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みのミュージックの素直にライブ評 Vol.3 ASKAさんの歌う姿に「愛、謙虚さ、感謝、祈り」を感じました

ASKA、みの。
1年以上前2023年06月08日 11:04

自身の敬愛する音楽カルチャーの紹介を軸にしたYouTubeチャンネル「みのミュージック」での動画配信と並行して、ロックバンド・ミノタウロスでも活動するクリエイター、みのがさまざまなアーティストのライブの現場を訪問する連載「みのミュージックの素直にライブ評」。この企画では、洋楽邦楽を問わず幅広い音楽ジャンルに精通した音楽マニアであるみのが、直接現場に足を運び、感じたことを素直にレポートする。

今回みのは、ASKAが5月7日に行った全国ツアー「ASKA Premium Concert Tour -Wonderful World- 2023」の千葉・森のホール21公演を観覧した。彼が目のあたりにした“Wonderful World”は、いったいどんな景色だったのだろうか。

この日のASKAは、昨年11月発表の11thアルバム「Wonderful World」の楽曲のみならず、「LOVE SONG」「太陽と埃の中で」「On Your Mark」などCHAGE and ASKAの楽曲でも圧倒的な歌声を響かせ、長年のファンはもちろんのこと、親に連れてこられた子供たちをも魅了。終演間際の「すっごく楽しかった! また会おう!」という言葉にファンは歓喜し、大盛り上がりの一夜となった。

取材・文 / 田中和宏 撮影 / 今井俊彦・西澤祐介

いつか見た“J-POPの原風景”は色褪せず

僕は1990年生まれなんですが、CHAGE and ASKA時代を含め、ASKAさんの歌う姿を生で観たのは今回が初めてです。コンサートが始まって、舞台と客席の間にあるスクリーン越しにASKAさんの姿が見えたあの瞬間、鳥肌が立ちました。MCで、今のコンディションが非常によくて「30代の頃の声帯みたいなんだ」とおっしゃってましたけど、ご本人としてもやっぱり調子いいんだなと。声がめちゃくちゃ出ていて、その迫力に圧倒されました。もしブラインド(目隠し)テストで30代のASKAさん、今のASKAさんの歌声を聴き比べたら、どっちがどっちかきっとわからないかもしれません。僕にとってASKAさんが歌っている姿っていうのは、やっぱり“J-POPの原風景”という印象がありますけど、その当時と変わらない歌声に感動しました。もちろん“若い”と表現できるところもあれば、フィジカルをテクニックでカバーするような円熟味を感じる大ベテランならではのところもありましたし、総合的に進化してるんだなって。1979年にデビューして44年が経って今なおというのが本当にすごいです。

MCでもASKAさんは「突き抜けてやるんだ」とおっしゃっていて。本当にそのテーマ通りのコンサートを展開してくれましたよね。改めてASKAさんという人は、邦楽界で最高峰のボーカリストだということを再認識できました。誤解を恐れずに言えば、ポップスにおけるいい曲のもっとも重要な条件は「いいメロディ」と「いいボーカル」だと思いますが、完璧にその2つが見事に合わさった極上のポップスを楽しめましたし。ASKAさんバンドのインタープレイの面白さもありましたけど、メンバー全員がASKAさんの歌を盛り上げて、ASKAさんが魂のこもった歌声をホールに響かせて、お客さんはそのパワーを受け取る体験ができる。ASKAさんファンはさぞ幸せな時間を過ごしたことでしょう。

ASKAサウンドを構成する複雑な隠し味

J-POPとして聞きやすい、覚えやすいというのはもちろん、わかりやすいからにほかならないですが、実はすごいコード進行の曲もあるんですよ。難しい説明を抜きにすると、「逸脱を恐れない展開」というか。歌が強い音楽に留まらないのはそういう音楽的な部分が“コク”になってるんでしょうね。それはもはや遊びというよりは幾何学的な計算式があるんじゃないかってくらいの数学的な美しさも感じました。攻め度合いで言ったら、ポール・マッカートニーの曲でも聴いたことがないくらいの。ASKAさんのスタイルはもともと音楽的なバックボーンがない、自分流なんですよね。その独自のスタイルを仮に“ASKAサウンド”と言うとして、そこにデイヴィッド・フォスターやジョージ・マイケルらに影響を受けて、特にデイヴィッド・フォスターの手がける映画音楽の要素が加わった。そんな音楽遍歴だからか、根っこの部分が「〇〇の影響を感じる」とはっきり言えない音楽なんですよね。先ほど話した「逸脱を恐れない展開」が誰の影響なんだろうなって、気になりました。

