創作活動のパートナーとしての猫の存在に迫る本連載。今回は初となる4匹の猫ちゃんと同居するアーティストの登場である。彼の名はあらき。2013年にニコニコ動画で“歌ってみた”動画の投稿を開始すると、やがて力強い歌声で注目を浴びるように。2016年には1stアルバム「THE SKY'S THE LIMIT」をリリース。現在まで歌ってみた動画を投稿し続けると同時に、オリジナル曲のリリースやライブを行い、熱狂的な人気を獲得している歌い手の1人だ。
「歌い手は猫好きが多いんですよ。なぜかみんな猫ばかり飼ってますね」
インタビューの場にやってきたあらきは、開口一番そう話し始めた。“歌ってみた”文化はボカロ曲をカバーする一種の二次創作として始まり、ニコニコ動画やYouTubeで人気ジャンルとして定着してきた。いわばネットカルチャーの1つとして発展してきた面がある歌い手たちに猫好きが多いのはなぜなのだろうか? 歌い手界隈随一の猫好きとして知られるあらきに話を聞いた。
取材・文 / 大石始
あらきの愛猫紹介
今年3月に刊行されたあらきの初エッセイ集「赤誠」には4匹の猫ちゃんの写真が登場する。4匹のうち3匹がラガマフィン、1匹がサイベリアン。全員長毛のモコモコの猫ちゃんである。「4匹との生活? いやー、2匹超えると、もう一緒ですね(笑)」と話すあらきに、1匹ずつ紹介していただこう。
1匹目は8歳のオス猫ラフテーちゃん。
「ラフテーはちょっと頭がよすぎるかもしれませんね。絶対に人間の言葉を理解しています。下の兄弟たちのために我慢しているというか、長男であることをわきまえていて偉いなと思います。ラフテーしかいなかった頃は、一緒に旅行も行ってたんですよ。京都とか蔵王とか、いろいろ行きましたよ。海にも行きましたね」
2匹目は7歳のメス猫もずくちゃん。
「もずくちゃん、かわいいですね。唯一の女の子ですから。体重が4kg前後なので、ほかの子たちと比べてちょっと小さいです。押し入れから出てこなかったり、内気な女の子って感じです。たまに出てきては、お腹を広げて寝ています。血はつながっていないけど、ラフテーとはほぼ兄妹みたいな感じ」
3匹目は6歳のオス猫ポチギちゃん。唯一のサイベリアンだ。
「ラガマフィンを探す俺の旅の中で、同じぐらいかわいいなと思いまして、サイベリアンに浮気してしまいました。ポチギはとても人懐っこいですね。もう6歳ですけど、毎晩一緒に寝てます。電気を消して俺がベッドに入るとモゾモゾとやってきて、ストンと横になります。病気や怪我をしがちということもあって、ちょっとベタベタなのかもしれません」
4匹目は2歳のオス猫ジゲンちゃん。出会いの詳細については、YouTubeにアップしているこちらの動画をご覧になっていただきたい。4匹の猫ちゃんたちも登場する必見の動画である。
ところで、4匹中3匹が沖縄料理の名前なのは何か理由があるのだろうか?
「沖縄が好きなんですよ。沖縄料理も好きだし、猫の名前にしちゃおうと。ラフテー、もずく、ポチギはそこから来ています」
忙殺される日々の中で癒しを求めていた
実家で猫を飼っていたわけでもなく、猫との接点があったわけでもないあらきが、のちに「ラフテー」と名付けた1匹のラガマフィンと暮らし始めたのは2017年のことだった。ちょうどその頃、あらきは歌い手界のオールスターが集まるライブツアー「XYZ」に参加していたほか、1stアルバム「THE SKY'S THE LIMIT」がリリースされたことなどで一気に活動範囲を拡大。多忙を極めていた。猫を飼い出した理由の1つとして、そうした環境の変化は関係しているのだろうか?
「関係しているんじゃないでしょうか。『犬猫を飼うと年収1300万円と同じくらいの生活満足度』という記事を読んだことがあるんですけど、当時、無意識のうちにそういう生活満足度を求めていたのかもしれないですよね。忙殺される日々の中で癒しを求めていたといいますか」
慌ただしい1日が終わり、ヘトヘトになって家に帰ると、まだまだ子猫だったラフテーちゃんがあらきを待っていた。
「ドアを開けたら、もう玄関で佇んでいましたからね。すぐに抱き締めるんだけど、逃げられちゃうんですよ。幼い頃、親戚のおじさんに抱っこされるのがすごく嫌だったんですけど、今になっておじさんの気持ちがわかりました(笑)」
あらきの“猫曲”と言えば
ここで「歌い手は猫好きが多いんですよ」という冒頭の発言に戻ってみよう。
「歌い手仲間でも、猫を飼っている人は本当に多くて。有名なところだと、まふまふさん、天月-あまつき-さん、Geroさん、めいちゃんなどなど。まふまふさんと天月-あまつき-さんもラガマフィンを飼ってたはずですよ。しかも天月-あまつき-さんもたしか4匹か5匹の猫と暮らしてるはずです。ラガマフィンを流行らせたのは自分なのでは?……と思ったり(違う)」
その理由を尋ねると「みんな猫が好きということは前提であると思いますけど」と前置きをしたうえで、あらきは持論を語り始めた。
「なんでこんなに猫を飼ってる人が多いのかって、改めて考えてみたんですけど……単純に“かわいい”ってだけじゃなくて、猫の存在感ってグッズや世界観づくりにも生かしやすい気がするんですよね。もちろん、僕自身もそういう流れの中にいるとは思います。猫に限らず、ペットを飼ってる歌い手は多いですし、ハムスターや爬虫類を飼ってる人もいる。でも理由を一言で説明するのは難しいかもしれないですね。たぶんこの連載を続けていったら、何かわかってくるんじゃないでしょうか(笑)」
