「メタル系バンドやファンの中には猫好きが多い」という説がある。確かにロブ・ハルフォードやイングヴェイ・マルムスティーンを筆頭に猫を愛するメタル系ミュージシャンは多いし、10年ほど前にはメタル系アーティストと猫のツーショットをまとめた写真集「Metal Cats」が発売されて話題を集めたりした(この写真集は売り上げの一部が猫の保護施設のために寄付されるなど、制作者の猫愛ほとばしるプロジェクトでもあった)。
では、なぜメタル系バンドのメンバーやファンの中には猫好きが多いのだろうか? 創作活動のパートナーとしての猫の存在に迫る本連載、3回目となる今回は愛猫家として知られるDEVILOOFのボーカル、桂佑にインタビューを試みた。DEVILOOFはデスコアを軸にした強烈なサウンドと、ヴィジュアル系~和ホラーが混ざり合った独自の世界観が国内外で人気を集めている。桂佑の猫ライフについて話を伺いながら、猫とメタルの切っても切れない関係について考察してみたい。
取材・文 / 大石始
DEVILOOFメジャーデビューよりうれしい!?
2025年2月21日、渋谷CLUB QUATTRO。その日はDEVILOOFと花冷え。の2マンライブが開催されることになっていた。開演を待つオーディエンスの長蛇の列をかき分けながら楽屋に入ると、そこにはフルメイクの桂佑が私たちのことを待っていてくれた。ライブの際のデスボイスとはまったく違う穏やかな口調で、桂佑は一緒に暮らす2匹の猫について紹介し始めた。
「お兄ちゃんのほうがキジ白の花月ちゃん、妹がキジトラの卯月ちゃんです。2匹ともめちゃくちゃ大きくて、お兄ちゃんは7kgぐらいあります。妹は少し小さいんですけど、それでも6kgぐらいあるんですよ。お兄ちゃんはその体型に似つかわしくない甲高い声でごはんをねだってきます(笑)。お兄ちゃんのほうは甘えん坊で、妹はツンデレなところがありますね」
2匹の猫を引き取ったのは3年ほど前。どちらも生後2カ月の子猫だった。桂佑は小学生の頃に猫を飼っていたことがあり、再び猫を飼いたくなって保護猫団体を訪れたのだという。そのとき出会ったのが花月ちゃんと卯月ちゃんだった。
「本当はお母さん猫含めて4匹いたんですよ。全員引き取りたかったんですけど、厳しいということで2匹だけ引き取りました」
どちらも4月生まれということで、4月にちなんで妹は卯月(旧暦4月の異称)、兄には花月という名前を付けた。桂佑は「ちょっとヴィジュアル系っぽい名前ですよね」と言って笑い、「はづちゃん・うづちゃんか、はっちゃん・うっちゃんと呼ぶことが多いですね。バンドのイメージが崩れちゃうかもしれないけど」と続けた。2匹の猫との暮らしも当初はなかなか大変だったという。
「2匹とも人見知りなのでシャーッ!と言われたり、けっこう大変でした。最初はゲージの中で飼ってたんですけど、1週間ぐらいでようやく外で飼えるようになりました。今でも宅配のチャイムが鳴るだけで、ダッシュで安全なところに隠れちゃうんですよ。家族や友達がうちに来てもどこかに隠れています」
兄妹の仲はとてもいいようで、桂佑のインスタグラムには同じようなポーズを取る花月ちゃん・卯月ちゃんの写真が投稿されている。そのうちの1枚は2025年度の「こねこめくり」に採用された。選ばれたのは2匹がまだ子猫の頃の写真。気持ちよさそうに眠る2匹の姿は確かにたまらないかわいさだ。
「親バカですみません(笑)。あれは本当にうれしかった。DEVILOOFのメジャーデビューよりもうれしかったかもしれない(笑)」
デスボイスは封印し、警戒されないよう優しい裏声で
猫との暮らしも3年半ほど経過し、2匹も大人になった。子猫の頃に比べればいくらか落ち着いてきたとはいえ、まだまだ大変なこともあるようだ。
「基本的に僕は人間よりも猫のほうが立場が上だと思っているので……(楽屋で話を聞いていたメンバーが吹き出す)いやいや、それはそうなのよ。猫飼いはみんなそう考えていると思うし、こちらは癒してもらっているので、文句を言える立場でもないんです(笑)。強いて挙げるとすれば、猫って早起きなんですよね。今は6時ぐらいに起こしにきますけど、前は4時ぐらいに起こされたり。起こされてもそのまま寝ていると、高いところから腹の上にダイブしてくるんですよ(笑)。7kgのダイブなんでけっこう痛くて」
その一方で、猫がいる幸せを改めて噛み締める瞬間もある。
「ライブが終わって疲れて帰ってきたとき、猫が待ってる光景を見るだけで『ああ、かわいいねえ……』と癒されます。あと、人見知りが激しい分、ほかの人と自分は違うんだなとうれしくなりますよね。僕だけ見てくれてるんやと(笑)」
自宅で制作やレコーディングをする際、猫たちが邪魔することはないが、いくつかの対策はしているという。
「家に防音室がありまして、録音などはそこでやるんですよ。長時間そこで作業していると、外で待っていることはありますね。開けた瞬間に入ってきて、キーボードやパソコンの上に座られることはあります。あと、防音室の上が彼らの避難場所になっているので、よくそこに隠れてますね。猫は大きい音が嫌いなので、そこは多少気を付けています。それと猫はコード類を噛みがちなので、コードにカバーをしたり、そういう対策はしています」
桂佑のインスタグラムには自宅内の防音室に卯月ちゃんが乗っかり、まん丸な目でレコーディング風景を見守っている動画もアップされている。
「防音室で僕がデスボイスで歌っているときは、外でめちゃくちゃ警戒しているようです。箱の中から変な声が聞こえる!と。だから、猫たちと話すときは警戒されないよう裏声で話すようにしてるんですよ。(優しい裏声で)はっちゃん、うっちゃんって。気持ち悪いでしょ?」
フルメイクの桂佑は、そう言って血の滴る口を歪ませながらうれしそうに笑った。
猫を吸って制作の行き詰まり解消
それまで熱を込めて猫愛を語っていた桂佑の言葉が淀んだのは、こんな質問を投げかけたときだった──猫ちゃんたちの存在が歌詞や音作りに反映されることはありますか?