ライブならではのバンドアレンジもよかったですね。「地球という名の都」のブレイクが完璧にそろったあの瞬間を1つ取っても、グッとASKAさんの歌声が引き立つ。それはきっとメンバー全員がASKAさんの声を最大限に引き立てることに徹してるからでしょうね。デイヴィッド・フォスターにも認められた、バンドマスターの澤近泰輔さん率いる超一流のプレイヤーたちが引き立て役に徹するなんて、ASKAさんだからできることですよね。しかも今日のセットリスト、21曲ですよ。これだけ曲数があると、サポートとは言ってもプロのミュージシャンにとっては、エゴとの戦いという気もするんですよね(笑)。「ここはいっちゃえ!」という気持ちになる瞬間がきっとあるはずだけど、実際は終盤のセッションで前に出てくるくらいでしたね。バッキングボーカルを務めた一木弘行さんとSHUUBIさん、お二人とも素晴らしいコーラスでしたが、一木さんは上モノのパートだとまるでChageさんのように感じるところもあれば、ASKAさんの分身のように感じる部分もありました。メンバーみんな「仲がいい」というか、「信頼し合ってる感じ」が歌でも伝わってきました。

歌う姿は祈りを捧げているようにも見えた

お客さんはやはり80、90年代に青春を過ごしたであろう方々が多い印象でしたが、若い人もいましたね。この公演は対象外でしたが、学割チケットを販売することもあるそうで。お客さんの様子を見て、やっぱりASKAさんってどこかセクシーなんだろうなと思いました。あの所作と言いますか、素敵ですよね。片手にマイク、もう一方の手を足の付け根のあたりに添えるあのスタイル。そしてピンスポットが当たっているところで拳を掲げているあの姿。本当に力強かった。ちなみにお辞儀しながら左右に回転してたんですが、彼が長年やっている剣道の所作でもああいう動きがあるんですかね? あんな礼の仕方、初めて見ました。

ライブでばっちり決めてくれるのもASKAさんなら、リラックスした姿を見せるのもASKAさんなんですね。ライブ途中で休憩タイムがありまして、普通だったらステージにいる演者が捌けますよね。でも僕が観たコンサートではASKAさんが客席に背を向けて、バンドメンバーと談笑してるんです(笑)。お手洗いに行く人もたくさんいましたし、席から離れずに待ってるお客さんはステージにいるメンバー同士のリアルな会話を楽しめるっていう。会話とは言ってもASKAさんしかマイクを持ってないから基本的にはひたすら1人しゃべりでしたが(笑)。なんだか面白かったですね。

僕は彼のことをJ-POPの王様だと思っていますけど、長いキャリアの中で大変な時期もありましたよね。そのことについても思うこともありました。復帰以降、精力的に活動できているのはやっぱり、ライブがあって、歌うことができて、お客さんと一緒の時間を共有するということが、彼の中ですごく特別というか、愛おしいものになってるからなんだろうなって。節々からにじみ出ているオーラがもう“感謝”なんですよね。音楽をやることに対しての感謝の念がものすごくあふれ出ていて。謙虚な姿勢で音楽と向き合っている姿が祈っているようにも見えました。スピリチュアルな次元の話、芸術を突き詰めた人だからこそ表現できる世界観って、言葉にするのが難しいですね。80~90年代というCDが一番売れた時代に天下を取っていた人ですけど、もうきっと物質主義の浮かれた世界からは卒業して、我々の一歩先を進んでいるんでしょうね。

ASKA Premium Concert Tour -Wonderful World- 2023(※終了分は割愛)

2023年7月1日(土)沖縄県 那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
2023年7月4日(火)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール(追加公演)
2023年7月7日(金)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール(追加公演)
2023年7月9日(日)奈良県 なら100年会館
2023年7月21日(金)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
2023年7月28日(金)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
2023年8月4日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA(追加公演)

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