超特急としても活躍する草川拓弥と樋口幸平がダブル主演を務めるオリジナルショートドラマ「こころ」が、日本映画専門チャンネルで12月8日に独占放送される。これに先駆け、草川が報道陣の合同取材に応じた。
作品を背負う責任と覚悟
「こころ」は、文豪・夏目漱石の名作「こゝろ」から着想を得て制作されたショートドラマ。大学最後の夏、小説家志望の「私」は「彼女」を、唯一の親友であった「彼」に引き合わせる。そのうちに3人は心が打ち解け合う仲間になったが、その一方で金銭的な問題から彼と同棲をしていた私は、次第に彼の心の奥にある本当の彼を知ることになり、3人の心情は徐々に変化していく。草川は「私」を、樋口は「彼」を演じ、「彼女」は夏子が演じる。監督は「走れ、絶望に追いつかれない速さで」「わかっていても the shapes of love」の中川龍太郎が務める。
「もちろん『こゝろ』という作品は知っていましたし、学生の頃の教科書にも載っていました。誰もが知る題材をやらせていただくのは光栄であると同時に、作品を背負う責任と覚悟が必要だなと思いました」と、出演オファーがあった際の気持ちをたどった草川。撮影前に「こゝろ」を読んだ際は「純粋に苦しかった」と感じたそうで「ずっと暗いトンネルの中をさまよっているような感覚になったし、ものすごく重いな、苦しいなと。それと同時に、人の心は簡単に触れてはいけないものだと思っているので、難しいと思いながら読んでいました」と印象を語る。「私」を演じるうえでは「繊細ではあるのですが、ちょっと抜けているというか、若干のかわいらしさみたいなものを出してほしいと言われて」と、監督との役作りがあったことを明かし「繊細さの反対にある『しっかりしろよ』という部分がちょっと垣間見える。そこが周囲から思われる『私』の人のよさなんだろうなと思って、そのバランス感覚は大事にしたいと思いました。繊細なバランスで演じ分けることは、僕自身芝居をしていてやりがいを感じる部分でもありました」と続ける。
「まさにセッション」中川監督の撮影現場は
「撮影期間は3日間でした」と振り返った草川だが、撮影期間は「まるで1本の映画を撮っているかのように」濃厚で、その経験は草川の心に深く刻まれたという。「僕が経験した中では初めての撮影スタイルだったんです。段取り、テストをして本番という流れがベーシックなものだと思いますが、中川監督の現場はシーンによって段取りをしたらもう本番。なので毎回芝居の流れが違うし、動きも違う。本当にそのときの役者のリアルを映像に収めてくださって。役者の“こころ”に寄り添ってくれる監督でした」。
固定観念を壊すような中川監督の現場は「まさにセッションでした」と草川。「短編作品で『私』がどんな人間でどんな過去があるのかを表現する時間が限られているので、その表現は本読みのタイミングから中川監督とたくさんお話しさせていただきました。監督は『ここはどう思ってる? このセリフはどう?』と率直に聞いてくださるので、僕も自分の考えをお伝えして、一緒に作らせていただきました」と綿密なやりとりがあったことを語った。そして草川は「本番中も中川監督から声がかかるんです。『もっとこれやってみて』と要望があったり、1つのシーンが終わってもカットをかけずに『その熱量のままもう1回』と言われたり。本当に夢のような時間というか、『こんな芝居のやり方があるんだ』と驚きました」と、ライブ感あふれる中川監督の演出技法に瞳を輝かせ「監督が芝居相手に耳打ちで演出をされるんです。でもその内容を本人以外は知らないから、その瞬間の生のリアクションが撮れていたりする。毎回まったく違うことをしているので、どの演技が使われているのか完成形を観るのも楽しみなんです」と続けた。
幸平じゃなかったら「私」は生まれなかった
続いて樋口との共演に話題が及ぶと、草川は「ものすごくいい化学反応を起こせたんじゃないかなと思います。お互い役に向き合っていたので、『私』として『彼』として、撮影期間中はすごくしんどかったし苦しかったと思うのですが、本当に相手が樋口さん……普段『幸平』と呼んでいるのでそうさせてもらいますが、幸平じゃなかったら『私』は生まれなかったと思う」とコメントした。
中でも印象的だったのは「『私』と『彼』が対立するシーン」だったそうで「中川監督からは演じるにあたって、『彼』と対面して、感じるものを受け止めてお芝居をしてほしいと言われました」と述懐。この“受けの芝居”を、中川監督は樋口の「赤い炎」に相対する「青い炎」だと形容している。草川は「このシーンは2人で話し合って作り上げていくものというより、きっと別軸の……ある種バトルだと思っていました。テイクごとに幸平から出てくるもの、表情も違うし、相当な覚悟を背負ってきているんだなと。カメラが回ってないときもすごく役に入り込んでいた。魂を削っている役者の姿を一番近くで見られて、僕も心が動きました。」と当時を振り返った。
ひりつくような撮影の傍ら、「楽しいシーンもあって」と草川は語り「そのバランスがこのドラマのいい味になっていると思います」と続ける。3人が海を訪れるシーンでは「私」がサッカーボールを扱うが、その際「『私』はサッカー経験があるかな?」と考えたそうで「あまりアクティブな人間ではないだろうなと思ったので、下手に見せる難しさがありました(笑)」と裏話を明かした。
「私」と「彼」の心がどのように響き合い、どこへ向かっていくのかが描かれる今作。撮影を通して、草川は“心の扱い方”にも思いを巡らせたという。「向き合ってくれている人の素直な気持ちにはなるべく応えたいと思う反面、それに応えられないタイミングのときもあるだろうし……人の心は目に見えないものだから、相手が本当は何を考えているかはわからない。『この人はきっとこういうことを思っているんだろうな』と考えることもありますが、そのほとんどが間違っているんだろうな、とも思うんです。だからこそ大切に、繊細に扱わなきゃいけないなと思いますね」。
