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アーティストを作った名著 Vol.5 橋本薫(Helsinki Lambda Club)

6年近く前2018年12月15日 9:06

日々創作と向き合い、音楽を生み出し、世の中に感動やムーブメントをもたらすアーティストたち。この企画は、そんなアーティストたちに、自身の創作や生き方に影響を与え、心を揺さぶった本についてを紹介してもらうものだ。

今回はHelsinki Lambda Clubの橋本薫が、彼らの最新アルバムに通ずる部分があるという小説など、ヘルシンキの音楽性が感じられる3作を紹介してくれた。

01. 「My Life: Marc Chagall」(Peter Owen Publishers)
著者:Marc Chagall

派閥に属さず、たくさんの要素を吸収しながら表現し続ける

シャガールという画家に魅せられたのは高校3年生のときで、結局大学の卒論はシャガールの研究(という名の稚拙な作文)という名目で提出した。これはそのときの研究で読んだ、シャガールの虚実入り雑じる自伝だ。
シャガールという画家はかわいい。言葉はひねくれているのに絵は素直で愛にあふれていて、とにかく人間らしい。シャガールは誰からも影響を受けたことがないと言った。しかしその長い生涯における作品をつぶさに見ていくと、かつて憧れたゴーギャンの影響や、同じ時代を生きたジョルジュ・ブラックなどのキュビストの影響が確かに見てとれる(もちろん確固たるオリジナリティはあるが) 。それでも彼はどんな派閥にも属さずに、たくさんの要素を吸収しながら、自分の世界を表現し続けた。そんなところが僕らのバンドにも似ているなーと僭越ながら思ったり。
シャガールの描く青色が好きだ。それに近いものをいつか表現したいと思っている。青白い炎が絵の具の中に溶け出したような。

02. 「男と点と線」(新潮社)
著者:山崎ナオコーラ

ミニアルバム「Tourist」にも通底するストレンジャー感

世界のあらゆる場所で、あらゆる世代、あらゆる関係性の男女が紡ぐ恋愛短編集。
ナオコーラさんの、世の中の前提を、疑念の目を持って冷静に見つめ直す視点が好きだ。常識とかって、なんとなく長い間そうだったから正しいとされているものが多かったり、意外と不確かなもので社会は構築されているんだなと思う。ナオコーラさんの視点は、新しい考え方の提示であり、新しいイデオロギーには決してならない。こういう見方もあるけど、君はどう? と問いかけてくれるような。人を楽しませる作品としてのある種の軽やかさと、文学としての奥行き、意義みたいなものが絶妙なバランスで合わさっていて、僕の求める作品像に非常に近い存在。また、世界各地を舞台にそれぞれの物語が展開するなかで浮かび上がるストレンジャー感は、僕らの12月リリースのミニアルバム「Tourist」にも通底する気がする(突然の宣伝失礼)。

03. 「バンド・オブ・ザ・ナイト」(講談社)
著者:中島らも

自我も客体も曖昧なサイケデリックな言葉の宇宙

あれは忘れもしない、大学2年生の冬。当時組んでいたバンドの初めてのレコーディングを、大学の軽音部の部室で深夜から敢行した。最初はドラムのオケを録るということで、知識も何もないくせに適当にマイキングをして、落ちまくるPCのMTRで録音はスタートした。
ただでさえあまり上手いとは言えないドラムだったのに、オケのみ録るということで失敗が許されず、22時から始めた録音は夜中の3時を回っても1曲も録り終わらなかった。狭い部室でひたすらドラムのドカドカという音を聴き続けて、頭がおかしくなりそうだったので、仕方なく寒空のもとへと出て震えながら古本屋で買ってきた本を読み始めた。最初は普通に青春小説のように始まるが、途端に“何か”がキキ始めたのか、自我も客体も曖昧なサイケデリックな言葉の宇宙が拡がり始め目眩がする。それが数ページ、ときには数十ページ続くと、キキが収まったのかまたもとの小説の世界線に戻ってくる、その繰り返し。ドラムの耳鳴りと、冬の夜空にまっすぐのぼる煙草の筋と、説明ではなくイメージのための言葉の洪水で、初めて宇宙がすぐ近くに感じられた。その時にくらった言語感覚というのは、知らぬ間にUFOに誘拐されて人体実験をされた人みたいに、第六感的に備わったような気がしなくもない。

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