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映像で音楽を奏でる人々 第17回 アクション映画のノウハウでエンタテインメントを表現する久保茂昭

約4年前2020年08月17日 9:01

ミュージックビデオの監督など、あらゆる形で音楽に関わる映像作家たちにフォーカスを当てたこの連載も17回目。今回はEXILEや三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEをはじめとするLDHアーティストのミュージックビデオや映画・ドラマ「HiGH&LOW」シリーズの監督として知られる久保茂昭に話を聞く。

今となっては、たくましい男たちのパフォーマンスを魅力的に見せることに定評があるが、もともとは安室奈美恵や倖田來未、島谷ひとみといった2000年代のディーヴァたちの作品を主としていた久保。EXILE HIROとの幸運な出会いからルーツであるアクション映画の知識を生かした今の作風に行き着くまでの経緯や、スケール感満点のMVをきっかけに誕生した「HiGH&LOW」の裏話もたっぷりと語ってくれた。

取材・文 / 清本千尋 撮影 / 梅原渉

「お前の作る映画は映画じゃない」

小学生の頃の夢が映画監督だったんです。当時はジャッキー・チェンが大好きでアクション映画をよく観ていました。洋楽が流行っていた1980年代に中学校に上がって、その頃にたくさんの洋楽と出会ったんですよね。いつしか映画と同じくらい音楽も好きになって、高校まではどちらかというと音楽にハマっていました。高校時代は将来のことは何も考えてなくて、卒業したらとりあえずバイトで食っていこうかなと思っていたんですが、社会に出てすぐに自分のやりたいことをやるべきだと考え直して、二浪して日本大学の芸術学部に入りました。大学ではたくさんの自主制作映画を撮りましたね。台本を書くときに音楽からインスピレーションを受けることが多かったんですよ。「この曲がエンドロールで流れたらいいな」という思いで書き始めたり、歌詞をもとにストーリーを組み立てたり。大学3年のときに課題で作った15分の短編はシンナーにハマっている少年の物語だったんですけど、かなりぐちゃぐちゃな映像でトリップシーンを撮って曲をガンガン流したら、大学の教授たちに「お前の作る映画は映画じゃない」なんて言われて。当時はすごく落ち込んだんですけど、今思えばその言葉で自分の才能に気付かせてもらったみたいなところもありました。

EXILE HIROとの出会いを引き寄せた安室奈美恵や倖田來未のMV

僕が大学に通っていた1990年代は日本でもMVがたくさん作られるようになった頃なんです。hide with Spread Beaver「ピンクスパイダー」を撮った丹修一さんもMVを撮り始めた時期ですね。日大芸術学部の人間としてMV撮影の現場に行かせてもらう機会が増え、映画よりもMVの監督になりたいという夢が生まれました。そんな中でTHE YELLOW MONKEYとか明和電機の作品を撮っていた高橋栄樹さんに師事することになり、バンドのMVをたくさん作らせてもらいました。栄樹さんのアシスタントを辞めて独立するかしないかの頃、島谷ひとみさんの「やさしいキスの見つけ方」のMVを撮るチャンスをいただいて。それが好評で女性アーティストやダンスにフォーカスしたMVを撮らせてもらうことが増えました。その流れで倖田來未さんと一緒にたくさんMVを作らせてもらって、ちょうど彼女の人気が出てきた頃だったので、一緒に自分の作品も世の中にアピールできたんだと思います。

今となっては、世間ではLDHさんのMVや「HiGH&LOW」を撮っている監督みたいに思われてるかもしれないんですけど、そうなったきっかけは僕が撮った女性アーティストのMVをHIROさんが気に入ってくれたからなんです。HIROさんが新しい映像監督を探しているときに、安室奈美恵 & DOUBLEの「BLACK DIAMOND」、倖田さんの「Hot Stuff feat.KM-MARKIT」、BoAさんの「LOSE YOUR MIND feat.Yutaka Furukawa from DOPING PANDA」を撮った監督を教えてほしいとエイベックスに連絡があったそうなんですが、3本すべてが僕の監督作で(笑)。HIROさんと出会って僕の監督人生はガラッと変わりましたね。声をかけてもらうまでEXILEのことはあまり知らなかったし、最初のプレゼンでは「僕、最近は女性しか撮ってないんですけど……」と手が震えていました。会った瞬間からHIROさんは優しかったんですけどね(笑)。

HIROさんをはじめ、EXILEメンバーはダンスパフォーマンスに対してすごくプライドがあるので、まずはバラードを撮ってほしいと言われたんです。それで撮ったのが「ただ…逢いたくて(第2章 Ver.)」。その後、14人体制になってから撮らせてもらったのが「ふたつの唇」です。「ふたつの唇」や、同時期に撮らせてもらったDreamの「Breakout」のMVがHIROさんにハマったようで、EXILEの「VICTORY」でやっとダンスもののMVを撮らせてもらえたんです。だから僕の監督人生はずっと地続きなんですよね。

