2025年の幕開けに合わせて音楽ナタリーでは、さまざまなアーティストの「2024年に愛聴した3曲」を調査。今回は「バンド編」として大胡田なつき(パスピエ)、オニザワマシロ(超☆社会的サンダル)、カモシタサラ(インナージャーニー)、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)、谷口鮪(KANA-BOON)、橋本薫(Helsinki Lambda Club)、理姫(アカシック)が選んだ楽曲を紹介する。
構成 / 安部孝晴
大胡田なつき(パスピエ)
藤井風「満ちていく」
「教会で書き下ろされた」という逸話が気になって聴き始めたこの曲。ルーヴル宮内のパリ装飾芸術美術館で録音されたPhoenix「Alpha Zulu」を愛聴している私にとって、とても興味をそそられる制作過程でした。場所にはその場所ならではの空気があって、それを肌で感じ、身体へ取り込み、吐き出した温度が周囲に混じっていく。この曲の歌声やメロディーから、その様子がとても自然に想像できました。目を閉じて澄んだ空気を吸い、ゆっくりと目を開けたら、世界が少し違って見えるかもしれない。そんなふうに、静かに、穏やかに感じさせてくれます。
ビョーク ft. ロザリア「Oral」
まだ自分が少女と呼ばれる年齢だった頃から、ビョークはずっと憧れの存在です。古典と最先端(もしくはもっと突き抜けた場所)の美しい融合を見せてくれます。母国の環境、生態系の深刻な問題に光を当てるべく公開されたこの曲。ミュージックビデオも制作されて、世界中にメッセージが送られています。作品を通して何を表現するか、できるか、ということを考えさせられた1曲です。
原口沙輔「イガク」
もともと「人マニア」が好きで、タイムラインに皆さまの“歌ってみた”動画が上がってくるたびに「私もやりたい!」とうらやましく思っていたのでした。歌詞や音像を深く掘っていくこともできますが、わたしはあえてこのまま、身を任せたいです。タイポグラフィなのでしょうか、ビジュアルまでかわいらしい作品です。
プロフィール
大胡田なつき(オオゴダナツキ)
静岡県出身。2009年に結成されたバンド・パスピエでボーカルとイラストを担当している。パスピエは2011年に初の全国流通盤「わたし開花したわ」、2013年に1stフルアルバム「演出家出演」を発表。2015年7月にテレビアニメ「境界のRINNE」のオープニングテーマ「裏の裏」をリリースし、12月に東京・日本武道館で単独公演を行う。2020年1月に自主レーベル・NEHAN RECORDSを設立。同年2月に東京・昭和女子大学人見記念講堂で結成10周年特別記念公演「EYE」を開催した。2025年2月19日にはニューアルバム「カリギュラ」を発表する。
オニザワマシロ(超☆社会的サンダル)
カネコアヤノ「さびしくない」
朝まで友達とか先輩とかと酒飲んだ日の始発の電車でよく聴いてます。半分死にかけで寝てるから記憶ないけど、小田急線(千代田線)で下北沢から北千住まで40分くらい何十周もループで聴いて、なんかちょっと寂しい気持ちになって。ずっと聴いてるとバッド入っちゃうから、電車降りたらnever young beachをかけます。
Summer Eye「三九」
三ノ輪のバイト先から北千住の自宅まで2駅あって、賄いでラーメン食べちゃってるから健康気にして歩いて帰ってて、そのときに聴いてます。焼酎ハイボール片手にノリノリで踊ってる人を見かけたらそれは私です。
後藤まりこアコースティックviolence POP「渦」
ラーメンバイトでワンオペしてるとき、スピーカーで好きな音楽を流せるので、爆音でこの曲かけて湯切ってます。バンドの機材車でも流すので、メンバー全員歌えます。
プロフィール
オニザワマシロ(オニザワマシロ)
2004年生まれ、東京都出身。2021年3月に結成されたバンド・超☆社会的サンダルでギター&ボーカルを担当している。超☆社会的サンダルは2023年夏にオーディション「出れんの!? サマソニ!? 2023」で入賞し、音楽フェス「SUMMER SONIC 2023」に出演。「閃光ライオット2023」のファイナリストにも選出された。2024年2月に初の全国流通盤「漂☆流」、同年12月に1st EP「君の飼い犬は、可愛くて最悪。」をリリース。2025年4月より初の全国6都市ツアー「『あゝ、私もいつかはCity girl』TOUR」を開催する。
カモシタサラ(インナージャーニー)
THE YELLOW MONKEY「ホテルニュートリノ」
THE YELLOW MONKEY待望の新譜リリースで幕を開けた2024年。「ホテルニュートリノ」の「人生の7割は予告編で 残りの命 数えた時に本編が始まる」という歌詞に支えられています。2024年は自分のことでいっぱいいっぱいになってしまった年でしたが、今抱えている悩みや苦しみは、きっといい人生の終わりのために用意されたものなんだと思えるようになりました。あとはシンプルに、曲がカッコいい!
