YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで4月11日から4月17日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、35位にNEXZの「Simmer」がランクインした。今作は4月28日にリリースされる2ndミニアルバム「O-RLY?」の収録曲。「Simmer」は沸騰寸前の温度でゆっくり煮ることを意味する言葉で、その曲名通り彼らの高まるエネルギーを表したヒップホップナンバーになっている。
37位に登場したのはXG「IN THE RAIN」。雨音と繊細なギターサウンドが合わさったR&Bトラックに、彼女たちのウェットな歌声が重なることで曲の魅力がさらに増幅されている。
43位にはこっちのけんとの「けっかおーらい」がランクインした。テレビアニメ「ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-」のオープニングテーマとして書き下ろされたこの曲。登場キャラクターであるオールマイトを想起させる「目の下のクマ、シワのあるマスク」をはじめ、「ヒロアカ」の世界観を踏襲したフレーズが随所にちりばめられている。
44位にはWORLD ORDERの「NEO SAMURAI」が登場した。日本の伝統文化に根ざす「侍の精神」と近未来的な世界観を融合させた楽曲。甲冑を着たダンスも非常にインパクトが強い。
多種多様な新曲が並んだ今週は、下記の3曲をピックアップする。
星街すいせい「もうどうなってもいいや」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場15位
スタジオカラーとサンライズがタッグを組んで制作したガンダムシリーズ最新作「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」。1月17日に劇場先行版「機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-」が公開されると、興行収入は33.4億円を突破し、ガンダム映画シリーズ歴代2位を記録する大ヒットとなった。この作品の挿入歌が、星街すいせいの「もうどうなってもいいや」だ。星街は劇場先行版の挿入歌アーティストへの起用が発表された際に「今回はガンダムシリーズ最新作の挿入歌を歌わせていただき、とても光栄です……! この曲は疾走感あふれるデジタルダンスサウンドとなっているので、ぜひ劇場でご覧いただけるとうれしいです!」とコメントしていた。
同曲は4月8日から日本テレビ系で放送開始したテレビシリーズ「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」のエンディングテーマとしてもオンエアされており、さらに注目を浴びている。4月9日に配信されたフル音源は、16日発表のオリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキングで自身初のデジタルシングル1位を獲得した。
翌10日に公開されたMVは、日々の生活に憔悴した様子のOLが、あきらめたような表情で「もうどうなってもいいや」とつぶやくシーンから始まる。OLは鬱憤を晴らすかのようにシューティングゲームをプレイし、ステージをクリアするに従って表情が明るくなっていく。そして最後に彼女は会社の上司に辞表を叩き付け、晴々とした顔で「もうどうなってもいいや」と空を見上げる。そんな非常にドラマチックなこのMVは、2週間で220万再生に達している。コメント欄には「最初曲名だけ見てた時は自暴自棄のやけっぱちで奮闘するような感じなのかなと思ってたけど、実際聞いてみると『もうどうなってもいいや』は"どう転んでも後悔が無い選択をした"っていうニュアンスに聞こえる」など楽曲の構成を絶賛する声が多く上がった。
≠ME「モブノデレラ」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場28位
≠MEの「モブノデレラ」は4月30日にリリースされる10thシングル「モブノデレラ / 神様の言うとーり!」の表題曲の1つ。≠MEの表題曲としては初の悲しく切ない、そして美しいメロディのミディアムバラード曲だ。タイトル「モブノデレラ」は造語で「物語の最後に報われるシンデレラとは違い、決して主人公にはなれないその他大勢の役名のない“モブ”として生きている私、そして誰もが持つ孤独感や絶望」を表しているという。作詞を担当したのは≠MEのプロデューサーであり、グループの全楽曲の作詞を手がけている指原莉乃。作曲は乃木坂46や中島美嘉など多くの人気アイドルやアーティストに楽曲提供をしている杉山勝彦と、17歳の現役高校生で今作が作家デビュー作となる関口颯太が担当した。
MVは時計の針が12時を指すシーンで始まり、その世界観は童話「シンデレラ」をイメージさせる。だが、メンバーが演じるのは主人公のシンデレラではなく、王子に差し出されたガラスの靴を履くシンデレラを恨めしそうに見ている“モブデレラ”。いわゆる“じゃないほう”にスポットを当てているのが斬新であり、メンバーの怒りや悲しみに満ちた表情も新鮮だ。≠MEの正統派アイドルとしてのイメージを逆手に取った楽曲と映像は反響を呼び、4月11日のMV公開から2週間で300万再生を突破した。
コメント欄では「今までの人生ずーっと『選ばれない側』だったしいつも『じゃない方』だったけど、この歌のおかげでそんな自分に名前がついて嬉しい。私はモブノデレラだったんだ」など、それぞれの境遇と重ねて胸を打たれた人の声が多数投稿されている。
浜崎あゆみ「mimosa」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場60位
浜崎あゆみがデビュー27周年を迎えた4月8日に、新曲「mimosa」を配信リリースした。今作は小泉今日子と中井貴一がダブル主演を務める、フジテレビ系の月9ドラマ「続・続・最後から二番目の恋」の主題歌として書き下ろされた楽曲。浜崎がフジテレビ月9ドラマの主題歌を手がけるのは、2000年に放送された「天気予報の恋人」の「SEASONS」以来25年ぶりのこと。「最後から二番目の恋」シリーズとしては、2012年放送の第1期での「how beautiful you are」、2014年放送の第2期での「Hello new me」に続いて3期連続での主題歌担当となる。浜崎は楽曲に込めた思いを次のようにコメントしている。
「年月を重ねる事で変わっていくものと変わらないもの、誰にでもある人生の両面を表現してみました。ドラマと共に歩んできた皆様にも、今作が初めての皆様にも寄り添える一曲になるとうれしいです」
「『ひとつだけ昔の自分にかけてあげられるとしたならどんな言葉にしますか?』 / そんな質問よくあるよね」という問いかけから始まるこの歌詞は「過去の自分」と「現在の自分」との対話がテーマ。2番のサビ「人を心の底から信じるだなんて / 何かに本気で人生賭けるだなんて / 今の時代にまるで合ってないことはさぁ / わかってんだけどそれでもねぇ / やっていくんだよ」は、27年間にわたって時代の先端に立って活躍し続けた今の彼女だからこそ、より強い説得力を持って響く素晴らしいフレーズだ。なお、作曲は「Days」「Key ~eternal tie ver.~」など、これまでも浜崎の楽曲を数多く生み出した多胡邦夫が手がけている。
MVは自らの歴代のジャケット写真が飾られた「ayuミュージアム」の中を、優しい笑みを浮かべながら歩く浜崎が印象的だ。監督を務めたのは「Microphone」「Last minute」「Dreamed a Dream」を含め、浜崎のMVではおなじみの武藤眞志。このミュージアムはフルCGで制作されており、「浜崎がジャケット写真に手をかざすことで、そこに写る過去の自分が命を吹き込まれたように動き出す」というシーンで生成AIの技術が取り入れられている。楽曲や映像からも浜崎あゆみが歩んだ27年の軌跡が感じられる快作に仕上がっている。