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パンチライン・オブ・ザ・イヤー2024(中編)ralph、ZORN、Watson、Kohjiyaらについて

パンチライン・オブ・ザ・イヤー2024
7分前2025年03月26日 3:03

「2024年もっともパンチラインだったリリックは何か?」をテーマに、二木信、渡辺志保、YYK、MINORIという4人の有識者たちが日本語ラップについて語り合う企画「パンチライン・オブ・ザ・イヤー2024」。前編の記事では世界的な話題になった千葉雄喜「チーム友達」や、2月の東京ドーム公演をもって解散したBAD HOPなどについて語り合ったが、この中編の記事では世代の近い5lack、仙人掌、ISSUGIの3人についてのトークや、ralph、ZORN、Watson、Kohjiyaなどの話題で盛り上がった。

取材・文 / 宮崎敬太 題字 / SITE(Ghetto Hollywood)

ワードプレイこそラップの真髄

──BAD HOPの話題の流れで、MINORIさんがBenjazzyの「NOTFORSALE」から「誇る誰かにとってはガラクタのゴミ / でも売らない媚びと原盤権 / プライドはどれも非売品」をピックアップされたお話を伺いたいです。

MINORI アーティストにとって原盤権って本当に大事な権利なんです。私はレーベルでマネジメント業務もしているのですが、そういう仕事をする中でアーティストが見落としがちな契約面の話が、のちのちアーティスト本人の生活に大きく影響してくることを感じています。だから、そういうことを東京ドーム公演を成功させたラッパーが言うことに意味があると思ったんです。あとこの曲には「何件蹴飛ばした / 額面以外リスペないのねぇ案件は」というラインもあって。若いラッパーには今こういうことはたくさん起こってると思うけど、自分のプライドを持っていたほうが、結果的に長生きできると思う。

渡辺志保 まったく違う表現だけど、今MINORIちゃんが言ったラッパーとしてのプライドの重要性を、私は二木さんが選んだ5lackくんの「gambling」、さらに言えばこの曲が収録されているEP「report」全体から感じましたね。

二木信 そうなんですよ。特に5lack「gambling」の2ヴァース目がすごくて。5lackも気付けばもうアラフォーですよね。一時期の彼は、人生のはかなさや諦観、それと自問自答をラップするのが1つの特徴だったと思うです。それが、2023年のEP「try&error」の「Change Up(feat. ISSUGI & BACHLOGIC)」で吹っ切れたようにアグレッシブなセルフボースティングをしていて、「gambling」もその流れの1曲です。とにかく、ヤバいビートでヤバいラップをすることに集中している。

──「gambling」はビートもめちゃくちゃカッコいいです。

二木 そうそう。5lackのビートですね。5lackはリリックを公開していないので、聴いて言葉にしたんですけど、「ギミック」「give me」「limit」「kickin’」「危機」「苦味」「辛み」「人生の美味」「吟味」「楽しみ」「嬉しみ」……とかめちゃくちゃ畳みかけてくる。で、さんざんスキルを見せつけたヴァースの最後を「メディアがわからないスキルの意味」で落とす。5lackもそうだし、志保さんが選んだISSUGIやMINORIさんが選んだ仙人掌も、おのおの人生経験を積んで、語彙力も増して、「ワードプレイこそラップの真髄」を見せつけてるようにも思えるんです。

渡辺 5lackくんやISSUGIさん、仙人掌さんたちは同じ世代のラッパーだと思うんですけど、EP「report」や、ISSUGI & GRADIS NICEのアルバム「Day'n'nite 2」を聴いて、「彼らは今の日本語のラップシーンをどう見ていて、どう批評するのか」的なことを感じました。

二木 わかります。今はラッパーが、いろんな付随してくるもので、評価されたり、人気が出たりしますから。でも、ラッパーはヤバいラップができることが一番重要と、それこそラップのスキルで主張していますよね。「gambling」の「まずはマイクの前 カス蹴散らそう / 超軽快だぜこの日々 / 陰で流した涙とこのリリック / えー ドーピングMC焦り気味」というラインは象徴的です。

