケットが手に入った喜びも相まって一気に「私、本当に行くっぽいぞ!?」と輪郭がくっきりとした瞬間でした。
「KCON HONG KONG 2024」の舞台となるのは、Asia World-Expoという展示場。東京ビッグサイトや幕張メッセがイメージに近いと思います。日本のアーティストの香港公演もよく行われる会場で、2月にはAdoさんがアジアツアー公演を行っていました。香港国際空港からとても近く、電車1駅で着いてしまいます。ホテルは直前までキャンセル無料のため、早めに押さえてしまおうとサトコちゃんと話し、香港国際空港から直結のRegal Airport Hotelを予約。また飛行機は時間的にも費用的にも香港エクスプレスがよさそうということになり、日々価格をにらめっこ。1万円程度と格安の日もあれば、3万円台まで上がってしまう日もあり、かなり変動が激しかったです。サトコちゃんと連携しながら安いタイミングで取れるように粘り、タイミングを見はからって購入しました。
Wi-Fi問題はeSIMで解決
そして海外渡航にあたって欠かせない、ネット接続環境の確保。私はこれまでレンタルのWi-Fiルーターしか使用したことがなかったため、今回も予約をしようと考えていたところ、サトコちゃんがeSIMを勧めてくれました。eSIMはSIMカードを差し替えることなく、ネット上で契約するだけで普段のスマホを海外で使用できるという魔法のような仕組み。容量無制限で2000円強(5日間)というリーズナブルな価格に惹かれ、Holaflyを選択してみました。
あんなに不安だったのに、気付けば諸々の手配が整っていきます。果たして現地ではどのような体験が待っているのでしょう。次回は実際に渡航してからの様子をお届けします!
<後編に続く>