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マニピュレーターの仕事内容を草間敬さんが解説

キニナル君が行く!
11分前2026年09月15日 9:02

ヤッホーみんな! 僕、キニナル君。音楽愛する大学生♪ 将来の夢は音楽でごはんを食べていくことだよ。でも、正直わからないことばかり。だからこの連載を通して、僕が気になった音楽にまつわるさまざまな疑問を専門家の人たちに聞きに行くよ。

この間大好きなロックバンドのライブに行ったんだけど、しっとりしたバラードのときにストリングスが鳴ってたんだよね。ボーカル、ギター、ベース、ドラムのオーソドックスな4人編成だからストリングス隊はいなかったんだけど、どうやらマニピュレーターっていう人がPCを操作して流してたみたい。でもステージ上にいるわけじゃないから、どんなことをやってるのかよくわからなくて。そこで今回は、[Alexandros]やSEKAI NO OWARIといったアーティストのライブでマニピュレートを担当している草間敬さんに、その役割についてお話を伺ってきたよ!

取材・文 / キニナル君 撮影 / 臼杵成晃 イラスト / 柘植文

マニピュレーターって?

──今日は「マニピュレーター」という仕事について教えてもらいたいんですけど……そもそもマニピュレーターってなんですか?

「マニピュレーター」という言葉は、「YMO第4の男」と呼ばれる作曲家 / シンセサイザープログラマーの松武秀樹さんが最初に使い始めたと言われているんだ。僕がこの仕事を始めた32年前は、今と違ってライブよりも主にレコーディングの現場で使われる言葉だった。当時はシンセサイザーなんかをスタジオに持ち込んで、アレンジャーやプロデューサーから「こういう音が欲しい」と言われたら、その場で音を作る。そういう仕事をする人がマニピュレーターと呼ばれていたんだよ。機材も今みたいにパソコン1台じゃないから、本当に引っ越しみたいな量を持って運んで(笑)。

──シンセサイザーをマニピュレート=操作する人だったんですね。

そういうことだね。ただ、今はシンセサイザーもソフトウェア化されているし、最初から入っているプリセットの音もすごくいい。僕も普通に使うけど、本当に素晴らしい音がたくさん入っているから、昔のように「その場でゼロから音を作る」という仕事はだんだんなくなっていったんだ。

──じゃあ、そこからどうやってライブで仕事するようになったんですか?

レコーディングで作った音を、ライブでもちゃんと再現したいという需要が出てきたんだよね。音源では打ち込みでシンセなどをたくさん使っているのに、ライブで聴いて全然違う音だったら、ファンも「なんか違うな」と思うじゃない? だったらレコードに入っている音をライブでも鳴らそう、と。最初はテープを使っていたけど、パソコンの性能が上がって、臨機応変に対応できるようになった。それで、ライブでもマニピュレーターという仕事が定着していったんだ。

マニピュレーターの2つの役割

──僕のマニピュレーターのイメージって、「曲に合わせて同期音源を流す人」なんです。だから失礼ながら……再生ボタンをポチッと押したら、あとは曲が終わるのを待っているだけなのかなって。

まあ、そう思うよね(笑)。でも、今僕がやっていることは、大きく分けると2つあって。1つは「クリック」を作ること。

──クリック?

簡単に言うと、演奏者がイヤモニで聴いているメトロノームだね。「カッ、カッ、カッ、カッ」という音。今はイヤモニが主流だから、それを聴きながら演奏する人が多いんだよ。

──メトロノームなら、最初から用意されているものを流せばいいだけなんじゃないの?

それがね、人によって聴きやすい音が違うんだよ。例えばドラマーから「この音じゃなくて、こっちの音がいい」と言われることもあるし、リハーサルをやってみて「ちょっとテンポを変えよう」となることもある。だから、その人が演奏しやすいように作り直したりするんだよね。僕が担当させてもらっている[Alexandros]もいろいろ調整しながらリハを進めていくよ。

──細かいこだわりがあるんだなあ。

曲によっては、もともとクリックを使わずに演奏していたけど、「みんなでもう少しタイトに演奏するためにクリックを入れてみようか」となることもある。同期音源を使っていなくても、クリックだけ使う場合もあるんだよ。

──でも、クリックに合わせて演奏すると、機械的になったりしません?

それもよく言われるんだけど、一流のプレイヤーはすごいよ。金子ノブアキくん(RIZE、RED ORCA)とか、“クリックに合わせている”というより、“クリックと一緒に演奏している”ような感じ。メトロノームなしで叩いても、ほとんど同じテンポで叩ける。もう体の中にテンポが入っているんだと思う。

──人間メトロノームだ!

