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海外を中心に盛り上がる和製フュージョン、その知られざる魅力に迫る

Invitation to Japanese Fusion
19分前2025年06月04日 10:03

昨今、海外の音楽ファンの間で日本のフュージョンが盛り上がっているという。さまざまな作品が動画サイトを中心に人気を集め、また今年3月にアメリカ・ロサンゼルスで行われた高中正義のワンマンライブは、5000人におよぶ地元ファンが会場に詰めかけ大成功を収めている。今、ジャパニーズフュージョンを取り巻く状況にいったい何が起こっているのか? さる5月にレコード会社5社から同時発売された、ジャパニーズフュージョンのコンピレーションアルバム「CROSSOVER CITY」の企画・選曲・解説を手がけた音楽ライター栗本斉に考察してもらった。

文 / 栗本斉

高中正義、菊池ひみこの海外人気

「バカテクミュージシャンのうまいだけで退屈な音楽」。もしくは「スーパーのBGMに使われている薄っぺらいインスト」。どういうわけなのか、長らくフュージョンと呼ばれる音楽ジャンルは、ネガティブなイメージとともにぞんざいな扱いを受けていた。「テクニック重視ならプログレやメタルでしょ」とか、「インストならラウンジやアンビエントのほうがカッコいいじゃん」なんて言われ続けてきたのだ。特に、40~60代くらいの音楽ファンで「フュージョンなんてダサい」と刷り込まれている方はかなり多いことだろう。

しかし、そんな逆境に耐え続けてきた不遇の音楽・フュージョンが、このところめきめきと注目を浴びている。しかも海外の音楽リスナーが中心で、10~20代の若い音楽ファンがメインだという。まさかと思うなら、YouTubeで高中正義の1979年に編纂されたベストアルバム「All Of Me」を検索してみてほしい。このアルバムの視聴回数は600万回超、その下に表示される別アカウントでアップロードされた同タイトルの動画も500万回超だ。合計1100万回以上も再生されているのである。過去にはさらに別アカウントでも公開されていたらしいので、それらも含めると1100万回どころではない。おまけに、1978年の名盤「BRASILIAN SKIES」も、360万回超。いずれも動画のコメント欄を見てみると、英語やスペイン語といった外国語のコメントがずらりと並んでいる。

この人気ぶりは高中正義だけの現象と思われるかもしれないが、それだけではない。次に菊池ひみこの「FLYING BEAGLE」を検索してみよう。本作は実力派キーボード奏者による1987年のアルバム。ジャズ / フュージョン好きなら知っているアーティストだが、一般的にはそれほどの知名度はないはずだ。しかし、これまた驚くべきことに835万回超の試聴数を誇っている。もちろんこちらのコメント欄も、日本人によるものは、ほぼないと言っていい。日本のフュージョンを取り巻く状況にいったい何が起こっているのだろうか。

そもそもフュージョンとは?

そもそも「フュージョン」という言葉にピンとこない若い音楽ファンも多いだろう。フュージョンとは、ジャズの進化系の1つである。ジャズは時代に寄り添いながら、その当時のトレンドとのミクスチャーによって進化してきたが、1960年代後半から70年代にかけては顕著で、ロック、ポップス、クラシック、ソウル、ラテン、ブラジリアン、アフリカンといった、さまざまな音楽的要素と合体したジャズが生まれた。黎明期は「ジャズロック」や「ジャズファンク」などと呼ばれ、そのうちさらに洗練されたサウンドに対しての呼び名が、「クロスオーヴァー」や「フュージョン」という言葉に移行していった。この動向は海外だけでなく日本も同様で、多くの国内ミュージシャンたちがこぞってラリー・カールトン、Stuff、The Crusaders、デイヴィッド・サンボーン、Airplayといったアーティストが演奏するスタイリッシュなフュージョンサウンドを取り入れていくのである。

こういったフュージョンは、1980年前後の若者たちのライフスタイルにフィットし、絶大な人気を誇るようになる。洋邦のロックやポップスと並列してフュージョンを聴く音楽ファンも珍しくなく、学生たちのアマチュアバンドでもフュージョンの演奏は定番だった。CASIOPEA、伊東たけし(THE SQUARE、現T-SQUARE)、渡辺貞夫、日野皓正らの楽曲はテレビのCMに使用されることも珍しくなかったし、人気アーティストはポップス系シンガーやアイドルたちと同じイベントやライブに出演することもあった。音楽シーンの第一線にフュージョンが存在することに違和感のない時代があったのだ。

