国内外の注目アーティストが勢ぞろいする日本の二大音楽フェス、「FUJI ROCK FESTIVAL」と「SUMMER SONIC」。そこで繰り広げられるさまざまなライブは、オーディエンスに大きな感動を与え、さながら事件のように毎年音楽ファンの間で語り継がれています。
今年の夏はいったい誰のステージが話題になるのでしょうか? この記事では音楽ライターや編集者など4人に、今年のフジロックとサマソニで観るべきだと思う出演アーティストを3組ずつ挙げてもらうアンケートを実施。そしてその理由についても回答してもらいました。この夏フジロックやサマソニに行く予定の皆さんは、ぜひ4人のオススメを参考にして当日のライブを楽しんでください。
構成 / 橋本尚平
※寄稿者を50音順に掲載
小野島大が選んだ今年の注目アクト
フジロックで観るべき3組
- Ca7riel & Paco Amoroso(7/26 GREEN STAGE)
- Balming Tiger(7/26 WHITE STAGE)
- The Panturas(7/26 FIELD OF HEAVEN)
Ca7riel & Paco Amorosoは昨年「Tiny Desk Concert」に出演して大きな話題となったアルゼンチンのデュオだ。ブエノスアイレス生まれの幼馴染2人によるラテンエレクトロニック~ファンク~ソウル~ジャズ~ヒップホップ~トラップ。昨年発表した1stアルバム「Baño María」は抜群のセンスと完成度が光る傑作。欧米のダンスミュージックとはひと味もふた味も違う、オーガニックで瑞々しい解放感は苗場の自然にもフィットするはず。
Balming Tigerは2018年に結成された韓国の5人組で、メンバーを中心に映像やビジュアル担当などがチームとなって活動している。昨年発表された1stアルバム「January Never Dies」ではオルタナティブロック、ヒップホップ、R&Bやエレクトロニカに韓国の伝統歌謡の要素を複合したハイブリッドな音楽性が面白い。ライブならではのパフォーマンスも期待できそうだ。
インドネシアの4人組The Panturas。ディック・デイルやThe Venturesなどのサーフロックに、インドネシアの伝統音楽や大衆音楽にアジアのさまざまなポップミュージックを融合させたサイケデリックでエキゾティックなガレージロックは、欧米ではありえないようなユニークなもの。この手のバンドはライブが絶対面白いはずなので、当日現地にいたら見逃し厳禁だ。
サマソニで観るべき3組
- Chase Atlantic(8/16幕張 MARINE STAGE・8/17大阪 AIR STAGE)
- J. バルヴィン(8/16大阪 AIR STAGE・8/17幕張 MARINE STAGE)
- 21サヴェージ(8/17幕張 MOUNTAIN STAGE)
オーストラリア・ケアンズ出身の3人組Chase Atlantic。昨年発表したアルバム「Lost in Heaven」は、ダークで内省的なオルタナティブR&Bとオルタナティブロックを合体したような作品として素晴らしい出来だった。ライブでは若い女性を中心に大合唱も起きるほど親しみやすいパフォーマンスを見せるが、映像と照明を使ったショウアップも巧みで、楽しめるステージになるはず。
アメリカのヒスパニック系人口の急増に伴い、ますます勢いを増しているラテンポップだが、その最大のスターと言えるのがコロンビアのJ. バルヴィン。コーチェラやロラパルーザなど世界的な大型フェスティバルでも軒並みヘッドライナーを務める希代のエンタテイナーぶりは定評のあるところ。海外での豪華なセットや演出がどれぐらい再現されるかわからないが、そのサービス精神は日本でも味わえるはず。同日同ステージのカミラ・カベロとの共演も期待したい。
