JOYSOUND 音楽ニュース
powered by ナタリー
「JOYSOUND X1」公式サイトJOYSOUND公式キャラクター「ジョイオンプー」

アイドルダンス文化の変化 (後編)|シーンを見守り続けた竹中夏海が解説

竹中夏海(撮影:はぎひさこ)
22分前2025年10月31日 11:05

2010年代のアイドルシーンを複数の記事で多角的に掘り下げていく本連載。今回はアイドルシーンにおける“ダンス”に着眼し、前編、中編、後編の3本立てで記事を展開している。歌唱力と同様にダンススキルの高さはアイドルにとって大きな魅力や個性につながるが、アイドルが踊る“ダンス”にさまざまなスタイルが生まれたのも、ファンがその文化を楽しむようになったのも2010年代に入ってから。どのような背景があって、アイドルのダンスは進化していったのだろうか。

前編では振付師のYOSHIKO氏、中編では鞘師里保に話を聞き、モーニング娘。が生み出したフォーメーションダンスや日本のアイドルダンス文化の独自性について掘り下げた。そして後編となる本稿では数々のグループに携わり、2010年代のアイドルシーンの中心でカルチャーの移り変わりを見守り続けた振付演出家の竹中夏海氏にインタビュー。アイドルが踊る“ダンス”がいかにして変化していったのかを立体的に解説してもらった。

取材・文 / 小野田衛

一番大きかったのはグループアイドル全盛期になったということ

「アイドルというジャンルで振付が注目され積極的に語られるようになったのは、確かに2010年代に入ってからかもしれませんね。ですが、技術についてファンの方々の見る目が養われたのは2010年代後半だと思います。少なくとも10年代前半は、まだ日本のアイドルファンでダンスの技術的な部分を解説できる人はかなり限られていました。この15年で若者のダンス経験者が爆発的に増えたことで、日本のアイドルファン層のダンスリテラシーが底上げされた感じですかね」

こちらが取材意図を説明すると、いきなり結論めいたことを語ってくれた振付演出家の竹中夏海氏。これまで担当してきたグループは、ぱすぽ☆(PASSPO☆)、アップアップガールズ(仮)から始まり、HKT48、NGT48、=LOVE、私立恵比寿中学、いぎなり東北産、ラフ×ラフなど多岐にわたり、アイドルブームの立役者の1人とも言える。それと同時にダンスを一般人にわかりやすく解説することにも定評があり、「アイドル保健体育」(CDジャーナル刊)などの書籍を上梓したほか、メディアにも多く露出してきた。

「『風が吹くと桶屋が儲かる』みたいな話なんですが、グループアイドルが増えるとダンスが注目されるんですよね。2010年代のアイドルブームの一番の特徴ってやはり、グループアイドルが定番化し爆発的に増えたことに尽きると思っていて。そうすると当然ながら“歌割”がありますよね。つまり、歌っていないメンバーは手持ち無沙汰になるんです。そこで必須なのが振付です。そこから前後列の入れ替わりくらいだったフォーメーションが複雑化していったり、ダンスが注目される要素が増えていった経緯があるわけです」

無駄なく理路整然と歴史的背景に触れていく解説は、さすがと唸るほかはない。大学で講義を受けているような気分にすらなってくる。

「さらにBPMの速い曲がブームになったり、歌割が細かくなることで、あわせて振付やフォーメーションも多様化しました。少なくともアイドルのパフォーマンスでは、それまで見たことがないような振付が目を引くように。“アイドルなのに”渡り鳥のように鮮やかにフォーメーションが次々と展開される、“アイドルなのに”ガニ股中心の動きで個性的、“アイドルなのに”演劇的でコンテンポラリーが下地にある……各グループがアイドルダンスの文脈にないものを打ち出してきて、盛り上がりを見せたんですね」

ダンスと歌の“違い”

ここから竹中氏は“歌との関係性”について触れた。中編の鞘師里保と同様、ダンスと歌を切り離して考えるのは不可能だというのだ。そこでキーワードとなってくるのが“マイク技術の進化”。いったい、どういうことなのか?