猫にまみれた暮らしを送るあらきだが、「猫たちの存在が創作活動や音楽活動に与える影響はある?」という問いに対しては、「そんなにないかな」とひと言。
「界隈の人たちの中には猫をテーマにした曲を作る人もいるので、そういう人たちは猫の存在が影響していると思いますけど、僕の曲にはさほどないと思います」
そう話すあらきの楽曲にも、明確に猫をテーマにした楽曲がある。それがアルバム「IDEA」(2022年)に収録された「Secret Girl」だ。
「この曲はもずくちゃんをテーマに書きました。もずくは部屋の隅から出てきてくれないことがあって、本当に『秘密の女の子』なんですよ。この曲では抽象的なワードばかりを並べて、なんのことを歌っているのかわからないように書いたんですけど、裏テーマとしては猫のことを歌っているんです」
創作者の孤独と猫
実はあらきの暮らしにはもう1つ、静かに癒しを与える存在がいる。それが30匹の熱帯魚たちだ。つまり、家主であるあらきは完全なるマイノリティである。「ぎくっ(笑)。確かにそうですね。気付きたくないことに気付いてしまいました」と笑うあらきは、シリアスな表情でこう語り始めた。
「最近思うんですけど、創作する人って孤独を愛せたほうがいいと思うんですよ。メンタルが落ち込んでいるときのほうが創作に向かいやすいという話を聞いたことがありますけど、それも結局孤独を愛せるかどうかという話だと思うんですね。でも、俺の場合は身の回りに自分以外の生き物がいたほうが絶対いい。そういう環境に身を置きつつ、ふと『自分は孤独やなあ』と思う。そういう矛盾のある状態が自分は心地いいんです」
個人的にこの感覚はとてもよくわかる。わずらわしい人間関係に振り回されていると、執筆に集中することはなかなか難しい。ふとした瞬間に邪念が入り、イライラが込み上げてきてしまうからだ。そんなとき、僕はSNSやメールなどの通信手段をすべてシャットダウンし、猫と自分しかいない世界に閉じこもる。猫はごはんやトイレの掃除を催促することはあっても、ほどよい距離感で僕に接してくれる。確かな猫の存在を感じつつ、「自分は孤独やなあ」とひとりごちるのである。あらきはこう話す。
「僕は基本的にあまり怒ることがないんですけど、猫をなでているうちに、嫌なことも忘れているかもしれない。猫にはそういう効能があると思います」
インタビューがひと通り終わり、猫に関する他愛もない雑談をしていると、あらきの指に四文字の漢字のタトゥーが入っていることに気付いた。あらきは「これ、この間入れたんですよ。猫の名前になってるんです」と話し、1文字ずつ説明してくれた。
「それぞれの名前を漢字にしたらどうなるのかな?って調べてみたんです。ラフテーは“火”、もずくは“水”、ポチギは“牙”。ジゲンは……ちょっと強引ですけど“示”にしました。意味というより、みんなのことを忘れないようにって気持ちのほうが強いかもしれないです。ラガマフィンは寿命が短めなので、今が元気なうちに残しておきたかった。いずれ、ラフテーの似顔絵のタトゥーも入れたいと思っています」
あらきが猫と聴きたい13曲
01. 猫になりたい / スピッツ
02. Teeth / 5 Seconds of Summer
03. New Song / Måneskin
04. Guardian Angel / Lil Eddie
05. If We Ever Meet Again / TIMBALAND
06. ポラリスの涙 / 音速ライン
07. Flora / Baiser
08. Nothing lasts forever / Girl's Day
09. きみのキレイに気づいておくれ / サンボマスター
10. Do You Want To / Franz Ferdinand
11. It Girl / Jason Derulo
12. JUVES / Diggy-MO'
13. VOODOO KINGDOM / SOUL'd OUT
選曲コメント
このプレイリスト聴きながら猫カフェとか行ってみてください。
たぶんめっちゃ猫に好かれます。オススメです。
プロフィール
2013年よりネット上で活動を開始。圧倒的な表現力とライブパフォーマンスで注目を浴び、国内外の音楽イベントにも多数出演。ロック、エレクトロ、バラードまで幅広いジャンルを歌いこなし、YouTube総再生数は3億回を超える。2019年にはバンドプロジェクトAXIZとしてアルバム「DRAMA & TRAUMA」を発表。2021年には「UNKNOWN PARADOX」、2022年には「IDEA」などソロアルバムを精力的にリリース。2025年3月に初のエッセイ本「赤誠」を刊行。6月より全国ツアー「LIVE ARK CLASSICS」を開催予定。ソロとしての活動にとどまらず、多彩なコラボレーションでも高い評価を得ている。

関連記事
めいちゃん「やきそばパン」の全曲紹介映像公開 特設サイトでEve、キタニタツヤらコメント掲載
あらき×DOPEDOWNツーマン「D'N'A」再び開催「最高の一夜を約束するぜ」「生身1つで来い」
肉チョモランマが初ワンマンやったら、ぴあアリーナ2daysでわろたwww
Geroデビュー10周年アルバム「THE ORIGIN」発売 めいちゃん、天月、ゴム、超学生らコラボ参加
あらき活動10周年ツアーの追加スケジュール発表、ライブ披露曲のリクエスト投票企画も
あらき、活動10周年でZeppツアー開催
めいちゃん、歌い手仲間集結のコラボイベントに歓喜「またこういう空間を作っていきたい」
そらる、2DAYSワンマンに盟友や新世代の仲間たち集結「同じ道を歩いてくれる人がいてうれしい」
