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おんがく と おわらい 第8回 ニッポンの社長・辻×トリプルファイヤー吉田靖直 インタビュー

左から辻(ニッポンの社長)、吉田靖直(トリプルファイヤー)。
2年近く前2023年05月31日 9:03

音楽とお笑いの密な結節点をさまざまな角度から探るこの連載。今回は、歌詞のみならずエッセイや脚本を執筆し、大喜利などバラエティ番組にも出演するトリプルファイヤーのボーカリスト吉田靖直と、芸人仲間と結成したバンド「ジュースごくごく倶楽部」のギタリスト・コンポーザーとしても活動し、3月に1stアルバム「ジュースごくごく倶楽部の1杯目」をリリースしたニッポンの社長・辻の2人にインタビューを行った。互いにリスペクトし、プライベートでも交流があるこの2人だからこそ話せる、音楽とお笑いの共通点と相違点を存分に聞かせてもらった。

取材・文 / 張江浩司 撮影 / 斎藤大嗣

トリプルファイヤーの歌詞はコント書ける人の感じ

──トリプルファイヤーとジュースごくごく倶楽部のツーマンライブ「ごくごくファイヤー」が3月に行われましたが、対バンをしてみていかがでしたか?

辻(ニッポンの社長) もともとトリプルファイヤーのライブは観たことがあって、僕らと雰囲気は真逆のバンドだなと思ってたんですよ。

──確かにステージ上での佇まいとか、衣装や照明は対照的かもしれません。ド派手なジュースごくごく倶楽部に対して、暗めなトリプルファイヤー。

吉田靖直(トリプルファイヤー) 照明の人が「こいつらには青でも当てておこう」とか思ったんじゃないですか(笑)。ジュースごくごく倶楽部にも1曲参加したんですけど、辻さんはインタビューとかで「バンドはウケ狙いゼロでやってます」って言ってますよね。

 え、そんなこと言ってた? なんでそんなこと知ってんの(笑)。

吉田 確かにボケてる感じが全然ないなって。ユーモアがある歌詞なんですけど、笑いを取ろうしてる感じじゃない。ライブはポップで、人の明るさが伝わってくるんですけど、「芸人さんがやってるバンド」と聞いて多くの人がイメージするものとは違うから。

 ふざける感じでやるのはバンドに失礼やなっていうのがあって。一応言葉を扱ってる職業なんで、歌詞のユーモアは考えてますけど。トリプルファイヤーも歌詞はすごく面白いけどウケは狙ってないから、そこは共通してるんかなと。狙ってないもんな?

吉田 そうですね。

 ユーモアにとどめてるというか。狙っちゃうとコミックバンドになる。コミックバンドでもいいんですけど、芸人がそれをやったら寒いなとは思ってたんです。僕がミュージシャンやったら、芸人がコミックバンドやってたらダルいと思うんですよ。お笑いやるんやったらやっとけ、みたいな。逆にバンドマンがM-1にバンド編成で出てきたら「なんかちゃうな」と思うし。楽器を持たずにしゃべりだけで出てきて面白いならいいと思うんですけど。

──難しい線引きですよね。面白いけどふざけてない、という。この連載でもたびたび話に出ていますが、「面白げな音楽」という意味での音楽と笑いの融合は難しいんでしょうか。

 コミックバンドってバレへんかったらカッコいいと思うんすよ。Sex Pistolsとか、実は演じてただけみたいな感じじゃないですか。

──ああ、「ザ・グレイト・ロックン・ロール・スウィンドル」というドキュメンタリー映画やアルバムもありますもんね。プロデューサーのマルコム・マクラーレンが描いた絵図にメンバーは乗っかっていただけ、というか。

 そうそう。騙しきったらカッコいいと思うんです。「俺ら本当はコミックバンドだぜ」みたいな。THE TIMERSもカッコいいですよね。忌野清志郎さんによく似たZERRYの正体をみんな知ってるという。ああいう、それまで誰もやっていなかったようなやり方で突き抜ければカッコいいっすよね。

──トリプルファイヤーの歌詞について吉田さんに以前取材させていただいたとき、「『パチンコがやめられない』とか誰も歌ってないし、うまくいけば先駆者になれるかもと思った」とおっしゃってました。歌詞の面白さについてどのように意識していますか?

