全国のライブハウスの店長の話を通して、それぞれの店の特徴や“ライブハウスへ行くこと”の魅力を伝える本連載。第14回はだるまの生産地としても有名な群馬県高崎市にある高崎clubFLEEZの店長・本多裕和氏に登場してもらった。
高崎clubFLEEZは、前橋から場所を移す形で2004年2月にオープン。オールジャンルのブッキング体制を基本とし、地元の高校生から第一線で活躍するレジェンド級のアーティストまで幅広い層の演者に愛され続けている。前橋時代に照明スタッフとして働いていたことをきっかけに現店舗の店長を務めている本多氏に、clubFLEEZの歴史や音響へのこだわり、出演者や観客を迎える際の心持ちについて話を聞いた。
立地のよさを求めて前橋から移転
「高崎で店を構えてから、今年の2月で15周年を迎えました。前橋で10年ほど営業し、キャパの拡大と立地のよさを求めて今の場所に移転しました。ここはJR高崎線も新幹線も止まるので東京からのアクセスのよさも魅力ですね。PAブースの後ろに黒幕を張るとキャパ250~300人、黒幕なしで450~500人になる可変式フロアを採用しています。450~500人キャパは北関東のライブハウスで一番大きいので、常にこの状態だと敷居が高くなってしまうと思いますし、ギュウギュウのほうがライブハウスの醍醐味を味わえますよね。アーティストにもステージからいい景色を提供したいので、最大キャパを調節できるようにしました。いろんなバンドがワンマンライブをやっていますけど、『あの後ろの幕なしでお客さんをいっぱいにすることを目標にしている』なんて地元バンドもいます。僕が店長になったきっかけは、前橋clubFLEEZでもともと照明をやっていたことです。高崎に来て1年くらいで前任の店長が退職して、古株に順番が回ってきた感じです。もともと学生の頃からプレイヤーとしてライブハウスに入り浸るようになって、気付いたら働いていたんですけど、まあライブハウスの人事によくあるパターンです(笑)」
オールジャンル型ブッキングの真意
「ライブハウスとは何か? と定義するのは非常に難しいです。その土地にある習慣、文化が反映されることが多く、例えば東京のライブハウスと同じようなイベントなどを企画したとしてもそれをこの地域の人たちが求めているかといえばまた違います。都会とは人の働き方も時間軸も異なると思うので、群馬県の中で求められているものを吸い上げて、満足してもらうことが理想ですね。うちには布袋寅泰さん、木村カエラさん、ももいろクローバーZさんとトップクラスの幅広いアーティストも来られますし、地元の高校生が卒業ライブをしたり、大学生が定期演奏会をしたりすることもあります。なので『高崎clubFLEEZはこういうライブハウスです』と一言で説明できないし、運営側だけでできているハコだとは考えていません。出演者、お客さん、ライブハウスの三位一体で成り立っている部分が大きいです」
高崎の音楽シーンとだるま
「G-FREAK FACTORYやLACCO TOWERは店が移転する前から出演していましたし、最近勢いがあるなと思うのはFOMAREですね。back number、秀吉、Ivy to Fraudulent Game、KAKASHIなどいろんなバンドと活動初期に出会っています。そもそも、群馬自体がBOOWY、BUCK-TICK、ROGUEというロックの大先輩たちを輩出した場所ですから、独自性のあるシーンをゼロから作り上げていくことができる土地柄ではあると思います。彼らの結成10周年、15周年などを記念したツアーのときには、高崎ならではのお祝いということでだるまを贈呈しています。うちでの公演の際に片方に目を入れて、ファイナルとかでもう1つ目を入れてもらって。いつからかだるまを贈呈することが習慣化していて、『高崎clubFLEEZは縁起がいいハコだ』なんて言っていただけるとうれしいですね。最近のだるまはカラフルなものがあったり、寄せ書き用に使われたり、必ずしも神棚に置かれるようなものでもなくなってきているので、うちでもだるまはオリジナルのものを作ってもらっています。ロックバンドには黒いだるまを渡すことが多くて、みんな珍しがって喜んでくれますよ。本当に高崎だるまにはありがとうって言いたい(笑)。店内には毎年変わる干支のだるまを置いていまして、ドリンクカウンターのだるまはピンク色、楽屋のは金色です。ドリンクカウンターでは現在サッポロの群馬限定ラベルのビールを販売していますので、遠方から来た方にはぜひご当地ものを味わってもらえたらうれしいです」
ライブハウスはバンドと同じで日々の積み重ねが大切
