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アーティストの音楽履歴書 第7回 Charのルーツをたどる

約5年前2019年09月13日 9:05

毎回1名のアーティストの音楽遍歴を紐解くことで、音楽を探求することの面白さや、アーティストの新たな魅力を浮き彫りにする本企画。第7回は、中学時代にスタジオミュージシャンとして活動を開始して以来、トップギタリストとして活躍を続けるCharに登場してもらった。

クラシックピアノを習う

小学校1年のときに母親の勧めでクラシックピアノを習うことになって。それが音楽に触れた最初かな。そのあとは5歳上の兄貴の影響が大きい。エルヴィス・プレスリーとか、1960年代に入ってからはThe Beatles、The Rolling Stonesとかを兄貴が聴いていて、同じ部屋だったからそういうのがいつも聴こえてたね。兄貴は絶対的な存在だったから、俺にはステレオやレコードを触る権利はまったくなかったんだけどね(笑)。

初めてのギター

お袋がポイントを貯めてもらった商品カタログを「1つずつ選びなさい」ってくれてね。その中にエレキギターがあって、兄貴が「ちゃー坊と一緒に使うから」と言って2人でそれを選んだんだよ。今で言う安い国産のビザールギター。もちろん兄貴は全然使わせてくれないんだけど、ときどき目を盗んで触ってた。しばらくあとにお古としてそれをもらってからはThe Venturesをコピーしたりして、寝ても覚めても弾きっぱなしだったね。

クラプトンにどっぷり

いろんなギタリストのプレーは聴いたけど、エリック・クラプトンにハマったきっかけは兄貴が買ってきたThe Yardbirdsのシングルだったな。そのあと俺が中学生になった頃、これもまた兄貴にCreamを聴かせてもらって衝撃を受けて、そこからはもうクラプトンにどっぷり傾倒。ライブアルバムのインプロビゼーションなんて、それまでまったく聴いたことのないものだった。その流れでジェフ・ベックやジミー・ペイジのことも知るんだけど、ジミ・ヘンドリックスのレコードは兄貴も持ってなかった。あのすごさは当時、日本のリスナーの理解を超えていたんだと思う。もちろん俺も後に大好きになるんだけど。今思えば、当時の洋楽を聴ける環境だったのは兄貴のおかげだよね。

中学生でCreamをカバー

中学生の頃はいろんなグループが毎日テレビに出てたし、グループサウンズは耳に入ってきてたよ。やっぱり、モップス、THE GOLDEN CUPS、ザ・ダイナマイツはブルースとR&Bを取り入れててカッコよかったな。その頃、銀座のゴーゴー喫茶の昼の部に音楽仲間とGSのバンドをよく観に行った。その中の1人が後にキーボーディスト、アレンジャーとして成功する新川博。で、そいつらとバンド組んでコンテストに出てCreamとかを演ってね。審査委員に「子供のくせに生意気だ」って言われてた(笑)。

その頃「ウッドストック・フェスティバル」に出ているSantanaの映像を観たんだよ。ヒスパニック系の人たちが自分たちのアイデンティティの元、ロックをやっているっていうのが衝撃だったね。同時に、フラワー・トラヴェリン・バンドで内田裕也さんとジョー山中たちが日本ならではの新しいロックを作ろうとしていて、そのライブを日比谷野外大音楽堂に観に行ってかなり刺激を受けた。ファー・イースト・ファミリー・バンドも面白かったし、ルイズルイス加部さんがいたスピード・グルー&シンキもすごかったな。世界中でロックミュージシャンがオリジナリティを確立していった時代だよね。

その辺のガキがスタジオミュージシャンに

ギタリストとして仕事をするきっかけは「横浜にChicagoみたいなホーンセクション入りのバンドがいる」と聞き付けてライブを観に行ったこと。そのギタリストがどう考えても俺より下手で……それなのにめちゃくちゃ高い外国製のギターを使っててさ(笑)。だから楽屋に押しかけて「さっきの曲のギターソロはそうじゃないよ」って言ってやったんだよね(笑)。そしたらその人が面白がってくれて「じゃあ俺のギター使っていいからスタジオ演奏の仕事してみるか?」って言ってくれて。で、録音したのが「ロック完全マスター」というギター教則本の付録カセット。そのへんのガキの演奏を収録しちゃうんだから、今では考えられないよね(笑)。その頃のスタジオミュージシャンっていえばみんなジャズ上がりだったから、俺みたいにロックを弾くやつはまだ珍しかったのね。それから重宝されて呼ばれるようになった。

