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私が嫉妬したアーティスト Vol.2 岡峰光舟(THE BACK HORN)のスタイルを形成したバンドマンたち

約5年前2019年10月23日 8:03

第一線で活躍するアーティストに、思わず嫉妬するほど衝撃を受けた人物やバンドについて話を聞くこの連載。第2回にはニューアルバム「カルペ・ディエム」をリリースしたばかりのTHE BACK HORNのベーシスト・岡峰光舟に登場してもらった。手数の多いメロディアスなベースライン、スラップ奏法やタッピング奏法、和音弾きなど多彩なプレイで楽曲に彩りを加える岡峰。ステージでも存在感を放つ岡峰のスタイルを形成したと言っても過言ではないアーティストについて、愛情たっぷりに語ってくれた。

確実に自分の血となり肉となっている

嫉妬とはちょっと違うかもしれないんですけど、リッチー・ブラックモア(Deep PurpleやRainbowのギタリスト)とスティーヴ・ハリス(Iron Maidenのベーシスト)が自分の中の2大巨頭ですね。中学生の頃はハードロックやメタルばかり聴いていたので、確実に自分の血となり肉となっていると思います。リッチーが弾くギターはクセがすごいんですよ。クラシックの影響もありつつ手癖がすごくて、味でしかない。この人しか弾かないメロディを弾くんですよね。俺はもともとクラシックが好きだったので、そことロックがリンクしたのはリッチーのおかげですね。「Burn」とか「Highway Star」とかギターでも弾いたし、ベースで弾いても面白いフレーズなんですよ。そこが自分の、普通のベースとは違う要素につながっていると思いますね。ボーカルの後ろでまったくベースらしからぬフレーズを弾いているんですけど、なんか支えてるというか、その2つのメロディで成り立ってるような。そういうプレイをリッチーがやっていたんですよね。

リッチーは人間的にもなかなかトリッキーなんですよ。ステージにライブカメラマンが寄ってきたときに邪魔だからギターで刺したり、新曲発売タイミングの雑誌のインタビューで「あの曲は嫌いだ」って言ったり(笑)。あと1974年に「California Jam」という大規模なライブイベントがあったんですけど、派手なことをしたかったんでしょうね。アンプに火をつけて燃やしたかったみたいなんですけど、油じゃなくてガソリンを仕込んでたもんだから燃えるっていうより爆発しちゃったんですよ(笑)。狙って行動しているんじゃなくて本性のまま生きてるんでしょうね。中学生の頃は、彼のそういうところに虜になりました。

リッチーは1997年に自分の嫁とBlackmore's Nightというアコースティックプロジェクトを始めて、ハードロックをやらなくなったんです。でもリッチーがやるハードロックを聴きたいオールドロックファンがすごく多いらしくて。それで2015年頃から年に4、5回の頻度で再開したんですけど、演奏がどんどん下手くそになってるんですよ。もう74歳なんで指の関節とかあまり動かなくなっているんでしょうね。その感じも熱いなって。いつか日本で観たいんですけど、日本に来たくないらしくて。「日本のファンが来てほしいという気持ちは知ってるけど、家には猫がいるしな」とか言っていて、「いやいや、ヨーロッパに行ってるじゃん」みたいな(笑)。もし来年とかにライブをやるなら、俺がアメリカに行ってしまおうかなと思っています。

ベースを始めるきっかけになった人

スティーヴ・ハリスは、俺がベースを始めるきっかけになった人ですね。中学3年のときにIron Maidenの「モンスターズ・オブ・ロック 1992」というライブビデオを観たら、ベースの人が一番カッコよかったんですよ。普通ボーカリストとかギタリストに目が行くと思うんですけど、スティーヴがでっかいベースを持ってベンベンベンベンって指で力強く弾いてステージを駆け回ってる姿を観て、俺もちょうど「楽器やるんだったらベースがいいなあ」と思ってたのでガチッとハマった気がして。それでスティーヴに憧れてベースを始めました。フレージングとか難しくて初心者に弾けるようなベースラインじゃないのでテクニック的な影響はあまりないんですけど、気付けばステージでモニタに足をかけているのは影響を受けてる部分かもしれないです。本当はベースを鉄砲に見立てたりしたいんですけど、そこまではちょっと恥ずかしくて(笑)。

