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Perfumeのっちが「学園アイドルマスター」小美野Pに制作秘話を聞く(連載「のっちはゲームがしたい!」第17回後編)

のっちさん
21分前2024年11月14日 3:04

「学園アイドルマスター」に実装予定のキャラクターイラスト監修会という、関係者でなければ絶対に見ることができない貴重な会議を見学した前編に続き、後編ではのっちさんがゲームのプロデューサーを務める小美野日出文さんにインタビュー。ただゲームが好きというだけでなく、自身もステージに立ってパフォーマンスをしているのっちさんならではの切り口で、アイドル育成シミュレーションについてのいろいろなお話を聞くことができました。

取材 / 倉嶌孝彦・橋本尚平 文 / 橋本尚平 撮影 / 上山陽介 ヘアメイク(のっち) / 大須賀昌子 題字 / のっち

今回は少年マンガ的なストーリーにしたかった

のっち さっきの監修会、たくさん貴重なものを見せていただいてありがとうございました。1年後のイベントとか、とにかく先の話をしていてびっくりしました。あとはチェックのスピード感。やっぱりこれだけアイドルが多いとチェックするところも多いだろうし、どのイラストを採用するのかとか、みんなで話し合って決めていたらたぶん間に合わないんでしょうね。

小美野日出文 おっしゃる通りです。

のっち さらにこれを上の誰かに承認してもらう、なんてことになると……。

小美野 全然進まないですね。

のっち いつも今日くらいの人数で会議されてるんですか?

小美野 だいたい今日くらいで、あとは宣伝チームに一緒に入ってもらってプロモーションの話をすることもあります。

のっち 少数精鋭なことにも驚きました。もっと人が多いのかと思った。

小美野 今日見ていただいたものは本当に一部で。ゲーム内のイラストだけでなく、グッズなどの監修も全部僕らでやっているので、本当にスピード感を持ってやらないと止まっちゃうんです。素早く判断することはかなり意識してます。

のっち この連載では今までいろんな職場を見学させてもらったんですけど、本当に仕事をしているところを見せてもらったのって初めてなんですよ。「何月何日に誰々のイベント開催」みたいなことが書いてあるスケジュール表も新鮮でしたし、「この日にしちゃったら、こっちのイベントと続いちゃうし……」とか考えながら予定を組み替えていくの、ほとんどパズルでしたね。ちなみに監修会では、3人でどのアイドルのイラストをチェックするのか担当を分けてると言ってましたが、小美野さんは誰を担当しているんですか?

小美野 真ん中の3人だと、藤田ことねが僕で、花海咲季が山本(亮)、月村手毬が佐藤(大地)です。

のっち ことねさん、かわいいです!

小美野 ありがとうございます(笑)。それぞれが自分のアイドルを責任を持って担当しています。本当にアイドルのマネージャーのように仕事を取ってくることもあります。例えば僕は、シナリオライターの人と一緒に自分の担当アイドルの小説を作ろうなんてことを画策したり……。

のっち シナリオライターの方も何人かいらっしゃるんですか?

小美野 3名いまして、咲季、ことね、手毬の3人は伏見つかさ先生が担当しています。そして(葛城)リーリヤと(紫雲)清夏は別の先生、3年生組の2人(有村麻央と姫崎莉波)もまた別の先生、というように、1人ひとりにライターさんがいるのではなく、組み合わせごとに1人の先生に書いてもらっています。

のっち 補習組(篠澤広、倉本千奈、花海佑芽)は?

小美野 補習組も伏見先生に書いてもらってますね。

のっち ああ、組み合わせごとに1人のライターさんが書いているから、アイドル同士の複雑な関係性が描けるんですね。

小美野 関係性が深いアイドルはやはり1人で完結したほうが早いですからね。今回は少年マンガ的なストーリーにしたかったので、ライバルでもあり仲間でもあるという関係を咲季、ことね、手毬の3人で描いていきたいと思って。ほかの「アイドルマスター」シリーズもだいたい、真ん中の3人がただの仲良しということはないのかなと思いますし、例えば「アイドルマスター ミリオンライブ!」だとそれぞれにとっての目標やアイドル像ってが全然違うじゃないですか。でも今回の3人の場合、目標は全員同じなんだけど、性格がバラバラなのでぶつかることもあるし、だからこそ相性がいい、という関係にしたかったんですよ。これまでのシリーズの流れを汲みつつ、新しいものを描いていく、まさにこの作品そのものを体現する3人になってくれたと思ってます。

