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バトルから距離を置いたR-指定が語るMCバトル

左からR-指定、KEN THE 390。
19分前2024年06月27日 10:04

ラッパーのKEN THE 390がホストとなり、MCバトルに縁の深いラッパーやアーティストと対談する本連載。EPISODE.8の前編では、ゲストのR-指定がフリースタイルを始めたきっかけ、梅田サイファーとの出会い、「UMB GRAND CHAMPIONSHIP」前人未到の3連覇について振り返った。

後編では、“絶対王者”としての重圧、「フリースタイルダンジョン」で火が点いたMCバトルブーム、今後のバトルシーンについて語り合う。

取材・文 / 高木“JET”晋一郎 撮影 / 斎藤大嗣 ヘアメイク(KEN THE 390) / 佐藤和哉(amis)

究極的には“相手の言葉を聞いて、上手いこと切り返す”しか考えてない

KEN THE 390 数字だけ見ても、大阪という激戦区で5連続代表になって、UMBの全国トーナメントを3連覇するというのは、異常な戦績だよね。

R-指定 ただ、やっぱりきつかったですよ。「俺みたいなもんが日本一という称号を取れんねや」という喜びはあったけど、それで生活が劇的に好転することもなく、ちょっとライブが増えたかな、ぐらいで。2回目の優勝は、まずDOTAMAさんにリベンジできたのがうれしかったですけど、「優勝してしまった」という気持ちもありましたね。「KREVAさんの“B-BOY PARK3連覇”という前例を考えると、これは3回目を目指すしかないんかな」という気持ちも生まれたし。

──結果が次の目標へ直結したと。

R-指定 3回目の全国大会は変な感じでしたよ。俺は3連覇したいし、観客もその姿が見たいと思ってる。それと同時に俺が“死ぬ”とこも見たがってる空気も漂ってて。

KEN 全員がRを軸に大会を見てたもんね。

R-指定 対戦相手はもちろん、お客さんも全員敵に思えて、かなり胃が痛む大会でしたね。優勝したときは、喜びよりも「生き残った」「負けずに終われた」という気持ちのほうが強かったです。

──あの年は「SPOTLIGHT」「ADRENALINE」と大きなイベントでも優勝を果たしていますね。

R-指定 自分でもゾーンに入ってると思えることが多かったですね。「ADRENALINE」でのGOLBYさんとの決勝は、延長を重ねてもずっと楽しいと思えるバトルやったし。

KEN その時期も含めてなんだけど、バトルでは着地は見えてるの?

R-指定 着地までは考えてないですね。99%のラッパーは、バトル前にある程度、「こいつには何を言ったろうかな」と想定してると思うんですよ。

KEN ゲームプランは一応想定するよね。

R-指定 俺も当然プランを考えるけど、結局想定通りにはいかないし、有効打になるのは“ちゃんと相手のラインに即興で切り返したとき”なんですよね。だからプランはあくまでもお守りやし、トップオブザヘッドで出てきた言葉じゃないと、勝つことはできないのかなって。当時は、曲を作る以上にフリースタイルばっかりしてたし、とにかく頭の中に無数のラインと韻を詰め込んでたんですね。そして、バトルで相手の言葉を受けて、その引き出しがきれいに開いて、うまく言葉や韻が数珠つなぎになったときに、「これは調子ええな、ゾーン入ってるな」と。

KEN どんな言葉が来ても踏み外さないように、そのストックがしっかりあるというか。

R-指定 だから相手の言葉をよく聞いてますね。何かしら拾って、そこから自動的に韻の引き出しがバババっと開くときが、一番気持ちいいかもしれない。韻だけじゃなくて「いや、それ矛盾してるよな」「でも、そう言うけど結局こうやんけ」みたいなことも、相手の言葉で引き出されるし。逆に言えば、言葉が聴き取れないタイプのラッパーは苦手ですね。