ダンスMVとアクション映画の共通点

EXILEを撮る前からダンスもののMVが得意だと自負しながらも、当時の僕は全然ダンスに詳しくなかったんです。それなのになぜダンスものをうまく撮れたのかというと、昔から大好きで自主制作でもよく作ったアクション映画の知識なんですよね。アクション映画の面白さは殺陣で映像を紡いでいくところなんですが、ダンスもそれと一緒で体を使って歌詞に描かれたストーリーを作っていくので、そういうところが似ていたんだと思います。最初にAKIRAくんと会ったときに「久保監督はなんでそんなにダンスシーンをつなぐのがうまいんですか?」と聞かれて、「ただアクション映画が好きなだけですよ」と答えたことを覚えています。当時の僕はAKIRAくんたちが得意なクランプのことも勉強中だったので、それが精一杯でした(笑)。

島谷さんや倖田さんともアクションを取り入れたMVは撮らせてもらっていたんですが、まさか大好きな「マッドマックス」のような世界観のMVを撮ることになろうとは……(笑)。具体的に言うと三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEの「STORM RIDERS feat.SLASH」なんですけど、カーチェイスものはこれが初めてだったかな。

三代目の「STORM RIDERS」や「FIGHTERS」のようなスケール感のあるMVが完成して、HIROさんの中に「HiGH&LOW」のアイデアが浮かんだそうです。その頃はAKIRAくんや岩ちゃん(岩田剛典)が映画に出始めて、劇団EXILEもいて、身体能力の高い役者がLDHにそろっていたんです。従来のテレビドラマでは彼らの身体のポテンシャルを最大限に生かすアクションシーンがなかなかなかったので、「HiGH&LOW」ではここぞとばかりにアクションの練習をしてもらってスタントマンもほぼ使わず撮ろうと。身体能力もそうですけど、ファッションとかビジュアル的な部分でも自分たちが表現できる強みを生かした作品を作ろうという話から「HiGH&LOW」プロジェクトが始まりました。僕が参加したときにはすでに各チームのイメージはできあがっていたんですが、キャラクターに関しては俳優部含めみんなで考えていきましたね。

「HiGH&LOW」は夢を叶えてくれる場所

MVにしても「HiGH&LOW」にしてもHIROさんのこだわりがとにかく強くて、そのチェックは100人以上いるエキストラのうちの1人にも及びます。「雨宮兄弟は革ジャンを取り入れた全身ブラックコーディネート。バイクはイメージに合ったものを作ろう」という提案があったときは「バイクを作る!?」と驚きました。

でもそういったこだわりが形になっていくのはワクワクしますし、作り手としてはものすごい喜びがあります。「HiGH&LOW」は本当に夢を叶えてくれる場所ですね。HIROさんの夢は壮大で、LDHはそれを1つずつ実現しているという感じなんです。LDHはもともと財力があったわけではなくて、自らパフォーマーとして活躍していた方がゼロから作り上げた会社なのですごいですよね。いろんなアーティストさんと仕事をしてきましたがLDHさんはなんでも別格だと思います。もう1つ「HiGH&LOW」の話をすると、EXILE「No Limit」のMVでカメラを1秒で10m移動させることができる機材を使ったんです。

「トータル・リコール」のリメイク版で使われていた機材なんですけど、HIROさんに使ってみたいと話したらそれに乗ってきてくれて。ハリウッドから専門のスタッフと一緒にその機材を取り寄せたんですけど、1台使うだけで数千万円くらいかかるんです。それを2台使って満足いく映像が撮れたんですね。その話をふと「HiGH&LOW」のアクション監督の大内貴仁さんに話したら「うちのアクション部がカメラを積んだワイヤーを引っ張れば30mを3秒で移動させられるんじゃないか」というアイデアが出てきて。アクション部は普段人をワイヤーで引っ張り上げたりしているのでめちゃくちゃ力持ちなんです。で、そのアイデアを「HiGH&LOW THE WORST」で使ったんですよ。河原で戦うシーンなんですけど。ハリウッド作品で得たアイデアを人力で叶えました(笑)。

世の中の人とMVを通じてエンタテインメントを楽しみたい

僕、世の中を救うのは音楽だとずっと思っているんですよ。だって音楽は生まれたばかりの赤ちゃんでも楽しめるものでしょう? だからMV監督をやっていて自分が売れたいとかそういうふうにはあまり考えてないんです。音楽というカルチャーやそれを表現するアーティストたちへのリスペクトの思いしかなくて、それをいかに増幅させられるかを重視しています。丹さんや栄樹さん、スミスさんみたいにとがった表現ができるのも素晴らしいですが、自分の個性はそういうエッジの効いたものではなく、アーティストファーストで作品を作れるところだと思います。あとはときどき自分が好きなアクションの世界観を入れられたら……ぐらいですね(笑)。アーティストが持っているポテンシャルを見出して最大限に見せられるアイデアやシチュエーションを提案して、エンタテインメントとして昇華できればと考えています。例えるならライブに近い感覚かなと思っていて、世の中の人と一緒にエンタテインメントを楽しみたいという気持ちが大きいです。