50人分くらいのアイデアを考えたけど、ほぼ全部ボツ

のっち 「学園アイドルマスター」って、まっすぐ「アイドルになりたい!」と思ってる子があんまり出てこないじゃないですか。

小美野 さすがですね! よくお気付きで。

のっち シャニマス(「アイドルマスター シャイニーカラーズ」)もそうでしたけど、どこかこじれていたり、一筋縄でいかないアイドルが多いのが面白くて。プロデューサーに「莉波お姉ちゃん」って呼ばせる姫崎莉波さんとか、みんなちょっと変わってて(笑)。

小美野 変わっていますよね(笑)。

のっち でも悪い子はいないんです! そこが好きです。

小美野 ありがとうございます。そこは気を遣ってる部分です。できるだけネガティブな印象を与えないようにって。口が悪い子もいますけど、それは本心じゃないよというのがわかるようにしたり。

のっち うんうん。

小美野 ただシンプルに全員がアイドルを目指すというだけではなく、「アイドルという夢を目指した結果、人間として成長していく」という物語を作りたかったので、アイドルになるためのスキルではない部分で、それぞれが何か問題を抱えているようにしているんです。

のっち 「アイドルマスター」シリーズって歴史も長いし、これまで出てきたアイドルの数がすごいじゃないですか。最初の頃のキャラクターはもっとシンプルだったんですか?

小美野 僕はシリーズの最初から関わっているわけではないんですけど、基本的にみんな「トップアイドルになること」が目標になっていて、そこにたどり着くまでにどういう努力をするのかという“過程”が今も描かれていると思います。ただ、「トップアイドル」ってファジーな言葉なので、それぞれにとってのトップアイドルが何なのか、ゴールとしては実は明確に明示されていないのが面白いですよね。もちろんゲームとしてのゴールはあると思いますが。

のっち へー! そうなんだ。これだけアイドルの数が多いと、今までにいなかったアイドル、なかったエピソードを作り出すのはすごく難しいんじゃないかって思ったんですけど。

小美野 難しいですね。例えばRPGを作るときは「今回は復讐の物語だ!」みたいなテーマを考えたら、復讐の対象であるボスがいて、復讐の理由になる犠牲者、例えば両親とか妹とかがいて……と、お話の中でのキャラクターの立ち位置が自然と決まってくるんですよ。

のっち ああ、ポジションが決まってるから、どんなキャラクターにすればいいか考えやすいんですね。

小美野 でも「アイドルマスター」は全員が主役なので、それぞれに物語が必要で。シナリオからキャラクターを組み立てていくことができないので、完全にゼロからアイドルを考えないとないといけないのがすごく難しかったです。かつ、過去シリーズに出てきたアイドルたちや、ほかの作品に出てるアイドルたちと被らないように考えないといけない。今回は最初に50人分くらいのベースとなるアイデアを考えたんですけど、ほぼ全部ボツでしたね。

のっち ひえええ! 50人分! 小美野さんがアイデアを出したんですか?

小美野 当時のメンバーはもう僕しか残ってないですが……僕を含む2、3人でシートを作って、全員で思いついたアイドルをバーッと書いていって、それを伏見先生に渡して確認してもらったんですけど、全然ピンと来なかったみたいで「これだとイメージが湧かないです」って言われて。

のっち 大変だ。

小美野 それで考え方を変えたんです。「どういうお客さんに向けて作るのか?」「どんな気持ちを満たすアイドルにするのか?」って。ゲームを作るときは、どういうニーズを持ったお客さんがいるのかをまず考えるんです。例えば「空を飛びたい」というお客さんのニーズがあれば、そこに「戦闘機で」「英雄体験をしたい」という別のニーズを加えて、それに応えるアイデアをアウトプットした結果、「エースコンバット」ができあがる、みたいなことで。同じように今回も、「ツンケンした子を自分に振り向かせたい」とか、「人から頼られたい」とか、お客さんが求めているものから逆算してキャラクターの設計図をかなり細かくロジックで作っていったんです。そしたらシナリオライターの先生的にはそのほうが書きやすかったそうで。

プレイヤーに体験をしてもらうため、1択でも自分で選んで押してもらうのが必須

のっち 学園が舞台というのは最初に決まってたんですか?

