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愛する楽器 第26回 TUCKERのエレクトーン

TUCKER
2年以上前2022年08月03日 10:03

アーティストがお気に入りの楽器を紹介するこの連載。第26回に登場するのはエレクトーン奏者TUCKER。1990年代より演奏活動を始めた彼は、パンクやヒップホップのマインドで、日本では“習い事”のイメージが強いエレクトーンという楽器に新たな息吹を注ぎ込んできた。海外でも精力的にライブ活動を展開し、ここ最近はEGO-WRAPPIN'のライブにサポートキーボーディストとして参加するなど幅広く活躍するTUCKERにエレクトーンとの出会いや、その楽器としての魅力を語ってもらった。

取材・文 / 松永良平 撮影 / 田中和宏

きっかけはBeastie Boysの「Check Your Head」

エレクトーンは、もともと家にあったんです。弾いていたのはお母さん。でも子供の頃はなんの注目もしてませんでした。90年代に入ってBeastie Boysの「Check Your Head」(1992年)にマニー・マークが演奏する鍵盤が入っているのを聴いたあたりから、クラビネット、ハモンドオルガン、ムーグシンセとか、昔のキーボードの音を意識するようになったんです。ハナタラシのコンピにムーグを使った曲が入っていて(V.A.「Live!! 88 Feb. 21 Antiknock-Tokyo / The Exotic Moog Of Space Age Bachelor Pad Music」1992年)、それも兄貴とよく聴いてました。「モンド・ミュージック」っていう本を読んだり、レコード屋さんの「その他」コーナーに入ってるレコードを探したり、みたいなこともしてましたね。ディック・ハイマン(1927年生まれのアメリカ人ミュージシャン。ムーグシンセを使った名作を数多く残している)というアメリカのジャズミュージシャンのことを調べて、レコードを買ってました。エレクトーンに目をつける前に、まずそういう状況があったんです。

兄貴とは「ムーグもの」みたいなレコードのジャンルがあるらしいよと話していました。お正月に実家に集まって、最近買ったムーグものを聴く、みたいなことが恒例になっていたんですけど、そこに道志郎さんのエレクトーンのレコードがあったりしたんですよ。その頃はそういうレコードをまだブレイクビーツ的に面白がっていただけなんですけどね。あるとき、兄貴が実家にあるエレクトーンで、「面白いから、これを弾いてカセットを作ろう」って言い出して。僕はハードコアパンクが好きでギターを弾いてたから、弦から鍵盤に運指を置き直して練習するというやり方で、わりとすんなりエレクトーンを弾けたんです。そうやって面白がって作ったカセットをレコード屋さんとかに置いてもらったのが、僕の最初のリリース。吉祥寺にあったテクノっぽい音楽を扱ってるお店とかCISCOにも置いてもらったんですけど、わりと順調に売れましたね。でも、その頃はなんとなく面白がってやってただけ。本気でエレクトーンを演奏しようとは思ってませんでした。

初期ヒップホップから感じた創意工夫の精神

それが本気になったきっかけがあるんです。Beat Bop Recordsというヒップホップのレコード店で働いていたとき、買い付けで入荷したVHSの映像で、Invisibl Skratch Piklz(DJ Qbert率いるDJチーム。ヒップホップの黎明期から活躍し、スクラッチという技法を革新し続けてきた)がターンテーブルでバトルしてる大会とかを観て、「自分もこういうことをやりたいな」と思ったんですよ。彼らがターンテーブルとミキサーを使って創意工夫を凝らして音を作り上げていくように、自分でも工夫して演奏できる楽器は何かないかなと周りを見回したら、エレクトーンがあった。そこからエレクトーンを探すようになったんです。ムーグやクラビネットはビンテージ化していて当時すでに価値があるものとして売られていたんですけど、僕は身近にあるもののほうがいいなと思ったんですよ。それまでレコードを聴くための道具でしかなかったターンテーブルを駆使して音楽を作ったり、「既存の価値観に頼らず自分たちで新たな価値観を生み出す」みたいなところに憧れを感じていたし。それと、エレクトーンは習い事として広まった楽器で、ストリートのカルチャーとは全然関係ないというのもよかった。ほかにやってる人もいなかったし、いろいろ可能性があるんじゃないかとは思っていました。

