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番組終了を迎えるEテレ「シャキーン!」の音楽面を掘り下げる (前編) 驚きのアーティストが続々登場、ネットを騒がせた“音の振動で紙相撲”コーナーはどうやって作られたのか

2年以上前2022年03月19日 8:06

NHK Eテレで早朝に放送されている教養バラエティ「シャキーン!」が、今年3月をもって放送終了となる。

パイロット版を経て2008年にレギュラー放送がスタートした「シャキーン!」は、登校前の子供たちが“シャキーン!”と目覚めることを目的に、クイズやゲームなどさまざまなコーナーで構成された15分間のエンタテインメント番組。通好みのアーティストを多数起用した歌のコーナー「シャキーン!ミュージック」をはじめ、意外なミュージシャンが時折登場し、音楽ファンからも熱い注目を浴びている。

この記事では放送終了を機に、これまで番組制作に関わった3人のスタッフに、音楽面を軸にした取材を実施。前編ではディレクターの和賀博史氏と、音楽担当のサキタハヂメ氏に、これまでの番組作りの裏側を振り返ってもらった。

取材・文 / 橋本尚平

「音相撲」から「サウンドランナー」まで、増えていく新種目

レギュラー放送開始からの14年間で、100人ではきかないほどのディレクターが制作に関わってきたという「シャキーン!」において、スタート時からずっとディレクターを務めている唯一の人物が和賀氏だ。

もともと日本で映像制作をやっていた和賀氏は、イギリスの文化が好きで「海外で勝負してみたい」と思い渡英するも、就労ビザが取れずに帰国。その後はミュージックビデオやテレビ番組の仕事に関わるが、どれも面白いと思えず長続きしなかったという。仕事に辟易していた氏は、「シャキーン!」の制作会社・ディレクションズから「新しい番組を作るので参加してみないか?」と声をかけられて番組のパイロット版を視聴。それまでに観たどの番組とも違う異質な面白さを感じて、レギュラー放送開始と同時に番組作りに参加することにした。

名物企画の1つとなった「サウンドファイターズ」を手がけていたのも和賀氏だった。

「番組開始2年目くらいから『音相撲』という、スピーカーの上に紙相撲を置いて動かすコーナーをやっていたんです。このときは対戦ではなく、1人のアーティストが横で音を出すシュールな企画でした。子供たちに『音は振動によって発生する』という仕組みをわかってもらうのに、紙相撲に落とし込んだら視覚的にわかりやすくて面白いんじゃないかってアイデアで」

その後、「音を出す喜び、楽器を弾く楽しさを子供たちに感じてもらいたい」というコンセプトを打ち立て、対戦形式にしてゲーム性を高くしたコーナー「音棒倒し」がスタートした。「音棒倒し」はスピーカーの上に棒を立てた砂山を置き、2人のベーシストが交互に演奏して先に棒を倒したほうが勝ち、というもの。このコーナーで使った砂について、和賀氏は「徐々に崩れるように何度も試行錯誤して、川砂と乾燥砂を2:8のオリジナルブレンドにするなどこだわりました」と振り返る。

さらにここから派生して、向かい合った2人のミュージシャンが楽器の音の振動で紙相撲をするコーナー「サウンドファイターズ」や、スピーカーに糸を付けて紙人形をぶら下げ、音の振動でゴールまで進めてタイムを競うコーナー「サウンドランナー」といったコーナーも始動。「サウンドファイターズ」で使用したスピーカーを仕込んだリングは、機材のチューンナップなどを得意とするベーシストの砂山淳一に設計を依頼した。

「砂山さんとスタジオで『プラ板の厚みは何mmだと音の振動が伝わりやすいだろう』『それなりの大きさがないと迫力がなくなるけど、大きすぎると持ち運びが大変だな』みたいなことを言いながら延々とテストをしてました。そうは言っても潤沢に予算が使えるわけではないので、スピーカーは1玉3000円くらいの安いものを使っているんですが」

「サウンドファイターズ」では、鈴木研一(人間椅子)と向井秀徳(NUMBER GIRL、ZAZEN BOYS、KIMONOS)の対決など、朝の子供向け番組らしからぬ尖ったブッキングに、オンエアのたびにSNSなどで驚きの声が殺到した。これらのコーナーのキャスティングをすべて担当してきた和賀氏は語る。