小美野 そうですね。伏見さんをアサインすることと、学校が舞台だという2点だけは僕が参加する前から決まってましたね。僕が参加したときに「こんなものを作りたい」というのがざっくり書いてあるA4用紙1枚を、「好きにしていいよ」と渡されて。

のっち 丸投げですね(笑)。

小美野 僕が「アイドルマスター」に関わるのは初めてだったので、どうしようかなという気持ちだったんですけど、よく考えたら「自分の手で育てた子がステージ上で輝いている姿を観る」というのがこのシリーズの幹となる部分なので、青春時代に人が一番成長する、さまざまな感情が育っていく学校という場所は、新しい「アイドルマスター」の舞台としてかなり正解に近いんじゃないかなと思ったんです。変えてもいいよと言われていたものの、「自分が作りたいものはこれだ」と感じました。さすが坂上さん(坂上陽三氏。2023年3月まで「アイドルマスター」シリーズ総合プロデューサーを務めていた)です。

のっち 「学園アイドルマスター」のゲーム性はこれまでのシリーズとそんなに変わってないんですか?

小美野 けっこう変えてると思います。

のっち シャニマスにあった「パーフェクトコミュニケーション」「(よし、楽しく話せたな)」がないんだなと思って。自分のセリフの選択肢を間違えたらアイドルのテンションが下がる、みたいな。

小美野 それについての議論はあったんですよ。最初は入れようかと考えたんですけど、3択の中に答えが1つしかないとすると、何度も繰り返しプレイする中で同じ答えをずっと選び続けることになるので、あまり意味が作れないなと思って。代わりに、レッスンのときに「これを選ぶと能力がこれだけ上がるけど、体力がこれだけ消費します」という選択肢のパターンをいろいろ用意することにしたんです。

のっち じゃあ会話のときの選択肢は、そんなにゲームに影響はない?

小美野 そうですね。でも代わりに「自分だったらこう言うな」という発言をプレイヤーが選べるように作りたかったので、選択肢は残しています。あと、1択しかない選択肢を作りたかったんですよね。

のっち ああ! アイドルからの「私をプロデュースしてください」に対する「お断りします」とかですね(笑)。

小美野 まさにそれです(笑)。あとは逆の「プロデュースさせてください」もですね。プレイヤーにその子に「プロデュースを申し込んだ」という体験をしてもらうために、自分で選んで押してもらうのが必須だと思ったんです。

のっち あの選択肢、口に出しながら押しちゃうんですよね(笑)。

小美野 選択肢をどこに入れるかも、けっこういろいろ考えました。最初は多すぎて、毎回1択を押させる形でけっこうしつこくなっちゃったので削ったりしながら。

のっち ここぞ!ってときに出てくるからいいんですよねー。

下手に聞こえるように、音を消してアカペラで歌ってもらってます

のっち 「学園アイドルマスター」を遊び始めたときに、私が最初に選んだSSRカードのアイドルは、見た目が一番好きだったリーリヤさんで。私はボブの女の子がとにかく好きなんですよ。自分がボブだからっていうのもあるんですけど(笑)。だからリーリヤさんで始めたんですけど、なかなか難しかったです。ゲーム性をまだ理解できないままやってたからというのもあったんですけどね。それで次に出た咲季さんで始めたら、もう強くて!体力の最大値も多いし、進めやすかったんですよ。そのあとでストーリーイベントを観始めたら咲季さん、手毬さん、ことねさんがメインで出てきて、「面白い3人だなー」と思って。そこから1人ずつプロデュースし始めたんです。

小美野 実は、まさにそうなるように作ったんです。この3人は最初に触っていただきやすいように、ほかの子よりも使いやすく遊びやすくしてあるんですよ。特に咲季は早熟なアイドルだという設定があるので、最初のうちはすごく簡単にクリアできるんだけど、長くプレイしていくとどこかで詰まってしまうという。

のっち そう!(笑)

小美野 物語と共通するような形で、ゲームの中に“詰まりどころ”みたいなのをあえて作っているんです。

のっち そういうところが本当に面白かったです。咲季ちゃんで続けていくと、妹(花海佑芽)には勝てないんですよ。難易度がレギュラーとプロとあって、プロのほうだとどうしても佑芽に勝てない。いつも1位は佑芽という状態が続いていて、バランスを考えて作ってるんだなと思いました。

小美野 今回はできるだけストーリーと遊びの部分をつなげたいと思っていて、QualiArtsさん(「学園アイドルマスター」を共同開発・運営している会社)と相談しながら「この子はこうしてほしい」という無茶をかなりいろいろ言いました。入学総合成績が最下位の倉本千奈と、下から2番目の篠澤広は、どちらも歌やダンスの経験がない完全な初心者という設定なので、それぞれプロデュースするのがむちゃくちゃ難しくて、最初にその子たちを選ぶと難易度が上がってしまうんですよね。

のっち プロデュースする前は歌が下手でダンスも全然踊れない、みたいな子って、これまでの「アイドルマスター」シリーズにもいたんですか?

