YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで5月16日から5月22日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、6位にYOASOBIの「Watch me!」が登場した。今作はテレビアニメ「ウィッチウォッチ」のオープニング主題歌となっており、MVのコメント欄には「ウィッチウォッチ」のメインキャラクターに絡めた「おい、、これニコからモイちゃんへのラブソングじゃねぇか、、、Ayaseとikuraの原作リスペクトと愛を感じすぎるんだが」などの絶賛の声が多く上がっている。
8位にはAぇ! groupの「Chameleon」がランクインした。6月18日にリリースされる3rdシングルの表題曲で、サウンドや歌声を含めて大人な雰囲気を堪能できる。
15位にはCUTIE STREETの「キューにストップできません!」が登場した。派手な衣装やパラパラダンスなど、平成ギャルを想起させる映像が新鮮だ。
22位にランクインしたのは星街すいせいの「綺麗事」。これは彼女が初めて作詞・作曲をした楽曲で「綺麗事を吐くその口が嫌いだから歌を歌うんだ」というフレーズをはじめ、自身の歌に対する気持ちを表現したような歌詞が印象的だ。
25位にはJIN(BTS)の「Don't Say You Love Me」が登場した。5月16日のMV公開から2週間で1400万再生を突破し、昇竜の勢いを見せている。
アイドルを中心にさまざまなジャンルの新曲が並んだ今週は、下記の3曲をピックアップする。
SUPER EIGHT「四十路少年」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場58位
2014年リリースのアルバム「関ジャニズム」に収録された、前山田健一による提供曲「三十路少年」。それから約10年の時を経て生まれた「四十路少年」のライブ映像が到着した。この映像が撮影されたのは、ドームツアー「SUPER EIGHT 超DOME TOUR 二十祭」のファイナルとして1月に行われた大阪・京セラドーム大阪公演。同公演は7月16日にBlu-rayとDVDで発売されることが決まっている。
「三十路少年」と「四十路少年」の歌詞を見比べると面白い発見が多い。「あの頃 三十路と言うたら / めっさオトナで めっさクールで / めっさモテまくってたはずやのに!」が「あの頃 四十路と言うたら / めっさ渋くて めっさダンディで / めっさ葉巻ぶっかーやったのに!」に変わっていたり、「公園でブランコみつけてもうたら / 立ち漕ぎしてまう 30代!」が「イキって走って足つってもうて / 戻ってこられへん 40代!」に変わっていたりと、30代から40代になり、さらに“おっさん”に磨きがかかったコミカルなSUPER EIGHTを楽しめる。森高千里「私がオバさんになっても」のように、10代や20代のアイドルが大人になった姿を歌った曲は前例があるが、40代のことを等身大の目線で歌うアイドルソングはほかにないだろう。
デビュー20周年を記念したライブツアー「超DOME TOUR 二十祭」でこの曲を初披露した背景には、ファンと一緒に年齢を重ねてきたことを祝う意味も込められているように思う。10年後、ぜひ「五十路少年」を歌うSUPER EIGHTも観てみたい。
こっちのけんと「それもいいね」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場62位
こっちのけんとがNHK Eテレの子供向け番組「The Wakey Show ~ザ・ウェイキー・ショウ」に提供した「それもいいね」のセルフカバーが62位にランクインした。番組のオフィシャルサイトに掲載されたコメントで、彼は同曲に込めた思いについて次のように話している。
「最初に考えたことは『こどもたちが朝、口ずさみながら登校する姿』でした。そのとき、朝一番に『それもいいね』という言葉を覚えて欲しいなという思いから制作いたしました。多種多様なこの世の中の全てに興味を持ち、そして褒めることができるウェイキーのようなすてきな心を目指して、GRPさんと共に作詞・作曲させていただきました」
個人的に優れたポップスとは、難しい言葉や表現をいかにわかりやすく伝えるかがポイントだと思っている。この曲のテーマをひと言で表すなら“多様性”だろう。それを子供たちにも伝わるように「多様性=それもいいね」と訳したところに、こっちのけんとの言語能力の高さと優しさを感じる。
紫今「ウワサのあの子」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場90位
紫今の「ウワサのあの子」は、思春期に抱く恋心の“危うさ”を見事に描いた楽曲だ。クラスでそんなに目立つタイプじゃなかったあの子。私だけがあの子の魅力に気付いていて、ひっそりと片思いを育んでいたのに、ほかのクラスメイトもあの子のウワサをするようになり、意中の人が誰かのものになることを恐れて「私だけの“あの子”でいて」と嫉妬や独占欲が爆発する。
「初めて君を見た瞬間 / 私の人生は狂い出した」「君と私以外 / みんないなくなればいいのにな」など誇大表現とも思えるフレーズが多数炸裂するが、哲学者のプラトンが「愛に触れると誰でも詩人になる」という名言を残しているように、紫今は恋をして暴走する10代の脳内をリアルな目線で表現している。
また「魔性の女A」「メロイズム」といった過去の紫今のMVにも出演した平松想乃と、日曜劇場「御上先生」出演の渡辺色がダブル主演したMVのクオリティも素晴らしい。楽曲の世界観が丁寧に落とし込まれており、わずか3分18秒ながら、1本の短編映画を観たような感動を味わえる。