「1970年代って、まだワイヤレスマイクが存在しなかったんですよ。だから、歌いながらターンすることすらできなかった。立ち位置の変更もできないので当然、フォーメーションという概念がほぼない。例えばピンク・レディーは『サウスポー』の振付でミーちゃんとケイちゃんが手をつないで立ち位置を替えながら回るんですが、半周回ってまた半周戻っているんです。つまりワイヤードマイクで一周するとワイヤーが2人に巻き付いてしまうから、「そうせざるを得なかった」んですよね。そうでなくとも当時はソロアイドルが中心だったので、1人で歌いながら今のアイドルのように踊ることはほぼ不可能です。そのためサビで手振りをつけたり、間奏部分で踊るくらいで、あくまでパフォーマンスの中心は『歌唱』だったんですよね。ところが80年代半ば、ワイヤレスマイクの登場で状況が一変した。男性アイドルではありますが、ワイヤレスマイクがなければ光GENJIがローラースケートで踊ることはなかったはずなんですよね」

その後、安室奈美恵、SPEED、MAX、Folderらを輩出した沖縄アクターズスクールの全盛期になると、ヘッドセット型のマイクも取り入れられるようになる。しかし、彼女たちも実際のライブではハンドマイクを使うことが多かったという。

「『歌をしっかり聴かせたい場合はハンドマイク』というのは、今でも続いている慣例ですね。ヘッドセットのマイクは、現在の技術をもってしても安定して歌声を拾うのが難しいらしいんです。生歌よりも両手での振付や規律の取れたダンスを重んじるK-POPではパフォーマンス時はヘッドセットが中心ですが、場合によっては一部メンバーや全員がハンドマイク、とうまく使い分けていますよね」

「一方、日本はアイドル文化が半世紀続いているからか、はたまた国内の音楽シーン全体の影響か、リップシンクに対する眼差しは今もなお厳しいものがあります。ハロー!プロジェクトを例に挙げると、彼女たちの場合は始まり方がまず“歌手”なんですよね。モーニング娘。は『シャ乱Q女性ロックボーカリストオーディション』の最終選考落選者から結成されているので。ボーカリスト志望のメンバーの集まり、その源流は今も脈々と続いているのではないでしょうか。プラチナ期にダンスが洗練されたり、いち早くフォーメーションダンスで注目されつつも、やはりどこのグループよりも歌唱力の秀でたメンバーを擁する事務所だなと思います」

2010年代に入る直前あたりから、それまでアイドルを手がけてこなかった芸能プロダクションがアイドルシーンに新たに参入するようになった。背景にAKB48の爆発的人気があったことは改めて説明するまでもないだろう。グループを新設するにあたり、スタッフはメンバーに振り入れレッスンを優先してやらせるようになっていく。そこには裏事情があったようだ。

「振付がないことにはライブができないので、コストを最小限に抑えたい運営でも振り入れは避けて通れません。あとダンスって練習すればするだけうまくなるからある意味コスパがいいんですよね。それに対し、歌ってどうしても才能やセンスに依るところが大きいので、デビュー前にボイトレを数回受けさせるだけで、継続的にやらせてあげる運営は限られてくると聞きます。もちろんボイトレは続ければ成果は出るし効果的なのですが、歌割をユニゾンにしたり、オケにボーカルを大きめに入れておいたりと、低コストで歌唱力をごまかす手段って正直いろいろあるので……。長期的かつ、メンバーのことを本当に考えれば、そこはお金も時間も割くべきだと思うんですけどね」

つまり運営サイドとしては、歌が上手な若者を見つけるのも育てるのも非常に困難ということになる。ハロプロがオーディション段階で歌唱力を重視する傾向にあるのは、まさにそうした考えに沿ってのことだと竹中氏は見ている。「逆に言えば歌に比べると、ダンスはある程度練習に時間をかければ誰でも成果が出るもの」だという。

「アイドル戦国時代と呼ばれた時代の初期は、“俳優やモデル志望の若い所属者にトライアル的にアイドルをやらせてみる”という動きが大手事務所を中心に見られるようになりました。そのとき、練習して成果が出やすかったのってダンスだったんですよね。費用対効果……というのは人材の育成に使うべき言葉ではないと思いますが、運営サイドからするといろいろごまかす手段のある歌唱にコストをかけて実力アップを図るよりも、とりあえず振りを入れて形にし、ライブにどんどん出して“元を取る”ほうがコスパもタイパもいいんだろうな、というのはその頃から今日に至るまで肌で感じています。これはアイドルに限らずですが、ダンスはとにかく練習すればするだけ成果が目に見えて出てくるから、やってる側も楽しいんですよね。ゲームをクリアしていく感覚に近いというか。サバイバルオーディション番組を観ていても、歌のうまい子は最初からある程度歌えるけど、ダンスは完全な未経験者でも明らかな成長がわかるものじゃないですか。ダンス人口がここまで爆発的に増えたのも、やはり『成果を感じられやすい』ということにみんなが気付き始めたからなんですよね」

