YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週刊連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで10月11日から10月17日にかけて集計されたミュージックビデオランキング、および急上昇ランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、5位にSnow Manの「One」がランクインした。同曲はテレビ朝日系で放送中のアニメ「ブルーロック VS. U-20 JAPAN」のエンディング主題歌。Snow Manにとって初めてサブスク&ダウンロードで配信された楽曲だ。10月14日にMVが公開されて1週間で1200万再生を突破するという、ものすごい勢いを見せている。
11位にはCreepy Nuts「オトノケ」の歌詞を英訳したリリックビデオが登場した。こちらはテレビアニメ「ダンダダン」のオープニングテーマとして書き下ろされた楽曲だ。メロディアスなトラックの上で、「ダンダダン ダンダダン」とリズミカルに歌い上げるフックが心地いい。なお10月18日には同曲のMVが公開されており、3日間で英訳リリックビデオの再生数を上回った。この勢いで来週はMVが上位にランクインするだろう。
13位はXG「IYKYK」のMV。m-floの「prism」をサンプリングしたきらびやかなサウンドや神秘的な映像によって、XGの視点から見た世界を視聴者も体験することができる。
17位にはJENNIE(BLACKPINK)の「Mantra」がランクイン。「女性のエンパワーメントと自信」をテーマに作られたこのMVは、10月11日に公開されると、わずか2週間で5000万回再生を突破した。
18位にはSEVENTEENの「LOVE, MONEY, FAME(feat. DJ Khaled)」がランクインした。彼らのスキルフルなダンスを堪能できるこのMV。冒頭でテレビ画面に「HONESTLY DON'T KNOW WHAT LOVE IS」(本当に私は愛が何なのかわからない)と映し出されるシーンから始まる、ストーリー性の高い映像も大きな話題となった。
今期注目を浴びているアニメの主題歌や韓国の人気グループの楽曲が並んだ今週は、下記の3曲をピックアップした。
こっちのけんと「もういいよ」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場21位
5月に公開された「はいよろこんで」の総再生回数が130億回を突破し、一躍時の人となったこっちけんと。そんな彼が約5カ月ぶりとなる新曲「もういいよ」を発表した。
MVの概要欄には「この曲は軽蔑や飽和、解放の意味がある『もういいよ』という言葉を主軸に最近の考えを込めました。三種のチーズ的な感じです。生きてると誰しも『人前スイッチ』みたいな設定がきっとあって、それは一種の進化ではあるけど進歩ではないと言いたいなと思い制作いたしました」という彼のコメントが掲載されている。「腫れぼったいな / 『もういいよ』」「きみの尺・匙・価値観 / 『もういいよ』」「だから言ってしまいなよ / 『もういいよ』」と歌われているように、この曲で彼は周りの目や意見に対して「もういいよ」と拒絶し、自分らしく生きることを訴えているように感じられる。
MVはかわいらしいタッチの主人公と、ダークな雰囲気をまとった映像のコントラストが魅力的だ。おそらく、マイクを持ってステージで歌う女の子は“人の前で見せている姿”、そしてそれに化けているタヌキは“本当の姿”を表しているのではないだろうか。タヌキのキャラクターについてはそのほかにも、YouTubeのコメント欄で「キツネは裏表なく誰に対してもハッキリ性格が悪い人って暗喩があるけど、タヌキは表では優しくておとぼけさんな優しい人なのに裏では狡賢く腹黒い人って暗喩があるんだよな」などの考察が盛り上がっている。
なお「もういいよ」は日本テレビ公式SNSショートドラマ「毎日はにかむ僕たちは。」とコラボレーションしている。楽曲のコンセプトをもとにしたドラマがTikTokとYouTubeで公開されており、ドラマと音楽がどのような相乗効果を生んでいるのか、ぜひご覧いただきたい。
Kanaria「BRAIN」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場28位
「BRAIN」は11月1日から東京・Space Galleria(アニメイト池袋本店8F)で開催されるイラストレーター・LAMの個展 「千客万雷」のテーマソングとして、Kanariaが書き下ろした新曲だ。
LAMは「BRAIN」をはじめ「Dec.」「デーモンロード」など、KanariaのMVイラストを数々手がけており、プライベートでも連絡を取り合うほど、公私ともに深い関係。そんな2人の出会いは4年前にさかのぼる。トラックメイカー・PSYQUIのファンであるKanariaは、PSYQUIが2020年に発表した「Eyes on me feat. Such」がLAMの個展「目と雷」のテーマソングだったことからLAMの存在を知った。そしてそのイラストに惹かれたKanariaが楽曲のイラストを描いてもらえるように打診したことで両者の関係が始まったそうだ。
10月12日に配信されたYouTubeライブ「【お絵描き配信】LAMさんが絵を描いてくれます - Kanaria」の中で、Kanariaは「テーマソングで(LAMの存在を)知った僕が、今回テーマソングを書くことになるっていうね」と感慨深げに話している。
「BRAIN」はジャジーなピアノが心地よいミドルテンポのサウンドに、吐息まじりのビブラートが耳に残る妖艶な歌声が重なった、大人な雰囲気の楽曲。ちなみに、これまでKanariaのMVは1枚絵のものが多く、動きがあるのはまばたきなど細かい表情の変化のみだったが、今回は歩いたり踊ったりと大きく動いている姿を楽しめるアニメーションとなっている。
Ado「初夏」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場33位
「初夏」は10月24日にリリースされた、Adoの初のCDシングル「桜日和とタイムマシン with 初音ミク / 初夏」「初夏 / 桜日和とタイムマシン with 初音ミク」の収録曲。Adoが作詞・作曲を手がけた初めてのリリース曲だ。10月13日に神奈川・Kアリーナ横浜でファイナルを迎えた全国アリーナツアー「Ado JAPAN TOUR 2024 『モナ・リザの横顔』」で初披露されたこの曲。Adoが17歳の頃にはすでに存在しており、彼女が大人になってから書き直しを経て完成したという。
編曲を担当したのはアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」の劇中に登場するバンド・結束バンドの楽曲を数多く手がける三井律郎。三井はX(Twitter)で「この曲を聴いたことでしか得られない『感情』や『浮かんでくる景色』がある、とアレンジ中ずっと感じておりました。 とても大好きな曲です。 大切に編曲させて頂きました」とポスト。YouTubeのコメント欄では「あまりに辛い歌詞で『いい曲だった』、って軽々しく言っていいのか分からないけど、少なくともこの曲で救われる思いがしたのは自分だけではないはず。この曲を作って歌ってくれてありがとうございます」「今生きることが辛くて苦しい時に、この歌に出会えました。私だけじゃないんだって救われたような気がします」など、心の叫びを表したような刹那的な歌声と、歌詞の強いメッセージに共感する声が多く上がっている。
また、10月24日には「桜日和とタイムマシン with 初音ミク」のMVも公開されている。「初夏」とは対照的に優しく包み込むAdoの歌声を堪能できるので、合わせてチェックしてほしい。