本当にそう(笑)。ただ、クリックがないほうがいい瞬間もあるんだよ。例えば「バーン!」と演奏が止まって、間を空けて、また「バーン!」と入るようなところ。ああいう箇所は一定のテンポじゃないほうが、その瞬間のドキドキ感が出る。だから、臨場感を出すためにそこだけテンポを変えたり、一度止めて再スタートするときもある。

──クリックといっても、音楽的な判断なんですね。

そしてもう1つの大きな仕事が、キニナル君もイメージしてるようにメンバー以外の音を出すこと。レコーディングで使っているシンセやストリングスなんかをライブでも鳴らすわけです。

──音源を再現する仕事だ。

そう。ただ、同じアーティストの音源でも昔の曲と最近の曲では音量も音の質感も全然違ったりするから、セットリストを教えてもらったら、まず自宅である程度バランスを整えておく。それをリハーサルに持っていって、実際にメンバーの音と合わせるんだよ。

──ライブ本番でも草間さんの判断で音を調整したりするんですか?

僕はステージ袖にいることがほとんどで、客席の音はちゃんと聴けないんだよね。だからFOH(Front Of House)、つまりお客さんが聴いている音を作っているエンジニアから「ここをもう少しこうしてほしい」とリクエストをもらって直していく。自宅で「こんな感じかな」と作っても、それを自分の判断だけで完成させないようにしているよ。

マニピュレーターは普通の会社員と同じ!?

──草間さんはライブのどのくらい前から参加するんですか?

リハーサルの初日からだね。その前にセットリストをもらって、自宅でデータを組んでおく。そこから実際にみんなで演奏して、「この曲はもう少しテンポを変えよう」とか、「アウトロを2倍にしよう」とか、いろいろ変えていくこともあるよ。

──えっ、曲の構成が変わったら、同期音源も全部変えないといけないですよね?

そうだね。「アウトロを増やそう」とかなったら、その場でデータを編集する。だから、みんなが「ここ、もうちょっと伸ばしてもいいよね」と話している間に「別名で保存」してその作業をしておいて、「できますか?」と聞かれたときには「もうできてます」と言えると喜ばれる(笑)。

──カッコいい!

いつもそんなにうまくいかないけどね。でも待たせる時間は少ないほうがいい、っていうのは普通の会社員と同じなんじゃないかな。上司が言っていることを察して、先回りしてちゃんとできる人は喜ばれるでしょ。それと一緒。

──じゃあ、マニピュレーターに一番必要なのはシンセやパソコンの技術じゃない?

もちろん技術も必要なんだけど、「察する力」はすごく大事だと思う。僕はアレンジもやってきたし、レコーディングやミックスもやってきたから、プレイヤーが今やりたいことがなんとなくわかる。「このシンセ、もう少し聞こえたほうが演奏しやすいんだろうな」とか、「この人のクリックはこういう音にしたほうがいいな」とかね。

──ライブ全体を見ているんですね。

マニピュレーターのところからいろんな音が出て、いろんなところにつながっていくから、ライブの中ではハブみたいな存在になることも多い。だから、自分のパソコンだけ見ていればいいわけじゃなくて、全体で何が起きているのかを把握しておくことが大事だね。

マニピュレーターをライブに入れるタイミングは

──マニピュレーターになるにはどうしたらいいの?

マニピュレーターを請け負っている会社があるので、そういうところに入るのが一番わかりやすいんじゃないかな。ローディーの会社にマニピュレーターの部門があったりもする。僕の感覚だと、プレイヤーというよりはエンジニアに近い部分もあるから、機材が大好きとか、レコーディングエンジニアをやっていました、という人はハマるかもしれないね。

──駆け出しのバンドのライブには、マニピュレーターがいないことが多いですよね?

ほとんどいないね。最初はドラマーやベーシストが自分で同期音源を出していることが多いと思う。

──じゃあ、どのタイミングで「マニピュレーターを呼ぼう!」となるんでしょう?

まず現実的な話をすると、ツアーにマニピュレーターが1人帯同する予算があるかどうか。それと、例えばドラマーが同期音源を出していると、当然そっちにも気を取られるじゃない? バンドが大きくなって、「演奏以外のことはほかの人に任せよう」という環境になったときに、マニピュレーターを呼ぶことが多いんじゃないかな。

──確かに、ドラムを叩きながら「ちゃんと再生されたかな?」って気にするの、嫌だなあ。

そうだよね。僕はドラムを叩くわけじゃないけど、できるだけ本番でやることを減らすようにしていて。

──減らす?

