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加茂啓太郎×ヤマモトショウが語るアイドルとTikTokの10年

左から加茂啓太郎、ヤマモトショウ。
11分前2025年12月20日 9:06

NUMBER GIRLや相対性理論など、時代を先取りする才能を見出し続けてきた音楽プロデューサー・加茂啓太郎。2015年にはアイドルグループ・フィロソフィーのダンスを立ち上げ、その後ガールズユニット・CIRGO GRINCOのプロデュースも手がけ2023年の解散まで活動をともにした。そんな加茂が2010年代に発掘し、令和のJ-POPを代表する作家となったのがヤマモトショウだ。

2015年にふぇのたすのメンバーとしてメジャーデビューしたヤマモトは、現在FRUITS ZIPPERなど多くのアイドル楽曲を手がける作家として活躍している。ともにJ-POPのキーパーソンとしてそれぞれの立場から長年にわたりシーンを見つめてきた加茂とヤマモト。旧知の仲である2人に2010年代のアイドルシーンから現在のTikTok時代まで、ヒットメイカーの2人が見てきた音楽カルチャーの変遷と、その先に見据える未来について語り合ってもらった。

取材・文 / 柴那典 撮影 / 臼杵成晃

衝撃的だったでんぱ組.incとの出会い

──お二人の出会いのきっかけは?

ヤマモトショウ 加茂さんがプロデューサーを務めていた「Great Hunting」(東芝EMIの新人発掘育成組織)にデモを送ったのがきっかけです。その頃はふぇのたすの前身バンドのphenomenonをやっていて、大学卒業までにプロになることを自分に課していたので、自分のレベルを試そうといくつかのレコード会社にデモを送ったんです。「Great Hunting」は「プロデューサー・加茂啓太郎」という名前が前面に出ていたのが印象的でした。加茂さんのことはNUMBER GIRLのライブアルバム「記録シリーズ」で知っていたんですよね。その自分たちのデモにお返事をいただいたのが出会いです。

加茂啓太郎 phenomenonのデモを聴いたときの印象は当然よかったです。相対性理論の感じもNUMBER GIRLの感じもあって、時代感も捉えられている。センスがあり、いい曲を書くと思ったので、ヤマモトくんに連絡しました。

ヤマモト そこからいろいろと加茂さんとやり取りはあったんですけれど、シンガーソングライターとして活動していたみこを紹介してもらって、彼女をボーカルに迎えたふぇのたすになるところから、より密になっていった感じですね。

──今回は「アイドルとTikTokの10年」というテーマでお二人に語り合っていただこうと思います。加茂さんはそれまでロックバンドを中心に新人を手がけてきたわけですが、2010年代初頭からアイドルを追うようになりましたよね。そのきっかけは?

加茂 でんぱ組.incのライブを観たことですね。雑誌「MARQUEE」が渋谷系雑誌からアイドル雑誌になって、編集長の松本(昌幸)さんがでんぱ組.incをすごく推しているから、気になって秋葉原のディアステージまで観に行ったんです。そしたら「これはすごい!」とショックを受けて。でんぱ組.incが2011年にメジャーデビューして、同時期にBiSというアイドルが出てきたことも知って下北沢SHELTERに観に行きました。衝撃的でしたね。下北沢SHELTERでライブをやるようなアイドルは、知る限りではそれまでいなかったので。

ヤマモト まさにその頃、僕は下北沢SHELTERでBiSと対バンしたんですよ。phenomenonの頃だったんですけど、SHELTERの店長から「アイドルだけど面白いからこの対バンは絶対やったほうがいい」と言われて、一緒にやってみたら確かにライブが面白いし、ファンの熱量がすごいなと思いました。

