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坂本真綾2024年のライブ初め、いろんな感情の真ん中を突っ切って歩いていくための力を

「坂本真綾 LIVE TOUR 2023『記憶の図書館』」東京公演の様子。(撮影:羽田誠 / 原田捺未)
11か月前2024年01月09日 11:02

坂本真綾のライブツアー「坂本真綾 LIVE TOUR 2023『記憶の図書館』」の東京公演が、1月2日と3日の2日間にわたり東京・東京ガーデンシアターで行われた。本来この公演は昨年6月に同会場で実施される予定だったが、坂本の喉の不調により延期に。日程を改め、坂本の2024年ライブ初めとして開催される運びとなった。この記事では1月2日公演の模様をレポートする。

足取りがより力強く、明るくなっていくように

アンビエントサウンドが流れる中、何本もの白い紐で構成された特殊なステージ幕の向こうにバンドメンバーがスタンバイする姿が見えると、客席は大きな拍手に包まれる。バンマス北川勝利(G / ROUND TABLE)の指揮で毛利泰士(Perc、Manipulation)、髭白健(Dr)、千ヶ崎学(B)、扇谷研人(Key)、奥田健介(G / NONA REEVES)、高橋あず美(Cho)、Kayo(Cho)が1つずつ音を重ねていき、ステージ中央に2本のピンスポットが当たると、坂本がゆっくりと登場。幕は下りたまま、そこに映像を映しながら、アルバム「記憶の図書館」のオープニングナンバーでもある「ないものねだり」でライブはスタートした。やがて幕が開き、2曲目の「言葉にできない」へ。ステージ中央にまっすぐ立ち、じっくり噛み締めるように歌っていた坂本も、3曲目の「こんな日が来るなんて」では弾むようなビートと観客が鳴らすハンドクラップに乗せて軽快にステップを踏んだ。

「大変お待たせしました」と、坂本は年をまたいで実現した東京公演を待ち侘びた観客に挨拶。「三が日に呼び出して申し訳ない気持ちでいっぱいですが、そんな中で来ていただいてありがとうございます。お正月に来てくれる人たちは、よほど私が好きなんだろうなと思ってもいいですか?」という言葉にも観客は盛大な拍手で応える。「今日がライブ初めという人がほとんどかなと思いますが、私にとっても仕事始め、歌い始めです。いいことがいっぱいあるように願いながら、今日皆さんが来たときよりも帰り道の足取りがより力強く、明るくなっていくように、そのまま1年間突っ走っていけるように、私も楽しみながら歌いたいと思います。一緒に楽しみましょう!」と坂本は明るくこの日のステージに挑む意気込みを伝えた。

忘れてしまうこともその人にとっての幸福なら素晴らしいと思う

「discord」「タイムトラベラー」と最新アルバム「記憶の図書館」からの楽曲が続いたのちに披露されたのは、2001年にサカモトマーヤ名義で発表されたコンセプトアルバム「イージーリスニング」の収録曲「bitter sweet」。「記憶の図書館」は「イージーリスニング」に端を発するコンセプトアルバムシリーズの最新作でもあり、坂本は「『イージーリスニング』がなければその後のコンセプトアルバムはなかったということで1曲選んでみました」とその選曲理由を明かした。「記憶の図書館」はタイトルの通り“記憶”をテーマに、坂本が1つの物語のプロットとなるショートストーリーを書き、そのストーリーをもとに楽曲を作り上げたコンセプトアルバム。今回のツアーでは「記憶の図書館」の楽曲を軸に、このコンセプトにちなんだ過去の楽曲も複数チョイスされていた。「今年まだ始まって2日目ですけれども、たった1年の間にも皆さんいろんな記憶を“記憶の図書館”に置いていくと思うんですよね。今日のライブがすごくいい時間だったなと感じて『今年一番楽しかったこと、もう終わっちゃった』と思ってくれる人もいるかもしれないですけど、そんな中でもやっぱり、1年を過ごしていく間にこのライブのことを忘れるくらい、もっともっといいことが積み重なっていってくれたらそれはそれで私もうれしいし、忘れてしまうこともその人にとっての幸福なら素晴らしいと思う。いろんなことを考えながら作っていったアルバムでした」とアルバム制作を通じて考えた“記憶”への思いを語った坂本は次に、学生時代の友達が次々就職して“大人”になっていく中で感じていた思いを書き起こしておこうと作詞した2005年のナンバー「若葉」を披露。アコースティックな演奏に乗せて、当時の記憶と現在の自分を重ねるように優しく歌い上げた。