「おかげさまで『高崎clubFLEEZは音がいい』という声をいただくことがありますが、基本的にライブハウスはバンドやミュージシャンと同じだと考えています。成功している人がリハーサルをしないかといったら、やり続けますよね。裏方も同じでちゃんと機材と一体化するような仕事をしなければいいライブができないと思います。『いい音』と一口に言っても人それぞれ好みは違います。なので当店ではある程度ジャンルに合った特性を、音響周りのチーフでもある当社の社長を中心にスタッフ一同日々研究しています。また外部のオペレーターが来たときに最大限、そのチームが理想とする音像を出せるような環境作りは心がけています。音に関しては建物内の構造、温度、お客さんの入り具合によってすべてが変わってくる。鳴らしてみないとわからないですから、やはりライブハウスも日々の積み重ね、これしかないと思います」
“ハコ的エゴイズム”は出さず、演者と寄り添う
「群馬のライブハウスは類似性がない個性的なハコが多いんですが、うちではハコ的なエゴイズムをそこまで強く打ち出さずにバンドの考えに寄り添うようにしています。高崎clubFLEEZの敷地内にはリハーサルスタジオと、club FLEEZ Asileというキャパ60名ほどのミニライブスペースがありまして、8月にはこれらを使ってKAKASHIが地元バンド限定でサーキットイベントを開催します。大学生の卒業ライブでも、バンドのツアー、企画ライブでも希望に添えるようにできる限り対応させてもらっています。そういう表現の場が、アーティスト同士の出会いにつながることもありますし、いろいろな化学反応がローカルな場所で起こったら、それはライブハウス冥利に尽きるというものです」
「もう1曲やりたい」ライブならではの想定外も大歓迎
「印象に残っているイベントは?とよく聞かれるんですけど、本当に甲乙付けがたくて特定のイベントやアーティストの名をパッと挙げられないんです。ただ1つ言えるのは、ここでしか起きなかったスペシャルな瞬間に立ち会えることはライブハウスならではの醍醐味です。なかったはずのアンコールとか、セットリストにないことをやると裏方に迷惑をかけてしまうと思うバンドがわりと多いですが、僕はそういうの大歓迎です。スタッフは実際大変になりますけど、ライブは内容がその場で変わることだってあると思うんです。台本にはないけど、『この勢いでもう1曲やりたい』ってなるのもライブならではの魅力だと思うので。それがステージ上で起こったとしたら、そのアーティストにとって『最高になる瞬間』がここ高崎clubFLEEZにあるということですから。うれしい瞬間と言えば、そういうライブならではの出来事が起きたときですね。もちろんきっちりやることも大切なんですけど、ルール通りにやらないのがロックの美学でもあるのかなと。だからその瞬間は素直にうれしいですよ」
音楽好きにとって居心地のいい空間をこれからも目指して
「一度来ていただければわかると思いますが、ライブハウスは生の感覚を五感で楽しめる場所。映像や写真に残っている素晴らしいものもたくさんありますが、それとも違うその場限りの空間です。アーティストも同じ気持ちでライブをやっているんですよ。いろんな公演がここで催されますけど、9割の演者は汗だくでパフォーマンスしてます。汗だくになって笑って帰るお客さんの姿を見送っているときが僕が長年やってきて、いつもうれしいなと思う瞬間。ここに来ないと味わえない醍醐味として、アーティストを間近で眺め、大きな音を浴びて、ここでしか味わえない臨場感を楽しんでほしいです。ライブハウスは音楽を聴いている人がいつかは通過するであろう場所だと信じて、我々はやっています。初めてのライブハウスって一生記憶に残ると思いますよ。高崎clubFLEEZにはお客さんとしても演者としてもお子様から年配の方までいらっしゃいます。楽器店のスクールの発表会と聞くとホールとか公共施設をイメージすることも多いと思いますが、うちでも定期的に行われています。時代の変化か、音楽教室の演奏曲もロック色が強くなってきたので。内容によって椅子席にすることもありますし、どんな人でも楽しめる空間作りをしてますので、足を運んでみてください。実は1人でも来やすいところだと考えていますし、僕自身も若い頃は1人でライブを観に行ってましたからね。ライブを観る数を重ねることが 、お客さんにとっても演者にとっても自分を磨く土台になり得るかもしれません。我々もまだまだ精進してますので、音楽好きの仲間として、一緒にライブハウスで音楽を楽しみましょう」
店舗情報
高崎clubFLEEZ
住所:〒370-0828 群馬県高崎市宮元町17番地スカイビルB1F
アクセス:JR高崎駅西口から徒歩10分
営業時間:公演により異なる
定休日:なし
ロッカー:あり
駐車場:なし
再入場:基本不可(公演により異なる)
キャパシティ:250~300人、450~500人(可変フロア)
ドリンク代:500円
フリーWi-Fi:なし
貸切:あり
※「BOOWY」の2つ目のOはストローク符号付きが正式表記
取材・文・撮影 / 田中和宏(音楽ナタリー編集部)