加茂 ちょっと話は戻るけど、アイドルが流行り出すちょっと前からだんだんバンドシーンがつまらなくなってきたんですよ。NUMBER GIRLがいた90年代末は毎月ニューモデルが出てくるような感じだったけれど、2010年くらいからモデルチェンジはあってもなかなか新しいモデルが出てこなくなって。洋楽も個人的に面白いと思えるものとも出会えず、どうしたものかなと思っていたところで、でんぱ組.incとBiSに出会った。そこにはサブカルチャーやストリートカルチャーの文脈があったんですよ。もちろんその前にももクロ(ももいろクローバー。現ももいろクローバーZ)もいましたけれど、彼女たちがスターダストプロモーションに所属していたように、それまでのアイドルは大手芸能事務所がビジネスでやるものだった。でもでんぱ組.incとBiSはそうじゃなかったので、これは面白いなと思い、そのあたりをいろいろと掘り始めました。

──それまでのアイドルカルチャーになかったクリエイティブな発想があったと。

加茂 BiSの渡辺淳之介さんも、でんぱ組.incのもふくちゃん(福嶋麻衣子)も、ビジネスというより「やりたいことをやる」という姿勢でプロデュースを始めてますからね。ゆるめるモ!を作った田家大知さんもそうでした。

ヤマモト 今、アイドルをプロデュースしている人たちって、みんなアイドルというものが好きなんです。でも2010年代はアイドルが好きというより、まず先にやりたいことがあって、アイドルという枠であればそれがやれる、みたいな感覚の人たちがほとんどだった気がしていて。今のアイドルの成り立ちとはだいぶギャップがありますね。

「ふぇのたす、10年早かったね」

ヤマモト もともと僕はバンドが好きで、phenomenonで下北沢を中心に活動していたんです。でも、普通にバンドをやっていてもなかなか難しいというか、限界を感じるようになって……。そんなときにBiSやでんぱ組.incが出てきて、ライブハウスですごい熱量のライブをやって、お客さんがたくさん来て盛り上がっている状況を目の当たりにした。じゃあここと勝負したほうがいいんじゃないかと思うようになって。ちょうどその頃、2012年にみこを迎えてふぇのたすを始めて、彼女のかわいい声を生かした音楽をやろうというモードになったんです。この時期に作った「スピーカーボーイ」という曲に特に手応えがあった。

加茂 「スピーカーボーイ」を聴いたときのことは覚えてますよ。「これはいい曲だな」とすごく思いましたから。

ヤマモト 初期にあの曲のデモを作ったことが僕の作家活動の1つのきっかけになっていて。それまで「かわいい」と言われるような曲はまったく作ったことがなかったんです。みこの声に合わせて作った「スピーカーボーイ」のデモを加茂さんや当時のスタッフの方に聴かせたら、これまでとは反応が明らかに違ってかなり好評だった。そこからコツをつかんだというか、ハイペースに曲を作れるようになっていきました。

──ふぇのたすのメジャーデビューが2015年ですね。当時CINRAでインタビューをさせてもらったんですが(CINRAふぇのたすインタビュー「ポップでキュートな「ふぇのたす」が広げていく、新時代の輪」 )、その中でみこさんがふぇのたすの音楽について「『次の時代で格好いいものはきっとこれだ』と思ってやってる」と言っていたんです。2025年の今、ふぇのたすとしてではないにしても、この発言がちゃんと有限実行になっているなと思ったんですよ。ヤマモトさんが「スピーカーボーイ」で感じた手応えが、2020年代の今になって結実していると言えるなと。

ヤマモト 「ふぇのたす、10年早かったね」みたいなことを最近よく言われます(笑)。「スピーカーボーイ」もそうだし、「おばけになっても」という曲もそうですね。会議室でデモをみんなに聴いてもらったときに、加茂さんとメンバー3人で「この曲は踊りがあったほうがいい」という話になって。加茂さんが「みこちゃん、ダンスを作れるよね? みんなが真似できそうな感じのやつ作ろうよ」とムチャぶりして実際に作ったんですけど、あの発想も完全に先取りだったなと思います。もしあの頃TikTokがあったらそこに目がけてやってたんだろうし。なんとなくですけど、僕の中で音楽のシェアの仕方がそういう形になっていくんだろうなという感覚があったんです。

フィロソフィーのダンスの誕生

──2015年には加茂さんによってフィロソフィーのダンスが結成されました。それまでの仕事とまったく違うアイドルプロデューサーを始めるにあたっては、どんなことを考えていましたか?