MINORI 5lackさんは「boast」という曲でも、かなりすごいことをおっしゃってました。

──あの曲はドキッとしました。ユーモアもあるし、異常なスキルとセンスの持ち主である5lackさんだからこその説得力というか。ちょうど仙人掌さんの名前も出たので、MINORIさんが選んだ仙人掌さんのラインについて教えてください。

MINORI プロデューサーのLucas ValentineさんがVIKNさんと仙人掌さんを迎えて制作した「八百八調 MIXTAPE」に収録されている「NANI_MEZASHITERUNO」から、仙人掌さんの「何目指してそれやってんの / 誰かフックアップ待ってんの / 何目指してそれやってんの / いつまで何と戦ってんの」というラインを選びました。「誰かフックアップ待ってんの」はギクッときますね。待ちの姿勢への揶揄とも取れるし、「有名な誰かと一緒にやれば売れると思ってる?」みたいなメッセージは5lackさんの「boast」にも通じるなって。

二木 「いつまで何と戦ってんの」もドキッとするよね(笑)。

MINORI これも仙人掌さんが言うから意味があるラインだと思う。そのあとにVIKNさんは「何目指すの / 食うためだろうよ」って返してるのも会話みたいで面白い。

二木 この曲、最後に入ってる仙人掌の語りもいいですよね。

MINORI はい。「音楽は日常の中にあるものだから、ごはんを食べたり、寝たり、遊んだりする延長の感覚でラップしてる」「売ったり、広めたりってことを考えるよりも、自分たちが楽しいことをやって、それが注目されたりすれば、まあうれしいかも」とおっしゃってるんです。何を目指してやってるとかじゃなく。

あの頃のヒップホップを愛した者がわかる要素

渡辺 この流れでISSUGIさんの話に戻しますけど、私はISSUGI & GRADIS NICEのアルバム「Day'n'nite 2」の「XL」から「Rapperの声はXXXL / 誰でも輝ける」を選びました。この曲からパンチラインを選ぼうとしたときに、どれにしようかすごく悩んだんです。今回のアルバムってこれまでのISSUGIさんのラップには少なかった、生活感がにじみ出るような表現が多い気がして。「ひげそり向き合う洗面台」ってラインはちょっとびっくりしたし。

二木 髭くらい剃るでしょ(笑)。

渡辺 そうなんだけど、家の洗面台に立っている姿がちょっと想像できなかった(笑)。あとフックに出てくる「Rhyme & Reason」って、KRS-ワンとか2パックとか、アメリカのラッパーたちにインタビューしまくったドキュメンタリー映画のタイトルでもあるんです。その作品とは関係ないのかもしれないけど、もしかしたら?と思いました。で、その次の「適当やればHipHop舐められる」ってラインもカッコいい。めっちゃ背筋が伸びる。で、「本当の言葉 / 腹から出る / ぶちかませばみんなで騒げる」からの私が選んだライン「Rapperの声はXXXL / 誰でも輝ける」なんですよ。

MINORI 震えます。

渡辺 3XLなんですよ。昔のB-BOYはみんな3XLくらいのデカいTシャツを着てたし、ボトムもすごく太かった。ISSUGIさんもずっとそういうスタイルですよね。肘くらいまであるTシャツにキャップという出で立ち。XXXLって声量のことも意味してると思うけど、正統派B-BOYのファッションのことも言ってるのかなと感じました。どうしても世代に通じるノスタルジーを見てしまう。5lackくんも、最近になって昔の「WOOFIN'」(1997年に創刊したヒップホップ系のファッション誌)を集めてるって言ってたし、この前取材したときもドゥーラグを巻いた上にキャップを被った50セントみたいなスタイルで。あの頃のヒップホップを愛した者がわかる要素がちりばめられてるところにグッときてしまいました。

