YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで3月7日から3月13日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、4位にCUTIE STREETの「ラブトレ」が登場した。今作は恋に突き進む女の子の思いを列車に例えた楽曲。MVはメンバーが駅のホームや列車内でダンスを披露したり、アサイーを食べるシーンが盛り込まれていたりと、歌詞の内容を丁寧に踏襲した映像になっている。
そのほか12位にはCreepy Nutsの「doppelgänger」がランクインした。この曲は映画「アンダーニンジャ」の主題歌。2人が直立しているシーンで R-指定の影だけが自由に動いていたり、DJ松永が1人でエレベーターに乗っていると複数の松永が登場したりと、楽曲通り“自身の幻影”を表現した映像が印象的だ。
18位にランクインしたのはTREASUREの「YELLOW」。3月6日のMV公開から10日間で230万回再生を突破し、破竹の勢いを見せている。
21位にはKing & Princeの16thシングル表題曲「HEART」が登場した。これはメンバー・永瀬廉の主演ドラマ「御曹司に恋はムズすぎる」主題歌で、ドラマの世界観を曲で表したようなキラキラした王道のラブソングになっている。
人気アイドルの新曲が目立った今週は、下記の3曲をピックアップする。
柊マグネタイト「雑魚」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場6位
昨年発表の「テトリス」が今も大ヒット中の柊マグネタイトが、続いて2月9日に公開した新曲「ざぁこ」のMVは、その内容について海外を中心に批判の声が多く上がった。ストレートに性的な言葉は出てこないものの、リスナーに対して挑発的で扇情的な歌詞のこの曲。使用しているボーカロイド・歌愛ユキが実際に小学生の声を元に開発されたものであり、幼い女子という設定のキャラクターにそれを歌わせたことが問題視されたのだ。なお歌愛ユキの利用規約は日本語版と英語版で異なり、英語版では性的な表現をすることが禁止されている。海外では子供に関わる表現に対して現時点での日本よりも慎重な姿勢が求められており、刺激的な作品は非常に強い反発を受ける。
この件について柊マグネタイトは、MV公開当日にX(Twitter)で「歌詞・描写に不適切な表現が含まれているとのご指摘を受け、様々なご意見を頂戴しました」と説明。そして「ざぁこ」のMVを即日公開停止し、リメイク版を再アップロードする旨を伝えた。
そして1カ月に新たに発表されたのが「雑魚」である。使用を批判された歌愛ユキは亞北ネルの歌に差し替えられ、またコーラスは11歳という設定の音街ウナから31歳の重音テトに変更された。サツキ「メズマライザー」などで知られるCAST(元・channel)が手がけたMVも、原曲の映像を全面的に修正している。
YouTubeのコメント欄では「え、ムービーもボーカルも完全作り直しでアップロード!? やりきるのもすごいし、二人の信頼関係が無いとまず実現しないやり直しだよなあ、、」「ざぁこはメスガキ感強めだったのが漢字表記になるだけで特に歌詞は変えてないのにツンデレ子の楽曲になったの凄い」など「雑魚」に対して好意的な声が目立つ。原曲の公開停止の際に「リメイク版では問題点の修正に留まらず、楽曲とMVの魅力を最大化し、多くの方が提起してくださった問題点をすべて解消できる作品にしたいと考えております」とコメントしていた柊マグネタイト。その言葉の通り、元の楽曲をブラッシュアップして、さらに魅力的な曲に作り上げるのはさすがのひと言に尽きる。
M!LK「イイじゃん」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場31位
M!LKの新曲「イイじゃん」は3月5日にリリースされたメジャー2ndアルバム「M!X」のリードトラック。この曲が今、それまでのファン層を超えて広く話題になっている。