“本物の心”でありたい
では、役を離れた草川拓弥自身の“こころ”には、草川はどのように向き合っているのだろう。この問いに彼は「けっこう自分の“こころ”に正直だと思いますが、それを表現したりするのは苦手なタイプです。僕、基本的に自分に自信がないんです。不安のほうが勝ってしまうので、『であれば抑えておこう』と思って引っ込めてしまう。このお仕事をさせていただいていますが、いまだに人前に立つときはドキドキします。ただ自分の心を豊かに、いい方向へ持っていけば、その矢印を周りにも向けられると思うので、心は大事にしたいなと思っています」という自己分析を口にする。
共演者との関係作りの際も積極的に働きかけることはなかなかできないそうで「普段どうやって仲よくなっているんですかね?」と笑った草川。今作で樋口と仲を深めたことについて聞かれると「話しかけてくれる人が、僕はすごく心地いいんです。コミュニケーションを取るときに『これ言っていいかな? どうしよう』とか考えて、結局話せなくなってしまう。僕はその繰り返しなんです。だから疲れるんですよ、自分に対して(笑)。本当は自分の気持ちをもっと伝えられるようになりたいですね」と困り顔で語った。
俳優・草川拓弥として、超特急のメインダンサー・タクヤとして、それぞれ異なるフィールドで表現に向き合う草川は「どこでも“本物の心”でありたいなと思っています。そこは僕自身、大事にしていることで」と、常に心の内にある思いについて語った。「お芝居ではキャラクターを背負うけれど、演じているときはそのキャラクターの“本心”でいる。だからこそ心が動く瞬間があって、そこには嘘偽りのない本当が在ると思います。グループでいるときも『超特急タクヤをやっている』みたいなことはなくて。本気でステージに立っている感覚です。だからこそパフォーマンスを通して伝わるものがあると思うし、表現するうえでは自分の心に、気持ちに素直にいたい。たまにMCでもしゃべらせてもらいますが、そこでも本当に感じたことを皆さんにお伝えしています」。
4人との出会い、そしてMステ……心が動いた2つの瞬間
そうやって表現活動に没頭する日々は「純粋に楽しい」という今の心持ちも明かした草川。「純粋に楽しいと思えることが素敵だなと感じているところもあります。俳優の現場が続いているときに、ひさびさにグループに合流してみんなで踊ると、楽しいと思う」と笑顔で語る。そんな彼に「人との関わりの中で心が動いた瞬間はどんなときですか?」という質問が投げかけられると、「グループの話になりますが、3年前のオーディションで、新メンバーの4人が入ってきてくれて今があること。その出会いです」という答えが返ってきた。
「新メンバーが加入した当時、カイ(超特急)が『これ(変化)を正解にしていく』ということを言っていたんですが、間違いじゃなかったと思いますし、4人のおかげで新たにたくさんのファンの皆さんと出会うこともできた。本当に、タイミングと選択で人生ってこんなにも変わっていくんだなと、すごく心を動かされました。あとは直近だと、超特急の『ミュージックステーション』(10月24日放送)に初出演が決まったとき、誰よりも喜んでくれた8号車(超特急ファンの呼称)の存在ですね。僕たちのグループにとっては、今回の出来事はただ『出演が決まった』のひと言じゃ片付けられないような気がしていて。そんな僕らの出演を、8号車のみんながすごく喜んでくれたことに心が動きました」。
間もなくオンエアを迎える「こころ」。今作に出会ったことで、草川は自分の中に大きな心の動きがあったことを改めて語った。「この作品に関わらせていただいて、監督が向き合ってくれて、僕たち役者がそのときの気持ちのままに表現させてもらった。自分にとってお芝居はすごく大切だし、好きだなということに改めて気付きました。だから、今後ほかの現場に行ってもこの作品で得たものは忘れないし、心の中で大事にしていきたいと思います」。
こぼれ話:最近のナイトルーティン……?
作品に関する草川とのやりとりが白熱する一方で、取材会では「自分の心を守るために心がけていることはありますか?」という質問も。これに「最近、瞑想にチャレンジしているところです」と返した草川は「仕事仲間から『いいよ』と聞いて。始めたばかりなので、まだ何もつかめていないんですけど(笑)」とコメント。また、夏目漱石「こゝろ」にちなみ、読書好きの草川に好きな本を聞くと「決定版は夕木春央さんの『方舟』というミステリー小説です。絶対に映画化されると思うので、それに出たいとずっと言っていますね(笑)。最近はジャルジャル福徳秀介さんの『しっぽの殻破り』を読んでいます。ジャルジャルさんがすごく好きで、映画化された『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』はもう読み終えたんですが、『しっぽの殻破り』は恋愛短編小説集で、それを1編ずつ寝る前に読むのにハマっているんです。すごくかわいらしい作品で、普段は笑わせてくれるあの福徳さんがこんな世界観を描くんだとニヤニヤしちゃいます」と草川。瞑想と読書は寝る前にセットで?と問いかけられると「確かに、ナイトルーティンですね」と笑い、「普段読書するときは一気に読み切りたいタイプなので、短編だと寝る前にちょうどいいんですよね。ちなみに今日は朝にも1編読みました(笑)」と答えた。
オリジナルショートドラマ「こころ」の番組情報
放送日時
日本映画専門チャンネル 2025年12月8日(月)20:00~ほか
※本編後には、日本映画専門チャンネルでしか観られない「こころ」メイキングも放送
ヘアメイク:Rina Ohara / スタイリスト:Rina Maruo


