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私と音楽 第34回 葉山翔太が語る女王蜂

葉山翔太
12か月前2023年11月08日 8:03

各界の著名人に愛してやまないアーティストについて話を聞く本連載。第34回となる今回は、音楽原作キャラクターラッププロジェクト「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」をはじめとした作品に出演する声優の葉山翔太が登場してくれた。この記事では葉山に、自身のライブ活動において影響を受けているという女王蜂の音楽との出会いや惹かれた理由などについて語ってもらった。

取材・文 / 酒匂里奈 撮影 / 後藤壮太郎 ヘアメイク / 仙波夏海

女王蜂の曲とアヴちゃんの声に救われた

僕が女王蜂と出会ったのは「ヴィーナス」(2015年2月発売のシングル)がリリースされた少しあとくらいです。YouTubeでこの曲のミュージックビデオを観て、「ヤバいバンドがいるな」と思いました。

そのあとに「催眠術」(2018年10月発売のシングル)を聴いて、「カラオケで歌いたい!」と思ってから、さらにどっぷりハマっていきました。今まで聴いてきた中でも、女王蜂の音楽は特に印象に残ったんです。感情を発散しているというか、自分をさらけ出しているように感じて。僕は東京事変や椎名林檎さんも好きなのですが、昔からがなりに近いようなエッジィな歌声に魅かれることが多いんです。女王蜂の楽曲は歌詞や演奏ももちろん魅力的なのですが、僕はまずアヴちゃんの歌声に魅かれたというか、救われました。おこがましいですが自分の声と共鳴する部分を感じて。

僕はこの業界に入る前、自分の声がコンプレックスだったんです。変声期で自分の声が変わってしまうことに恥ずかしさのようなものを感じていて、なんとしても元の声を取り戻したかった。そんな頃に志方あきこさんがオペラ発声について話されているのを聞いて、自分で実践していたんです。声に対してのコンプレックス自体は、そうやっていろいろな発声方法を試す中で徐々に解消されました。その一方で、遊び感覚だけど試行錯誤しながら身に付けたこの発声方法をどこかで生かせないかなとフラストレーションを抱えていたのですが、そんなときにアヴちゃんの歌声と出会って。「自分が身に付けてきた発声方法だ……!」と衝撃を受けました。それからカラオケで女王蜂の曲をたくさん歌うようになって。自分が今まで身に付けたものを出すことができて、僕は女王蜂の曲とアヴちゃんの声と言葉に救われました。

歌詞で言うと「催眠術」が特に好きです。普段生きている中で狂気ってなかなか表に出てこないし、触れない感情だと思うんです。僕は芝居の中でそれを表現できるのがいいなと思っているんですけど、同じように「催眠術」ではそういう直接的な感情や言葉が表現されていて、グッときました。女王蜂の歌詞は日頃の鬱憤を晴らしてくれるような力強さがあるものが多くて、そういう部分にも魅力を感じます。強い感情を曲にできる力、音に変えられる力ってすごいなと思いますし、それはお芝居に通じる部分があると思うので、僕にもその力が欲しいなと思っちゃいますね。

聴いていて好きなのは「Q」。歌詞の内容がアヴちゃんの実体験なのかとか、詳しいことはわからないんですけど、崩壊気味な家庭環境の中で必死に生きようとする主人公の姿が描かれていて。人間のドロドロした部分が細かく描写されているので、聴いていてつらくはなるんですけど、アヴちゃんの荒い吐息が入っていたりして、芝居の音声を聴いている感覚になるんです。それくらい情景が思い浮かびます。

アヴちゃんや女王蜂が発信しているものを自分の中に取り入れたい

「火炎」をカラオケで歌うとき、毎回ミュージックビデオの冒頭シーンで一気に引き込まれるんですよね。自分も一緒にスポットライトを浴びている気持ちになるというか。歌っていると「自分はまだまだできる」「こんなもんじゃ終われない」みたいな、そういう気持ちを燃え上がらせてくれる曲です。

あと「スリラ」のMVは一時期ずっと観ていました。チアのような衣装が印象的で。最近だとぁゔち(“地獄のアイドル”。アヴちゃんに代わって女王蜂のボーカルを務めたことがある)の衣装も印象に残っています。

「THE FIRST TAKE」の「メフィスト」、すごかった……。白背景だから衣装がより映えるのかな。あと「THE FIRST TAKE」では「BL」の衣装も。アヴちゃんが着ていたサイドがカットされたデザインのトップスとグローブがめちゃくちゃカッコよかったです。そういえば「BL」は、僕が大好きなBL作家のはらだ先生がジャケットのイラストを描き下ろしていて、めちゃくちゃテンション上がりましたね。