円安の影響もあり、アメリカのR&Bやヒップホップの一流どころをなかなか日本に呼べなくなっているだけに、アリシア・キーズや21サヴェージのサマソニ出演は大歓迎したいところ。とりわけ21サヴェージは現代トラップを代表する正真正銘のトップクラスの骨太ラッパー。これが初来日となる貴重なステージだ。見逃しは厳禁である。
小野島大(オノジマダイ)
音楽評論家。「MUSIC MAGAZINE」「ROCKIN'ON」などのほか、新聞やWebなどさまざまな媒体で執筆活動を行っている。
小野島 大 (@dai_onojima) ・ X
小野島 大|note
照沼健太が選んだ今年の注目アクト
フジロックで観るべき3組
- HYUKOH & Sunset Rollercoaster(7/25 GREEN STAGE)
- 山下達郎(7/26 GREEN STAGE)
- Vampire Weekend(7/27 GREEN STAGE)
「そこでしか体験できなさそうなライブ」が、基本的な選考基準です。
HYUKOH & Sunset Rollercoasterは、韓国のHYUKOHと、台湾の落日飛車(Sunset Rollercoaster)という2バンドのコラボレーションプロジェクト。昨年、傑作アルバム「AAA」を提げた単独での来日公演も行われましたが、本作のリラクシンなバンドサウンドと、エレクトロニックなアンビエント要素の不思議な融合は、間違いなくフジロック向きでしょう。BTSのメンバーRMのソロアルバムも、アジアのインディー音楽の新フェーズを告げる内容となっていましたが、そうしたシーンのウォッチ的視点でも必見かと思います。
山下達郎は言わずもがな日本のポップ音楽におけるレジェンドであり、彼の出演は今年のフジロック最大のトピックで間違いありません。伝説化はすでに約束済みです。
そしてフジロック最終日に出演する大トリ、Vampire Weekend。バンドの集大成にしてアップデートを図った最新作はセールスこそ振るわなかったものの、個人的には1st以来で最も好きな作品。昨年のコーチェラへのスペシャルゲスト出演も素晴らしかったです。単独公演に期待したいところもありますが、現時点ではこのフジロックでしか観られそうにありません。
サマソニで観るべき3組
- SixTONES(8/16幕張 MARINE STAGE)
- aespa(8/17幕張 MARINE STAGE)
- Sombr(8/16大阪・8/17幕張 SONIC STAGE)
続いてサマーソニック。昨年のNumber_i、そして今年のSixTONESのようにファンクラブに加入しなければまずライブを観られないアーティストは、ぜひフェス出演時に観ておきたいところ。メンバーの松村北斗さんは近年俳優として高い評価を獲得しており、僕も松村さんから入門したタイプですが、そうした音楽ファンにとって最高の入り口になるのでは? ただし昼間のマリンステージは過酷のひと言。熱中症には要注意です。
次にaespa。昨年のK-POPシーンにおける中心は間違いなく彼女たちでした。チャーリーXCX「BRAT」ともシンクロするレイヴィなクラブサウンドでさらなるブレイクを果たした新たな絶頂期。SixTONES同様、このタイミングで彼女たちのステージを確実に観られる、貴重なチャンスとなるでしょう。
最後はSombr。ネット発のヒット曲を飛ばしながら、インディーロック系のリスナーからも注目を集めている新鋭シンガーソングライターです。今後、一気にメジャーシーンでブレイクする可能性も十分秘めていることから、かつてのレディー・ガガ、BTS、ビリー・アイリッシュのような伝説のステージとなる可能性も……!?