小美野 何かしら苦手はあっても、完全なる初心者からのスタートはおそらく初めてです。これも学校が舞台だからこそできることかなと思います。プロで歌もダンスも下手なんて子がいたらおかしいですからね……。

のっち 今までのアイマスって、事務所に所属するアイドルの卵をプロデュースするお話ですよね。あんなに何もできなかったらそもそも事務所には入れるかどうか(笑)。

小美野 声優キャストさんの事務所に「下手なバージョンの歌を録らせてください」とお願いしたら、「は? どういうことですか」って言われました(笑)。

のっち あれって声優さんがわざと下手に歌ってるんですか?

小美野 最終的に実装されたものはほぼ、演技で下手に歌ってもらっています。最初は「わざとらしくなっちゃうかな?」と思ったので、実際に初めてレッスンしたときの一発目の音源を録っておいて、これを使おうって話もしていたんですよ。もちろん許可も取って。でも演出と合わせてみるとどうしても合わない部分が出てきたので、演技で歌ってもらうことにしました。

のっち レベルが上がるごとに歌がうまくなっていく印象なんですけど、あれって何段階かに分けて録ってるんですか?

小美野 大きく3段階あります。一番うまいテイクから録って、ちょっとずつ引き算していくんです。でもキャストさんによってはどうやってもうまくなっちゃうので、「よし! 音を消そう!」ってことになって、クリックだけを流してアカペラで歌ってもらってます。

のっち へええ!

小美野 やっぱりテンポが取りづらくて歌いにくいから、まるでリズムが取れてないような印象をリアルに作ることができましたね。

のっち 広さんが最初に歌ったときはびっくりしました。体力がまったくないから本当に声が出てなくて。「私の実力を見てください」って歌い始めたら全然声が聞こえなくて、スマホを耳に近付けました(笑)。

小美野 あのウィスパーボイスは収録のとき、音響さんがすごく大変だったみたいですね(笑)。

のっち それが面白かったです。プロデュースしていると愛着も湧くし。

小美野 まずは過程を大事にしたゲームを作りたかったんです。アイドルの成長を見せるためには、いかに過程を丁寧に描いていくかが大切だと思うので。ゲームってどうしても結果を求めることが多いじゃないですか。レベルを上げてボスを倒すとか、対戦ゲームでほかのプレイヤーに勝つとか。でも「学園アイドルマスター」では、アイドルのことをもっと知ってもらって、好きになってもらうまでは、とにかく過程をじっくり楽しんでもらいたいということを第一に考えてました。

複数人でのライブシーンをやめて、とにかく1人だけにフォーカスした理由

のっち 「学園アイドルマスター」はライブシーンの作り込みもすごいですよね。

小美野 ありがとうございます。もちろん技術的なこともいろいろあるんですけど、あのクオリティが担保できている一番の理由は、「歌って踊らせるのは1人だけ」と決めていることなんです。

のっち ああ、そういえば!

小美野 僕はこのゲームの開発をしている最中に、一時期ミリシタ(「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」)も担当していたんですけど、あのゲームには39人が1つのステージで同時に歌って踊るライブシーンがあったんですよ。しかもキャラクターの立ち位置によって歌い分けが変わるし、衣装も全員バラバラに着せ替えられるという、ものすごいことをやっていて。自分で担当していながら「今作っているものは、これと比べられるのか……」って思ってしまいました(笑)。

のっち ははは。

小美野 「学園アイドルマスター」のクオリティで2、3人で踊らせると、それを動かせるスペックの端末はかなり限定されちゃうんです。クオリティを下げずに、今普及している端末でたくさんの人に遊んでいただけるようにするためには、やることを絞らなければいけない。だったら今回はとにかく1人だけにフォーカスして、ステージセットも演出もその1人が美しく輝く瞬間のために作ろう、というのが今回のライブシーンなんです。ちなみにこの作り方をしておけば、いずれ技術や端末スペックが上がっていったときに、同じクオリティで何人かで同時にライブすることもできると思っています。今できる最高峰のクオリティと、何年か先の将来要求されるクオリティも考えて、これが最善手だと思いました。