吉田 一応「自分が本気で思っていることを書く」というのがあって、それで聴いた人が笑ったりするのは別にいいです。「なんでこんなこと言ってるんだ」という感じで自分でも面白くなることはあるんですけど、本当に思っていることならセーフという線引きですね。

──「小手先で笑わせにいったらダメだ」と。

吉田 まあ、でも思ってないことを歌ってるときもたまにありますけど。

 わかるよ(笑)。線を引くってなると難しいよな。

──演奏中にお客さんの笑いが起こるのはうれしいですか?

吉田 狙いに行くわけではないですけど、「ここで笑いが起こるだろうな」と予想している場合もあります。笑いが起きたらちょっとうれしさもありますけど、どんどん笑わなくなっていくんですよ。それでライブのよさが減ったと思われたら嫌だなって。

──最近のワンマンは、笑うよりも没頭して聴いている人のほうが多い印象があります。初見のお客さんのほうが笑ってますよね。

吉田 あと、初期の曲のほうが笑う人が多いですね。「ちゃんとしないと死ぬ」という曲の「ドラッグをやってる奴はクズ」っていう歌詞でウケるときがあって。これは別に思ってることじゃないんですけど、自分と関係ないことを突然言い出すのが面白いなっていう。単にワードで笑わせてるわけじゃなくて、自分との距離感の表現だから、まあいいかなと。

 トリプルファイヤーの歌詞の構成は、ネタを作れる人の感じやなと思いました。大喜利じゃないけど、歌詞の順番とか展開に構成力がある。特に「トラックに轢かれた」は、1個面白いものを見つけてそれをいかに引っ張れるかという部分で、僕らのコンビのネタと似てるなと。あんまり得意じゃない人だったら歌詞をどんどん変えていくと思うんです。

──トラックじゃないものが出てきたり?

 はい。「トラック」はそのままで、ほかの要素でもたせるのがコントを作れる人だと思います。

吉田 しつこいのが面白いと思っていて。ニッポンの社長のネタも好きなんですけど、同じことを何回もやってると意味が変わってくる。テクノとかヒップホップみたいな繰り返す音楽をやりたいと思ってたときに、ジャルジャルの「おばはん絡み」っていうネタを観たんです。

吉田 この「おばはん」って言い続けて、だんだん頭おかしいやつになっていく感じがいいなと。リフもずっと繰り返してるとなんか変な気持ちになってくるし。

 確かにメッセージ性をこっちが勝手に汲み取ろうとしますよね。「トラックに轢かれた」が10秒で終わったら「ああ、面白いことしたかったんやな」で終わりですけど、あれを2、3分聴いたら「確かにいろんなことがあってもトラックに轢かれたらおしまいや」と思えてくる(笑)。こっちが深みを探すというか。

──それがミニマルな音楽性と合致してますもんね。すごく展開する曲だったら、歌詞の捉え方も変わるでしょうし。

 歌詞と曲含めて癖にさせる音楽なんですかね。

吉田 ずっと同じことやってると、ヤバい人っていう感じになるじゃないですか。ニッポンの社長のシャチのコントも、繰り返しですよね。

吉田 しかも展開が全然変わらない(笑)。音楽でもお笑いでも、同じ感じにグッとくるときがあって。やっぱり繰り返すのがカッコいいし、興奮するし、面白い。ちゃんと構成されてる音楽やお笑いには、その高揚感はあんまりないですね。

 洋楽の歌詞って英語がわからないと意味が通じないじゃないですか。僕は洋楽をよく聴くんですけど、歌詞の意味は調べないんですよね。だから洋楽好きな人のほうが入りやすい可能性があるんかなって。僕もわけわからん歌詞を書くんですけど。「入玉したいよ」とか。将棋用語ですけど、別に将棋なんかわからなくていいと思って書いてるんですね。歌詞って、ダサくなければなんでもいいと思うんですよ。

──辻さんが思うダサい歌詞ってどういうものですか?