今作が盛り上がっている理由として“ギャップ”が考えられる。佐野勇斗の「いつだって いつだって / 君だけを見つめてるんだ」というきれいな歌声から始まる「イイじゃん」は、そのあとも歌詞や曲調を含めて正統派男性アイドル風のきらびやかな楽曲のまま完結するのかと思ったら……そうではない。サビでいきなりクールな雰囲気のEDMになり、5人がイケボで「今日ビジュイイじゃん / 盛れててイイじゃん」と「イイじゃん」を連発するまさかの展開に。突然かつ、あまりに極端な曲調の変化で、思わず“二度見”してしまうようなインパクトの強い楽曲になっているのだ。
サビが異様にカッコいいからこそ逆に笑える、という化学変化が起きているこの曲。生まれたのは「今までの僕らっぽい王道ポップスからギャップを付ける感じにしよう」とメンバーの塩崎太智が提案したことがきっかけだったと、佐野が音楽ナタリーのインタビューで語っている。また、3月5日に東京・新宿住友ビル 三角広場でのフリーライブ前に行われた囲み取材で、吉田仁人はこの曲について「M!LKっぽい曲調から、テックハウスという流行ってる曲調にガラッと変わる。最初聴いたときには僕らも衝撃を受けたんですが、それがデビュー曲の『コーヒーが飲めません』をもらったときと同じくらいの衝撃で」とコメントしている。
現在「イイじゃん」にハマっている人が続出しており、著名人ではマンガ「【推しの子】」の作画を担当している横槍メンゴもX(Twitter)で「M!LKのイイじゃんまじで元気出る なんか気圧の落ち込みなんとかしてくれる 本当にありがとう」と楽曲を賞賛。YouTubeのコメント欄を見ると「キンプリとNumber_i交互に見てるみたい」と、少し困惑しながらも楽しんでいる人の姿が多く見られる。
また、サビで世界観が変わる瞬間にセンターで歌っている山中柔太朗が、この曲でM!LKを初めて知った人々の間で「金髪確変ニキ」と呼ばれて話題に。これをきっかけに山中の魅力がファン以外にも発見されている模様だ。ちなみに山中がInstagramで「自分って何にきなん?」と投稿したところ、すかさず佐野が「金髪確変小声ニキ」とレスし、さらに山中が朝ドラの役作りで丸刈りにした佐野を「丸刈りイケメン大声ニキ」と呼ぶ展開に。この流れからも山中の呼称がメンバー間でも面白がられていることが窺える。
昨年11月に結成10周年を迎えた彼ら。これだけのキャリアがあれば、大抵はファンも固定されて楽曲の方向性も変わらないものだが、ここにきて新規のリスナーを獲得し、実験的な曲にトライをしたことに賞賛の拍手を送りたい。
HIMEHINA「キスキツネ」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場90位
HIMEHINA の「キスキツネ」は6月11日にリリースが予定されているアルバム「Bubblin」からの先行シングルだ。作編曲を務めたのはHIMEHINAのデビュー曲「ヒトガタ」を手がけた南田健吾で、作詞および音楽プロデュースは「ヒトガタ」や「愛包ダンスホール」などHIMEHINAの多くの曲を作詞しているGohgo(幽世55番街)が担当。3月1日と2日に東京・TOKYO DOME CITY HALLで開催された7周年ライブの2日目に初披露され、大きな反響を呼んだ。
そのMVが、3Dアニメと2Dアニメが行き来する斬新な映像と、キツネをモチーフにした印象的な振付と衣装で話題を呼んでいる。そのキャッチーなダンスは数多くの人々によってSNS上でシェアされ、にじさんじ所属の五十嵐梨花や倉持めると、ホロライブの風真いろはなど人気Vtuberがこの曲の“踊ってみた”動画を投稿。2023年末に公開されて大ヒットした「愛包ダンスホール」はMV公開から10日で100万再生を達成したのに対して、「キスキツネ」は1週間でその記録に到達し、自身最速記録を塗り替えた。
このキツネの耳やしっぽを連想させるユーモラスな仕草と、視聴者が真似しやすいシンプルでリズミカルなステップは、今後もどんどんネットで拡散されていくのかもしれない。YouTubeではHIMEHINAによるこの曲のダンス解説やダンスプラクティス動画、そして振付を担当したわたが小豆とともに踊るダンス動画も公開されているので、合わせてチェックいただきたい。
※塩崎太智の崎は、たつさきが正式表記。