照沼健太(テルヌマケンタ)
編集者 / ライター / カメラマン。MTV Japan、Web制作会社を経て独立。2014年より2016年末までユニバーサル ミュージックジャパンのWebメディア・AMPの編集長を務める。2018年にコンテンツ制作会社・ホワイトライトを設立。2023年10月末に批評家の伏見瞬とともにYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」を開設。
照沼健太/TERUNUMA KENTA
てけしゅん音楽情報 | 今の音楽がわかる - YouTube
本人が選んだ今年の注目アクト
フジロックで観るべき3組
- TYO GQOM(7/26 GAN-BAN SQUARE)
- YOUR SONG IS GOOD(7/26 PYRAMID GARDEN)
- The Hives(7/27 RED MARQUEE)
「今年の注目アクト」というお題をいただきつつも、「FUJI ROCK FESTIVAL」を筆頭にフェスティバルという“場”に魅せられて育った立場として、私からは会場やプログラム内のシナジーが期待できそうなアーティストを軸に選ばせてもらった。
まずはVulfpeckや山下達郎など意外性と“らしさ”あふれるブッキングが際立ったフジロックから。1組目は、南アフリカ発のダンスミュージック「Gqom」を看板に掲げるDJクルー・TYO GQOM(トウキョウゴム)を推したい。深夜パーティ会場として定着しつつあるGAN-BAN SQUAREは、深夜のメイン会場・RED MARQUEEとは異なるタイプのDJアクトを中心に迎えて盛り上がっているが、そんなオルタナティブな場で浴びるカオティックな重低音やさわやかなアフロハウスサウンドが、フジロック音楽体験の幅をさらに広げてくれるに違いない。
2組目は、2022年にWHITE STAGEを沸かせて以来の出演となるYOUR SONG IS GOOD。これまでGREEN STAGEトップバッターから、最終日深夜レッドのオーラスまで、さまざまな立ち位置でフジの風景を彩ってきた彼らが、2025年はCANDLE JUNEがディレクションする僻地・PYRAMID GARDENに登場する。フジのコンセプトへの共感から誕生し、神秘的な風合いすら漂うこのステージで、ユアソンのトロピカルなサウンドがどう響くのか、今から楽しみだ。
そして最後は、うれしくも悩ましい日曜ヘッドライナーの中から、The Hivesに1票。Vampire WeekendやHaimと並んでインディーロックファンでなくとも1つに選ぶのが難しいところだが、そこをコメディ一歩手前のステージアクションとストレートなロックサウンドで確実に盛り上げてくれる彼らに託してみるのはどうか。00年代のガレージリバイバル期から変わらぬエンタテインメント性を貫く彼らのパフォーマンスには、夏の思い出のハイライトにふさわしい興奮をもたらしてくれるに違いない。
サマソニで観るべき3組
- J. バルヴィン(8/16大阪AIR STAGE・8/17東京MARINE STAGE)
- m-flo(8/16 MIDNIGHT SONIC curated by m-flo)
- CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN(8/17大阪 PAVILION STAGE)
続いて「SUMMER SONIC」に移ろう。初期はロックフェスとしてカテゴライズされがちだった同フェスだが、これまでEDM、J-POP、アイドルなど、時代の“新機軸”をメインステージに取り入れてその裾野を広げてきた。そして2025年はラテン勢の存在がその枠となりそうだし、中でも初来日公演が2018年サマソニだったJ. バルヴィンの“凱旋”は見逃せない。その後スーパーボウルのハーフタイムショーや「Coachella Valley Music and Arts Festival」など年々規模やスキルが増すパフォーマンスシップを配信越しでしか観られなかった身として、生で体験できる機会は貴重だ。同日のステージには共演経験のあるカミラ・カベロも出演するし、この日は何かが起こる予感しかない。
2組目は単独アクトというより、キュレーターとしてのm-floに注目したい。1日目、2日目の深夜に幕張メッセで開催される「MIDNIGHT SONIC curated by m-flo」を取り仕切るとあって、昨年の熱演を目にした人や、リアルタイム世代でなくとも胸が高鳴るはずだ。TERIYAKI BOYZや盟友アクトの登場ももちろん魅力だが、予告されている“loves”アクトの出演も含め、m-floが演出する夜のパーティには見どころが尽きない。