加茂 その当時、「アイドルソングって、曲はいいけど歌のクオリティが低いからもったいないし、音楽に対して失礼だ」と思っていたんです。だからアイドルというフォーマットの中で、歌がうまい子に歌わせたいというのがビジョンあって。それでシンガーソングライターやバンドで行き詰まっていた奥津マリリちゃんと日向ハルちゃんに声をかけた。2人ともアイドルになる気はなかったけど、「アイドルをやったら売れるよ」と説得したんです。

ヤマモト アイドル志望の子を育成するのではなく、歌がうまい子を探して、その子をアイドルにさせるという流れは、通常のアイドルの作り方とは逆ですね。

加茂 そうそう。で、自分が今アイドルグループをプロデュースするのであれば、ダンスミュージックやR&Bをやるべきだと。そういうものが得意な宮野弦士くんと出会って、「タイムレスに通用するもの」「ジャンルを越境するもの」という2つをテーマに掲げて曲作りを進めていきました。アイドルは曲を毎回場当たり的に発注して作るグループが多いから世界観がバラバラになりがちなんです。だからフィロソフィーのダンスは世界観を守るために作詞家を1人に任せようとヤマモトくんにお願いしました。作曲家は1人でやるとスランプになったり疲弊するので、作曲は宮野くんがメインだけどほかの人にも頼む。ただ、音楽性がぶれないようにアレンジは宮野くんが担当する。そのルールを作って始めました。

加茂 フィロソフィーのダンスが目標としていたのは、普通の音楽ファン、洋楽ファンにまで通用するようなアイドルソングを作ることでした。それを究極まで追求してみようと。宮野くんとヤマモトくんがいて、歌唱力でハルちゃんとマリリちゃんというソロシンガーでも通用する実力と声のキャラクターが違う2人がいた。なおかつ佐藤まりあちゃんという清楚系の声で歌える子と、さらに当時は十束おとはちゃんというアニメ声で歌える子もいたから、これはきっとジャンルを越境できると自信がありましたね。アイドルファンにも、そうじゃない音楽ファンに受け入れられるものができるだろうと。歌詞は10年経ったら歌えなくなるようなものじゃなく、その子たちが40歳、50歳になっても歌えるような、文学的で哲学的で普遍的な歌詞にしました。アイドルソングの歌詞ってほぼほぼティーンエイジャーの恋心だから、25歳になったら正直な気持ちで歌えないんですよね。

ヤマモト だからアイドルグループは人が入れ替わるんですよ。

哲学だったら向こう10年は歌詞が書ける

ヤマモト フィロソフィーのダンスの歌詞を書くというオファーが来たときは「いよいよやるんだな」という感じでしたね。加茂さんがアイドルグループをやりたいんだろうなとは思っていたんで。最初は自分が曲も書いたほうがいいと考えていたんですけど、宮野くんの曲を聴いたら、僕は歌詞だけでいいんだと思えて。それに、その関わり方のほうが新しいものが生まれる気もしました。曲まで書いちゃったらふぇのたすと同じようなものしか出せないので。

──フィロソフィーのダンスには、加茂さんがおっしゃった「哲学(=フィロソフィー)」というキーワードがありますよね。そしてヤマモトさんには東京大学で哲学を学んでいたバックグラウンドがある。それが前面に押し出されるタイミングでもあったと思います。

加茂 ヤマモトくんに歌詞を頼もうと決めた段階で、グループ名に「フィロソフィー」と入れようと思っていました。

ヤマモト そこを担保するのが僕の仕事だった。もっと絞ったジャンルだったら1年ぐらいでネタ切れしていたかもしれないけど、哲学だったら向こう10年ぶんくらいは曲も書けるだろうと考えていましたね。奥行きもあって、それをポップに昇華することもできそうだし。多くの人が求めるテーマになると思ったんで、いい設定だなと思いました。

アイドルは令和のセーラームーン

──これも時代の先を読んでいたと思うんです。というのも、2010年代初頭のアイドルシーンは「アイドル戦国時代」とよく言われてましたよね。でも今のアイドルは、みんな競い合ってはいるけれど、戦国時代というワードはあんまりしっくり来ない気がして。代わりにFRUITS ZIPPERなどが所属するKAWAII LAB.が打ち出す「NEW KAWAII」のように、価値観とか自己肯定感とかがキーワードになっている。これって、広く言えば哲学ではないかなと。