 「あなたが好きだ」という歌詞を「あなたが好きだ」という気持ちだけで書いちゃうやつですかね(笑)。それが似合う人やったらいいんですけどね。ウルフルズさんがあえてストレートにやってるのとかはカッコいいんですけど、なんにも考えずにパッとやってるのもあるじゃないですか。で、それがめっちゃ売れたりするじゃないですか(笑)。中高生に人気っていうのはそういうことなんかなって。

──確かに「トラックに轢かれた」を聴いてこっちが深読みするのとは真逆ですもんね。

 「あなたが好きで~」みたいな歌詞は、文章やと思うんですよ。「トラックに轢かれた」は音楽に乗らないと意味が出てこないから、歌詞なんですよね。洋楽の意味を調べないのと同じで。

吉田 歌詞って本当にそうあるべきだと思うんですけど、「今後もそれでやっていけるのかな」って不安になってきました。この先「これ文章やん」と思われるんじゃないかって……。

 大丈夫やろ(笑)。

ラブソングとの距離がとれない

──先日行われた「初期のニッポンの社長」というコントライブでは幕間BGMと出囃子にトリプルファイヤーが使われていて、コントの世界観と見事に合っていました。

 めっちゃマッチしてましたよね。やっぱりどの曲もタイトルが面白いんで、全部コントの内容に合わせて選んだんですよ。親和性が高かったです。

──コント「コンビニ」の出囃子が「次やったら殴る」だったり、「ケンタウロス」が「神様が見ている」だったり、サブタイトルの位置にこの出囃子があることでコントの意味合いがさらに増えている感じがしました。普段の寄席での出囃子はどういう基準で選んでいるんですか?

 漫才とコントでけっこう変わってくると思います。僕らは今はRCサクセションの「トランジスタ・ラジオ」を使ってるんですけど、漫才のときにこの曲で袖から出ていくイメージが浮かんだので決めたんです。使い分けられるといいんですけどね。コントだったら電気グルーヴとかにしたかったんですけど、漫才は世界観が強い曲だとちゃうなって。

──ハードルが上がってしまうんですね。

 たまの「電車かもしれない」っていう曲も候補になったんですけど、だいぶ変な感じで始まるんですよね。漫才だと「何をしゃべるんだろう」と思われすぎてしまう。コントなら大丈夫だけど、漫才はハードルを下げないまでも、上げない出囃子が大事なんかなって。「電車かもしれない」は単独では使いました。

──そういう意味だと、トリプルファイヤーの曲は寄席で漫才をやるときにはあまり合わないんですかね。

 曲調は全然ありだと思いますけど、歌詞は面白すぎるかもしれないです。

吉田 芸人さんの出囃子ってメロコアの印象がありますね。

 さわやかな感じでカッコよく出て行けるのがよさそう。僕らのコントには絶対合わへんと思うけど。出囃子でボケちゃうと寒いなとも思うんですよね。

吉田 そこでボケる人もいるんですか?

 まあ、名前は出せへんけど(笑)。僕は音楽も好きなんで、そこでもダサいと思われたらあかんなとも思いますし。お笑いも音楽もセンスは共通してると思っていて、見る側としても「こんなダサい出囃子なら期待できないな」と思っちゃうんじゃないかって(笑)。

──そういう意味でも重要ですよね(笑)。

 音楽が特別好きじゃない芸人もいっぱいいるんで、僕が気にしてるだけなんですけど。角度がない選曲だと、ネタも角度がなさそうとは思っちゃいますね。角度がない音楽ってなんだって話ですけど(笑)。暗黙の了解なんですけど、THE BLUE HEARTSとかTHE HIGH-LOWSは使ったら寒いっていうのがあるんですよ。もちろん使ってる人もいるし、僕も大好きなんですけど、一時期みんなが使いすぎていたから、「みんな好きやけど使わへんねんで」というムードになったんですよね(笑)。

吉田 ブルーハーツは感動的になりすぎちゃう。M-1のメイキング映像みたいになりますよね。「漫才師ってカッコいいでしょ」みたいな感じに見えちゃう気がしますね。

 僕ら、以前は「ミッキーマウス・マーチ」を使っていたんですよ。スタンリー・キューブリック監督の戦争映画「フルメタル・ジャケット」で、アメリカの兵士が訓練して戦場に出てめっちゃ人を殺しまくったあとに、みんなで行進しながら「ミッキーマウス・マーチ」を歌うというめっちゃ怖いシーンがあって。そういう感じでコントの最後にむっちゃ衝撃的なオチが来て「ミッキーマウス・マーチ」がハケ囃子として流れたらオモロいなと思って選んだんです。