Grand Funk Railroadのコピーバンド

1stアルバムを聴いて以来の大ファンなんだけど、高校時代にやつらのコピーバンドを組んだんだよね。Led Zeppelinとかに比べると曲もシンプルだし、歌詞もわかりやすい。見た目も裸で鉄の輪っかをはめていて、北斗の拳みたいなね(笑)。“男の子のために出てきたバンド”って感じだったんだよな。あまりに好きすぎて、「俺のグランドファンクがみんなの前に晒される」ってことに耐えられず、伝説の後楽園球場コンサートにも行かなかったんだ。バイクで三浦海岸に行って「グランドファンクのバカヤロー」って叫んだね(笑)。

ロックとソウルの融合

ソウルミュージックを取り入れるようになったのは、クラブでソウルバンドのサポート演奏を頼まれたことがきっかけかな。ソウルのギターってわりとカッティングっぽいのが多いし「簡単でしょ」ってナメてかかってたんだけど、実際に本場の人たちが演ってるライブを観て目からウロコ。ロックとまったく違うグルーヴ感だし、もう単音でキューンとかやっている場合じゃないぞって(笑)。1970年代中盤以降は海外の面白いロックバンドもどんどんいなくなっていったし、Kool & the Gang、Earth, Wind & Fire、The Isley Brothersとかソウルを好んで聴いてたよ。デビューアルバム含め俺の70年代の曲にはその要素がかなり出ていると思う。ロックとソウルの融合だね。

兄の影響再び

兄貴のヤツ、大学に入った途端急にインテリっぽくジャズばっかり聴くようになって。「これ弾けたらお前を認めてやる」と初めてレコードを貸してくれたのが、ジョン・マクラフリンとラリー・コリエルが共演した音源。それをきっかけにジャジーな和音やボイシングを学んだ感じだね。もともとピアノでクラシックをやってた経験がそこで生きてきて、例えばスティーヴィー・ワンダーの音楽の複雑な和音や構造もすんなり理解できたんだよね。その頃だったか、仕事終えてそっと家に帰ったら兄貴と親父が口論してた。聞き耳立ててたら俺が外でギターの仕事をしてることに親父が怒ってて。兄貴が「ちゃー坊には才能がある、どうしてわかってやらないんだ!」って俺をかばってた。それを聞いてからは怖いだけだった兄貴の見方がガラッと変わったね。

刺激を受けた音楽

この仕事をしているとリアルタイムで海外の最新情報が入ってくるから常に新しい音楽を聴いていたんだけど、まだ海のものとも山のものともつかないような存在だった初期のプリンスを聴いたときには、これは面白いと思ったね。「こいつ、俺みたいじゃん」って(笑)。いろんなものを聴きまくっていろんなアーティストのいいところを吸収したうえで現れたんだろうなって。全部1人で演奏するっていうスタイルにしても、機材の進歩と共にこれからはレコーディングも多重録音へ変わっていくんだなと思った。

MTVも出始めの頃は海外の最新音楽を観まくれるなんてすごいチャンネルだなって思ったんだけど、アーティストのオリジナリティではなくプロデューサーがプロモーションのために作ったものだとだんだんわかってきてつまらなくなったね。アメリカの主流はどんどん商業化しているし、音楽的に影響されなかった。でもイギリスはタブーがないというかパンクとかニューウェーブの連中は反抗的なアチテュードがあってシンパシーを感じたな。

本格的なロックをやっている女性

このくらいになってくるともう影響を受けることは少ないし、1980年代以降のデジタルすぎるサウンドがどうしても苦手でね。今聴く音楽もプリンス以前の音楽になっちゃうね。ここ数年だと本格的なロックをやっている人って女性の方が多いんじゃないかな。特に最近のオーストラリア出身の女性アーティストは昔のロックに根ざした演奏をする印象があるね。Orianthiとセッションしたことがあるけどカッコよかったし、タル・ウィルケンフェルドもそうだけど、タッシュ・スルタナもよかったな。彼女は自分で弾いたギターのフレーズを全部足元のエフェクターでループさせてライブをやるんだよね。プリンスやタッシュ・スルタナみたいに「バンド組むより全部自分でやったほうがいい」ってヤツは友達がいないんだと思うよ。俺も今デビューしてたら、たぶんそうしてたね(笑)。

Char

1955年、東京都生まれの日本を代表するギタリスト。8歳でギターを始め、中学生でスタジオミュージシャンとしての活動を開始する。1973年に金子マリらとともにSMOKY MEDICINEを結成。1976年にシングル「NAVY BLUE」でソロデビューを果たす。1978年にはJOHNNY,LO!stUIS & CHAR(のちのPINK CLOUD)、1989年にはBAHOを結成しソロと並行して精力的な活動を展開。2009年にはWeb主体のレーベルZICCA RECORDSを設立した。またオリジナル楽器ラインZICCA AX も展開中。2019年8月、Charの代名詞でもあるMustang をFENDERとの開発により生まれ変わらせたChar 2020 Mustang モデルを発表した。現在ZICCA AXでは6色の限定モデルの予約販売を先行受付中。

取材・文 / 柴崎祐二

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