「ネットで話題になりたい、という考えはまったくありませんでしたね。『物事を違う角度から見る』という番組コンセプトの通り、『子供たちに多種多様な音楽や人間を感じてほしい』ということを意識していました。こういう音楽もあるよ、こういう面白い表現をする人もいるよ、というのを子供たちに提案するっていう。ネットでよく『中の人の趣味が出てる』と書かれているんですけど、全然そういうことではなくて。人間椅子の鈴木さんと向井秀徳さんが並ぶ絵面になったのは、あくまで結果なんですよ。それが薬になるか毒になるかはそれぞれの子供たち次第だと思います」

音で戦うこれらのゲームは、人形の形状だけでなく、楽器の種類や奏法によっても勝敗が左右される。

「人形の顔は選手ご自身に作ってもらうんですが、『サウンドファイターズ』では重みがあるほうがやや有利なので、帽子をかぶっているH ZETT Mさんは強かったですね。ただそのぶん自滅も多かったですが……。歴代最強の選手はたぶんUK(MOROHA)さんだと思います。このコーナーはアフロ(MOROHA)さんがナレーションを担当していたので、UKさんにも選手として出ていただいたんですが、エレアコのボディをパーカッションのように叩いて弾くので音圧がすごく強いんですよ。強すぎて実は少しセーブしてもらってました」

UKと田渕ひさ子(NUMBER GIRL、toddle、bloodthirsty butchers)の一戦では、ちょうど収録前日に他局で放送されたテレビ番組で「尊敬する人は田渕ひさ子さん」とUKが発言していたため、当日は2人の話が盛り上がっていたという。

和嶋慎治(人間椅子)対KANAMI(BAND-MAID)の対決は、双方ともメタルシーンにおいて世界的に注目されているギタリストということもあり、海外でも話題に。また出場者のラインナップは国内アーティストだけにとどまらず、来日中のサンダーキャットが休日課長(ゲスの極み乙女。、DADARAY)、中村佳穂、吉田一郎不可触世界とバトルを繰り広げたこともあった。

「番組に興味を持ってくれたサンダーキャットサイドから、NHKの代表番号に電話が来たんです。それで『なんかサンダーキャットっていう人から連絡が来たよ』って言われて。プロデューサーはプロレスラーだと思ったらしいです。僕はもともと大好きだったから、冗談を言われてるんだと思ってました(笑)。佳穂ちゃんやゲスの極み乙女。のメンバーたちがサンダーキャットのファンなのは知っていたし、吉田さんも相性はいいだろうと思ってこのメンツにしました」

音圧レベルは楽器によってまったく違うので、異なる楽器のプレイヤーが対戦する場合は、試合が成立するようにバランスを取るのが非常に難しいのだとか。

「音を鳴らしたときに人形がなるべく同じくらい動くようにイコライズするんですけど、どうしても楽器によって有利なものと不利なものの差が出てくるんです。やっぱり異種楽器戦だとベースが強いですね。試合でドラムを使ったのはtricotのメンバーが全員出場した回だけなんですが、遠めのところにマイクを立てたり、マイキングを工夫したりして調節しました」

この一連のコーナーに関して、思い出に残っていることは何かを和賀氏に聞いた。

「印象的なのは、参加してくれたミュージシャン全員が楽しんで演奏してくれた姿です。誰一人としてつまらないっていう人はいなくて。真剣に楽しんでやってました。サンダーキャットはもう少しデカい音を出したかったって言ってましたが。感動したのは2018年に京都の法輪寺で『ベース縁日』というイベントでやった『サウンドファイターズ』の公開収録です。一般の子供たちにも参加してもらいました。ベースを弾けなくて叩いてるだけの子が多いのに、自分で出した音でレスラーが動いてる、それを喜んでくれて行列ができたんですよ。まさに音を楽しんでいる、音楽そのものでした。それを見て『僕はこの光景が見たかったんだな』って気付いたんです。ほかにも出張版として、奈良の小学生のブラスバンドが一斉に演奏して、たなしん(グッドモーニングアメリカ)と対決するという企画もやりましたね。残念ながらコロナ禍になってしまったので継続できませんでしたが、可能ならイベントを開催したり、一般の子供が参加するコンテンツにできればよかったなと思っています。またチャンスがあればチャレンジしたいです」

音楽担当サキタハヂメ氏が考える「シャキーン!」らしさ

「シャキーン!」の音楽を担当しているミュージカルソー(のこぎり)奏者のサキタハヂメ氏は、レギュラー放送開始前のパイロット版から番組に関わっている。現在も放送されているオープニングテーマ「シャキーン!のテーマ」や、エンディングテーマ「シャキーン!の木」は、すでにその頃から流れていた楽曲。「シャキーン!の木」は「とんがったって まるくたって ちっちゃくたって 進みましょう」という、子供たちがそれぞれ持つ個性を肯定するような歌詞が印象的だ。

