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ジェーン・スーが振り返るトマパイ「ジングルガール上位時代」

ジェーン・スー
19分前2025年12月24日 10:03

2010年前後の“アイドル戦国時代”に、ハイクオリティな楽曲と味わい深いキャラクターで“戦わないアイドル”として人気を博したTomato n' Pine(トマトゥンパイン)、通称トマパイ。その活動期間はわずか3年程度だったが、その短い時間の中でトマパイは数々の名曲を世に送り出している。中でも2011年12月にリリースされたシングル「ジングルガール上位時代」は今なお根強い人気で、アイドル界屈指のクリスマスソングとして愛され続けている。

あれから14年。音楽ナタリーとSony Music Labels内のアナログ盤レーベル・GREAT TRACKSのコラボレーションによるアナログ再発シリーズの一貫として、「ジングルガール上位時代」が12inchシングルとなって復刻した。アナログ盤には表題曲のほか、「ジングルガール上位時代」に並ぶトマパイの人気曲「ワナダンス!」やウインターソング「雪がふるから…」、リミックス音源「なないろ☆ナミダ -snow bossa remix-」とカップリング曲も収録。ジャケットのみならずスリーブ(帯)もCD版のデザインをそのまま12inchサイズで再現している。

この稀代の名作はいかにして生まれたのか。現在はコラムニスト、ラジオパーソナリティとして八面六臂の活躍を見せるトマパイのプロデューサー、ジェーン・スーに話を聞き、当時の制作背景を振り返ってもらった。

取材・文・撮影 / 臼杵成晃

おっとりとしたトマパイだからこその、クラシカルなクリスマスソングを

──このたび、音楽ナタリーとGREAT TRACKSのコラボ企画により、Tomato n' Pineの「ジングルガール上位時代」が12inchアナログで再発されることになりました。僕個人としては「ついにこの名盤がアナログで……」という喜びがあるのですが、ジェーン・スーさんはアナログレコードに思い入れはありますか?

学生時代はソウルミュージック研究会(※RHYMESTERらを輩出した早稲田大学の音楽サークル・GALAXY)に所属していて、12inchでしか出ていない曲とかをチェックしていましたね。レコードプレイヤーも家にありましたけど、それはDJ用じゃなくて普通のプレイヤーでした。今の家にはプレイヤーがないので、聴くとしたらどこかに持っていかなきゃなという感じです。

──このタイミングで「ジングルガール上位時代」が再発されるという話を聞いたときはどう思いましたか?

ありがたいなと思いました。Tomato n' Pineは別に一世を風靡したグループというわけではないので。好きな人たちが今でも何かとトマパイを話題に挙げてくださるんです。あとは楽曲をカバーしてくれるアイドルグループがいたり、本当にありがたいですよね。そうやって解散後も愛され続けるようなガールズユニットって、なかなかいないと思うので。

──とりわけ「ジングルガール上位時代」は、毎年クリスマスの時期になるとファンの皆さんが話題にしますよね。今回はたまたま12月24日にリリースすることができますが、今はどのアーティストもあまりクリスマスソングを出さないようになりました。

そうなんですね。私は今の若い人たちが聴くような音楽をちゃんと押さえられていないので、そのあたりのことはよくわからないんですけど。

──クリスマスシーズンにクリスマスソングが出せるうれしさと懐かしさもありながら、改めて「ジングルガール上位時代」はJ-POPクリスマスソングの究極系というか、機能的に完璧な曲だと感じました。懐かしいJR東海のCMのような雰囲気しかり、楽曲に漂う冬の雰囲気しかり、アートワークしかり。そもそもこの曲はどのようにして生まれたんですか?

最初は単純に、共同プロデューサーの玉井健司(agehasprings代表)と「クリスマスソングを出そう」というところから話が盛り上がって。そこで、あえてクラシカルな雰囲気のクリスマスソングを作ることになったんです。当時「アイドル戦国時代」と言われる中で、Tomato n' Pineは周りのグループと比べてガツガツしてないところがあって、どこかおっとりしている、そんな彼女たちだからこそできるクリスマスソングがあると私は思っていて。そこで思い浮かんだのが、クラシカルなクリスマスソングというアイデアだったんです。1950年代っぽい衣装だとか、ミュージックビデオの雰囲気とかも含めてトータルでイメージを固めていきました。

──クラシカルな雰囲気というのは、やっぱりTomato n' Pineというグループの持つキャラクターによるところが大きかったわけですか?