吉田 ニッポンの社長のネタでは、よく人が死んだりしますもんね。

──根拠のない暴力というか、理不尽の象徴としての暴力が本当によく出てくる気がします。

 コントの結末がハッピーになっただけで起こる拍手がむっちゃ嫌いなんですよ。「これなんやねん」みたいな(笑)。漫才でも伏線回収しただけで拍手起こったり。あれが嫌で、逆をやろうとしたんだと思います。

──やっぱりいい感じの音楽がタイミングよく流れると「いいもの観たなあ」という気分になりがちですよね。

 あれって詐欺なんすよ(笑)。展開でごまかしてるんすよね。でも、それでごまかしきれちゃうし、結果も出ちゃうんです。だから僕からするとあのやり方はシャブに手を出してるみたいな感じで(笑)。

吉田 最近の“いい話で終わるブーム”に抗いたい気持ちがあるんですか?

 うん。そこでやってる人に勝ちたいっすよね。でも、今年の「キングオブコント」でめちゃくちゃハッピーエンドなネタをやってる可能性もある(笑)。

吉田 ニッポンの社長がハッピーエンドなネタをやってたら、「なにか裏の意味があるのかも」と思いそう(笑)。

──トリプルファイヤーもまっすぐなラブソングをリリースしたら、「これはブラックユーモアなのか?」とリスナーを混乱させるかもしれないですね(笑)。

吉田 最近は、ラブソングでもなんでもやってみたいと思うんですよ。でも難しいっすね。こういう形で始めたんで。

 あー、わかる。

吉田 最初はJelly Fishみたいな、めちゃくちゃポップで、普通に展開があって、みんなが幸せになる曲をやりたかったんですよ。でも自分の能力的にそれはできないと思って、繰り返しのよさを押し出してやってきたから、もう普通にいいラブソングとかは作れないですね。

──そっちの音楽的な筋肉が衰えてしまったと。

吉田 もともとないし、さらになくなった(笑)。

 僕らも最初はテンポのいい漫才をやろうとして「無理や」ってなって今がありますからね。ちょっとネタを変えてみようかなと思っても、「これは昔試してやめたやつや!」と気付くことが多いです。もうちょっと若かったら根本的にガツンと変えることもあるかもしれへんけど。でも、トリプルファイヤーがメロディアスなバラードを歌うのはいいですよね。聴いてみたい。

吉田 どんどんスタイルが変わるバンドもカッコいいなと思うんです。

──アルバムごとに音楽性が変わるような。

吉田 そうそう、それができたらいいなって。今はメンバーも同じことをやるのに飽きてきてる時期で、それこそラブソング的な歌詞の注文がくるから、書いてみようと思うんですけど全然出てこないし、なんかキモいんですよね。ラブソングみたいなものと自分の距離感がうまくとれない。

 「距離感がとれない」っていう曲ができそう。

吉田 ああ、なるほど(笑)。実際の恋愛もそうかもしれないっすね。「LINEを2個連続で送ったらやばいかな」とか。

 そういう不器用な感じで。

吉田 メモっときます。

「あとから評価される」は、お笑いにはない

──ネタ作りと作曲に共通点はありますか?

 お笑いはホンマにポン!と生まれるのを待つ感じなんですよね。喫茶店でノートを広げて考える人もいるんですけど、僕はネタ帳も持っていなくて。「これええな」というアイデアを思い付いたらスマホにメモして、新ネタする前に見るくらいです。ネタはそのゼロイチがないとまったく作れないんですけど、音楽はギターをいじってるうちにできることもありますね。

──なんとなくリフが思いついて、というような。

 そうっすね。音楽は、特に僕らのバンドなんかは「絶対に新しいことをせなあかん」というハードルがないと思うんです。お笑いはやっぱり「新しいものをやらな」というプレッシャーがありますけど。僕はシンプルな音楽が好きなので、絶対に今日曲を作らなあかんってなったら作れちゃうんですけど、お笑いでそれをやるとむっちゃおもんないネタになってしまう。

──音楽はよくも悪くも「〇〇っぽくてカッコいい」という評価がありますもんね。

 オマージュのカッコよさがありますよね。僕らの曲でも「これはThe Whoみたいにしよう」みたいなことがあるし、気付く人が気付いたらいいっていう感じなんですけど、お笑いは誰かに影響されてることがバレたらあかんから、それを消す作業が必要で。あと、曲はできてからのほうが大変なんです。みんなでちゃんと練習せなあかんので。僕らコンビは練習しないんで、ネタさえできればゴールなんですよ。ライブにかけたあとで改良することはありますけど。

吉田 練習しなくていいのは、めちゃくちゃいいっすね。

 そこ?(笑) 怖いっすけどね。思い付かなくなったら終わりなんで。

──吉田さんは作詞作曲もして、文筆業や大喜利もされていますけど、それぞれに違いはありますか?