これらのテーマソングを含む、最初期に作られた曲についてサキタ氏に聞いた。

「普段は作曲をすることが多くてあまり歌詞は書かないんですけど、テーマソングの2曲は歌詞も書きました。メインテーマをちょくちょく変える番組もあるけど、この曲は初オンエアから15年間、本当にみんなに守ってもらいましたね。『シャキーン!のテーマ』は大阪のアルケミースタジオで、『シャキーン!の木』は滋賀のスタジオボスコで、気のおけないミュージシャン仲間たちに集まってもらってレコーディングしました。エレクトロとアコースティックと気合いと生々しい歌声を絶妙に混ぜた"お目覚めサウンド"を作りたくて試行錯誤したことを覚えています。NHKの朝ってことで、『シャキーン!』のテーマの中に『NHKのど自慢』のあの鐘のフレーズをぶっ込んでみました」

「『シャキーン!ミュージック』1曲目の『るるるの歌』はアニメの絵も担当されたマメコミさんが作詞をしています。歌は僕がデモで歌ったつもりのものが『これすごくくいいじゃん!』とプロデューサーに言われて、そのまま流れ、しかもたくさんのバージョンができました(笑)。手塚治虫さんの『火の鳥 ◯◯編』みたいに」

現在に続く「心と体の目覚めを促す」という番組コンセプトは15年前の時点ですでにあり、サキタ氏はこのコンセプトに沿ったいくつかの音楽をパイロット版のために提出。この頃から一貫して「今まで横だと思ってたものを縦に見てみたら面白いかもよ?」「見方を変えてみることで日常が変わるよ?」というメッセージを、楽曲を通して視聴者に提案し続けている。

これまでに番組のために何曲作ってきたのか聞くと、サキタ氏は「すさまじい数があるので数えないようにしてきたけど、たぶん500曲まではいってないんじゃないですか?」と言って笑った。というのも、初期の「シャキーン!」はディレクターや作家が毎週新しいコーナーを考え、そのたびに彼にオリジナルの音楽を発注していたのだ。これらの曲を作るうえで、サキタ氏は何を意識していたのか?

「うちも息子が2人いるからわかるんですけど、朝7時に子供を起こすって相当大変なことなんですよ。そんな簡単に起きるわけがない。だからビックリさせるような展開を作ったり、アホみたいなアレンジにしたり、視聴者参加型で歌やダンスやゲームをしてもらえるようにしたり……そういうことはいっぱいやってたかな」

このような工夫の一環として、かつては番組の感想やファンレターの宛先を歌にして募集していたこともあった。この歌は「おくってね!」というタイトルで2018年発売のアルバム「NHKシャキーン!10周年ベスト盤」に収録されている。

「最近はハガキじゃなくてメールでお便りをもらうことが多いんですけど、『この曲のおかげで今でもNHKの郵便番号を覚えてる』という書き込みをSNSでよく見かけるんですよ(笑)」

企画会議の場ではよく「それはシャキーン!的だ」「これはシャキーン!的ではない」という会話が繰り返されていたとサキタ氏は語る。

「『それじゃ普通のバラエティと一緒だよね』とか。あとはファンタジーの入れ方もですね。例えば、我々は魔法を使えないのに、魔法で何かが解決するのはシャキーン!的ではない。だから『それ魔法やん』って言われて却下した企画はけっこうあった気がします。音楽に関しても考え方は同じなので、いろんなジャンルの曲を作ってきましたが、そこに乗せる言葉がなんなのかが重要なんですよ。僕が作った『シャキーン!ミュージック』の曲は詞先が多かったです」

サキタ氏が作った楽曲でもっとも“シャキーン!的”だったものは何かと尋ねると、彼は「全部です。『シャキーン!』らしくない曲は1曲もないです」と断りを入れつつ、月替りの歌のコーナー「シャキーン!ミュージック」最後の曲として現在オンエア中の「卒業~ここからはるかへ~」を挙げた。

「作曲だけするのかと思ったら『サキタ、歌詞書いてみたら?』って言われたので、迷わずOKしました。この番組でやりたかったこと、伝えたかったことをガーッて書いていった結果、これが一番“シャキーン!的”な歌詞になったなと感じています」

後編では「シャキーン!ミュージック」を担当していたスタッフに、このコーナーから生まれたたくさんの名曲に関する話を聞く。

後編に続く

※記事初出時、本文に一部誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

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