スティーヴって、ドキュメンタリーDVDなどを観ると意外と発言がロックスターじゃないんですよ。「自分の好きなプレイを届けたいだけだ」みたいな感じで、地に足が付いてるというか。しかも、去年ベース雑誌の企画で俺がスティーヴにインタビューさせてもらう機会があったんですけど、話を聞くとドキュメンタリーで観たまんまでした。「自分のできることをちゃんとして、それで最高のパフォーマンスをすればお客さんは喜んでくれる」と言っていて、等身大なんですよね。自分の話をしたあとに「お前もミュージシャンならわかるだろう?」ってこっちの立場も気遣ってくれて、その感じがすごく紳士的でした。

そのインタビューをさせてもらったあとにソロのライブを観たんですけど、そのライブが正直会場に対して全然お客さんが入ってなかったんです。Iron Maidenでは何万人の前でライブをしている人なので、もしかしたらちょっと消極的なライブになったりするのかなと思ったら、60歳を過ぎてるのに若い頃のままステージを駆け回って、お客さんにもしっかりアイコンタクトをしていて。会場が埋まってるかのように見える。“スティーヴの目にはそう映ってる”くらいのパフォーマンスをしていて、それはやっぱりすごいスケール感でやっている人間が出せるパワーだなと思いましたし、そのスタンスには感動しましたね。

東京に出るきっかけを作ってくれたバンド

次に嫉妬するというか影響を受けたのはHi-STANDARDです。メンバーの誰か個人ということではなく、バンドとして。中学校まではハードロック、メタルしか聴いてなかったんですけど、高校生になった頃に周りがざわざわし出したんですよ。ネットのない時代に、俺が通ってた岡山の高校まで「ハイスタってバンドがヤバいらしい」って話がじわじわ伝わってきて。でも俺ら日本人っていうのをちょっと馬鹿にしてたんです。「どうぜJ-POPだろ」みたいな。まあ、洋楽好きには俺らが馬鹿にされてましたけどね、メタルなんで(笑)。そういう感じだったんですけど、高校1年のときに友達に聴かされたのがRainbowの「Since You've Been Gone」のカバーで。それのアレンジがすごくカッコよくて、「誰がやってんの?」って聞いたら「ハイスタだよ」って教えられて、それからアルバムを聴くようになりました。

1997年に2枚目の「ANGRY FIST」が出た頃には周りでもだいぶ評判になっていて、そのツアーで岡山のPEPPERLANDというライブハウスに来ることになったんです。それまでライブハウスに行ったことがなかったんですけど、徹夜してチケットを取って、楽しみすぎて開場2時間前くらいに会場に行ったら、外で横山健(G)さんがギターの弦を張り替えていて、その後ろを見たらツネ(恒岡章 / Dr)さんが洗濯物を持ってコインランドリーから出てきて。「いやいや、嘘だろ!?」って。ネットもない時代だからミュージシャンというのは雲の上の存在なんですよ。そこでまずカルチャーショックを受けて、ライブが始まったら200人も入らないくらいの会場を無茶苦茶にするわけですよ。それがとにかく衝撃で。当時高校3年で、なんとなく大阪の大学に行こうと思ってたんですけど、ハイスタのライブを観た次の日から「やっぱ東京に行こう」と思うようになりました。カルチャーショックを与えてくれて、東京に出るきっかけを作ってくれたバンドですね。