僕の考えとしては、準備を99%やっておいて、本番は簡単な操作だけで済むようにしたほうが事故が少ない。最近僕はAbleton Live(楽曲制作ソフト)の中に、セットリストを管理して簡単に曲をスタートできるようなプラグインを自分で作ったんだ。曲が終わったら次の曲の待機状態になって、あとはスタートボタンを押せばいい。

──プラグインまで作るんですか……!

必要だから作っただけだけどね(笑)。本番で僕が120%がんばるんじゃなくて、準備で120%やっておく。本番はなるべく何も起きないようにする。それが一番いいんだよね。

マニピュレーターが音を止めたら全部が止まる

──でも、ライブは生ものだから、予定通りにいかないこともありますよね?

もちろん。例えばボーカルが盛り上がって、決められた構成より早く歌い出しちゃった、なんてこともある。そういうときに、こっちの同期音源が元通りにしか進まなかったら、演奏と音源がズレていっちゃうよね。

──うわ! どうするんですか?

その場で合わせる。今僕が使っているAbleton Liveなら、再生中でも別なポイントを指定してタイミングよくSpaceバーを叩けば、そこから再スタートできる。だから「あ、4小節先に行ってるな」とわかったら、演奏に合わせて同期音源をセットし、また合流させたりする。

──ライブ中に!?

そう。やり慣れてくると「これはヤバいな。よし、僕の出番だ!」となる(笑)。演奏者も、何かあってもこっちが合わせてくれるとわかっているから、演奏を止めず安心して続けてくれるんだ。

──でも、草間さんが間違えて止めちゃったら……。

全部止まるね(笑)。大きい会場だったら、何万人というお客さんが「どうした?」ってなっちゃう。だから「事故を起こさない」というのが僕の至上命題なんです。バックアップも用意するし、何が起きても対応できるようにしておく。

──怖すぎる!

でも慣れるしかないんだよね。とはいえ人間って不思議なもので、「ここを押したら絶対に止まるぞ」と思うと、逆に押したくなってくる。

──「絶対に押すなよ」って言われると押したくなるやつですね(笑)。

そうそう(笑)。僕はリハーサルで一度、魔が差して本当に止めちゃったことがあって。ドラマーがすごくびっくりした顔でこっちを見てきて、それで「あ、やべえ」と気付いて次のサビからまた再スタートした(笑)。そんなわけで、本番では特に操作する必要がないときは後ろで手を組んだりしてます。これはたぶんマニピュレーターあるあるじゃないかな。

ライブでのトラブル体験

──百戦錬磨の草間さんがこれまでで「これはヤバい!」と思った現場はあります?

いろいろあるけど、フェスはやっぱり大変だね。ワンマンなら自分たちでしっかり準備できるし、トラブルシューティングの時間も取れる。でもフェスは転換時間が短いから、前のアーティストが終わったらパッと機材を入れて、すぐ本番ということもある。

──確認する時間が少ないですもんね。

昔、フェスで本番が始まってからボーカルに「クリックが聞こえない」と言われたことがあって。持ち時間が20分しかないから、一度止めて確認し直すわけにもいかない。幸いドラマーにはギリギリ聞こえていたから、そのまま最後までやったんだけど……。あとで調べたら転換時にマルチケーブルが半分抜けちゃったのが原因だった。

──20分間ずっと冷や汗だ……。

終演後みんなに謝りました。ただ、そういう修羅場を何度も経験して鍛えられました。短い時間でセットして、何か起きたらすぐ原因を考える。フェスを何回か経験すると、仕事が速くなるよ。

──会場が大きくなるほど、マニピュレーターの重要性も上がるんですか?

それはあると思う。会場が大きくなるほどステージから客席までの距離も広がるし、メンバー同士も遠くなって、音が届くまでに時間がかかるからね。演奏中、みんなで「バーン!」と同時に入るためにも、イヤモニのクリックを基準にしたほうが合わせやすい。周りに聞くと、今はアリーナクラスになると、いわゆる生演奏主体のバンドでもかなりの割合でマニピュレーターがいるみたい。

──ライブになくてはならない存在ですね。

それに、ずっとドラム、ベース、ギター、ボーカルだけでライブをやるより、大きい会場ではいろんな演出をしたくなるでしょ。音源と同じ打ち込みを入れたり、普段とは違う音を足したり、映像と同期したり。ライブが大規模になればなるほど、扱うものも増えていくからね。

