5月16日は松尾芭蕉が奥の細道に旅立ったことから“旅の日”に制定されています。多くの人にとって人生における大切な要素である“旅”。この連載では、旅好き / ツアーなどで各地を飛び回るアーティストに、旅をテーマにエッセイをつづってもらいます。
今回は3月に東京・日本武道館公演を成功させたことも記憶に新しいGEZANのベーシスト、ヤクモアさんが登場。武道館ライブ後に“燃え尽き症候群”となっていたヤクモアさんが、ベルギーの音楽フェス「BRDCST」に参加したことを通して“再生”されていく様子をリアルに書き記してくれました。ヤクモアさんセレクトの“移動中に聴きたい旅プレイリスト”とともにお楽しみください。
文 / ヤクモア
今回の旅で、カチッと心が点火する音が胸の奥から聴こえた
3月14日、1年かけてついに僕らは武道館という大きな山を登り切った。ハイエースにパンパンに詰め込んだ機材と僕らの炎を乗せて全国を走り回った「集炎」ツアーや、25時間×4人の計100時間を目指し、お呼びしたゲストの力も借りながら今まで磨いてきた技術や精神など、全てを出し尽くしても終わらなかった試練の「100時間リレー」。全てを武道館に懸けて走り続けた結果、終わった後の反動で動けずにいた。
そんな中、4月にヨーロッパのフェスに出る機会を頂いたのをきっかけに、もうこの際思い切り楽しんでやろうとヨーロッパ行きの飛行機に乗った。その中で一番強く思い出に残った日のことについて書こうと思う。
4月4日。昼過ぎに東京を出てから長時間のフライトを経て、ベルギーに到着した。朝の8時頃に着いたのでホテルのチェックインは出来ず、今回僕たちの出る「BRDCST」のキュレーターをしていた青葉市子さんのホテルでひと休みさせてもらった。市子さんが日本から持ってきていたインスタント味噌汁をご馳走してくれて、緊張していた心の角が一気に丸くなる。市子さんありがとう。
体が休まった頃、一人散歩に出かけた。ホテル周辺を歩いていたらメンバーと海外のツアマネをしてくれるマナミさんと合流して、ベルギーの街を堪能した。しょんべん小僧を見たり、見たことない歴史ある建物たちに心が躍った。昼過ぎにリハを控えていたので散策は程々に、ライブに向け色々と準備をしにホテルへ帰った。
会場に着いた頃には先に市子さんがリハをしていた。聴き浸る時間もなく、借りたい機材を下手くそな英語で用意してもらいながらなんとかリハを迎えた。リハで貰える時間はもちろん短いので、音量やモニターのバランスに気を使う時間もなく、不安が残る。
ただし、そんな不安はライブで塗り替えた。1曲目に市子さんと5人で「Best Day Ever」を演奏し、その後の演奏も調子よく進んでいった。ライブが終わりお客さんから感想をもらう中、「Nyege Nyege Music Festival」主催のデレックも見にきてくれていて、会って早々熱い抱擁を交わし、彼も熱い感想をくれた。
この後に演るLos Thuthanakaがやばいからそこで会おうと約束し、機材を片付けながら待ち望む。片付けがひとしきり終わり、フロアへ戻り市子さんの歌を聴いていた。椅子のある席でひと息つき、市子さんの歌う「light cruzing」が始まった。もう思いっ切りブッ刺さったし、泣いた。あぁ、武道館頑張ってよかったという気持ちが込み上げてきて、肩の力が抜けていった。
程なくしてホテルまで向かう車が到着し、急いで機材を詰め込みLos Thuthanaka が演奏する2階へタカさんと一緒に向かった。扉を開けた先には、サイケデリックと四つ打ちのグルーヴに魅了された観客が踊り狂っていた。未知の音とリズムが爆音で鳴り響き、ジャンクな音質は現代的な挑戦と解釈して聴こえてくる。シビアにもたるタイミングは絶妙で、技術的な部分の驚きと何よりも発想に驚いた。激しい音の中に微かに聴こえる優しいシンセが、内側の暴走を包み込む。一体2人がどこの音を出し、何をしてるのか全くわからなかったので、目を閉じ全力で体任せにステップを踏んだ。
アンコールも終わり、後の帰り道はずっと閃きが止まらなかった。そうか。僕はこの感覚を見つけられずに苦しんでたのか。
後から調べたらPitchforkの2025年の最優秀アルバムと評価されていたことを知り、そりゃそうかと納得。デレック、教えてくれてありがとう。
号泣しちゃうほどの感動をもらい、立ち上がれないほどの衝撃を食らい、イメージと想像力を出来るだけ集めて帰ってきた。旅で感じたことを1個ずつ紐解いて、「どうやって表現しよう?」とあれこれ考える時間も含めて旅なんだと思う。今、答えやヒントが見つからないで苦しんでいるなら、この際思い切り遠くへ出掛けてみてほしい。違う県、違う街、色んな場所に吹く風を口いっぱいに頬張り深呼吸したら、何か分かるかもしれない。少なくとも僕は今回の旅で、カチッと心が点火する音が胸の奥から聴こえた。
移動中に聴きたい旅プレイリスト Selected by ヤクモア(GEZAN)
01. 吉沢元治「窓 -Window-」
02. 高橋邦之「People」
03. Mariam The Believer「Invisible Giving (Wolf Müller Mix)」
04. Disq「Prize Contest Life」
05. Moby「ache for」
06. ddwy「Naini's Call」
07. Metro Area「Proton Candy」
08. Shcaa「Polokus」
プロフィール
ヤクモア
オルタナティブロックバンド・GEZANのベーシスト。カルロス尾崎(B)脱退後、オーディションを経て2021年に加入した。以降、「FUJI ROCK FESTIVAL」出演や日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でのライブ、アルバム「あのち」「I KNOW HOW NOW」の制作など、バンドの核として活動している。GEZANは2025年4月から47都道府県ツアー「GEZAN 47+ TOUR『集炎』」を行い、2026年3月に東京・日本武道館でのワンマンライブを成功させた。