加茂 確かに。でも僕としては、多様性がなくなっちゃったなとは思うんですよね。アイドル戦国時代は「アイドルなのにこんなことまでやるの?」みたいな、わけわかんないグループもいっぱいいて、カオスで面白かった。どんなシーンでも最初はわけわかんないのがいっぱい出てきて、それが面白いんですよ。今はもうシーンが成熟して「アイドル=かわいい」に集約されちゃったとは思います。

ヤマモト それはありますよね。でも僕は逆に「アイドル戦国時代」と言ってた頃は、そう言われているだけで誰も戦ってなかったと思うんです。誰もAKB48に本気で挑んでなかった。今はFRUITS ZIPPERにせよ、静岡で僕がやってるfishbowlにせよ、それぞれが得意とするシーンを意識して戦っている感じがする。でもそう考えると、フィロソフィーのダンスはどこで戦ってたんですかね?

加茂 フィロソフィーのダンスに“戦う”という意識はなかったかもしれない。ワンアンドオンリーな、独自の存在になろうとはしていたけどね。ざっくり言うと、ジャンルは違うけどPerfumeみたいな立ち位置にしたいというのはありました。

ヤマモト 今の時代のアイドルは「なりたい自分」と「やっていること」が合っていることが重要視されているように思います。自己実現みたいなものを必要としていて、それがないと駆動しないシステムになっている。

──FRUITS ZIPPERを「SUMMER SONIC」で観たときにそれを強く思ったんです。というのも、僕はファミリーエリアのすぐ隣にいたんですが、そこで小学生の女の子がキラキラした目でステージを観ていた。ステージで歌って踊る人たちに憧れて、そこに夢を見ている。こういうふうにウケているのが今の時代のアイドルなんだと思いました。

ヤマモト FRUITS ZIPPERの一番のファン層はFRUITS ZIPPERになりたい子たちなんで。その子たちがTikTokとかで拡散したことがブレイクのひとつのきっかけでもあるし。そういう構造にはなってますね。

加茂 セーラームーンを見て憧れる女の子みたいな。

ヤマモト 本当にそうですよ。僕らの世代がFRUITS ZIPPERを見たら「この子たちがセーラームーンなんだ」ってみんな言いますからね。本当にそういう感じです。

2020年、TikTokの時代が来た

──ヤマモトさんが作曲家として扉が開いた曲、手応えをつかんだ曲というとどれになりますか?

ヤマモト 2020年にフィロソフィーのダンスを離れることになって。その頃にオファーをもらって、リルネードというグループに「もうわたしを好きになってる君へ」という曲を書いたんです。「2020年代のオシャカワ」をコンセプトにした曲にしてほしいと言われて、正直何言ってるか全然わかんないなと思ったんです(笑)。でも、それをふぇのたすでやっていたことをそのままアイドルでやればいいんだと解釈して、曲を作りました。ものすごくブレイクしたわけじゃないんだけど、自分としても手応えはあって。で、その後に書いた「わたしの一番かわいいところ」のオーダーに「『もうわたしを好きになってる君へ』みたいな曲が欲しい」というのがあって、間違ってなかったんだなと思ったんですよね。

加茂 そのオーダーは木村ミサ(KAWAII LAB.総合プロデューサー)さんから?

ヤマモト そうです。木村さんが「もうわたしを好きになってる君へ」が好きで、ああいうことをやりたいという話をもらって。1つのわかりやすい例になったなと思いました。アソビシステムの皆さんはふぇのたすのことを好きでいてくれて、活動していた当時も交流はあったんですけれど、ここに来てタッグを組むことになったという経緯もあります。それもあってふぇのたすで考えていたことが今につながっている実感もあったし。実際にそう思ってくれる人がいる中で作ったから、リルネードからFRUITS ZIPPERへの流れについては自分の中でも腑に落ちたというか、1つのきっかけにはなったと思います。

──2020年はコロナ禍で活動ができず、アイドルにとっては一番キツかった年だと思います。この時期、アイドル陣営に関わっていたお二人としては、どんなことを考えてましたか?