──SEKAI NO OWARIのライブでは、映像や演出との連携もかなり複雑だって聞きました。

8月までやっていたドームツアー「SEKAI NO OWARI DOME TOUR 2026『THE CINEMA』」は、ほとんどの曲に撮り下ろした映像があって、ステージ後方のスクリーンに映していたんだよね。そんな中、「バードマン」という曲では、ステージの下手奥に部屋のセットを作って、Fukaseくんがそこで寝ているところから始まる演出があったんだ。電話が鳴って、Fukaseくんが起きて、携帯を取って、マイクを持たされて歌い始める。そして歌いながら舞台下を歩き、1サビ後にステージ上に戻ってくるっていう、リアルタイムでドラマを撮影しているような感じで。僕はスクリーンに映し出される映像を見ながら、Fukaseくんが携帯を見るタイミングで音を止めたり、マイクを持ったら曲をスタートしたりする。あそこだけはリアルタイムの芝居に合わせないといけなかったので、かなり映像をしっかり見ながらオペレーションしたよ。

──お客さんは部屋の中や舞台下の映像を直接見られないから、そこはスクリーンに投影したってこと? それも事前収録の映像だと思った人が多そう。

まさにそれが狙いで。終演後にSNSを見たら、「あそこ本当にその場でやってたんだ!」「どこからどこまでが収録だったんですか?」みたいな反応があったから、「よし!」と思ったね。

ライブは大勢の人と一緒に作るもの

──ちなみに「マニピュレーター」って海外でも通じます?

このインタビューで話してる意味での「マニピュレーター」はほぼ日本独自だと思う。海外だと「プレイバックエンジニア」と呼ばれたり、使っているソフトの名前をそのまま肩書きにしたりする人もいる。

──えっ、日本だけなんだ。

そもそも英語の「manipulate」って、ちょっとネガティブな意味もあるからね。「人を裏で操作する」みたいな(笑)。だから僕自身は最近、クレジットを「Ableton Live Operation」みたいな表記にしてもらうこともあります。

──じゃあ、将来「マニピュレーター」という呼び方自体がなくなる可能性も?

どうだろうね。これだけ普及しているから、なかなか変わらない気もする。僕はもうそんなに若くないから、「僕はマニピュレーターです」でいいんだけど(笑)、クレジットだけ少しずつ変えていったら、いつか違う呼び方になっているかもしれないね。

──草間さんがマニピュレーターをやっていて、一番うれしいのはどんな瞬間ですか?

やっぱり、ライブがうまくいったとき。それに尽きるね。無事故で終わって、「今日よかったね」となれば一番いい。それから今は映像との同期だったり、いろんなセクションと一緒に動くことも多いから、そういう人たちから「今回、草間さんがいて助かった」と言ってもらえたら、「来てよかったな」と思いますよ。

──でも、成功して当たり前で、失敗したらすごく目立つ仕事ですよね……。

そうなんだよ(笑)。特に緊張したのは、「大阪・関西万博」の開会式を担当したとき。音楽だけじゃなくて、進行に使われる音声なんかも僕が出していたんです。すぐ近くには天皇陛下や当時の石破(茂)総理もいらっしゃるし、「これは絶対に止められないぞ」と。

──僕だったら手が震えてボタンを押せません!

あれは怖かったね。失敗したら全世界に流れるから(笑)。でも結局、そういう仕事も準備なんだよね。何が起きても大丈夫なようにしておいて、本番では必要な操作だけをする。

──最初は「再生ボタンを押す仕事」だと思ってたけど、そのボタンを安心して押せる状態にするまでが重要なんですね。

まさにそう。僕は本番で派手なことをする必要はないと思ってる。ライブが始まるまでにできることを全部やって、始まったらプレイヤーが気持ちよく演奏できるようにしておく。それで、何か起きたときだけ助ける。

──最後に、マニピュレーターに向いているのはどんな人でしょう?

パソコンや機材が好きなのはもちろんだけど、それだけじゃないと思う。周りを見て、「この人は今、何を必要としているんだろう」と考えられる人。それを言われる前に準備できる人は強いんじゃないかな。

──やっぱり「察する力」が大事なんですね!

そうだね。技術は勉強すれば覚えられるけど、ライブは大勢の人と一緒に作るものだから。自分が目立つことより、「どうしたらみんながやりやすいかな」と考えられることが大事だと思うよ。

──僕もいつかライブで草間さんに担当してもらえるようにがんばります! 今日はありがとうございました!

プロフィール

草間敬

マニピュレーター、アレンジャー、レコーディングエンジニア。SEKAI NO OWARI、[Alexandros]らのライブでマニピュレートを担当するほか、MAN WITH A MISSION、KIRITOなどの作品でアレンジャーを務める。金子ノブアキ擁するバンド・RED ORCAのメンバーとしても活動している。

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