羞恥心という最大の敵をネット文化が軽減してくれた

これまで何度もアイドルグループに立ち上げから携わってきた竹中氏だけに、一から十まで頷ける内容ばかりだ。しかし2010年代にダンスが一気に市民権を得たのは、もちろん芸能プロダクション側の事情だけではあるまい。ダンス人口急増の理由としてよく挙げられるのは、「義務教育内でのダンス必須化」「ニコ動をはじめとした“踊ってみた”文化の台頭」「K-POP人気の影響」といったところ。こうした要因について尋ねたところ、「1つずつ嚙み砕いていったほうがいいでしょうね」と語ったうえで、「それらの中で一番大きいのはニコ動を中心としたネット文化だと思っています」と続けた。

「ダンスを練習するうえで一番の敵ってなんだと思いますか? よくレッスン前に未経験者の方から“体の柔軟性”や“リズム感”とか“運動神経”に不安があると相談されることがあるんですが、それらがなくても実は大きな問題ではないんです。答えは“羞恥心”なんですよね。これさえクリアできれば、重ね重ねになりますが、ダンスは練習すると必ず誰でもできるようになります。だから、この羞恥心をどう取り除くのかが指導者にとっては課題になるんです。ひと昔前ならニコ動の“踊ってみた”。今ならTikTokなどに上げるダンスショート動画。これらの文化の功績はなんといっても『技術的に研ぎ澄まされていなくても、人前に出す抵抗感のなさ』を生み出したところです。『プロみたいにうまくなくても、とりあえず上げちゃう』という若者たちのメンタリティを形成させたのは偉業だと思います。他人にダンスを披露することのハードルを格段に下げましたよね」

確かにネットの台頭によって、誰でも手軽に表現を発表できる時代に突入したのは事実だ。例えば初音ミクやボーカロイドのブームも、“踊ってみた”動画と隣り合わせの現象と言えるだろう。音楽以外のジャンルに目を向けると、なろう作家(小説投稿サイト「小説家になろう」で作品を発表している作家)の台頭なども同じ文脈で捉えることができる。

「こうしたネット上のダンス動画文化に比べると、ダンスの義務教育化の影響はさほど私は感じていません。確かに教えていて、10年代前半の子たちと近年の子たちではレベルは全然違うなと思います。人生でただの一度もダンスに触れたことがない、という子がほぼいないので。でも、果たしてそれは義務教育化によるものなのか……。それよりも、未就学児の頃からたびたび目にするダンス動画や、ダンス系の習いごとの多様化の影響を強く感じます。昔はバレエ教室くらいしか選択肢がなかったものが、ダンスのジャンルがどんどん細分化されてみんな自分にフィットするものを見つけられるようなりましたもんね」

テレビを観ていると、若いアナウンサーが当たり前のようにダンスを披露したりすることがある。さらに竹中氏がアイドルを指導する際、振り入れを休んだメンバーの代役で若い女性マネージャーが踊ることもあるそうだ。

「今のアラサー以上の世代ってまだダンスって特殊技能に近い扱いだったんですよね。1つのグループの中でダンス経験者ってだいたい1、2割だった。ダンスのリハスタもまだ少なかったから、バンド用のサウンドスタジオに入って『ドラム邪魔だなー』と言いながらよく振り入れしていました。それが今では逆転していて、サウンドスタジオがどんどん閉鎖してダンススタジオに鞍替えするところも多いので、そういうところからも時代の流れを感じますね。最初に担当したぱすぽ☆なんて嘘みたいな話ですが、“歩くのもやっと”というレベルの子たちもいて。文字通り後ろから二人羽織みたいに腕を抱え『こっちが右ね』と言いながら指導していました。今のアイドルの子たちではまずこういったことはないです(笑)。『ダンスが苦手』の最低ラインが底上げされています」

“運動量が多い=すごい”という観点でしか捉えられてなかった

初期ぱすぽ☆のような“リアル初心者”は、2010年代後半あたりから急速に姿を消していったという。ここに“やる側”の歴史的転換点があったことは間違いなさそうだ。

ただ、それと同時にファンの見る目が肥えたこともアイドルダンスの多様化にとっては大きかったのではないか? 視聴者のニーズに合わせてテレビ番組を作るように、振付を考える際、ファンの求めるレベルが高くなったことで変化が生じたということはないのか? その疑問をぶつけると、「必ずしもそうとは言えない」という答えが返ってきた。冒頭でも触れた内容を、より具体的に説明してもらった。

