YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで10月24日から10月30日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、6位にLE SSERAFIMの「SPAGHETTI (feat. j-hope of BTS)」が登場した。10月24日のMV公開から10日間で2800万再生を突破し、昇竜の勢いを見せている。
8位にはBE:FIRSTの「I Want You Back」がランクインした。The Jackson 5の名曲にヒップホップの要素を注入して、BE:FIRSTらしいアレンジに仕上げている。
14位に登場したのは&TEAMの「Back to Life」だ。今作は韓国1stミニアルバムの表題曲で、試練や挫折を経験しても本能のままに未来を切り開いていく少年たちの姿が、ドラマチックなサウンドとともに表現されている。
29位にはTravis Japanの「Disco Baby」がランクインした。これは12月3日にリリースされる3rdアルバム「’s travelers」の先行配信曲。1970年代のディスコカルチャーを現代的に取り入れたダンスナンバーで、軽快なビートとブラスの重なりが、華やかさと躍動感を生んでいる。
ボーイズグループの新曲が多数並んだ今週は、下記の3曲をピックアップする。
M!LK「好きすぎて滅!」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場24位
M!LKの新曲「好きすぎて滅!」は、彼らの結成10周年イヤーを締めくくる純愛ラブソングだ。10月27日のMV公開から5日足らずで200万再生を突破。Spotify Japanの急上昇チャートで1位にランクインし、YouTube Musicの公式プレイリスト「Dance Pop Japan」のカバーにも選出されるなど、今年3月リリースのバズり曲「イイじゃん」に続くヒットの兆しを見せている。
筆者は、この楽曲を聴いて往年のJ-POPらしさを感じた。サザンオールスターズの「勝手にシンドバッド」のようなどこか懐かしいメロディや、1990年代後半から2000年代にかけて流行したきらびやかなユーロビート調のサウンドが、令和の時代だからこそ新鮮に聴こえる。
また、意中の人に対する気持ちを、過剰なまでに表現した歌詞にも心惹かれた。2人の出会いを「現世に生まれ変わった / 牛若丸 楊貴妃」と例えるフレーズがなんとも大胆で面白い。ほかにも相手の存在を「大好きな人」ではなく「キミは神秘 キミは神秘」と連呼するだけでなく、「80億分の1の奇跡 / 愛の雫が 大地濡らし / 花も鳥も風も月も / キミの名を呼んでる」と“キミ”を思うスケール感は、いわゆるラブソングの域を超えている。思いの丈を流暢に伝えている主人公だが、最終的には「マジ ぎゅんぎゅんぎゅん / 好きすぎて滅!」と語彙力を失うほどの求愛をする流れも愛らしい。
この曲は壮大なプロポーズの楽曲にも思えるし、先述した通り結成10周年イヤーを締めくくるタイミングにリリースされたことを考慮すると、彼らのファン(み!るきーず)に対する大きな愛情を示した曲にも感じる。
なおM!LKのYouTube公式チャンネルでは、メンバーの塩﨑太智が監修した「好きすぎて滅!」のコール講座の動画も公開されている。この動画を観て練習し、M!LKのライブに備えよう。
なとり「にわかには信じがたいものです」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場47位
片思いには“魔法”と“自己暗示”の2つがある。前者は自分が意識せずとも好きな人に夢中になっていて、心の鼓動が抑えられないほどピュアな感情だ。一方、後者は恋の魔法が解けて、相手のことを冷静に見られるようになっている。夢中になっているときには気付かなかった、相手の裏の顔も見えてしまうが、「いや、彼に限ってそんなはずがない」と自らに言い聞かせている状態である。どうして言い聞かせるのかというと、信じていた相手が、自分の思い描いた通りの人ではなかったことを認めるのが怖いからだ。魔法や自己暗示の先には現実が待っていて、そこに目を向けることも怖い。そうした心の揺れ動きを表現しているのが、なとりの新曲「にわかには信じがたいものです」だと筆者は思う。
「ま、まさか 私、恋をしちゃってる!?」と曲中の“あなた”を意識した“私”であったが、2番で「どこか無愛想な、あの人も / 赤信号を渡る、あの人も / 本当はいい人だって信じたい! 信じないほうが気が楽だけど」と自分の都合がいいように解釈しようと努める。それでも最後は「信じちゃう君も、ばっかみたい!」と魔法も自己暗示も解けて「トンネルの向こう」、つまり現実へと歩いていく……そんな楽曲に筆者は感じた。
恋愛から視点を変えれば、純粋な子供から大人へと変わっていく様子を描いているようにも解釈できるだろう。もしくはまったく違う意図で、この曲は書かれたのかもしれない。聴けば聴くほど歌詞の意味を考えたくなる。聴き手を虜にするその求心力こそが、なとりの大きな魅力なのだと思う。
KOGYARU feat. Natuul「Dis Desu」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場87位
小学生ギャル雑誌「KOGYARU」の専属モデルからなるグループ・KOGYARU。今年8月にリリースした「KOGYA’S KITCHEN」は、ドイツのiTunes Storeにおいて「ヒップホップ / ラップ トップミュージックビデオ」で1位を獲得し、彼女たちの存在が国内だけでなく海外でも注目されていることを証明した。そんなKOGYARUが、公式ライバルである清楚系キッズグループ・Natuulを客演に迎えた新曲が「Dis Desu」だ。今作は対照的な個性を持つ2組が、お互いの価値観をぶつけ合う楽曲となっている。
面白いのは、冒頭に流れる印象的な効果音やギターのフレーズをはじめ、2000年に放送されたTBS系ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」のオマージュが随所に盛り込まれている点だ。窪塚洋介が演じた安藤崇の「悪いことすんなって言ってんじゃないの。ダサいことすんなって言ってんの。わかる?」という印象的なセリフが、同曲では「あざといことすんなって言ってんじゃないの。ダサいことすんなって言ってんのー。わかるー?」と再創造されている。MVでNatuulとKOGYARUが対峙する場面は、G-BoysとBlack Angelsの抗争を想起させる。
まるで令和版「池袋ウエストゲートパーク」を見ているような「ギャル vs 清楚」のビーフ。果たしてどちらのグループに軍配が上がるのか、今後の展開が気になる。