昔「1カットでもそのアーティストがいい表情じゃない、いい動きじゃないシーンを使っていたらそれはMVとして成立しない」とレーベルのえらい人に言われたことがあって、それはある種トラウマのように今の僕の作風に影響していると思います。その言葉だけじゃなく、そういう感覚はこれまで関わってくれたアーティストやスタッフの皆さんに育ててもらいましたね。DOUBLEなんて「ROCK THE PARTY」のMVを作っているときに丸2日間ずっと編集に付き合ってくれて、ああでもないこうでもないと一緒に構成を練ったこともありましたし。本人と一緒に編集していく作業も勉強になりました。

今まで撮った中で思い入れがあるビデオは、やっぱり「ふたつの唇」ですね。くまなくこだわって作れたんです。あのMVを作らなかったら「HiGH&LOW」もきっと生まれてないですよ。「ふたつの唇」はアクションというものがLDHの中でより広がっていくきっかけになった映像だったので。HIROさんと一緒に作るビデオはどれも思い入れがあるんですが、EXILE TRIBE「24karats TRIBE OF GOLD」が完成したときに「自分は大人数のビデオを撮れるんだ」という自信を得ましたね。巨大なセットの中でEXILEと三代目の総勢23人に踊ってもらって、それぞれの個性を見極めながら4分の尺に収めるというのは当時の僕にとって挑戦でした。

MV制作から地続きで生まれた「小説の神様 君としか描けない物語」

今、僕は「小説の神様 君としか描けない物語」の公開を控えているんですが、映画とMVだと現場スタッフの作品への向き合い方が全然違うんです。MVは歌に対して映像のクオリティやアイデアを切磋琢磨していく感じで、映画は物語を軸に芝居や音楽も絡んでくるのでもっと要素が多い。だからMVを中心に撮影していた僕からすると、映画という媒体はよりエンタテインメントを突き詰めたものだと思っていて。「小説の神様 君としか描けない物語」も実は僕の経歴が反映されている作品で、過去にYUIさんの「Laugh away」のMVで使った丘が登場します。

原作を読んだときにYUIさんの曲が自分の頭の中で鳴って、あのMVの雰囲気を映画の中で出せたらと思ったんです。実は「小説の神様 君としか描けない物語」を撮ることになったきっかけもHIROさんで、「久保監督の青春映画を観てみたい」というひと言で動き出したんですよ。まずは自分で原作を探して動き出すまで2年近くかかったんですが、ようやく固まってきたところでHIROさんにLDHの人を起用したいとお願いして。企画書を読んだHIROさんは佐藤大樹を提案してくれました。大樹はお芝居もうまいし性格もいいし、かわいい(笑)。

K-POPに感じる可能性

昔から注目しているのはK-POPです。K-POPアーティストはブランディングが上手で、エンタテインメントの見せ方をわかっている気がするんですよね。特にファンとのつながりをとても大切にしていて、お互いの関係にすごく愛があってそういうところもいいなと。日本だとCDが売れないという理由でMV制作の中でどこかあきらめている部分があるというか……いや、韓国のアーティストもあきらめている部分があるかもしれないんですが、それでもクオリティが高いと思うんです。ちょっと前までK-POPはJ-POPのマネみたいな風潮があったと思うんですけど、今では完全に抜かれちゃって、世界でも確固たるジャンルとして認知されています。K-POPのビデオで最初に感動したのはBIGBANGですね。「BANG BANG BANG」とかG-DRAGONのソロのビデオは何度も観ました。高価な機械を使わずともアイデアやカメラワークでダンスの見え方がこんなに変わるのか、といろんな発見がK-POPのビデオにはありますね。いつかチャンスがあればK-POPアーティストのMVを撮りたいです。あと日本のバンドのMVもまた撮りたいですね。ゴージャスなMVの話ばかりしてしまいましたが、ちゃんといただいた予算の中でがんばります(笑)。

久保茂昭が影響を受けた映像作品

U2「Even Better Than The Real Thing」(1991年)

大学時代に観て音楽と映像の融合でこんなにも人をワクワクさせられるのかと衝撃を受けました。あとこのビデオで驚かされたのが、縦に360°回るカメラワーク。MVにはものすごい可能性が秘められているんだなと思いました。

THE YELLOW MONKEY「太陽が燃えている」(1995年)

パフォーマンスに対してのカメラワークが当時の僕にすごく刺さりました。横撮りで動いているだけなんですけど、色味も特徴的ですごく心が動きました。

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