「確かに2010年代に入って『アイドルの振付』が注目されるようになったものの、技術を正確に評価できる人は当時まだまだ稀でした。『よくわかんないけどあのグループのダンスすごい』と騒がれることはあってもそこを言語化できるほどのダンス経験者が少なかったから、私が解説するしかなかった時代ですね(苦笑)。皆さんの意見をまとめると要は“運動量が多い=なんかすごい”と捉えているんだな?と思うことはよくありました」

アイドルブームに世が沸く中、竹中氏が引っ張りだこになったのは、こうしたダンスの肝を言語化できたからにほかならない。「すごいのはわかるんですけど、言葉で説明できる人がいない」というメディア側の事情だ。

「みんな推しが『なんかすごい』ことはわかってもそれが何由来でそう思うのかまでは言語化できずにいたので、『あのメンバーはバレエの基礎が入っているから、ここの動きがしなやか』といった技術の話をすると歓迎してもらえましたね(笑)。一方で音楽については、メンバーの歌唱や楽曲そのものに言及する人がけっこういらっしゃった印象です。みんな概して自分のわかるものしか目がいかないものですもんね」

もっともな話だ。日本人のほとんどは、ほんの少しであっても野球やサッカーなどをプレイした経験がある。だから試合を観ていてルールや選手の思惑が理解できる。だが、オリンピックでたまに見かけるような競技ではそうもいかない。

日本のアイドル業界に対する強い危機感

さて、「“踊ってみた”動画」「義務教育でのダンス」についてはすでに触れてもらったが、「K-POPの影響」についてはどうなのか? 中編に登場した鞘師は「それほど影響は大きくないのではないか」という立ち位置だった。この意見は決して珍しいものではなく、日本のアイドル文化とK-POPの比較論の中で主流になっているところがある。すなわちそれは「最初から完成されたクオリティの高いものを見せるK-POPに対し、日本のアイドルは成長過程を見せるもの。2つは完全に別物」というロジックだ。

竹中氏はというと、極めて複雑な思いを抱えながらK-POPシーンを見つめていた。慎重に言葉を選びながらも、日本のアイドル界に向けて警鐘を鳴らす。

「確かに2010年代まではギリ、『日本と韓国ではアイドルに求められるものが違う』という“建前”が成立していましたね。実際にそういう側面もありましたし。だけど日本のアイドル業界はそのことに甘んじて、先ほどから再三申し上げている通りそれらを『技術向上に金銭的 / 時間的コストをかけない』ための大義名分としてしまった。もちろんこれはアイドルたち自身の責任ではありません。忙しい合間を縫って身銭を切ってトレーニングに通う子もいますしね。だけど本来それは運営サイドが背負うべきもの。その結果どうなったかと言えば、技術向上に前向きな人材ほど日本のアイドル業界ではそれを望めないことを察し、どんどん業界外に流出してしまったんです」

ここまで自説を述べると、竹中氏は「拙著でも述べている通り、日本のアイドル業界はもっと持続可能な労働環境を整えることに真剣に取り組んでほしい」と続けた。

「『K-POPが日本のアイドルダンスに与えた影響』についてですが、まず日本のアイドル業界では演者に求められる技術レベルがここ10年以上、大きな変化はありません。一方の韓国は技術面が飛躍的に上がり続けているので、『影響を受けていない』というよりは『影響を受けようがない』と言ったほうが正確かもしれません……。とはいえアイドルを志望する動機は自身のスキルアップだけではないですから、例えば『影響力を持ちたい』とか『人目に触れたい』とか『かわいい衣装が着たい』『比較的デビューしやすい』という理由で日本のアイドルを選択する子たちもたくさんいます。でも、高いパフォーマンススキルを求める子たちが韓国や、K-POPの流れを汲んだ事務所を目指す流れはもう止めようがないと思います」

竹中氏の説明で明らかになったのは、いびつな“ねじれ現象”が日本のアイドルダンス周辺で起こっているということだ。若者のダンス人口は目に見えて増加している。にもかかわらず、アイドルのダンスには技術的な進化を強くは求められていない。竹中氏の抱える危機感の本質はこのあたりにもあるのだろう。

「教え子たちを指導する際、常に思っていることですが、大切な人生の一部をアイドル活動に捧げるなら、実のある時間にしてほしい。ダンスや歌のスキルじゃなくてもいいんですが、いつか振り返ったときにアイドルだった子たちがみんな『ああ、あのときがんばってよかったな』と思える時間を過ごしてほしい。運営サイドの“人を育成する”姿勢は、まずスキルアップのコストをいかにちゃんと割くかに表れやすいので、仕事をする際はもちろん、自分が推す側の場合も『安心して応援できるか』は見るようになりましたね」