KEN Rはハイブリッドだよね。ライミングは固い、切り返しもうまい、相手の矛盾点も突く、自由にやらせても内容があって、といろんなパターンが組み合わされてる。

R-指定 それは先人のせいですよ。HIDAさんやFORKさんのライミングはもちろん、KENさんのめっちゃうまい切り返しやディベート力、鎮座DOPENESSさんのフロウ、般若さんや晋平太さんの熱気……そういう抜きん出たものは先人がみんな先にやってるし、だから全部やるしかなかったというか。逆に「ちょっと待ってくれよ、もう枠ないやん……後輩の身にもなってよ」とも思いますけど(笑)。

KEN それを全部吸収するRには、「ちょっと待ってくれよ、全部同時にやんないでよと」とこっちも思うよ(笑)。

R-指定 でも究極的には「相手の言葉を聞いて、切り返して、観客を盛り上げる」しか考えてないですね。自分で自分のバトルの分析は難しいし、ほかの人の分析を聞いて「そうなんや」と気付くというか。晋平太さんには「変な固有名詞を使う」と言われましたね。

KEN それはRの特徴だし、R以降、そういうラッパーが増えたよね。

R-指定 でも、俺の使う固有名詞は、ほんとに日常で使ってる言葉で、韻を踏むために調べてきて使ったり、奇をてらってるわけじゃなくて。それはサイファーが大きいと思います。サイファーで英語のスラングを使ったり、USっぽい言い回しをしても、仲間は喜ばせられないし、それよりも普段話してる映画やマンガやお笑いの話を織り込んだほうが、自分たちにとってはリアルなんですよね。その言葉遣いがバトルにもつながったというか。

KEN 語彙がヒップホップ的ではなかったことが、逆にオリジナルになった感じだ。

R-指定 もし日常で使ってないような言葉が出てきたら、俺もFORKさんよろしく“こういう目して”で見ますよ(「フリースタイルダンジョン」でのFORKのバース「いろんな調べてきた固有名詞出して韻踏まれても 全員こういう目して見てると思うよ」のオマージュ)(笑)。

「フリースタイルダンジョン」ブームの渦中で

──「フリースタイルダンジョン」のお話が出たので、Rさんがモンスターとして番組に参加された経緯を教えてください。

R-指定 UMB3連覇を果たして「もうバトルは十分やろ。これでCreepy Nutsに集中できる」と思ってた時期に、Zeebraさんからの電話ですよ。

──最近のRさんなら、ひと晩寝かせてからかけ直すというZeebraさんからの直電が(笑)。

R-指定 失礼な話ですね、ホンマ(笑)。でも、そんときはまだジブさんとは接点がなかったんで当時のマネージャーに連絡があって。それで「MCバトルの番組が始まるんだけど、それにはRがいないと成立しない」「般若もRが出るならと言ってる」と。「……いや、ちょっと待ってくださいよ」という話じゃないですか。

──プレッシャーが強すぎる(笑)。

R-指定 ただ状況としては、またミュージシャンとして下積みに入った時期だったんですね。平日、客もまばらなライブハウスでバンドと一緒に出て、俺らのライブが始まったら客がバーカンに引いていくのを、松永のターンテーブルプレイと、俺の“聖徳太子フリースタイル”で引き止める、みたいな時期で。だから「テレビに出たらちょっとは知名度上がってライブしやすくなる」というのと、「好きなラッパーばかりやけど、テレビでMCバトル……コケたらどうする? もうどこにも戻られへんようになるやん」みたいな気持ちがせめぎ合ってましたね。

KEN 「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」があったとはいえ、「ダンジョン」はまた方向性が違ったし。

R-指定 ヒップホップ自体、今みたいな認知度はなかったし、バトルはその中でもサブジャンルだったんで。ただ、「ダンジョン」に漢さんや般若さんが参加するのは驚いたし、これは本気で何かを変えようとしてるんやなと。

KEN メンツによる信頼度は大きかったよね。

R-指定 サイプレス上野さんやT-Pablowも含めて、この総力戦で沈む船やったらもうしょうがないな、コケても胸張って前のめりに倒れられるなと思ったんですよね。自分としてもフリースタイルには自負があったし、ほかの人がやるぐらいなら俺がやろう、と腹をくくって。