僕自身、ジェンダーレスな服やメイクが好きですが、ビジュアル面に関してはそこまで女王蜂やアヴちゃんから影響を受けてはいなくて。そういう嗜好は個人のものなのかなと。アヴちゃんはアヴちゃんだし僕は僕だし。でも、僕はアヴちゃんにはなれないけど、アヴちゃんや女王蜂が発信しているものを自分の中に取り入れて、自分自身を強化したいという気持ちはありますね。

心の赴くままに、ハートで歌えば

印象に残っているのが、カラオケに行ったときにたまたま流れていた動画。アヴちゃんが「バイオレンス」の歌い方について話していたんです。この曲の「バイオレンス」という歌詞は、かわいらしく歌うんじゃなくて獰猛に歌うんだというのを実演を交えて説明されていて。そのあと「女王蜂の曲をうまく歌うためにはどうしたらいいですか?」という質問に「心の赴くままに、ハートで歌えばいける」と答えていたのにグッときました。そのあとに大好きな「火炎」を歌ったんですけど、高音パートの声がパッと出たんですよ。アヴちゃんの言葉を素直に受け入れたら、自然と声が出たというか。

アヴちゃんは曲によって歌い方が全然違うので、その引き出しはどこから来ているんだろうと常々疑問なんです。聴いてきた音楽や考えてきたこととか、そういうものから表現されているんだと思いますが……そこに合わせられるメンバーの方々もすごいというか、通じ合っているんだろうなと思います。そういうメンバー同士のつながりがうらやましいですね。僕も「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」という作品で、ナゴヤ・ディビジョン“Bad Ass Temple”のメンバーを演じている竹内(栄治)さんや榊原(優希)くんとライブのたびにおしゃべりしたりごはんを食べに行ったりはしますけど、やっぱりずっと一緒なわけじゃなくて、ライブがある時期に集まる感じなので。バンドは大変なときもうれしいときも一緒に過ごして、さまざまなことを乗り越えていける関係だから、素敵ですよね。

ナゴヤの曲「開眼」はどんどん成長していってるなと思うんです。作ってくれたMOROHAのアフロさんも「ライブのたびにどんどんよくなっていくよね」とおっしゃってくださって。そういうメンバー同士で曲を成長させていく力や、ライブでの引力みたいな部分は、女王蜂から影響を受けている気がします。あとナゴヤの、それぞれの個性は強いけどチームとしてはまとまっているところや、パワフルでギラついている感じは、勝手ながら女王蜂のメンバーと似た雰囲気を感じるというか。アヴちゃんが作る楽曲と相性いいんじゃないかなと思うんですけど、仄仄に先を越されちゃったので……(笑)(アヴちゃんは薔薇園アヴ名義で、「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」のEP「The Block Party -HOMIEs-」に収録されている邪答院仄仄「おままごと」の作詞作曲を担当)。「おままごと」を聴いて、繰り返されるフレーズや仄仄の笑い声が頭の中から離れなくなっちゃいましたね。あとは……アヴちゃんが仮歌を担当されているんじゃないかなと思うので、デモ音源が聴きたい!

人間を捨ててライブをしている

実は人生で初めて観に行ったバンドのライブが、2019年のZepp DiverCity公演(2019年7月開催「全国ツアー2019 『十』 -火炎-」の東京公演)で。友達と行ったのですが、めちゃくちゃ楽しかったですね。バンドのライブは初めてだったのでマナーや後ろのエリアからの見え方など、不安なこともあったのですが、いざライブが始まったらステージの上の女王蜂に意識を持っていかれて、夢中でジュリ扇を振っていました。前にアヴちゃんが「曲作りでは対話を意識している」とおっしゃっていたんですけど、ライブを観たら納得しました。

遠い存在ではあるんですけど、ライブではそれを感じないというか、女王蜂のほうから距離を詰めてきてくれているような感覚があって。あと女王蜂のすごいところが、曲ごとに表現しているものや、音に乗っている感情がライブのたびに生き物のように違うところ。だからこそ生のライブって楽しいんだなと思いました。Zepp DiverCityでライブを観たのが、ちょうど自分自身も「ヒプマイ」で何度かライブをやったタイミングだったので、生の音楽の強さやエネルギーに触れてみたいと思って足を運んだ部分もあるのですが、見事にやられましたね。女王蜂のライブに刺激を受けて、僕もライブでは音源とは違うものを表現したいと思うようになりました。