Vampire Weekend「Capricorn」
友達がライブでカバーしていて好きになりました。宇宙空間で浮遊しているようなリバーブが、心地よい孤独を感じさせてくれる曲です。鍵盤とストリングスによる間奏部分を聴くと、地球とお別れするような切ない気分になる。そのあとのサビからは強い意思、自分のいた証みたいなものを感じます。もし死ぬとしたらこの曲を聴きながらがいいな。
カラコルムの山々「週刊奇抜」
2024年にイベントで一緒になり、度肝を抜かれたバンドです。“キネマポップバンド”というコンセプトの通り、カラコルムの山々のライブは、1曲終わるごとに映画やミュージカルを観たあとのような気持ちにさせてくれて、気付いたときには完全に虜になっていました。「週刊奇抜」は、後味が悪いけどついついまた見たくなってしまう夢みたいで、まさに”奇抜中毒”だなと思います。
プロフィール
カモシタサラ(カモシタサラ)
2001年生まれ、東京都出身。2019年に結成されたバンド・インナージャーニーでギター&ボーカルを担当している。インナージャーニーは2020年3月に1st配信シングル「クリームソーダ」、同年9月に1stアルバム「インナージャーニー」をリリース。2024年6月にバンド名の由来となった楽曲「インナージャーニー」を制作した小山田壮平とのツーマンライブ、同年10月と11月に初の東名阪ワンマンツアー「きらめき」を開催した。
菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)
ジェイコブ・コリアー「Little Blue(feat. Brandi Carlile)」
ジェイコブ・コリアーが演奏している姿を観るだけで、音楽に使える部分がどんどん広がっていくように感じます。「からだ全部でやればいいんじゃん!」みたいな。「Little Blue」はマイケル・ジャクソンのバラードのように厳かで、ブランディ・カーライルの歌もグッときました。最近だと映画「2分の1の魔法」の主題歌「君が支えてくれた」も泣けました。
玉置浩二「花咲く土手に」
年を重ねるごとに、玉置さんの歌のすごさがわかってきます。僕が2024年に繰り返し聴いたのは、旭川市民文化会館で行われたライブテイク。日本の風土で暮らす人が共通して持つノスタルジーを、ガンガン揺さぶってくるような歌唱だと思います。イメージを想起させる力、真似できないけど追っかけています。
真心ブラザーズ「DIVIDE」
「毎日ちょっとずつやるんだ 気づけば仕上がってる いつのまにかできてる」と歌われているんですけど、この“ちょっとでいいから進める”が極意なんですよねえ。なんかうまくいかないとき、軌道修正するためにこの曲を聴いていました。ちょっとでいいから進めろって(笑)。坂口恭平さんの著書「生き延びるための事務」にも同じようなことが書かれていて、「これの音楽版じゃん」と思いました。
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菅原卓郎(スガワラタクロウ)
1983年生まれ、山形県出身。2004年に結成されたバンド・9mm Parabellum Bulletでギター&ボーカルを担当している。9mm Parabellum Bulletは2007年にメジャーデビュー盤「Discommunication e.p.」を発表し、2014年に結成10周年記念ライブ「10th Anniversary Live "O" / "E"」を東京・日本武道館で開催。結成20周年を迎えた2024年には10thアルバム「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」をリリースした。菅原は2018年6月にソロアルバム「今夜だけ俺を」を発表。2022年9月に所属事務所の代表取締役社長に就任した。
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谷口鮪(KANA-BOON)
BABYMETAL×Electric Callboy「RATATATA」
サポートメンバーから教えてもらってハマった曲です。ダンスビートのハードロックが好きなので、Electric Callboyの曲は相性バッチリでした。BABYMETALのかわいさとカッコよさ、野郎共のバカらしさが妙にマッチしていて笑っちゃいます。超キャッチー。ライブ映像もMVもノリノリで、たくさん観ましたね。
Q.I.S.「へいへいらぶらぶばいばい」
KANA-BOONでコラボレーションした北澤ゆうほちゃんのプロジェクト・Q.I.S.の曲です。軽快で陽気なサウンドに、切なくもどかしい歌詞が染み込んだ素敵な音楽。いつかまた自分が失恋したときは、この曲を励みにがんばろうと思います。
君島大空「Lover」
2024年、一番くらった曲です。 “くらった”というのは同じ作曲者として「これはすげぇ…」と膝から崩れ落ちる様子を指します。これだけくらった曲は、人生の中でもそう多くありません。儚く散ってしまいそうな歌声と、破滅的な演奏。言葉にするのは難しいですが、美しい曲というのはきっとこういう滅茶苦茶なものなんだと思います。