その時期に買ったドン・ルイスという黒人オルガン奏者のライブ盤「The Don Lewis Experience」(リリース年不明)も、かなり僕の考えを後押ししてくれました。ドン・ルイスが弾いているのはエレクトーンではなくハモンドオルガンなんですけど、彼はリズムボックスを駆使しているので、やってることが今の自分のスタイルに近い。それに、なんて言うのかな、リズムボックスとハモンドだけで演奏に熱気があふれてるんですよ。「発電してる演奏」みたいな印象でした。音はショボいんだけど、ボタンを押す音とか鍵盤をグワーンって荒々しく演奏する様子もそのまま収録されているライブ盤だったので、まさに「すごく発電してる感」があった。その頃のクラブミュージックは重低音で分厚い音の方向性が多かったけど、ドン・ルイスは逆のベクトルで、スカスカだけどめちゃくちゃ熱い。僕はハードコアでも重い曲ではなく、スカスカで速いタイプの曲が好きだったから、それに近いものを彼に感じていたのかもしれない。ショボくて軽妙な感じ、でもちょっと獰猛な感じもある。そのアンバランス感が好きだなと思って、さらにエレクトーンへの興味が増したんです。

エレクトーンを求めて駅前の音楽教室に通う日々

でも、最初はどうやってエレクトーンを探したらいいかわかりませんでした。今と違ってネットもまだ普及してなくて、市役所の掲示板にある「譲ります」コーナーとかを見て、エレクトーンがあったら「見に行っていいですか?」って電話してました。で、OKしてもらったら、仕事の昼休みに出向いて、知らない人の家に上がって「ちょっとエレクトーン見せてください」みたいな(笑)。駅前にあった音楽教室でも「70年代後半の古いエレクトーンを探してるんです」って相談しました。最初は「え? 変な人が来た」って感じの反応。でも毎日通っていたら、本気で欲しがってることをだんだんわかってもらえて、受付のおばさんたちも応援してくれるようになって。やがて、フィリピンあたりに出荷するための古いエレクトーンが立川の倉庫にいっぱい保管してあることがわかって、「これ住所ね。連絡つけといたから」って、おばさんからメモをもらいました。そこに行って見つけたのが、僕のエレクトーンの1台目。それが1997、98年くらいかな。

エレクトーンを実際にライブの現場に持ち込むのは大変でしたね。まず、あの大きさと重さ。あのままでは持っていけない。でも僕が手に入れたエレクトーンは音を作る基盤がボディの上半分だけにあるモデルだったんです。で、「(下の部分を)切ろう!」と思ってノコギリで切って、断面に板を貼りました。それでも30kgあるんだけど(笑)。現場までは、むき出しのまま台車で運んでましたね。しばらくは新幹線にも載せてました。でもある日、駅員さんに呼び止められて「これ、新幹線に乗せるの?」と聞かれて、「はい、もう10年やってます」と答えたら「ダメだよー!」って。そこからは宅急便を使うようになったんですけど、ケースが必要だから、それも自作しました。ハードケースだと重たくなるから、セミハードくらいの感じの素材でいろいろ計算して、ユザワヤと家を10回くらい往復しましたね(笑)。

最初のうちは、今のようにライブハウスでエレクトーンを弾く、みたいな感じではなかったんです。恵比寿にあったインスタントカフェっていう、お酒を飲むラウンジみたいなお店で毎週弾くというのを何年かやってました。その後、Jackie & The Cedricsのサポートで演奏してるとき、DJのDADDY-O-NOVから「ライブの合間のDJみたいな感じでエレクトーンを演奏してくれない?」ってガレージ系のイベントに誘われて。やってみたら僕のスコスコした演奏でみんな踊ったりして、おかしなことになって面白かったんです。そこからライブハウスでも演奏するようになりました。演奏中にエレクトーンに火を点けたりするようになったのも、その頃からです。