「うーん、あまりないかもしれない(笑)。励ましてくれるというぐらいですかね。制作で行き詰まっていたり、ストレスが溜まっているとき、猫を吸うことはあります」
では、質問を変えよう。DEVILOOFの強烈な世界観は普段どのように生まれているのだろうか。何かをモチーフにしているのだろうか?
「僕は映画が好きでして、作品からアイデアをもらって書くことが多いですね。基本的にどのジャンルの映画も観ますけど、中でもサスペンスやミステリー、ホラー、SFが多いかもしれない。クリストファー・ノーランやデヴィッド・フィンチャー、あとデヴィッド・リンチの作品も好きです」
最新シングル「因習」のイメージの元となったのは「村ホラー」。桂佑は「日本の悪き風習を発展させて、人喰いのイメージをもとに書きました」と話す。浅野忠信が特別出演したミュージックビデオは、まさにその世界観をビジュアライズした強烈な仕上がりだ。そこには見せ物小屋など日本的なホラー映画のイメージも重ね合わされているが、こうした日本的なエッセンスは2019年のアルバム「鬼」あたりから音楽面や衣装などに反映されてきた。こうした和テイストを導入するきっかけは何だったのだろうか?
「『鬼』を作っていた頃、バンドの中で『和装のテイストを衣装に取り入れるのはどうだろう?』というアイデアが出てきたんですよ。最初はそれだけだったんですけど、だったら曲にも和のテイストを入れても面白いんじゃないかと思ったんです。なんで和装を取り入れようと思ったのか、あまり覚えてないんですが……(メイク中のメンバーに向かって)覚えてる?」
「『鬼』のとき? 海外のバンドの真似事をするんじゃなくて、日本で生まれて日本でバンドをやっているからこそ、自分たちのオリジナリティを追求する必要はあるんじゃないかと思ったんです」
「そういうことらしいです(笑)」
DEVILOOFで表現する“非日常”と、猫たちのいる“日常”の間で
DEVILOOFはこれまでライブパフォーマンスやMVを通じて徹底的に“非日常“を追求してきた。メイクや衣装も“非日常”を生み出すための演出のひとつであり、オーディエンスはひとときの“非日常”を求めてDEVILOOFのライブに足を運ぶ。そして、桂佑にとってそうした“非日常“とは、猫たちとの“日常“の真逆にあるものでもある。
「ライブってひとつのショーだと思っていて、自分らはそこで“大きなもの”を表現したいんです。日常があるからこそ“非日常”に振り切れるんだと思うし、逆に言えば、こういう音楽をやっているからこそ猫に癒しを求めているのかもしれない」
世界中のメタラーが猫を愛する理由の1つがここにあるのではないだろうか。ライブという圧倒的な“非日常”と、猫がゴロンと転がる“日常”。そのコントラストを愛し、だからこそ互いを必要としている。“非日常”を生み出すためには“日常”が必要だし、“日常”を生きるために“非日常”を求めるのだ。桂佑もまた「まったく別の世界だからこそ、猫をモチーフにした曲を作ろうという発想にもならないのかもしれないですね」と話す。
愛猫家として知られるJudas Priestのロブ・ハルフォードは、海外メディアでのインタビューで「メタルコミュニティで猫が好かれている理由は、彼らが非常に独立心が強いからだと思う」という持論を語っている。確かに猫たちは好きなように生き、好きなように遊ぶ。ロブ・ハルフォードもまた、猫たちの自由奔放な姿に密かに憧れを持っているのかもしれない。
なお、今回の取材にあたって桂佑が「猫と一緒に聴きたいプレイリスト」を選曲してくれたのだが、送られてきたリンクを開いてびっくり、なんとトータル111曲、7時間56分の大長編である。ただし、すべて桂佑の好きな曲のみが選ばれており、その意味では桂佑の音楽的ルーツが見えるプレイリストとも言えそうだ。
「最初はクラシックだけにしようかと思ったんですけど、それはそれでバランスがよくないかなと思って。かといって自分が興味のない音楽は入れていないし、全部好きな曲ばかりです。ただ、メタルやダンスミュージックなど低音のうるさいものは省きました。低音が好きじゃない猫も多いと思うので……」
やはりここでも猫ファーストなのである。「今頃コタツで寝てると思います(笑)」と自宅でくつろぐ花月ちゃんと卯月ちゃんのことを思い出しながら、桂佑は満員のオーディエンスが待つ渋谷CLUB QUATTROのステージへと飛び出していったのだった。
プロフィール
桂佑(ケイスケ)
香川県出身、12月30日生まれ。2015年に結成されたデスコアバンドDEVILOOFのボーカル。既存のデスボイス、オリジナルのデスボイスを豊富に扱うことから「メタル界の技のデパート」の異名を持つ。強烈な見た目とは相反して猫をこよなく愛し、自宅で2匹の保護猫を飼う愛猫家。
・DEVILOOFオフィシャルウェブサイト
・DEVILOOF 桂佑(@keisuke_dvlf)|X
・桂佑(@keisuke_keisuke_neko)|Instagram写真と動画