──結果「ダンジョン」でMCバトルブームが起きますが、その中でCreepy Nutsは「未来予想図」をリリースしますね。

R-指定 「未来予想図」には、それまでの自分の人生が反映されてますね。小さいバトルで3万とか5万の賞金を獲得して、たまのライブでちょっとしたギャラをもらって、年末のUMBの賞金で「これであと1年はなんとかなる……」みたいな、ほぼ「カイジ」みたいな生活やったんで(笑)。だから「ダンジョン」が始まって、ブームが起きても「ウソウソ、こんなん」と。

KEN 信じられなかったんだ。

R-指定 俺らの大好きなグループが全然知られてない、フッドスターでさえも食えてない、ヒップホップが音楽シーンから無視されて、「ラップしてる」なんて言えば半笑いな反応が返ってくる……そんな状況しか見てないから、「絶対このブームは信じたらあかん」と自分に言い聞かせてましたね。「手のひらなんてすぐ返されるよ」と。

KEN マインドがアンダーグラウンドの芸人が売れたときみたいになってる(笑)。

──永野のYouTubeかと思った(笑)。

R-指定 確かに「ダンジョン」が盛り上がって、Creepy Nutsも大きなライブにも呼ばれるようになった。でもこんなん一瞬で吹き飛ぶかもしれん、むしろその可能性のほうが高いから、地道にやるのは忘れんとこな、と松永と2人で話してましたね。それぐらいテレビやメディアだけじゃなくて、増えたお客さんのことも信用してなかった。「こんなんすぐ終わんねやから」「10人、5人のお客さんの前からでもやり直せるマインドはちゃんと持っておこう」って。そう考えてたら「未来予想図」ができてた(笑)。

KEN みんな盛り上がってるとこに完全に冷水をぶっかけにいって(笑)。

──しかもそれを「ダンジョン」でフルサイズでやるっていう(笑)。

R-指定 あいつなんやねん!……俺か(笑)。「なんでそんなこと言うん? もっと若い子に夢持たせるようなこと言わんと! BAD HOPせんと!」と、今は思います(笑)。

KEN ブームの波を一番感じてたのはRだろうし、誰よりも先にそういう気持ちになるのは、よく理解できる。

──2000年付近の“日本語ラップバブル”の時代の恩恵は当然受けていないし、それ以降の音楽不況も含めた“ヒップホップ冬の時代”しか知らないから、現在のようにラップが市民権を得るなんて、想像も難しかったし、ブームがにわかには信じられないのは当然だと思います。

R-指定 いわゆる冬の時代は、ひたすらヒップホップの純度やスキルの濃度を上げてくれた時代やったと思うんですね。その時代に俺はヒップホップを好きになったし、エントリーしたから、しぶといんやないかなと。もし流行りから入ったら、廃れた瞬間にまた別の流行りに目移りしたかもだけど、そうじゃないんで。DABOさんが最近の「流派-R」のインタビューで、「俺らの頃は、DJとダンサーがモテて、ラッパーは一番モテなかった。それでもラップを選んだから、今でもやってる。今の子にそれができる?」と話したんですけど、それを見て「できますよ! やりましたよ! それ俺っすよ!!」と(笑)。

KEN あと、10年以上地下で磨かれてた多種多様なスタイルが、一気にメディアに登場したらそれはみんな驚くよね。だからブームになったのは必然だったとも言える。

R-指定 ホントそうなんすよね。

バトルから距離は置いてるけど、“スイッチ”はある

──一方、ブームのさなかは「特急が停まる駅ではどこでもサイファーがある」とサイプレス上野さんが言ってましたが、最近その数はかなり減っているようですね。もちろん、ラッパーの数がサイファーの数ではないし、エントリーの形がサイファーから、ネット発信やオーディションに変化したというのはあると思いますが、それでもフリースタイルブームは落ち着いたのかなと思います。

KEN もちろん、今もサイファーをやってる人はいるだろうし、そこから登場するラッパーもいると思うけどね。そしてブームの中で新しいプレイヤーを増やす影響を与えたのは、やっぱりRとT-Pablowなのかなって。

R-指定 俺はラップをバカにしてた層にこそ、そのすごさをわからせにいく立場やったのかなと思いますね。今となっては嘘みたいな話ですけど、2015年当時でさえまだ“チェケラッチョいじり”で止まってる人とか“DQNの音楽”みたいな認識の人がけっこういたんで、「バカにしてるお前らの遥か上の次元で行われる知的な嗜みやで」というのを伝える役割やったというか。