このように、アーティスト主導のステージコンセプトや、幕張のビーチなど“場”としての魅力が語られるサマソニにおいて、2025年に外せないのが“フェスマジック確定演出”とも言える大阪・PAVILIONステージだ。昨年から大阪会場は、関西万博の影響で万博記念公園へと舞台を移した。その中でも、岡本太郎の作品に見守られながらライブが行われる屋内会場は、一度は足を踏み入れてみたい特別な空間。今年も多様なアクトが登場予定だが、中でもCHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINが織りなす異国情緒との相乗効果は絶大なものになるだろう。これもまた、1つの“万博体験”として、2025年はぜひ大阪会場にも足を運びたい。
本人(ホンニン)
都内在住の40代男性。サラリーマン業と育児に日常をすりつぶされながら、時折ライブやフェスに足を運んでその様子を記録するインターネットユーザーとしても活動している。著書に育児エッセイ本「こうしておれは父になる(のか)」(イースト・プレス)。フジロックには初年度に参加して以来、毎年欠かさず足を運んでいる。
本人 (@biftech) ・ X
森朋之が選んだ今年の注目アクト
フジロックで観るべき3組
- HYUKOH & Sunset Rollercoaster(7/25 GREEN STAGE)
- Ca7riel & Paco Amoroso(7/26 GREEN STAGE)
- Royel Otis(7/27 WHITE STAGE)
普段なかなか観られない洋楽のビッグアーティストのライブをまとめて体感できる!というのが2010年代までの洋楽系フェスの大きな魅力だったわけだが、コロナ禍以降、その状況は大きく様変わり。海外アーティストがフェスよりも自分のツアーを優先するようになり、出演料も高騰、さらに円安(円の力が弱くなったという意味です)が加わり、以前と同じように大物を呼べなくなってしまった。さて、どうするか?というのが2025年のフジロック、サマソニの大きなポイントだ。
まずフジロックはGREEN STAGEのヘッドライナー3組のうち2組(フレッド・アゲイン、Vulfpeck)が初来日のアーティストという大胆な策に打って出た。“大物が呼べない”という状況を逆手にとって、「今年はこれを観てほしい!」という主催者側の気合いが伝わってくるが、その傾向はラインナップ全体に浸透している。韓国、台湾のバンドによるプロジェクトHYUKOH & Sunset Rollercoaster、今年のコーチェラでも話題を集めたアルゼンチン出身のポップデュオ・Ca7riel & Paco Amoroso(通称“カトパコ”)、そして、オーストラリア発のインディーロックデュオRoyel Otisなどは、まさに「これが観たかった」というコアな音楽ファンのニーズに応えたブッキングと言えるだろう。
サマソニで観るべき3組
- DOMi & JD Beck(8/16幕張・8/17大阪 SONIC STAGE)
- カミラ・カベロ(8/16大阪 AIR STAGE・8/17幕張 MARINE STAGE)
- ネッサ・バレット(8/16大阪・8/17幕張 SONIC STAGE)
一方のサマソニは例年以上にオールジャンルなラインナップで勝負。洋楽ロック、邦楽ロック、R&B、EDM、ラテン、ファンク、ソウル、アイドル、K-POPなど多様でカラフルなアーティストが登場し、どんな趣向の人も「あ、これ観たいかも」というアクトが見つかるはず。筆者のオススメは、キーボード女子とドラム男子による凄腕ユニットDOMi&JD Beck、Fifth Harmony脱退後初めての来日となるカミラ・カベロ、ダークで内省的な世界観が魅力のネッサ・バレット。アクセスのよさ(東京会場 / ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ 大阪会場 /万博記念公園)、そして“海外アーティストの公演、2万円超え”が当たり前の今、1DAYチケット2万円(税込)ははっきり言ってコスパよすぎだろう。
若い世代の“洋楽離れ”が指摘され、“目当てのアーティストだけを観る”という人も増えているようだが、フェスの醍醐味はやはり未知の音楽との出会い。“知らない音楽を探しにいこう”くらいのオープンマインドで楽しんでほしいと思う。
森朋之(モリトモユキ)
音楽ライター。2000年頃からライター活動をスタート。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な執筆媒体は音楽ナタリーのほかReal Sound、Billboard JAPAN、AERA dot.など。
森朋之 (@tmyk1969) ・ X