シティポップ、アイドルソングへの影響

さらに重要なのは、こういったフュージョンを奏でていたミュージシャンの多くが、当時のシティポップサウンドを支えていたことだ。有名なところでは、「ルビーの指環」のメガヒットを生んだ寺尾聰のアルバム「Reflections」(1981年)のバックは井上鑑、今剛、松原正樹、林立夫、斉藤ノブといったメンバーで固められており、彼らはPARACHUTEという人気フュージョングループとして活動していた。またフュージョンは、シティポップに限らずアイドルソングや歌謡曲にも影響を与えており、例えば松田聖子の初期作品のミュージシャンクレジットを見ると、ほぼ全員がフュージョン経験のあるミュージシャンである。極端に言えば、当時のシティポップやアイドルソングは、歌をオフにすればフュージョンであり、フュージョン自体は「歌のないシティポップ」といっても過言ではないのだ。

こうやって発展してきたフュージョンが、80年代後半のバンドブームと呼応するように、音楽シーンの隅に追いやられていくのは、シティポップと同様。90年代に入ると、地道に活動しているフュージョンのミュージシャンは多数存在していたが、いわゆる音楽のトレンドではなかった。むしろ、冒頭に書いたように毛嫌いする音楽リスナーも多いくらいだった。90年代後半にはアシッドジャズムーブメントの流れで、クラブミュージックとしての再評価の波がUK中心に沸き起こったが、それもごく一部のマニア止まり。あくまでも知る人ぞ知るジャンルとして、ひっそりと聴かれる音楽になってしまったのである。

ヴェイパーウェイヴやローファイヒップホップとの親和性

しかし、ここ10年くらいの間に、フュージョンの捉え方が変化してきた。とくにミレニアム世代以降の非リアルタイム世代のリスナーにとっては、固定観念に捉われることがなく、“憧れの80's音楽”として存在しており、シティポップ同様に掘り起こし甲斐のある知られざる音楽の鉱脈が、フュージョンという忘れ去られたカテゴリの中に大きく横たわっていた、ということではないだろうか。耳の肥えた海外のリスナーたちは、「知らないのにどこか懐かしい」というサウンドがそこにあることに気付き、まさにシティポップと同じ文脈で、インターネットを介して発見していったのだ。多くのコメントに「Chill」という言葉が多くつづられているのも印象的で、そこからヴェイパーウェイヴやローファイヒップホップとの親和性があることも想像がつく。また、ゲーム音楽やアニメのサントラなどとの関連性を指摘されることもある。実際、安藤正容(元T-SQUARE)は「グランツーリスモ」などのゲーム音楽を手がけているといった例もあり、日本のビンテージゲームの音楽も海外では人気だという。これらもすべて、インターネット上で拡散されてきており、そう考えると、サブスクや動画サイト、SNSなどの発展がなければ、シティポップもフュージョンもいまだに忘れ去られた音楽だったのかもしれない。

レコード時代ならではのアートワーク

冒頭に示したように、高中正義や菊池ひみこの人気は驚くべきだが、そこにはレコード時代ならではのアートワークのよさも影響しているように思われる。高中正義は本人がスカイダイビングをしている写真というのがユニークだし、菊池ひみこはビーグル犬のドアップでなかなかのインパクトがある。そういった観点で言うと、CASIOPEAの1stアルバム「CASIOPEA」(1979年)とライブアルバム「MINT JAMS」(1982年)の2枚が突出して人気が高いことも頷ける。前者はレーシングカーの写真が疾走感を表現し、後者はカラフルでポップなイラストデザインに目を奪われる。作品のクオリティだけでない、レコードジャケットのファッション性も重要といえるだろう。キーボード奏者の野力奏一率いるNORIKIの「DREAM CRUISE」(1984年)や、鈴木英人のイラストを使用した堀井勝美PROJECTの諸作品が人気を集めているのも、音楽的な魅力だけでなくアートワークのよさが大きく影響しているはずだ。

現行の音楽シーンへの影響

注目されているとはいえ、シティポップがネオシティポップと呼ばれるアーティストを多数輩出したように、現状フュージョンは大ブームになっていると言えるほどではない。松原みき「真夜中のドア~Stay with me」のようなビッグヒットは生まれていないし、そもそもインストであるため、シティポップほどのアドバンテージはないかもしれない。しかし、フュージョンを聴いているというミュージシャンが少しずつ目に付くようになってきた。昨今のインタビュー記事等から確認できただけでも、岡田拓郎、安部勇磨(never young beach)、清竜人、高橋アフィ(TAMTAM)、パソコン音楽クラブといったアーティストがフュージョンに言及している。また、アシッドジャズとは別の文脈で、フュージョンをスピンするクラブDJも増えているという噂も聞こえてくる。今後、日本の音楽シーンにフュージョンがどう影響してくるかは未知数だが、少なからず以前よりもポップで目新しい音楽として認識されていることは間違いない。

さて、フュージョンリバイバルは大きなムーヴメントになるのだろうか。ここではあえて、「『シティポップ』の次は『歌のないシティポップ』だ!」と声高らかに宣言しておこう。長らく音楽シーンの中心から排除されてきたジャパニーズフュージョンの逆襲が、今始まろうとしている。

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