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アーティストの音楽履歴書 第43回 崎山蒼志のルーツをたどる

崎山蒼志の音楽履歴書。
2年近く前2023年01月23日 10:01

アーティストの音楽遍歴を紐解くことで、音楽を探求することの面白さや、アーティストの新たな魅力を浮き彫りにするこの企画。今回は2018年にインターネット番組への出演をきっかけに世間から注目を浴び、多彩な音楽性を発揮しながら精力的に活動を続けている崎山蒼志のルーツに迫る。

取材・文 / 石井佑来

the GazettEから受けた衝撃と影響

初めて衝撃を受けたのは、4歳の頃にテレビで観たthe GazettE「REGRET」のミュージックビデオでした。家で音楽番組がよく流れていたのもあって、小さい頃から平井堅さんの「瞳を閉じて」を歌ったりしていたらしいんですが、「REGRET」のMVで初めてヴィジュアル系アーティストの作品に出会ったんです。ジャケットを着てバチバチにメイクをしているのが当時の僕には新鮮で、楽曲やサウンドよりも見た目を含めた世界観に惹かれたんだと思います。もともと母親はヴィジュアル系のバンドやDuran Duran、デヴィッド・ボウイといったアーティストが好きで。the GazettEに衝撃を受けた僕にBUCK-TICKを聴かせてくれたり、VHSに録画していたTHE YELLOW MONKEYの特集番組を観せてくれたりしたんです。その影響もあってか、幼いながらにCDショップで「Cure」というヴィジュアル系専門の雑誌を立ち読みしたりして、周りの大人にびっくりされてました(笑)。あとは父親から受けた影響も大きいと思います。父は高校生の頃にバンドでザ・スターリンのコピーをしていたらしく、家にいろんなアーティストのCDがあったんです。OasisみたいなUKロックもR&Bもオルタナもジャズも南米の音楽も全部好き、みたいな人で。今でもいろんな音楽をディグっているので、いろいろ教えてもらってます。最近だと母はK-POPにハマっているので実家に帰るたびにK-POPの話をしていて、僕も最近NewJeansにハマりました。いまだに両親からはいろんな影響を受け続けていると思います。

「REGRET」のMVでギターのURUHAさんとAOIさんを観たのが、ギター教室に通うようになるきっかけでした。もちろんRUKIさんのボーカルも大好きだったけど、音や声よりもまず、URUHAさんとAOIさんの“弾き姿”に憧れたんだと思います。あとは「REGRET」の翌週にリリースされた「Filth in the beauty」という曲からの影響も大きくて。その曲のギターサウンドがジェントみたいな、メタルっぽい音だったんですけど、それにすごく胸を打たれてしまったんです。その音を聴いて「ギターって、こういう音も出るんだ!」という驚きと「自分がやりたいのはこれだ!」という確信が押し寄せた。それで初めての習い事として近所のギター教室に通うようになるんですけど、最初に始めたのはエレキギターではなくクラシックギターだったんです。ジェントのような音を出したかったのに、「ちょうちょう」みたいな童謡をポロポロと弾いていた(笑)。当時はまだクラシックギターの魅力に気付けていなかったので、いつかジェントを弾けるようになるための足掛かりのような感覚でやってましたね。

エレキギターを持ち始めたのは小学3年生の頃でした。FERNANDESのZO-3という、アンプが内蔵されたギターを使って、LM.Cを弾いてみたり、同じギター教室に通っている大人の方たちと一緒にthe GazettEをコピーしたりして。あとはその頃からLinkin Parkや9mm Parabellum Bulletなど、ヴィジュアル系以外の音楽も積極的に聴くようになっていったんですけど、それらのアーティストを好きになったのも「Filth in the beauty」でジェントの音に憧れたのと、感覚的には遠くないような気がします。そう考えると、やっぱり最初にthe GazettEから受けた衝撃はかなり大きかったんでしょうね。音楽を始めたきっかけでもあるし、「映像やジャケットなどを含む世界観で魅せたい」という、今自分がやりたいことにも大きな影響を与えていると思います。

作曲に挑戦し始めた小学生高学年の頃、3DSで映像を撮り始める

初めて曲を作ったのは小学5年生の頃。ギター教室でいろんな曲をカバーしているうちに、「こういうコード進行が多用されているんだ」ということが徐々にわかってきて、それを使えば自分でも曲を作れるんじゃないかと思い始めたんです。それで当時持っていたニンテンドー3DSのムービー機能を使って、自分で演奏したオリジナル曲を撮影するようになりました。音楽を始めたきっかけが「REGRET」のMVだったというのもあって、当時の自分にとって“音楽と映像はセット”という認識がすごく強かったんです。初めて親に頼んで買ってもらった作品もPlastic Treeの「ゲシュタルト崩壊 -映像編-」というMV集だったし、祖父から観せてもらったマイケル・ジャクソン「スリラー」のMVに衝撃を受けたりとか、“映像”と“音楽”というものがとても密接な存在だった。だから、ただ演奏している様子を撮るんじゃなくて、カメラには自分以外の風景を写して、その画角外から自分の声とギターの音を入れるみたいな、そういうMV作りの真似事のようなことをしていたんです。当時作った映像は母親がDVDに焼いてくれてたんですけど、ジャケットも自分で描いたりしていたし、そういう“音楽の外側”のものに興味があったんだと思います。自由帳に架空のバンドの架空の曲名をズラーッと書いたりもしてました(笑)。