アコースティックタッチのボサノバ「空中庭園」、演奏の緩急が激しく変化する「体温」、変拍子のオルタナティブロック「一度きりでいい」、坂本慎太郎と冨田恵一による重厚かつポップな「鏡の中で」と中盤は「記憶の図書館」からの楽曲が続き、坂本はここで一旦ステージを離れる。するとバンドメンバーは2019年のナンバー「宇宙の記憶」をインストアレンジで演奏。ジャジーなサウンドでソロ回しを披露しながら観客のハンドクラップを煽る。立ち上がって盛り上がる観客の前に衣装をチェンジして現れた坂本は、「記憶の図書館」から「Anything you wanna be」を明るくパフォーマンスした。「皆さんの記憶に残ってほしいこのツアー、記憶に留めてもらうには何かいつもやらないことをやらなきゃ」と坂本が次に用意したのは、ほかのアーティストに提供した楽曲のセルフカバー。この日は坂本が作詞し、北川が作編曲したレーベルメイト・鈴木みのりへの提供曲「Crosswalk」が歌われた。

いいことや悲しいこと、その真ん中を突っ切って歩いていくために

「2024年始まっちゃったよー! 元気出していくぞ東京! 声出していくぞ東京ー!」という坂本の元気いっぱいな煽りから「トロイメライ」へとなだれ込み、ライブは終盤戦へ。「Private Sky」では観客も拳を上げて声を出し、坂本は軽やかにジャンプする。さらにライブを盛り上げる定番の「マジックナンバー」で場内の熱気は最高潮に。坂本は晴れやかな笑顔で客席を見渡しながら「2024年の始まり、皆さんもいろいろと心配なことがありながら今日ここまで来てくれたんだろうと思います。まだ始まったばかりで、今年1年の間にはいろんなことが待っていると思います。もちろんいいこともあるし、悲しいこともあるかなと思います。でも、その真ん中を突っ切って歩いていかなくてはいけないので、その力を少しでも一緒に今日ここで蓄えて、いい1年の始まりにできたらなと思いました。皆さんにとっても私にとってもそういう時間になればいいなと思っていましたが、とりあえず私にとってはなりました。皆さんありがとうございます」とこの日ライブを予定通り開催するにあたり抱えていた胸の内を明かした坂本は、最後に「記憶の図書館」のラストナンバー、岸田繁(くるり)が作曲したバラード「菫」をおだやかに歌い上げた。

バンドメンバーを1人ずつ紹介したのち、坂本は「私のライブにアンコールはないので、最後にもうちょっとだけ、皆さんをお見送りする前に歌いたいと思います」と、2009年から歌い続けているライブの起爆剤「Get No Satisfaction!」をここで披露した。すでに明かりが点いた客席は大盛り上がり。坂本はさらにもう1曲、坂本のライブを締めくくる1曲としておなじみの「ポケットを空にして」を歌う。この曲は観客の大合唱が醍醐味だが、コロナ禍以降のライブではそれが叶わず、大きな節目となった2021年3月の「坂本真綾 25周年記念LIVE『約束はいらない』at 横浜アリーナ」でも最後にインストで流すのみとなっていた。今回のツアーでは晴れて観客の声出しが可能になり、ひさびさに「ポケットを空にして」の大合唱がホール内に響き渡った。

坂本真綾からのお年玉

ライブはこれにて終了のはずだったが、バンドメンバーを見送ったのちにマイクを持った坂本は「終わる終わると言ってごめんなさい。実はここまでが『記憶の図書館』ツアーで用意していたあの日のセットリストそのままになります。半年もお待たせしたという申し訳なさと、お正月に家族や恋人よりも優先させてしまったという申し訳なさと……いろいろありますし、今日はもう1曲だけ聴いて帰っていただけたら」と、千ヶ崎と扇谷の2人を呼び戻し、1月15日に配信リリースされるWOWOWオリジナルアニメ「火狩りの王」第2シーズンのエンディングテーマ「抱きしめて」をこの日集まった観客への“お年玉”として初披露。ピアノと弓弾きのコントラバスのみというシンプルな演奏に乗せて祈りのような歌声を届けた。

セットリスト

坂本真綾 LIVE TOUR 2023「記憶の図書館」振替公演 2024年1月2日 東京ガーデンシアター

01. ないものねだり
02. 言葉にできない
03. こんな日が来るなんて
04. discord
05. タイムトラベラー
06. bitter sweet
07. 若葉
08. 空中庭園
09. 体温
10. 一度きりでいい
11. 鏡の中で
12. 宇宙の記憶(Instrumental)
13. Anything you wanna be
14. Crosswalk
15. トロイメライ
16. Private Sky
17. マジックナンバー
18. 菫
19. Get No Satisfaction!
20. ポケットを空にして
21. 抱きしめて

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