加茂 ちょうどフィロソフィーのダンスをメジャーに渡してプロデューサーから退くことになったタイミングでした。でもコロナ禍によって、すごくいい話が来てたのに、全部なくなってしまったし、何もかもうまくいかないな、どうしたもんかなって感じでした。新しいスタッフと会って僕のビジョンを伝える事もままならなかったので、うまくコミュニケーションも取れず、日々悩んでましたね。

ヤマモト その状況は共有してた部分もありますけど、僕は大変なときこそチャンスがあると捉えるタイプなんです。1つは地元の静岡でfishbowlを立ち上げました。それまではローカルアイドルのブームは終わったし、地方でやることなんてないと思ってましたけれど、コロナ禍になったことで、逆に地方でやることが生まれたと思ったので。あとは、家にいたまま、会いに行かなくてもアイドルを応援できる方法を提示できれば勝てると思ったので、これはTikTokの時代が来たぞと。それぞれの場所で真似をしてTikTokに投稿することが自動的に応援になるシステムをFRUITS ZIPPERでやろうと考えたんです。それまでだったらCDを買いに行って、特典会やリリースイベントに行かなきゃアイドルを応援できなかったけれど、曲を聴いてダンスを踊ればそれが応援になるし、かつ自己実現になる。それを自然にやってもらえる構造にアジャストしたものを作れば、可能性はあるんじゃないかという感覚でした。もちろんうまくいかなかったこともいっぱいあるんですけど、FRUITS ZIPPERの成功はそこからだったと思います。

加茂 木村さんが「最初に『ねえねえねえ』って声をかけられると、ついつい聴いちゃう」って言ってたよね。あれは発明だと思うよ。

ヤマモト それも、当時の研究がだいぶ役に立ってました。そのときに得ていた知見から、“スワイプされないように呼びかける曲”を提案したんです。ただ、それがちゃんと自然な音楽の魅力の1つになっていることが大事なんですよね。音楽として気持ちよく「ねえねえねえ」って言われたら、やっぱり受け入れちゃうみたいなところがあるという。

バズるような仕掛けは作れます

──ヤマモトさんはいつぐらいからTikTokをチェックするようになったんですか?

ヤマモト 2017年、18年ぐらいからですね。その頃すでに15秒の曲を100曲作って投稿して、流行ったやつだけをフル尺にするという作り方をやっていました。そういうことをするのはたぶん僕が一番早かったと思います。当時、加茂さんをはじめメジャーレーベルの人にも「この方法でどうですか? 何が売れるかわかんないんで、売れるってわかってる曲作りましょう」と提案したんですけど、ほぼ受け入れられなかった記憶があります(笑)。

加茂 でも、そのアイデアを聞いて面白いなと思ったのは覚えてますよ。

ヤマモト 当時はコロナ前だしそのやり方がベストだったかどうかはわからないですよ。でも、その後コロナ禍になって、TikTok発のヒットが出てきたときも「もう自分は実験をやってるからその通りやればいい」と思ってました。ふぇのたすの「おばけになっても」でやっていた簡単なダンスを付けるという経験もありましたし。今、TikTokが流行れば、あの頃思っていたようなことが、もっとポップに、もっと気楽に実現するんじゃないかということ思ってました。だからFRUITS ZIPPERの曲を作るときにも、そこで得た知見をそのまま生かして。

──TikTokって、お金をかけてバズを仕掛けよう、流行らせようとしても、決してそれがバズるわけではないですよね。

ヤマモト そうなんです。僕もFRUITS ZIPPERを始めるときにスタッフチームに言いましたよ。「バズらせようと思ったら99%バズらないと思います。でもバズるような仕掛けは作れます。それがバズるかどうかは皆さんの努力と運次第なんで」って。