のっち アイドルから生身の人間を感じるんですよね。肉っぽさがあるというか。いやー、すごいです。

小美野 それは開発の変態的なこだわりですね(笑)。いろんなところが揺れるから肉っぽさがあるし、汗をかいたりとかもしますし。

のっち そうそう、ことねさんの髪の毛の動きとか。

小美野 髪の毛を揺らすときは、3Dモデルで作った髪型の中にボーン、つまり骨を入れて動かすんですよ。でもそれは動かせば動かすほど演算の処理で負荷が大きくなる。例えばもし、ことねが3人並んで踊っていたら処理で大変なことになります。だからそういうのを諦めて、今回は1人を丁寧に描くことにしたんです。

のっち なるほどー。

小美野 開発しているときも、先ほどお話ししたミリシタ以外にもたくさんのアイドルゲームがあって、素晴らしいライブシーンを実現されてました。そんな中でさらに何年後かにそれらライバルたちとどう勝負するかを考えたときに、技術で正面から戦うのは危険だと思いました。僕らがやるからにはそうでなく、コンセプトで勝ちたい。先ほどはクオリティの側面から1人にした理由を話しましたが、決めた順番で言うとこの「コンセプトで勝ちたい」が先ですね。「学園アイドルマスター」はプロデューサーとアイドルが1対1になって成長していくゲームなので、ライブシーンも1人でステージに立ってもらったほうがいいよね、とコンセプトを決めて、1人だけにリソースを注いでクオリティを高めることができました。

のっち いやー、よかったと思います。あの大きなステージを1人でめちゃくちゃ盛り上げているアイドルを観ると感動しますもん。

小美野 デカすぎなんですけどね(笑)。

のっち デカすぎです(笑)。アイドルを養成する学校だから、敷地の中にライブ会場もありそうですけど。

小美野 講堂はもともと武道館くらいの大きさにするつもりだったんですけど、気付いたらドームくらいデカくなってしまって(笑)。あの学校はめちゃくちゃ金持ちの財閥が作ったという設定なんです。学園長のお孫さんがアイドルになりたいって言ったから、じゃあアイドルになるための学校を作ろう、という。

のっち そのお孫さんって生徒会長のことですよね?

小美野 生徒会長の十王星南ですね。11月16日に追加プレイアブルキャラクターとして実装する予定です。

のっち えっ! プロデュースできるんですか?

小美野 できるようになります。

のっち でも星南って最強のアイドルなんですよね? それを私がプロデュースしなきゃいけないんですか?(笑)

小美野 どうなると思います? 楽しみじゃないですか? 星南はもうすでに学校のトップにいるわけですからね。でも実は彼女、アイドルになることを諦めてるんですよ。自分の能力に限界を感じていて、学校の外でプロとして活躍しているほかのアイドルには敵わないと感じていて。だからプロデュースする側に回りたくて、自分からは才能にあふれているように見えることねをずっと追いかけてるんです。

のっち 私はそこを励まして、自分がアイドルになるようにプロデュースするわけですよね。難しそう……(笑)。

小美野 どうやって口説き落とすのかは見どころだと思います。

のっち 楽しみです!

みんなの質問、のっちが代わりに聞いてきますのコーナー!

のっち ここからは読者の方から募集した小美野さんへの質問を聞いていくんですけど、この衣装の話は私も聞いてみたくて。

学マスの衣装、ジッパーの噛み合わせや角度や照明によって違う見え方があったり、とても繊細に表現されていて大好きです!いままでのアイマスと比べて、衣装考案で気をつけている点はありますか?

のっち すごい……そんな細かなところまで! ジッパーの噛み合わせ、ってなんですか……?

小美野 どれのこと言ってるんだろう……めちゃめちゃたくさん作ってるんで(笑)。ただ、衣装には本当にこだわってます。どんな衣装も「必ずテーマを持って作る」と決めていて、すべて曲ができてから作っているんです。わかりやすいところで言うと、佑芽ちゃんの「The Rolling Riceball」っていう曲。「おむすびころりん」をモチーフにしているので、チェックの柄がおむすびだったり、イヤリングがおむすび型だったり、そういう細かい部分をデザインしてもらって。

のっち あはは、かわいい(笑)。

小美野 あと、全体曲の「初」は「プロデューサーと出会う前のアイドルたちの現在地」をテーマに衣装を作ってもらったんですが、ソロ曲は「プロデューサーと出会ってどう成長したか」を見せるための衣装になっていて。リーリヤを見てもらうとわかりやすいんですけど、最初は真っ白だった衣装が真っ黒に変わるんですよ。これは、まだアイドルの知識があまりなくて何にでも染まる状態だった彼女が、強い意志を持ってアイドルになると決めて、何も染まらない黒に変わったことを表してるんです。