吉田 大学生のときに普通の曲を作ろうとしてましたけど、何をもっていい曲なのかが全然わからなくなってしまって。辻さんみたいに思い付きの何かがないと、必然性が感じられないんです。歌詞もそうだし、ドラマの脚本なんかも書きましたけど、テレビを観ているいわゆる普通の人が喜ぶものを書くということが、もうマジで向いてない。「これが面白い」というものが1つないと、自分がやっていることの意味も全然わからなくて。プロとして一定のクオリティのものを作り続ける人はすごいなと。

──同じライブでも音楽とお笑いではいろいろ違うかと思うんですが、いかがですか?

 音楽は何回も聴かせて結果が出ることもあると思うんです。映画でも2回目で好きになることがあると思うんですけど、お笑いは1回目でスベったらそこで“おもんないネタ”とすぐ結果が出ますよね。だから最初は新ネタをやるとき怖くて仕方なかったです。特に僕らのネタは繰り返しだから、1発目でダメだったらダメな時間が続くだけっていう(笑)。最近は俺がオモロいと思ってるから、正直普通のライブだったらスベっても構わないというか、緊張しなくなりましたね。バンドのライブのほうが、しょうもないミスしたくないから緊張します。ネタは覚えることもないんで、ミスとかないですし。

吉田 お笑いのネタって、繰り返し観ても面白いし笑えたりもすると思ってたんですけど、初見か2回目かではそんなに反応が違うんですか?

 同じお客さんに同じネタをやったら、露骨に笑いは減るでしょうね。時間を置くならいけると思うけど。だから同日に同じ場所で舞台があるときは、ネタは替えますね。1日中劇場におるお客さんもいるから。やっぱり初めて観るときが鮮度が一番高いんで、衝撃を与えたいネタをやる場所は選ばないとダメですね。テレビでやっちゃうと劇場でウケなかったりするんで。

──笑い声は上げないけど、「面白いなあ」と心の中で思ってることもありますよね。個人的にニッポンの社長のヒーローのコントは、何回観ても「うわ!面白い」とうっとりします。

吉田 そうっすよね。あれはもう現代アートみたいな。

 でも、やっぱりある程度笑いの量で判断されてしまうんで。みんなが無言で「いいな」と思っていても、それでは成立しない。そういう面ではトリプルファイヤーのライブ映像をYouTubeで初めて観たときに「盛り上がってないな」と思いました(笑)。でも生で観るとみんなちゃんとノッてるし、むっちゃ聴いてるんですよね。わかりやすい盛り上がりじゃないだけで。

吉田 音楽でもあからさまに(拳を振り上げて)こうなってないとウケてないと見なされるときはあります。僕も煽ったりできないんですよね。ライブでみんなが決まりごとみたいに手を上げるのを揶揄するような曲もあるんで。

──「カモン」を聴くと、トリプルファイヤーのライブで普通に盛り上がっちゃいけない気持ちになりますもん(笑)。

吉田 ライブ中にわかりやすく盛り上がってるふうの反応を誰もしてくれなくなっちゃったんで、これがいいのかまだわかんないですね。初めて僕らのライブを観にきた人は、歓声とか全然上がってないから「このバンド、スベってるな」と思うかもしれないし。

 でも、そういう人ってバンドの名前も覚えてなかったりするから。スベったことって、みんな忘れるんすよ。人を傷付けたり、悪い感じでスベると覚えられちゃうけど。10年以上やってわかったことですけどね。

みんなほどお笑いが好きじゃないのかもしれない

吉田 お笑いは笑い声っていう指標がはっきりあるからいいですよね。だからM-1とか競争できるんだろうし。しんどさもあると思うんですけど、目指しやすいところもありますよね。

