YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週刊連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで5月17日から5月23日にかけて集計されたミュージックビデオランキング、および急上昇ランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、9位にMrs. GREEN APPLEの「Dear」が初登場した。「Bye - 時の流れに任せて」や「誰かを失うのも人生の一部と / 呼ばなきゃいけないなら」などの別れを感じさせるフレーズから、YouTubeのコメント欄では「ミセスも、もっくん(大森元貴)もいなくならないでね」と彼らの音楽をこれからも聴き続けたいと熱望する声が上がった。
17位は乃紫の「初恋キラー」がランクインした。1月にリリースされ日本と韓国で大ブームになった「全方向美少女」に続いて、今回も曲中の特徴的なフレーズを再現したYouTubeのショート動画やTikTokが盛り上がっている。
23位は日韓合同オーディションプロジェクト「Nizi Project Season 2」から誕生したグローバルボーイズグループ・NEXZのデビュー曲「Ride the Vibe」が登場。5月20日に公開されたこのMVは、1週間で約1500万再生を突破した。
24位は、ゆこぴの「ナン食べたい」がランクイン。「強風オールバック」や「寝起きヤシの木」でも印象的だったリコーダーはますます調子外れに鳴り響き、連呼される「ナン食べたい」というフレーズなど、不思議とクセになる要素が満載だ。
51位にはキタニタツヤの楽曲投稿10周年記念の楽曲「ずうっといっしょ!」が登場。「グロい履歴の中でずうっといっしょ!」や「お揃いの悪夢でずうっといっしょ!」など執着と執念を感じるヘビーなフレーズは、一聴しただけで強烈なインパクトが感じられる。
バンド、ボカロP、ボーイズグループなどさまざまなアーティストの新曲が並んだ今週は下記の3曲をピックアップ。
timelesz「Anthem」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場31位
今年4月1日にグループ名をSexy Zoneから改名したtimeleszが、第1弾リリースとなるEP「timelesz」のリード曲「Anthem」のMVを公開した。
この曲はtimeleszのメンバーから依頼を受け、山下智久がプロデュースと作詞を担当。山下は「龍のように力強く舞い上がってほしい」という願いを込めて歌詞を書いたという。3人の活動や気持ちを知っている山下だからこそ、「茨の道だとわかってても行かなきゃならない時はあるさ」や「今継続の大地へと足並みを揃えてGO」など、新しい一歩を踏みしめるメンバーの決意や覚悟を見事に言語化できたのだろう。
低音が響く力強いダンストラックも3人にハマっている。パワフルに腕を動かす“リキリキ(力力)ダンス”をはじめとした躍動感のあるダイナミックな動きを中心にしつつ、一方で指先や手には繊細な動きを取り入れた振付にも注目だ。
個人的には今回のMVを観て、松島聡の今後が楽しみになった。かわいさや優しい雰囲気で親しまれていた松島だが、「Anthem」では巻き舌で歌う場面があったり、レザーのジャケットなどの武骨なスタイリングに身を包んでいたりと、松島の覚醒っぷりに痺れた。
XG「WOKE UP」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場35位
XGはボーカル3人(CHISA、HINATA、JURIA)、ラッパー4人(JURIN、HARVEY、MAYA、COCONA)で構成されている中、「WOKE UP」は初めて全員がラップを担当した新しい試みの楽曲だ。808ベースに東アジア特有のサウンドが加わった型破りなスタイルのトラックの上で、7人それぞれの個性的なラップが炸裂している。中毒性のあるサビのフレーズ「Woke up lookin' like this」(目を醒ませ)のように、歌詞には「固定観念を壊せ」といったXGならではの哲学に込められている。
その哲学は楽曲だけでなく、MVからも感じることができるはずだ。特に5月16日に先行公開されたティザー映像での、COCONAがバリカンで髪を刈るシーンには多くの人が度肝を抜かれ、「とんでもない楽曲になっている」と瞬く間に話題が広がった。そして5月21日に本編のMVが公開されると、1週間で約700万回再生を突破。MVは翌22日にアメリカのYouTube急上昇チャートでXGとして初めて1位にランクインし、さらに日本やカナダ、チリ、ブラジル、コロンビア、メキシコ、ペルー、アルゼンチン、イギリス、ドイツ、フランス、ボリビア、エクアドル、グアテマラ、コスタリカ、オーストラリアでもトップ10入りしている。
以前から「XGのラップスキルは、世界で通用するレベル」と評されていたが、今作はより7人の歌唱力・表現力を印象付ける曲になった。まだ10代のメンバーもいる若さながら、全員がここまで卓越した技量を持っているのは驚きだ。アメリカにおいてメインストリームなヒップホップというジャンルに正面から取り組みながら、日本人メンバーだけで構成されたグループがそのスキルをもって世界で存在感を示しているというのは、かなり画期的なことだろう。
なおXGは6月14日にテレビ朝日系「ミュージックステーション」で日本の音楽番組に初出演する。世界が驚愕するハイレベルなパフォーマンスを、ぜひ生放送でチェックいただきたい。
初星学園「Fighting My Way」「Luna say maybe」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場60位
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場82位
初星学園とは、5月16日からスマートフォン用に配信されているアイドル育成シミュレーションゲーム「学園アイドルマスター」の舞台となっている架空の学園。ゲーム内に登場するアイドル全9人のソロ歌唱曲のMVが5月1日から順次公開されると、キャラクターの設定や心情を見事に踏襲した歌詞や、楽曲のクオリティの高さが話題になった。
「Fighting My Way」はゲームに登場する花海咲季(CV:長月あおい)の楽曲で、作編曲は「劣等上等」や「Ready Steady」などで知られるGigaが担当。Gigaらしさあふれるサウンドとメロディには何度も聴きたくなる中毒性があり、歌詞では「負ける気なんかない」「逃げたくはない 待てない まだ終われない」など、勝ち気で負けず嫌いな花海の性格が見事に表現されている。
一方、月村手毬(CV:小鹿なお)の「Luna say maybe」は美波が初めて提供した楽曲。嫌いな自分と決別し、自分自身を好きでいるために、トップアイドルを目指す月村の心の葛藤や覚悟を感じるエモーショナルな1曲だ。
YouTubeランキングでトップ100入りしたこの2曲だけでなく、「学園アイドルマスター」からは人気曲が次々と生まれている。藤田ことね(CV:飯田ヒカル)の「世界一可愛い私」をHoneyWorks、篠澤広(CV:川村玲奈)の「光景」を長谷川白紙、葛城リーリヤ(CV:花岩香奈)の「白線」をナユタン星人が手がけていたりと、楽曲制作には個性の強いクリエイター陣が参加。全体曲「初」は原口沙輔が作詞作曲し、編曲は宮川弾が担当した。
ちなみに「学園アイドルマスター」のコンポーザー第1弾として発表されたラインナップの中には、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN、THE KEBABS、Q-MHz)の名前も並んでいた。ゲーム内のいつどこでその曲を聴くことができるのか、プレイヤーにはぜひ期待していただきたい。