悲痛な魂の叫びと言っていい。日本のアイドル界を深く知る人物の問題提起はあまりにも重い。しかし、これらの竹中氏の言葉が現在のアイドル関係者の胸に響くかどうかは疑問符も残る。おそらくここまでアイドルの未来を真剣に憂いている者は少ないのではないか。

「もちろんK-POPもすべて手放しに素晴らしいとは言えなくて、労働環境や契約関係などの問題は山積みだと思います。どの国でもアイドルというジャンルは特に演者が若い分、雇用側と労働者(アイドル)で力の不均衡がものすごく生まれやすい。そんな中で、どうしたら彼女たちが搾取されずに活動できるかを考え続けたいです」

2010年代のアイドルブームが残した大きな課題

こちらの予想していなかった方向に話が転がり始めた。竹中氏も「アイドルのダンスの話とはいえ結局はこういう話題を避けては通れないだろうから、この取材を受けるかも迷ったんですけど……」とどこか晴れ切らぬ顔つきをしている。もちろんこれは竹中氏がアイドルシーンを見守り続けてきたからこその緊急提言だということは、重々わかっているつもりだ。

2010年代にアイドルが群雄割拠する中でダンスが注目されるようになった。そのことは間違いない。ダンス人口は目に見えて増え、誰もが踊れる時代に突入した。問題は業界の体制がこの現状に追いついていないという点にある。2010年代に起こった空前のアイドルブームはダンスの市民権獲得にひと役買ったと同時に、大きな課題を次世代に残してしまったのだ。

「ただ、少しずつだけど業界も変わってきたなと感じる兆しはあります。まだまだ少ないですが、スキルアップのためにグループ活動を一時休止して数カ月トレーニングを積み直す、という取り組みをするグループ(※神戸発のアイドルグループ・グットクルーは2023年11月から約4カ月活動休止期間に入り東京で強化合宿を行った)や、パフォーマンス向上のためにメンバーの夏休みを表明するグループ(※lyrical schoolは2025年8月18~24日まで夏休みを取ることをアナウンス)などもいます。小さな一歩でも、業界全体の意識が変化していくことを願うだけでなく、私も行動に移し続けようと思います」

この春、竹中氏は振付演出家として活動する傍ら、エンタメ業界専門のカウンセラーとして「文化・芸能業界こころのサポートセンターMebuki」に所属。芸能界で働く者たちのメンタルケアを行っている。教え子たちから心身の相談が多く、「適当なことは言えない」「知識が欲しい」という気持ちから産業カウンセラーの勉強をし、資格を取得したのだという。

ダンスを教えるということは、突き詰めていくと人間教育になる──。奇しくもこれは振付師・夏まゆみ氏が生前に口にしていた言葉。当連載に登場したYOSHIKO氏、鞘師、竹中氏の3者とも同じ道を歩んでいるように思えてならない。おそらく日本のアイドルカルチャーの中でダンスの占める重要度は今後も増していくことだろう。その際に2010年代のアイドルブームで何が起こったかを振り返ることは、決して無駄ではないはずだ。

関連記事

鞘師里保

アイドルダンス文化の変化 (中編)|鞘師里保インタビュー

1日
YOSHIKO氏

アイドルダンス文化の変化 (前編)|フォーメーションダンス誕生の裏側

2日
ゆっきゅんの音楽履歴書。

ゆっきゅんのルーツをたどる|「あの頃の自分として今の私を見てる」今も昔も変わらぬ“歌姫愛”、女性J-POPヘビーリスナーの歴史

2日
伊藤百花(AKB48)1stフォトブック「百花ずかん。」表紙(撮影:熊木優)

伊藤百花がよくわかる「百花ずかん。」プール飛び込み後の写真が表紙に

3日
伊藤百花(AKB48)1stフォトブックより。

AKB48伊藤百花、黒ドレス姿で夕暮れのビーチにたたずむ

6日
北川莉央(モーニング娘。'25)

北川莉央がモー娘。およびハロプロを卒業「区切りをつけ、新しい道に進むべきだと思いました」

11日
小栗有以(AKB48)1stフォトスタイルブックより。

AKB48小栗有以が大分を満喫、初フォトスタイルブック発売

15日
左から佐久間大介(Snow Man)、小栗有以(AKB48)、ぺえ、狩野舞子、日村勇紀(バナナマン)。

小栗有以がぺえの魅力を熱弁、佐久間大介は仰天「むき出しどころか、モロ出しの……」

21日
「月刊わんこ」vol.23表紙

豆柴似のJO1豆原一成、撮影で豆柴に懐かれる

23日