YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで8月1日から8月7日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、3位に藤井風の「Love Like This」が登場した。この曲は9月5日に発売されるニューアルバム「Prema」のリードトラック。愛を歌った美しい世界観の楽曲と、ヨーロッパを舞台に自身初となるラブストーリーに挑戦したMVが話題になっている。
33位には、なにわ男子の「Black Nightmare」がランクインした。今作は9月3日リリースのダブルAサイドシングル「アシンメトリー / Black Nightmare」からの1曲で、メンバーの藤原丈一郎が主演を務めるカンテレ×FODドラマ「ロンダリング」の主題歌だ。クールで色気のある歌と、低音が効いた没入感のあるビートが見事に融合している。8月11日には「アシンメトリー」のMVも公開されており、こちらは切なくエモーショナルな旋律と力強いダンスが印象的だ。
39位には京本大我の「Night rider」が登場した。9月10日にリリースされるSixTONESの16thシングル「Stargaze」初回盤Bの収録曲で、Travis Japanの宮近海斗、七五三掛龍也、松倉海斗が振付を担当していることもあり、YouTubeのコメント欄にはトラジャ担によるダンスを絶賛する声も多く上がっている。
57位にランクインしたのはBegraziaの「Star-Mine」。Begraziaは育成シミュレーションゲーム「学園アイドルマスター」の登場キャラクター花海佑芽、秦谷美鈴、十王星南によるユニットで、その1stシングルであるこの曲は、きらびやかな歌と壮大なスケールのサウンドが3人の歌声にマッチしている。
多種多様な新曲が並んだ今週は、下記の3曲をピックアップする。
なきそ「いますぐ輪廻」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場1位
なきその新曲「いますぐ輪廻」が初登場1位に輝いた。映像を担当したのはサツキ「メズマライザー」や柊マグネタイト「雑魚」など、数々の話題作を手がけているchannel。ダークな世界観が注目を浴び、8月1日にMVが公開されてから12日間で850万再生を突破した。
皆さんは大切な人にバラをプレゼントする際、バラの本数によって意味が変わることをご存知だろうか。1本の場合は「私にはあなたしかいない」、3本は「愛しています」、108本は「結婚してください」と数によって愛の大きさも増えていく。そして999本は「何度生まれ変わってもあなたを愛します」という意味を持ち、愛のメッセージとしてはこの上なく甘美だ。
この曲も999本のバラに近いメッセージを孕んではいるのだが、主人公である“私(初音ミク)”が“君”に対して抱いているのが、ロマンチックな感情ではなく狂気なのが大きな違いだろう。MVで“私”が持っているのは真っ赤なバラではなく、鮮血に染まった斧やバットやハンマーといった凶器。結ばれない現実を受け入れながら、それでも希望を捨てずに「来世でも会おう」と願い、あらゆる武器で相手を殺すという、恐ろしい内容になっている。
映像全体のストーリーに惹きつけられるのと同時に、ゲームのユーザーインターフェースを思い起こさせる「SAVE」「LOAD」「SKIP」などの用語、繰り返される「2007年8月」のループ、そして再生回数を示唆するカウンターが、ゲームをクリアするまで終わらないループ=輪廻の構造を表しているように見える。また、動画内で一瞬表示される「無始生死」「長夜輪轉」などの、輪廻の呪縛から逃れられないことを意味する四文字熟語や、「愛結繁縛」といった造語も今作のおどろおどろしさを強調している。一度再生したら忘れられない強烈なインパクトと、何度も観て歌詞や映像の意味を考察したくなる没入感など、奥深い魅力を持った快作であり怪作だ。
Snow Man「Jack In The Box」パフォーマンスビデオ
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場9位
「Jack In The Box」はSnow Manの12thシングル「SERIOUS」収録曲。初回盤Aには今作のパフォーマンスビデオが封入されている。
この曲は細かく刻んだリズムと、要所要所で登場する「Groove」「chunky」「pow」の掛け声が印象的な、ポップなダンスナンバーだ。「こっから Brand new groove groove.」という歌詞に合わせてグーを出し、「Kick & Bass は Chunky chunky.」でチョキを出し、「Heart beat goes on, Pow pow」ではパーを出すなど、じゃんけんに使う「グー・チョキ・パー」や「あっち向いてホイ」の動作を取り入れたユニークな振付になっている。
またこの映像は、メンバーの勝ち負けの表情もコミカルで観ていて楽しい。パフォーマンスビデオといっても、ただダンスを映すだけでなく、躍動感のあるカメラワークや、じゃんけんをする9人を1コマ1コマをつなぎ合わせる編集など凝った演出も多く、何度も観たくなる力の入った映像に仕上がっている。
乃木坂46「ってかさ」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場61位
乃木坂46の39thシングル「Same numbers」の収録曲「ってかさ」は、遠藤さくら、小川彩、賀喜遥香、川崎桜、林瑠奈、弓木奈於の6名がラップでマイクリレーを繰り広げるユニット曲だ。筆者は曲中のフックとして登場する「ってかさ」のフレーズが、気だるそうに話す若者のリアルな空気感をパッケージングしていて魅力に感じた。
YouTubeのコメント欄を見ると、この曲を聴いてEAST END×YURIが1994年に発表した「DA.YO.NE」が思い浮かべた人が多い模様。「DA.YO.NE」はリリースされた当時、ユルさと親しみやすいリリックが注目を浴び、一躍お茶の間に日本語ラップを広めるきっかけになった。2017年に発売された「Quick Japan vol.133」で筆者がYURIにインタビューした際、当時のアイドルがラップを歌うことに対して「応援してくれる人もいたけど『アイドルクソラッパー』って散々言われましたよ(笑)。元々HIP HOPをやっていた人には相当叩かれていたと思います。でもラジオで『うるさい!』って文句を言ってました(笑)」と教えてくれた。
楽曲のアプローチだけでなく、アイドルがラップを歌うところにもYURIと乃木坂46には重なるものがある。約30年のときを経て、彼女たちが「DA.YO.NE」のムードを継承し、令和のラップ曲に昇華していると思うと感慨深いものがある。
※川崎桜の崎は立つ崎が正式表記