TikTok時代の新人発掘

加茂 TikTokは僕も使ってるんですけど、最近の新人発掘の人たちはバズった数字だけ見て声をかけるようになっちゃってるんですよね。そうすると、アーティストにとっても、音楽的才能じゃなくて数字を評価されただけになっちゃうから、あんまりいい関係ができない。僕は、ヤマモトくんもそうだし、NUMBER GIRLだってBase Ball Bearだって、何者でもないときに「君、才能あると思う」って言うからしっかりと関係性ができているわけで。自分に唯一才能があるとしたら、アーティストの才能を見極めることなので、それをTikTokでもやっています。時間があるときには何時間もずっとTikTokを見て、いいなと思ったら「もう契約ありますか? なければ1回オンラインで話しませんか?」とDMを送る。今は1日1アーティストにDMを送ることをノルマにしてます。

ヤマモト おお、すごいですね。

加茂 それを夏前ぐらいからやり始めたんですけど、今のところ才能があるなと思った2人とコンタクトが取れています。才能発掘の場がライブハウスからTikTokに変わっても、僕のやることは変わらないんですよ。もう1回原点に戻ろうと思って、最近は新人発掘をがんばっています。それをどうビジネスにしてマネタイズするかまでは考えられてないんですけど……。昔に比べたらアーティストとの出会いはすごく楽になりましたよ。送られてきた封筒を開けて、入っているCDをかけて聴いてみて、いいなと思ったら連絡をするというのが、今ではワンクリックでもう曲からビジュアルから全部わかるわけだから。

ヤマモト アーティスト側からしてもそうですよね。デモを送るのってだいぶハードル高かったので。

加茂 今はもうレコード会社にデモテープを送るよりTikTokに曲を上げて見つけてもらう時代になりましたからね。フジロックとかフェスのオーディションはあるけれど、レコード会社やマネージメントのオーディションもあまりなくなった。僕の感覚ですけど、数字上の話ですが3000本のデモから1人デビューできる子が見つかるんです。Great Huntingでも年間1万弱のデモが来て、その中で年間や約3アーティストがデビューしてました。TikTokの普及で新人を見つけやすくなったので、新しい才能を探すのが楽しいです。

ヤマモト TikTokが当たり前になっても、ヒット曲の定義って昔も今も変わらないと思うんです。今だと「バズる」曲みたいな言い方をしますけど。ざっくり言うと、僕に今「バズる曲作ってください」というオーダーがいっぱい来ているわけです。でも、これって昔に「ヒット曲を作ってくれ」って作家にオーダーが来ていたのと変わらないと思うんですよ。例えば90年代だったら「みんながカラオケで歌いたくなる曲」がヒット曲だったけど、今はみんながTikTokで真似したくなる曲がヒット曲なんだと僕は解釈していて。いわゆるポップスのヒット曲を作る作曲家としては、やることは同じだと思うんです。ただ、昔より世間からの反応が早いし、バズる流れが全部可視化されてるので、そのあたりは昔と違いますね。あと、数字を意識しすぎないようにしないとめちゃくちゃ疲弊します。曲を作る側としてはそういう違いはありますね。

加茂啓太郎(カモケイタロウ)

音楽ディレクター&プロデューサー。東芝EMIの新人発掘育成組織「Great Hunting」のプロデューサーとして、ウルフルズ、SUPER BUTTER DOG、NUMBER GIRL、氣志團、ART-SCHOOL、Base Ball Bear、フジファブリック、相対性理論、赤い公園、Mrs. GREEN APPLEなどを発掘した。近年はクリトリックリス、寺嶋由芙、フィロソフィーのダンス、CIRGO GRINCO、文坂なの、などをプロデュース。日本の音楽シーンにアンテナを張り続け、世に送り出すべき新たな才能を探している。

ヤマモトショウ

静岡県出身の作詞家、作曲家、編曲家。東京大学文学部(思想文化学科哲学専修課程)卒業。エレクトロポップユニット・ふぇのたす解散後は、アイドルグループなどへの楽曲提供を精力的に行い、2018年にはゲストボーカルを迎える自身のソロプロジェクト・SORORとしてアルバム「new life wave」をリリースした。2021年より地元・静岡県のご当地アイドル・fishbowlのプロデュースを担当。2022年にFRUITS ZIPPERに提供した「わたしの一番かわいいところ」が大ヒットした。

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