ハイスタはもちろんライブもすごいんですけど、バンドとしてのアティテュードもあって、メンバーそれぞれの個性が際立ってますよね。横山健さんのギターのスタイルと発言、ツネさんのストイックでテクニカルなドラム、難波(章浩 / Vo, B)さんのメロディのある歌声。あの3人のバランスを見て「これがバンドだな」と思ったし、THE BACK HORNもそうやって1人ひとりがちゃんと立てるバンドになれるようにという部分は影響を受けましたね。ハイスタの曲でオススメを挙げるとしたら、個人的には「MAKING THE ROAD」収録の「Nothing」です。あの曲のちょっとマイナーコードの感じがすごい好きなんですよね。

ただのモンスター

同年代のプレイヤーとして「こいつはヤバい」とずっと意識しているのはナガイケジョーです。2001年くらいに出会ってるからけっこう長いんですよ。俺がTHE BACK HORNのサポートを始めた頃にSCOOBIE DOとイベントとかで対バンすることがあって、おそらく彼も正式メンバーになるかならないかくらいのときだったと思うんですけど。俺もいろいろ試行錯誤している最中ではあったんですけど、あいつのベースはすごく覚えていて、しかも野心を感じたんですよね。こいつはこのまま終わらないだろうなっていう雰囲気がすごい出てました。その後もライブイベントなどで競演したときにチラチラと見る機会はあって、ベーシストとしてのスケールがどんどんでかくなっていっていて、言葉は交わさないんですけどやっぱすごいヤツだなとは思っていました。そのスクービーと初めてツーマンを今年の9月にやって、そのときにようやくちゃんと話したんですよ。打ち上げのときに「お前やっぱやべーな」っていう話をしたら、「俺も昔から思ってましたよ」って言ってきて、どうやらお互いに意識していたみたいですね。

彼はベースに関して今はただのモンスターだと思いますね。全部を引っ張れるし、存在も確立されているし、前にも出れる、後ろでも支えられる。テクニックがあるというのはもちろんなんですけど、確実に音楽を好きじゃないとたどり着けない深さがあるんですよ。モータウンだったり、ファンクだったり、相当いろんなジャンルを聴いていて、それだけ引き出しがあるんでしょうね。しかも楽そうな顔して弾くんです。全然複雑に聞こえないけど、実はすごい複雑なことをやっていて、それを簡単そうにやるから曲がずっと踊ってるというか。「いや、そのグルーヴを出すの、すごい大変なんですけど」みたいな。音源を聴いてもらうのもいいんですけど、ぜひ一度皆さんにもライブに足を運んで生で体感してほしいですね。

バンドマン全員の憧れ

もう1人、WRENCHのベーシストの松田知大さんも俺のルーツになってる人です。WRENCHは90年代前半から活動していて、ハードコア、サイケ、プログレといろいろ音楽的にも変遷しているんですけど、その中で松田さんの動きがとにかくヤバいです。パフォーマンスが独特すぎて、カッコよすぎる。リズムにちゃんと乗ってビシビシ決めるタイプというより、殺陣を見ている感じですかね。一瞬の生と動の差が激しくて、「え? そこでそう動く?」みたいな。男女共に持っていかれると思いますね。90年代後半に“バンドマン全員松田さんに憧れた事件”っていうのがあったんですよ。俺の周りは全員松田さんの動きに憧れて、挫折し、そして各々のスタイルになっていきました。みんな通る道でしたね。今見たらさらに進化しているので、その存在はずっと憧れですね。

岡峰光舟

1979年生まれ、広島県出身。THE BACK HORNのサポートベーシストを約2年間務めたあと、2002年に正式加入。手数の多いメロディアスなベースライン、スラップやタッピング奏法、和音弾きなど多彩なプレイでバンドの軸を担う。THE BACK HORNは2018年に結成20周年を迎え、同年ミニアルバム「情景泥棒」やインディーズ時代の再録アルバム「ALL INDIES THE BACK HORN」を発売。2019年2月にはアニバーサリー企画として3度目となる東京・日本武道館公演を開催した。2019年10月にニューアルバム「カルペ・ディエム」をリリース。

取材・文 / 丸澤嘉明 メインカット撮影 / 斎藤大嗣

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