中古エレクトーンには現行品の楽器にはない面白さがある

「エレクトーン」というのはYAMAHAの商標なんです。家庭用オルガンというか、ビクターの機種名は「ビクトロン」、河合楽器は「ドリマトーン」。実家にあったのがたまたまエレクトーンだったってことなんです。現存する中古エレクトーンは限られてるし、ビンテージカーみたいな状況ですよね。部品も劣化していくし。そのわりに、エレクトーンってビンテージな価値が認められてないんですよ。オークションで競ったことなんて1回もないですもん(笑)。今、同じものを4台持ってるんですけど、現役で使っているのは立川で入手した1台目と2台目。たぶん78年製くらいだと思います。たまたま最初に買ったのがこれで、ちょうどよかった。これよりワンランク低い機種だとできないことがあるし、ワンランク上だと機能は増えるけど重くなって、動かすのが大変になるんです。最近は今まであんまりやってなかったことを試しています。アルペジオ機能を使った演奏とか。「どんな変な使い方できるんだ?」みたいな興味はずっと尽きないですね。

今4台持ってるうちの2台は、パーツを取り替えるためのスペアでもあります。20年くらい前にYAMAHAに修理の相談をしたら、昔の回路図みたいなものを持って、おじいさんの修理師が来てくれたことがありました。「リズムボックスのラテンのボタンを押しても鳴らないんです」と言ったら、「そこはもう直せないんだけど、ほかのマーチとかワルツを犠牲にすれば、ラテンが生き返る」と言われて(笑)。自分でも直し方を知りたいから、その人の手順をじっと見てましたね。そういうところに現行品の楽器にはない面白さがあるんです。あと、「バンジョー」とか「ギター」とかいろんな音色を出せるんですけど、それって昔の人が一生懸命似せようとして考え出した架空の音なんですよ。全然リアルじゃないんです。今の技術ならきっと、本当にリアルな音が出ると思う。でも昔の音は正体不明で特殊な音になってしまっている。そういうところも好きな理由ですね。だからと言って、わざわざ昔の音を復刻しようという需要もないけど(笑)。

ジェリー・ダマーズが鳴らしている独特の音の正体は…

The Specialsの2ndアルバム(「More Specials」1980年)で聴こえる変な音色のキーボードって、実はエレクトーンの音なんですよ。「Ghost Town」のイントロでも、僕が持ってるエレクトーンとまったく同じ音がしています。ジェリー・ダマーズが鳴らしている独特の音はこれなんです。The Special AKAでも彼は同じエレクトーンを使ってます。

でも、そういう話をほとんど誰ともしたことがない(笑)。The Specialsと同じ音がしてるということに気付いてくれたのは、EGO-WRAPPIN'の森(雅樹)さんや、チャーべさん(松田“CHABE”岳二)、カジヒデキさんくらいかな。そんな意味でも、もっと評価されていい楽器だと思います。

TUCKER

90年代からエレクトーン奏者として活動。エレクトーン演奏に即興性を掛け合わせ、リズムボックスやギター、ベースなどもたった1人でプレイするオリジナルスタイルで話題を集める。ソロ活動の傍らNatural CalamityやJackie & The Cedricsのサポートメンバーとして海外ツアーに参加したのち、1999年に7inchアナログでシングル「MAN FROM ELECTONE」をリリース。2003年に1stソロアルバム「TUCKER IS COMING」を発表し、翌04年には「FUJI ROCK FESTIVAL」に出演を果たす。これまでに3枚のソロアルバムと、1枚のDVDを発表。近年はEGO-WRAPPIN'、モッチェ永井BAND、YOSSY LITTLE NOISE WEAVERなどにキーボーディストとしても参加している。

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