 手っ取り早く世に出れる道ではありますね。でも賞レースに出ながらも、ホンマは「比べるものじゃないのに」とは頭の片隅で思ってます。

──お笑いの賞レースも漫才やコントで区切ってますけど、その中身はもっとジャンル分けできますもんね。

 でも、やっぱり賞レースで得たものが大きすぎて、その葛藤もありますね。あと個人的に、コントは何年かあとに観てもオモロいものが存在すると思います。漫才って、みんながいいところを参考にして洗練させていくから、5年前の漫才ってやっぱり面白い部分が少ないんです。でもコントはほかの誰かを参考にしてないから、5年後、10年後に観ても面白いものが多いとは言わないけど、たまにあるんですよね。自分らのコントに関しても、「5年後に一番味してるんは俺らやで」っていう意識があります。

──ディスクガイドに載るような名盤、という感じですね。

吉田 長い目で見たら、発想の切り口の強さがめっちゃ残りますよね。すごくカッコいい。

 ははは。

──作品派というか、辻さん自身が古い洋楽を聴いてきたことにも関係していそうな価値観ですよね。こういう考えの芸人さんは多くないのでは?

 あんまりいないかもしれないですね。僕はみんなほどお笑いが好きじゃないのかもしれないです。音楽とか映画とかがあって、その中の1つとしてお笑いをやってる感じ。でも、お笑いが手っ取り早かったんです。40万円払えばNSCに入って一応始められるから。バンドは人数が必要だし、映画なんかどうやったらいいかわからへんし。

──辻さんと吉田さんは「カッコいい」「面白い」と思う感性が本当に似てるんですね。

 めっちゃシンパシー感じました。

──ニッポンの社長の単独公演の音楽をトリプルファイヤーが書き下ろしたり、今後いろいろ可能性がありそうです。

 こっちが勝手に選んだ時点でかなりマッチしてたんで。

吉田 もっとニッポンの社長のネタに合わせていったらいいんですかね。歌詞に「シャチ」を入れるとか。歌詞が書けないときに、頼まれた気になってネタをヒントにするのはありっすね。

 トリプルファイヤーの歌詞からもネタが作れそうやなと思って。トリプルファイヤーが演奏して、そのあとに僕らがその曲から作ったネタやって、交互にやっていくツーマンライブができたら一番面白そうやな。

──音楽とお笑いのツーマンは最近増えてますけど、お互いがワンステージずつやる形式がほとんどですもんね。交互にやれればツーマンの意味がさらに増すと思います。

 トリプルファイヤーとならお互い邪魔にならへん気がします。とりあえず1曲と1ネタを交換して、それを実験的に披露するみたいなんが現実的なんかな。

吉田 音楽とお笑いがただ一緒にやるのってどうなんだろうって感じだったんですけど、それはすごくいいですね。

 コントの単独は着替えだったり幕間の時間が必ず必要なんで、そのための映像を作ったりするんですけど、それがバンド演奏だったらすごく充実感ありますよね。

──しかもそこにちゃんと関連性があるという。

 1つの完成形になるかもしれない。

吉田 ちょっと、こっそり作っておきます。

 いや、正式にやってくれよ(笑)。

吉田靖直(ヨシダヤスナオ)

4人組ロックバンド・トリプルファイヤーのボーカル担当。2006年に早稲田大学の音楽サークルで結成され、2010年に現在の編成になる。2012年5月に初のアルバム「エキサイティングフラッシュ」をリリースし、ソリッドな演奏とシュールな歌詞を組み合わせた斬新な作風で注目を浴びる。最新作は2017年11月発売の4thアルバム「FIRE」。ソロでは映画やドラマ、大喜利イベント、テレビ番組に出演し、雑誌やWebサイトで執筆活動を行うなど多方面で活躍している。

辻(ツジ)

吉本興業に所属するお笑いコンビ・ニッポンの社長のネタ作り担当。2020年から2022年までの3年連続で「キングオブコント」の決勝に進出する。2019年9月にには辻と堂前透(ロングコートダディ)が中心となり、吉本興業の芸人6名からなるバンド・ジュースごくごく倶楽部を結成。2023年3月に1stアルバム「ジュースごくごく倶楽部の1杯目」をリリースした。本作を携え5月から7月にかけて東名阪ツアーを行う。

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