のっち はー! ウエディングドレスが白いのと一緒ですね。「あなた色に染まる」っていう。衣装の変化は麻央さんもわかりやすいですよね。

小美野 そうですね。カッコいい路線から、カッコよさだけでなくかわいさもある衣装に変わるという。

のっち 続きまして、こんな質問をいただきました。

見た目やキャラの性格を決めるとき、実在のアイドルを参考にしたりしますか?

小美野 AKB48さんとかが盛り上がっていた世代の人間なので、自分もいっぱいアイドルを観てきましたし、まったく影響されてないことはないと思うんですが、意識して何かを参考にしたことはないですね。ただ、“アイドルらしさ”のイメージは自分が観てきたそういうものの中から拾っているとは思います。例えばアイドルの成長を描くときに、オーディションに受かったモーニング娘。さんがその後どんなレッスンをしてステージに立ったのかとか、ドキュメンタリーチックに撮影したものを中学生くらいのときに観ていた記憶がどこかしら反映されているんじゃないかと。

のっち 「今のアイドルってどんな感じなんだろう?」みたいなことをチェックしたりは?

小美野 あまりしないですね。衣装の参考にちょっと調べることはたまにありますが。このゲームは長ければ10年は続くIPになるのに、今の流行に合わせてしまうと時間が経ったときに古くなってしまうので、できるだけ普遍的なものにしたいんですよ。

のっち いつの時代でも頭に思い浮かぶようなアイドル像のほうがいいんですね。でも、実在のアイドルを参考にしていないとはいっても、「学園アイドルマスター」に出てくるアイドルにはリアリティがあるなと思って。例えば、私もプロデューサーに歌を書いてもらう立場なので、書いてもらった歌から勇気をもらうこともあるんです。だからアイドルたちが、もらった歌を通して自分を知ったり、歌のおかげで強くなれたりするのは「わかるっ!」ってなりました。

小美野 それは意識していますね。曲を作るときも、それを歌うアイドルがどう感じるか意識してますし。そして「どう意識したのか」をゲームのシナリオの中で説明するんですよ。プロデューサーのセリフに曲に込めた思いを入れたり、アイドルのセリフで「こういう曲で背中を押してあげたいんだ」みたいなことを言ったり。

のっち うん、単なるキャラクターソングじゃない感じがしました。

小美野 まさにそうなんです。Perfumeさんも「アイドルでもあり、アーティストでもある」というグループだと思うんですけど、僕らも今回「学園アイドルマスター」を作るにあたって、ただアイドルなだけではない、アーティストとしての側面を持ったアイドルを作りたかったんです。だから「アイドルとしてオーディエンスと一緒に盛り上がりつつも、曲を通していかにメッセージや思いを伝えていくのか」ということにめちゃくちゃ悩みましたね。キャラクターの内面だけを歌った曲にしちゃうと、そのキャラのことが好きな人にとってはいいけど、もっと広く共感されるのはなかなか難しい。曲単体でも、聴いた人が背中を押されて勇気が出たり感動したりする、そういう側面を作れればということを考えていました。

のっち 次の質問はこちらです。これは「小美野さんにとってアイマスとは?」みたいな話になるんですかね。

アイドルマスターという歴史あるゲームの新作を製作するうえで、ここは変えよう・ここは変えてはならないといった根幹的なものはどういったものと捉えていますか?

小美野 自分の手で育てたアイドルが、成長してステージ上で輝いて、その子から感謝されるという、その一連の体験が「アイドルマスター」の根幹だと思っているので、一番強く意識しています。今回の制作に携わるにあたって、過去のシリーズを遊ばせていただきながらそれを感じたので、その中でも特に成長という部分を抽出して強く描きました。

のっち プロデューサーが“事務所のスタッフ”から“生徒”になったのは変化ですよね。ゲームをやっていて「このプロデューサー、プロデュースがうまいなー」って思ってます(笑)。

小美野 それについては悩んだんですけど、アイドルの成長を見守っていくうえで、プロデューサーとアイドルの距離感をできるだけ近くしたかったんです。大人と子供という関係にしてしまうと、一緒に悩んだり成長したりというのを描くのがどうしても難しくなってしまうので。

のっち 先生という案もあったってことですか?