アヴちゃんって本当に人間を捨ててライブに臨まれているように僕の目には映るんです。特に驚いたのが、アヴちゃんが「ステージ上では水を飲まない」とおっしゃっていたこと。本当に人間を超越した存在だ……と思いました。こちらからすると、ライブでは女王蜂に血と肉を分けてもらっている気持ちになります。あと、実はこの取材が決まったのとほぼ同時に次のホールツアー(2023年11月から3月にかけて行われる「十二次元+01」)のチケットが当たったんですよ(笑)。「qb radio」(女王蜂のWebラジオ)でアヴちゃんもおっしゃっていましたが、「十二次元」というアルバムがライブでどのように表現されるのか、めちゃめちゃワクワクしています。

驚きの連続だった「犬王」

「犬王」(2022年5月に公開されたアヴちゃん主演のアニメーション映画)は公開されてすぐに観ました。森山未來さん演じる友魚と、アヴちゃん演じる犬王の歌声とセリフに自然と体がノっていって、アヴちゃんは本当に犬王そのものでした。僕が観に行ったときはまだ応援上演がやっていなかったのですが、それでも2人の歌声に乗せて手や足が自然と動いちゃいました。ライブと言えばライブだし、芝居と言えば芝居だし、不思議な体験でしたね。中でも劇中歌の「鯨」が特に印象に残っています。夕方の街で流してほしいな。仕事帰りで疲れた人たちが、きっとみんな朗らかな気持ちになると思うんです。終盤の「竜中将」では、もう犬王がフレディ・マーキュリーに見えました。あの時代に「犬王」で描かれたようなロックな音楽があったとしたら、その当時暮らしていた人たちはどうなっていたんだろう?と想像が膨らみましたね。「犬王」には元気をもらいましたし、役者としても新しい発見があって、本当に驚きの連続で。あと試写会か何かでご本人がおっしゃっていたんですけど、アヴちゃんが平家の末裔ということにもびっくりしました(笑)。

アヴちゃんは2次元の存在

アヴちゃんがプロデューサーを務めたオーディション番組「0年0組 -アヴちゃんの教室-」の課題曲「Mr.FORTUNE」と「RONDO」が本当に素晴らしくて。特に「RONDO」はアヴちゃん先生から「0年0組」の生徒へのとてつもない愛だなと。「qb radio」でアヴちゃんが「素直な人が好きだ」とおっしゃっていましたが、合格したメンバーからなる龍宮城を含む「0年0組」の生徒の方たちは、素直な子たちばっかりだったんだろうなと感じます。「0年0組」はただのオーディション番組ではなかったというか、生徒の魂を成長させる番組だったんだろうなと。自分が10代だったら生徒になってみたかったですね。あそこにいたらどんな体験ができたんだろう、自分はどこまで残れたんだろうかって。

番組のオープニングでアヴちゃん先生が言う「地獄へようこそ」という言葉が印象的でした。これから学ぶ生徒たちになんてことを言うんだと(笑)。でも先生として教壇に立たれているアヴちゃんは、生徒たち1人ひとりにしっかり向き合っていたし、自分自身が発する一言ひと言にすごく責任を持っていたように感じました。オーディションって、ジャッジする側も本当に疲れるし、大変なことだと思うんです。生徒1人ひとりの将来がかかっている状況で、アヴちゃん先生自身も毎回心をすり減らしながらやっていたんじゃないかな。以前アヴちゃんがご自身について、怖いイメージを持たれることが多いと言っているのを聞いたことがあるんですけど、僕は最初から温かいイメージがあって。「0年0組」では厳しい一面もありましたが、その奥にある温かさを感じました。

アヴちゃんは……僕にとっては物語の登場人物みたいな存在で。実在している方ですけど、あまりにもパワフルで、“限界突破”している存在なので。ある意味2次元というか。アヴちゃん自身がアヴちゃんという存在の作者でもあり、演者でもあるみたいなイメージです。

実は「ヒプマイ」のとある番組の収録の際に、たまたまアヴちゃんと楽屋が同じ階だったことがあって、後ろ姿だけ拝見しました。ご挨拶なんておこがましいというか、想像しただけで本当に緊張して無理です……。「ヒプマイ」のEPという同じ作品のクレジットに名前が並んでいるだけでニヤけてしまいます。ただ、僕は歌うことが大好きなので、もしいつか自分が曲を出せることになったら、アヴちゃんに楽曲提供のオファーをできるといいなと思っています。そのためにも、これからも女王蜂の音楽を聴いて自分を強化して、仕事をがんばっていきたいと思います。

葉山翔太(ハヤマショウタ)

11月15日生まれ、山口県出身の声優。代表作はテレビアニメ「美男高校地球防衛部HAPPY KISS!」(道後一六役)、テレビアニメ「REVENGER」(惣二役)、特撮テレビドラマ「ウルトラマンタイガ」(ウルトラマンフーマの声を担当)、音楽原作キャラクターラッププロジェクト「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」(波羅夷空却役)など。

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