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谷口鮪(タニグチマグロ)
1990年生まれ、大阪府出身。2006年に結成されたバンド・KANA-BOONでギター&ボーカルを担当している。KANA-BOONは2013年4月に初の全国流通盤「僕がCDを出したら」を発表し、同年9月にシングル「盛者必衰の理、お断り」でメジャーデビュー。2014年11月にアニメ「NARUTO-ナルト- 疾風伝」のオープニングテーマ「シルエット」をリリースした。2023年9月にテレビアニメ「ゾン100 ~ゾンビになるまでにしたい100のこと~」のオープニングテーマ「ソングオブザデッド」を発表。2024年9月より4カ月連続で新曲「ラブアンドマスターピース」「ほららら」「ばけもの」「日々」を配信した。
橋本薫(Helsinki Lambda Club)
HYUKOH&落日飛車(Sunset Rollercoaster)「Young Man」
大好きな2バンドの合作というだけでもファンにとってはたまりませんが、この曲のキャッチーなアンセム感は特に最高で、年を跨いでもヘビロテ継続中です。AとDとEのメジャーコードの繰り返しで、まだこんな名曲ができるのかと脱帽。いつか一緒に何かできるように、精進したいです。
チャイルディッシュ・ガンビーノ「Little Foot Big Foot(feat. Young Nudy)」
これまた愛してやまないチャイルディッシュ・ガンビーノ。昨年はサントラも含めて、アルバムを2枚リリースしてくれた年でした。この曲もシンプルなコード進行のギターを軸としていて、ヒップホップという枠組みに囚われないクロスオーバーな1曲になっています。明るいメロディに批評性のある歌詞、という組み合わせも素晴らしいです。
Brainstory「Nobody But You」
昨年初めてアメリカのイベント(「SXSW 2024」)に出演することができて、そこでBrainstoryのライブを観たことは最高の思い出です。チルでメロウな歌とギター、乾いたスネアの音、歌心も兼ね備えたグルーヴィなベースライン、いつ聴いても心地いいです。
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橋本薫(ハシモトカオル)
1990年生まれ、福岡県出身。2013年に結成されたバンド・Helsinki Lambda Clubでギター&ボーカルを担当している。Helsinki Lambda Clubは2014年に1stシングル「ヘルシンキラムダクラブのお通し」でUK.PROJECTよりデビュー。2015年3月に1stミニアルバム「olutta」、2016年10月に1stアルバム「ME to ME」を発表し、2023年に国内フェス「FUJI ROCK FESTIVAL」「ASAGIRI JAM」、2024年に国外フェス「SXSW」「The Great Escape」への出演を果たす。2024年11月にはEP「月刊エスケープ」をリリースした。
理姫(アカシック)
aiko「skirt」
aiko様大好き。存在してくださって本当にありがとうございます。まずイントロで脳みそ飛んで、Aメロで「あれ、音楽ってなんだっけ?」と思って。aikoのときどき宙を泳いでるようなメロディが好きだ! かわいいふりして音楽ど変態! 絶対変態! aiko大好きです!
BIM「DNA feat. Kohjiya, PUNPEE」
BIM様好き。日本のヒップホップが好きで、普段家でなんの音楽をかけるか迷ったとき、だいたいヒップホップを適当に流すのですが、その中でもこの曲は何回も何回もかけて、1人小躍りしたり、赤ワイン飲んだり、晴れた日には洗濯物なんか干しちゃったりしました。
高倉健「ウエスタンの魂を見せてみろ」
高倉健様好き。ちょっと本当に好きで、ヤバい。ある日大好きな友人に教えてもらい、よく知識を得ないままライブに行き、カルチャーショックを受け、グッズを爆買いしました。私も高倉健になりたいのですが、どうしたらいいでしょうか。
プロフィール
理姫(リヒ)
1989年生まれ、神奈川県出身。2011年に結成されたバンド・アカシックでボーカルを担当している。アカシックは2014年3月に1stミニアルバム「コンサバティブ」を発表し、2015年6月にミニアルバム「DANGEROUS くノ一」でメジャーデビュー。代表曲の1つである「8ミリフィルム」は、テレビ朝日系「ミュージックステーション」でaikoが紹介したことで話題に。2019年10月にアカシックが解散したのち、理姫は奥脇達也(G)、バンビ(B)とともにバンド・可愛い連中を結成。2022年よりアカシックの活動を再開した。
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