小美野 ありました。最初は先生という立ち位置のほうがしっくりくると思って進めてたんですが、それだとやや他人事になっちゃうんですよね。できるだけ距離を近付けるためには、2人とも同じ生徒という立場にしたほうがよかったんです。だから同級生という設定も考えたんですけど、いろんなところに相談に行ったら「プロのアイドルを目指している子をプロじゃない同級生がプロデュースするのはあまりにも無責任すぎる。この子たちの人生がかかっているんだぞ?」って言われて(笑)。

のっち あはは、そっか(笑)。

小美野 だから、どちらも初星学園の生徒だけど、アイドルたちは高等部、プロデューサーはめちゃくちゃ優秀な人しか入れない専門大学のプロデューサー科という設定にしたんです。実質プロと変わらないけどアイドルとの距離は近い。

のっち 年齢の話で言うと、こんな質問もあって。

咲季と佑芽を二卵性双生児ではなく年子にしたのは何故ですか?似てないという点を表現するのであれば前者でも可能だと思うのですが

のっち これ私も「あれ?」って思ったんですよ。姉妹なのに誕生日もほぼ一緒だし、2人とも1年生ですよね?

小美野 咲季の誕生日は4月2日で、佑芽の誕生日が1年後の4月1日なので、早生まれで同じ学年なんです。

のっち あー!

小美野 双子にしなかった理由は、咲季と手毬とことねの3人を1年生にしたかったからです。でもそうすると咲季の妹を出そうとなったときに、1人だけ中等部にするのも違うし、双子にするとこの2人の距離感がうまく描けないと思って。咲季はお姉ちゃんキャラであることが重要だから、双子ではなく年の差を付けたかったので、何かいい方法はないかなと考えていたら「年子でも同じ学年にする方法はあるよ」と教えてもらって。

のっち そうだったんですね。「どういうことなんだ?」って思ってました(笑)。今日はいろいろなお話を聞かせていただいたり、貴重な会議も見させてもらったり、どうもありがとうございました。バンダイナムコの皆さんも、やっぱり会社としてゲームを作る以上、ちょっと言い方はアレですけど、お金も稼がなきゃいけないわけで。プレイヤーをどういう気持ちにさせて、どういうモチベーションで遊び続けてもらうか……というのをしっかり考えているところを見られてとても面白かったです。そしてそんな中でも、皆さんが1人ひとりのキャラクターを大事にしているのがよくわかって、それがすごくうれしかったです。

小美野 これからも行く末を見守っていてください(笑)。

のっち はい。トゥルーエンドを見たいのでこれからもがんばります……どうしたら見れますかね?

小美野 とりあえずプロデューサーレベルを20まで上げてください。たぶんプロデューサーレベルを上げていただくのが一番早くトゥルーエンドにたどり着く方法だと思います。実は序盤でガシャを回して手に入れるカードよりも、プロデューサーレベルが上がってから手に入るカードのほうが強いんですよ。そのために、いろんな子をまんべんなくプロデュースするのがオススメです。第一印象だけではなく、いろいろなアイドルの中から自分の担当するアイドルを決めてほしかったので!

のっち 私のやり方は間違ってなかった!(笑)

のっちさんの取材後記

こんにちは、ほっかほかのアルバムできました!のっちです。

2024年10月30日にPerfume 2年ぶりのアルバム「ネビュラロマンス 前篇」をリリースしました!!

ん?前篇?

そう。"前篇”なんです。という事はもちろん! “後編”があります! 2025年に出ます! 作ってます!

なんと今回のアルバムは、前後編に分かれたコンセプトアルバムです。
「ネビュラロマンス」という3人を中心とした架空のSFロマンス物語の、架空のサウンドトラックとして、我々Perfumeの音楽プロデューサー「中田ヤスタカ神」が作ってくれました。

レコーディングスタジオに行くと「ネビュラロマンス 前篇」の候補曲10曲がもう完成していて、手元の資料には中田さんの想像するジャケットや世界観のリファレンスイメージと、10曲分の歌詞。こんなん初めて!