初めて自分のお金で買ったCDはKANA-BOONのシングル「盛者必衰の理、お断り」。「COUNT DOWN TV」でやっていた“これからブレイクするバンド特集”みたいな企画でクリープハイプの「社会の窓」とKANA-BOONの「ないものねだり」が紹介されていたんですけど、それを観てどちらのバンドも大好きになって。「盛者必衰の理、お断り」は曲を聴く前に、ネットで見たジャケットにとても惹かれたんですよ。だからより購買意欲を掻き立てられてしまって。やっぱり僕は音楽以外の部分も含めた全体の世界観に惹かれやすいんだと思います。当時はSEKAI NO OWARIが一気にメジャーシーンに躍り出た頃でもあったし、バンドの勢いがすごかった印象で、自分もそういうアーティストたちを熱心に追っていましたね。

中村文則の作品で初めて触れた文学「こんなふうに自分の心情を描いていいんだ」

小学6年生の頃から作詞もするようになったんですけど、中1の頃に自分の歌詞に大きな影響を与える作品と出会いました。それが、中村文則さんの小説「銃」です。もともと母親がこの作品を読んでいて、それで興味を持ったんですけど、母親から「難しいと思うよ」と言われて。そんなこと言われたら逆に読みたくなるじゃないですか(笑)。そういうある種の反骨精神で読み始めたら、ものすごく感化されてしまいました。僕はそれまで小説や文学にあまり触れたことがなかったので、何もかもが衝撃だったんですよね。物語の起承転結などで読者を引き付けるのではなくて、ひたすら主人公が自分自身と対峙している。風景描写で心情が表されていたり、そういう表現方法に触れるのも初めてで。「こんなふうに自分の心情を描いていいんだ。自分が抱えているモヤモヤした感情もこういうふうに表現できるかもしれないな」と思うようになったんです。それから中村文則さんのほかの作品も読むようになって、中1のときに教室で「教団X」を読んだりしてました。周りの友達に「それなんなん?」と言われながら、分厚い本をひたすら読んでましたね(笑)。

アーティストだと、凛として時雨のTKさんの歌詞が大好きです。センシティブさを内包しているんですけど、そういう部分に当時の自分は強い感銘を受けていたんだと思います。あとはNUMBER GIRLとか、きのこ帝国の歌詞にも影響を受けていますね。そういった感じで、当時はバンド系のアーティストばかり聴いていたんですけど、その頃唯一好きで聴いていたソロアーティストが石崎ひゅーいさんでした。「ミュージックステーション」で初めてパフォーマンスを見たときに心を鷲づかみにされて。その「Mステ」での演奏中に石崎ひゅーいさんの口に銀紙が入ってしまったんですけど、タモリさんに感想を聞かれて「銀紙が口に入っていい感じでした」って言ったんですよ。それを観て「うわ、めっちゃ好きだ」と思って(笑)。なので、去年石崎ひゅーいさんと一緒に曲をリリースできたのはとてもうれしかったですね。

16歳の人生を大きく動かした「日村がゆく」への出演

小学5年生だった2013年にKIDS Aというバンドを組んだのですが、部活やらなんやらでメンバーとの予定が合わなくなってきて、2016年頃からはほとんどソロで活動していました。公民館や駅前の野外で行われているイベントに、地方のミュージシャンに混ざって出たりして。趣味でPAをやってる人がスタッフを担当していて、お客さんはほとんど地元のおじいちゃんおばあちゃん、みたいな地域イベントのようなものだったんですけど、その頃にはもう「五月雨」なども歌ってました。ただ当時はあくまで“KIDS Aのメンバーとしてソロで活動している”という感覚だったんです。この頃はバンド系のアーティストばかり聴いていたので、例えばクリープハイプの尾崎世界観さんが1人で弾き語りをしていたりとか、そういう姿に憧れを抱いていて、それを自分でも体現しているような感覚というか。あとは、バンドでやりづらい曲でも1人ならなんとかなるかなという思いもありました(笑)。