二木 あと、ISSUGIが最近リリックを公開するようになったのにはけっこう驚きました。

MINORI 5lackさんに関しては、発音を工夫したりダブルミーニング的な言葉の使い方をすることが多いので、たぶんリスナーの想像力を膨らませるためにも歌詞を載せたくないのかもしれない、と思いました。聴いた人の自由な捉え方を正解にするために。

ローカルなプライドが表出したラップ

──ボースティングやワードプレイでいうと、Isaacさんが選ばれたralphさんの「Assassin」にも通じますね。

Isaac Y. Takeu 「媚びない分スキル磨いた / 925 ナイフみたいだな / 尖ってるのはエイリじゃないから」というラインすごくて。「媚びない分スキル磨いた」から「925」って、たぶん銀のことだと思うんです。銀は磨くときれいになりますよね。あと9 to 5、つまり9時から5時まで働く人という意味もあると思う。さらに「磨いた」はスキルとナイフにかかってて、ナイフの尖りはralphの媚びない活動姿勢ともつながってる。「エイリ」は営利と鋭利のダブルミーニングで、「営利目的じゃないから尖ってる」ということだと思うけど、“鋭利じゃない”だとどういう意味なんだろう?

渡辺 ralphくんってゲーマーのイメージもあるから、エイリっていう名前のゲームキャラか何かがいるのかなとすら思ってた。ただ、私たちが考えすぎてる可能性も否めない(笑)。

Isaac (笑)。こんだけ重なっちゃうと考えちゃいますよね。

──二木さんが選ばれたAKLO「221(feat. ZORN)」のZORNさんのラインもすごいです。

二木 AKLOとZORNがそろったら、当然すごいラップをしますよねっていうさすがの曲です。ZORNの「仲間を見りゃあのままなメンツ / 変わったと言やパトカーからベンツ」も説明不要のうまさですよね。あと、面白かったのは、ZORNの「俺がウィル・スミスなら殴んのはグー 」。

渡辺 ウィル・スミスのラインもすごいですよね。

二木 はい。これはもちろん、2022年のアカデミー賞で、ウィル・スミスが、妻のジェイダ・ピンケット・スミスを司会者のクリス・ロックにジョークのネタにされたことに怒って平手打ちした一件ですね。このラインに続いて、「顔面蒼白になるバースを書く / でも嫁さんもともとガングロギャル」と来る。「顔面蒼白」と「ガングロギャル」の対比でも韻を踏んでいる。

──あ、白と黒で。

二木 そう。「221」って曲名は、神社で参拝するときの二礼二拍手一礼から来ています。だから、AKLOが神様つながりで、エミネムの「Rap God」って曲名を引用していますよね。ほかにも面白いところがありますが、まだ気付けてないポイントもありそう。

渡辺 初詣に行くと、いつもお賽銭のところで「どうするんだっけ?」となるんだけど、今年はこの曲のおかげでちゃんと二礼二拍手一礼でできました(笑)。

MINORI 日本っぽさで言うと、二木さんが挙げたWatsonの曲も日本ならではですよね。

二木 「阿波弁」ですね。徳島といえば阿波踊りが有名ですけど、阿波弁はあまり聞いたことがなかったです。「解散の事をカーしよか / 仕事を休むときはヤーしよか / おじさんはミスればゆうしもた / 軽トラ流れるラージオが」ってラインがコミカルですね。

Isaac 阿波弁だと「解散しようか」は「カーしよか」って言うんだ。

二木 そうみたい。あと「軽トラ流れるラージオが」もあの訛りで聴くと風景が浮かんでくる。地域の魅力を生かしているラッパーといえば、Watsonだけなく、福島県相馬市のYELLASOMAや去年紹介した岩手県山田町のPAZUもいますね(参照:パンチライン・オブ・ザ・イヤー2023)。偶然に両者とも太平洋沿岸の町ですが。YELLASOMAの「よーいとな」と「いごーよ」も方言をうまく使っています。