1曲目から通して聴きながら、中田さんが「この曲はこういった場面で流れる曲で~友達や恋人だと思ってた人たちが実は~実は自分が~この曲で驚愕の事実が発覚してガーンてなってその後エンドロールが流れてシーズン2どうなっちゃうの~て感じで~」。と、口調がこんなだったかは不確かですが、こんな感じで、考えたストーリーの説明を聞かせてくれました。その時間は本当に特別で、ちょーワクワクしました。

過去にも、SF要素のあるPerfumeの楽曲は何曲もあるし、堪らなくかわいくてかっこよくて好きです。
それが今回、色んな作品に詳しくて恐らくSF作品も好きであろう中田さんが、曲と曲の隔たりを越えてストーリーを仕立てて、そして才能をPerfumeの作品に注いでくれたことがめっちゃめちゃに嬉しかった。

中田さんとPerfumeは、21年くらいになります。えっ! 長い!(笑) ほんとに? 計算あってる? びっくりしちゃった。

まだまだ新しいことができるんだ!と、挑戦できる喜びを感じます。
中田さんが私たちにくれる曲は、その歌詞達は、その時その時の私たちを本当に優しく救ってくれるし、背中を押してくれる。いつかの言葉が今を救ってくれる時もあれば、新しい曲があの時の私を救ってくれる時もある。
目まぐるしく変化していく世界の中で、どんなムードで活動していこうかという指針にもなる。
わたしの人生です。

中田さんの曲の世界観を、チームで力を合わせて実体Perfumeに落とし込み、作られたのがアルバム「ネビュラロマンス 前篇」です。
初回限定盤には、映画のパンフをイメージして作られたパンフレットがついていて、登場人物の紹介だったり、キャラクター設定画だったり、前篇のストーリーのカケラが書かれていたりします。
こんなん堪らん。わたし、ゲームの設定資料集みたい!って思って。そこでしか読めない文章とかあるの堪らん。
是非手に取って読んでみて欲しい。

ぜひ自分なりのストーリーを想像しながら聴いてみてください!

ライブも楽しみ絶対来て欲しい。待ってます!


さて! 宣伝も終わったところで!
今回は前後編にわたり、アイドル育成シュミレーションゲーム「アイドルマスター」シリーズの新作スマホゲーム「学園アイドルマスター」のプロデューサーを務める小美野日出文さんに会いにゆきました!

アイマスです!
間違いなくPerfumeを世の中に押し上げてくれた足を向けて寝られんもののひとつです!
ただ当時私たちは知らなかった……。
何故か「パーフェクトスター・パーフェクトスタイル」という曲の認知度が高いんだよなあなんでだろう?の答えの一つがここにあったと気づいたのもここ数年のことです。
いつの時代も、Perfumeを素材に何か作ろうと思ってくれる誰かがいてくれることが、とっても幸せです。

今回は、お話の他にもガチな会議を見せていただいて、ほんとに、「のっちが口固くてよかったね!」って感じです(笑)
ほんとにスッスッスッと、でもじっくりじっとりと進む、その不思議なスピード感に驚きました。
貴重な機会をありがとうございます。

アイドル科のみんな面白くて夢があって愛おしい。
誰か自分に期待している人がいるのか、何ができるのか、何になれるのかもわからないそんな時に、プロデューサーは真っ直ぐ言葉にして自分の魅力を伝えてくれる。
その言葉に少しずつ背中を押されながら、一緒に成長するプロデューサーとアイドルの姿が気持ちがいいです。
みんなほんとにかわいいです。
これからも見守らせてください!!!!

ひとつひとつ真摯にお話してくださって、例え話も交えてわかりやすく説明してくださったり、ありがたかったです。学マス愛がバシバシ伝わりました!!
お世話になりました「学園アイドルマスター」の企画開発に携わる皆さま、本当にありがとうございました!

次回予告

当連載を書籍化した「のっちはゲームがしたい!の本」が12月6日にKADOKAWAより発売されることが決定しました!

この本は連載バックナンバーの対談パートをまとめたもので、書籍限定の企画として「星のカービィ」シリーズや「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズの生みの親・桜井政博さんとの対談も掲載。さらに購入者限定特典として、ゲーム実況者のジャック・オ・蘭たんさんとの対談動画も観ることができます。

次回はこのジャック・オ・蘭たんさんとの対談動画の収録レポートを掲載する予定です。こちらもご期待ください!

Perfume最新情報

前後編に分かれたコンセプトアルバムの前編「ネビュラロマンス 前篇」発売中。12月から全国ツアー「Perfume 10th Tour ZOZ5 “ネビュラロマンス” Episode 1」を開催します。

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「のっちはゲームがしたい!の本」掲載カットより。 (c)KADOKAWA/写真:曽我美芽

Perfumeのっち×ジャック・オ・蘭たん対談動画、「のっちはゲームがしたい!の本」購入者限定で公開

21日