KEN 確かにテレビでバトルを聴いて、字幕を見て、「これをラップで、即興でやるの!?」と説明不要で驚かせたのは、Rだったと思うな。

R-指定 勉学じゃないところの、変な脳の使い方というか。「ラップってこんな入り組んだ言葉遊びをするんや」みたいなことを、そのまま伝えたかったのはありますね。

──一昨年は「FSL(FREE STYLE LEAGUE)」にエキシビションで参加されましたが、これからバトルに出る心づもりは?

R-指定 さんざん聞かれるし、いろんなバトルの主催の人に「ちなみに……」みたいに言われるんですけど、正直、俺が普通のバトルに出ても負けますよ。今のトーナメントに放り込まれたら、1回戦で負けると思いますね。

──それはスキル的に?

R-指定 自分のモードとしてバトル脳になってないし、頭の回転の早い若い子についていけるかなというのもありますけど、そもそもバトルにモチベーションがないのが大きい。俺の中で“いいバトル”ができるとしたら、ストーリーがないと難しいんですよね。それができるのが晋平太さんやったし、パブロやった。ニューカマーと当たっても、言うことがたぶんないですよ。ちゃんと会話が成立して、歴史や背景、ストーリーがないと、おもろいバトルにはならんと思うし、おもろくないバトル見せてもしょうがないよな、と。

KEN モチベーションがないのに出ても、得することはないからね。

R-指定 そうなんすよ。FSLも「パブロが出るなら相手は俺やろうし、俺が出るならパブロやんな」という物語がモチベーションやったんで。ただ、バトルから距離は置いてるけど、“スイッチ”はあるんですよ。だから「これはやり合いたいな」みたいに思える相手がいれば、スイッチが入るとは思うんですけど……。でも、パブロが言うてたみたいに「自分に気合を入れるため」というのは、わからなくもないんですよね。だから、この業界がヤバくなったとき、自分がヤバくなったときに、それを盛り上げるために出るときがあるかもしれない。バトルに出るのは完全にないとも言い切れないし、あるとも言い切れない……それぐらいの感じですね。

MCバトルにはまだ可能性がある

──最後に、これからのバトルに望むことは?

R-指定 前々から言ってるんですけど、ワードセンスとかライミングは前提として、オートチューンが使えるとか、メロディメイク、作曲センス、フロウセンスが鍵になるようなバトルも観てみたいですね。演奏技術、歌唱技術自体は断然上がってると思うんで、それをもっとフリースタイルに取り入れられるようなシステムがあれば、「即興で歌ったりフロウするのは得意やけど、バトルは苦手」というやつにも門戸が開くのかなって。

KEN オートチューンマイクと普通のマイク2本あるとかもいいかもね。

R-指定 おもろいっすね。そういう部分でも自由度が高まると面白くなる気がします。あとはラバダブやクラッシュのすごさを改めて感じることも多いんすよね。やっぱりラバダブって「自分もサウンドの一部である、演奏者である」という部分が強いと思うし、そういう部分がMCバトルにもっと入ってくる、理解される、つながると、より広がりが生まれるのかなと。だから、まだ可能性は全然あると思いますね、バトルには。

R-指定(アールシテイ)

大阪府堺市出身のラッパー。2015年にDJ松永とCreepy Nutsを結成。日本最高峰のMCバトル大会「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)大阪大会にて5連覇。2012年、2013年、2014年には全国大会「UMB GRAND CHAMPIONSHIP」で優勝し、史上初の全国3連覇を成し遂げた。MCバトル番組「フリースタイルダンジョン」では、初代モンスター、二代目ラスボスとして活躍。数多くの楽曲に客演として参加するほか、梅田サイファーのメンバーとしても活動。2024年1月にリリースしたCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」は、iTunesヒップホップチャートにて10カ国以上で1位を獲得。Billboard Global 200でトップ10入りするなど、世界的にヒットしている。

Creepy Nuts

KEN THE 390(ケンザサンキューマル)

ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。MCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMなどのへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。

KEN THE 390 Official

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