渡辺 今って地元にいてもカッコよく成り上がれますもんね。さかのぼるとTOKONA-Xさん、餓鬼レンジャーさんとか、方言でラップするという文脈があって。でも地方出身の人間からすると「方言全開で話すと東京の人はわかんないでしょ」って感覚が頭のどこかにあるし、方言のままでしゃべるとダサく見られるんじゃないかとも思う。けど今のヒップホップはそこを「カッコいい」に変換できる。例えば「RASEN in OKINAWA」のOZworldくんのヴァースもそうだけど。この前、Awichのファンクラブ限定イベントにOZworldくんがサプライズ出演して「RASEN in OKINAWA」をやったとき、最前の女の子がエイサーを踊ってたんですよ。

MINORI 確かに沖縄の人、みんなエイサーを踊れますよね。

Isaac 地元愛が強いのは素晴らしいと思います。

渡辺 渋谷の真ん中で、OZworldのラップでエイサーを踊っている女の子を見て、感極まりました。そのエイサーにローカルなプライドの表出を見たんですよね。すごく美しいなと思ってずっと観ちゃいました。

若くして完成されたラッパーは今後どんどん出てくる

渡辺 Kohjiyaくんってまだ若いけど本当に完成されてるじゃないですか。Isaacくんくらいの世代には彼の存在がどう映ってるのか、すごく興味があります。

Isaac 僕がKohjiyaさんの「Talk 2 Me」から「辛いことが辛いままじゃ / ムカつくよだから / 金に換える過去の話」を選んだのは、けっこういろんな理由があるんです。Kohjiyaさんは10代前半からヒップホップにどっぷりハマって、それしかやってこなかった人らしくて。自分たちでMVも作ってるんですけど、10代で曲はおろかMVまで作っちゃうって、冷静に考えるとものすごいことだと思うんですよ。でもUSでは16、17歳のラッパーがどんどん出てきているし、日本でもKohjiyaさんのように若くして完成されたラッパーはこれからもどんどん出てくるんだろうなって感じたんです。

──Kohjiyaさんは、作品を聴いているとすでに完成されたラッパーのイメージがありますが、実際は話を伺うと僕らの知らない引き出しや伸びしろがまだまだあるように思えましたね。

Isaac Kohjiyaさんは「ラップスタア」に出場するちょっと前に「KJ S EASON」というミニアルバムをリリースしたじゃないですか。あの頃って、僕らがやってるポッドキャストが過去一ヤバい時期だったんです。シンプルにものすごくお金がなかった。だから2024年はがんばっていっぱいMVを撮ったんです。弟と2人で、生きるのに必死でした。その時期に「KJ S EASON」に収録された「DREAMIN’ BOI ISSUE」をレンタカーでめちゃくちゃ聴いてたんですよ。で、12月に「KJ SEASON 2」が出ましたよね。僕らがそのアルバムを聴いていたのは、加湿器とハンガーラックを買いに行く途中の車の中だったんです。

──Isaacさんの2024年とKohjiyaさんの活動が重なった?

Isaac そうなんです。僕らも加湿器を買えるくらいまでには、生活水準が上がったんですよ(笑)。「KJ SEASON 2」はめちゃくちゃエモい気持ちで聴いてましたね。あと彼って、英語を話せるわけじゃないけど、ヒップホップで使われてる単語はめっちゃ知ってるじゃないですか。そういうところもすごく好き。曲も聴きやすいし、いい意味でメインストリームとヒップホップの中間にいる気がする。日本のヒップホップがどんどん大きくなるときの導入になれる存在なんじゃないかな。

──なるほど。「Talk 2 Me」の選出理由がわかってきました。

Isaac この「辛いことが辛いままじゃ / ムカつくよだから / 金に換える過去の話」という歌詞にはヒップホップが詰まってると思うし、まんま自分の活動にも当てはまるんですよね。僕らみたいな境遇の子って今もいると思います。だからこそ、僕らは黒人や移民のリプレゼンテーションを自分たちの番組でしっかり伝えることで、そういう子たちが僕らみたいなつらい経験をしなくて済むような社会にしたいっていうのがゴールなんです。

MINORI ……素晴らしいですね。私、今ものすごく感動してます。

<後編に続く>

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