“KIDS Aのメンバー”としてではなく“崎山蒼志”として音楽をやっていくという決心がついたのは、やはり2018年に「日村がゆく」(AbemaTVで放送されていた番組「バラエティ開拓バラエティ 日村がゆく」)の「高校生フォークソングGP」に出演して大きな反響をいただいたのが大きいですね。もともとはMCであるバナナマンの日村(勇紀)さんに会いたくて出たという側面が大きかったんですけど、いざ幕が上がったらサイトウ“JxJx”ジュンさんとスカートの澤部(渡)さんもいて。舞台袖で「あれ? もしかして澤部さんがいる……?」と思ってはいたものの、いざ本当に目の前に現れるとびっくりしますよね(笑)。出演後の1週間ぐらいは長谷川白紙さんにTwitterをフォローしていただいたり、好きだったミュージシャンの方から反応があるくらいだったんですけど、そこから一気に拡散されて。もちろんうれしかったんですけど、まったく予想だにしていない出来事だったので、このまま世の中に出て行って大丈夫なのだろうかという不安もありました。だって、当時まだ16歳ですからね……若い。今のNewJeansと同じぐらいの歳ですよ。

“崎山蒼志”というメディアになりたい

思いもよらない形でデビューしたので、それ以降の数年はどこか地に足が着いていないような感覚もあって。「今後どういうことをやっていきたいか」というビジョンみたいなものはここ1、2年で変わってきていると思います。デビューしてからの数年は、「五月雨」とか2015年頃に作ったものを放出していた期間で、今は原点に立ち返りながら自分のやるべきことを再構築しているような状態なのかなと。過去に自分が作った曲を改めて聴いてみると、中学1年生頃の曲がピュアでめちゃくちゃよかったり、そういう再発見というか、かつての自分と今の自分が邂逅するような感覚がある。自分の作った音楽を客観的に聴くことができてなかったからこそ書けていたものが絶対にあったと思うし、こうして振り返ってみても、ものすごく大切な期間だったなと思います。例えば、ここ数年はヒップホップにハマっていて、いろいろ聴いてはいるんですが、じゃあ自分にタイラー・ザ・クリエイターみたいなことができるかというと難しい部分もあるんですよね。そういう感じで、「こういう音楽に影響を受けたい」「こういう音楽は好きだけど自分がやるのは違うかもしれない」という線引きが徐々にわかってきたというか。じゃあその中で自分が本当にやりたいことってなんだろうと考えたときに、結局は幼少期に影響を受けたものに立ち返るような気がしていて。かつて自分がthe GazettEのMVに衝撃を受けたように、パッケージやMVを含めた世界観でいろんなことを表現できればいいなと思っています。

僕はいろんな人に協力してもらいながら、言葉では表せないような感覚を1つの世界観の中で表現したいんです。最終的には“崎山蒼志”という1つのメディアのような存在になりたい。YouTubeで公開されている「フェイクドキュメンタリー『Q』」というモキュメンタリー番組が大好きなんですけど、例えばそういう映像作品も“崎山蒼志”というメディアとして使える表現方法の1つかもしれないですし。もちろんあくまで音楽がメインというのは変わらないですけど。必ずしも自分が前に出なくてもいい、ということも考えています。崎山蒼志としての活動を続けながら、もっといろんなアーティストに楽曲提供をしたいし、プロデュースもしてみたい。これから大人になっていくにあたって、自分よりも若い人に好きにやらせてあげられるような存在になりたいなと思ってます。

こうして振り返ると、本当にありがたい経験をたくさんさせてもらってますね。これまでの経験すべてが宝物です。音楽の趣味が雑多で混沌としているのも、すごく自分らしいなと思います。NewJeansも好きだし友川カズキも好き、みたいな。最近だとbetcover!!の「卵」というアルバムがめちゃくちゃヤバかったです。ヤナセジロウさんもきっといろんな音楽に影響を受けているんだろうなと思うんですけど、不思議と統一感があるんですよね。あとはLil Soft TennisとかJUMADIBAとか日本のラッパーも大好きで。それこそ、映像も含めてとてもクリエティブだなって。そういう、これまで触れてきた作品すべてが自分の創作活動に影響を与えているんだと思います。

崎山蒼志(サキヤマソウシ)

2002年生まれ、静岡県浜松市出身のシンガーソングライター。2018年5月、インターネット番組への出演をきっかけに注目を浴びる。同年7月に初のシングル「夏至 / 五月雨」、12月に1stアルバム「いつかみた国」をリリースした。翌2019年10月には、君島大空、諭吉佳作/men、長谷川白紙とのコラボ曲などを収録した2ndアルバム「並む踊り」を発表。2021年1月にアルバム「find fuse in youth」でメジャーデビューを果たす。2021年にはアニメ「僕のヒーローアカデミア」5期第2クールのエンディングテーマ、水野良樹(いきものがかり)との共作でドラマ「顔だけ先生」の主題歌を担当した。2022年2月にメジャー2ndアルバム「Face To Time Case」をリリース。12月に放送されたフジテレビヤングシナリオ大賞ドラマ「瑠璃も玻璃も照らせば光る」の主題歌として新曲「My Beautiful Life」を書き下ろした。

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