そうです。本人たちにないものをやらせるのは嫌だったんで、3人が持っている要素の解釈を変えたり、光を当てる場所を変えたりしながら毎回楽曲を作っていました。

──トマパイ楽曲の特色であるブラックミュージック、ダンスミュージック色の強いサウンドは、玉井さんが中心になって考えていたんですか?

玉井を筆頭にagehaspringsのクリエイターたちが本気で遊んでいた感じですね。彼女たち自身に「こういう音楽をやりたい」という気持ちがそれほどなかったからこそ、いろいろな曲にチャレンジしてくれる可能性があった。どんどん曲を渡していって、本人たちも楽しんでやってくれていましたね。

彼女たちを頭の中で動かすだけで、どんどん歌詞が出てくる

──「ジングルガール上位時代」は詞先、曲先どちらですか?

曲先ですね。トマパイの曲は全部曲先です。曲がまずあって、そこからイメージを膨らませていきました。

──ストーリー展開が素晴らしい歌詞ですよね。作詞家として「すごい歌詞を書けた」という手応えがあったのでは?

どうだろう? (アナログサイズの大きな歌詞カードを開いて)今、歌詞を見ると懐かしいですよね。地下鉄にケータイの電波が届かなかったんだ、とか(笑)。私はいつも「彼女たちの魅力を伝えたい」とだけ考えて楽曲を作ってきたので。この曲に意味を持たせてくれたのはファンの方たちだと思います。

──ジェーンさんはよく「作詞の仕事は行きがかり上スタートした」ということをお話しされていますよね。経験のない中で作詞を始めて、ご自身なりの作詞術みたいなものは実際に歌詞を書きながら見つけていったんですか?

はい。やったこともないし、やりたいと思ったこともなかったので、毎回試行錯誤でしたね。

──お手本にしたのは、リスナーとして聴いていた音楽の歌詞とか?

そうですね。あとは玉井が「ここはこうしたほうがいいんじゃない?」とアドバイスしてくれたり。その言葉が音に乗ったときにどんなふうに聞こえるかというところで、母音が「あ」で始まったほうが歌いやすいとか、そういうことを徐々に覚えていきました。

──「ジングルガール上位時代」の歌詞では、「日比谷線」「7時58分」「8時53分」といった、すごく限定的なワードをあえて選んでいらっしゃいますよね。なぜそこに着地したんですか?

時刻に関して言うと、たぶんメロディに一番ハマる時刻を探したんじゃないかな。あとは「仕事が終わらない彼氏」を描写するうえで、あまり不自然じゃない時間とか。もちろん歌いやすさも意識したと思います。

──確かに、音と言葉がぴったりハマっている感じがします。

トマパイの曲は、すごく作詞しやすかったんですよ。彼女たちを頭の中で動かすだけで、どんどん歌詞が出てくる。あまり悩んだこともないし、頭の中で勝手に動いてくれる子たちだったので。この曲の歌詞もそんなに苦労した覚えはないですね。

──マンガ家がよく言う「キャラが勝手に動き出す」状態ですね。曲中に出てくるセリフも、あの3人を思い浮かべたら自然と出てきた?

そうです、そうです。「ファンの人があの3人に言ってほしいのは、どういう言葉だろう?」とイメージして。そのイメージが本人たちのキャラと大幅にかけ離れていたら歌詞にならないので、ちょうどいい接点を見つける作業ですね。

──そのセリフパートが元気いっぱいな「〇(まる)!」という言葉で締められることも印象的でした。

あれはなんで「〇」になったか覚えてないですけど……なーんか「〇」になったんですよね。あの3人が歌うということを考えたら、比較的スムーズに突拍子もないアイデアが出てきたんだと思います(笑)。

アイドルになって有名になりたいという子が1人もいなかった

──当時のジェーンさんは、メンバー3人のことをどういうふうにご覧になっていましたか?

トマパイのメンバーは、もともとアイドルになって有名になりたいという子が1人もいなかったんです。かといって嫌々アイドルをやっているというわけでもなく。YUIは芸能歴が一番長かったので、なんやかんや言いながらもちゃんと練習してきたり、しっかり準備していましたね。WADAは学校に行きながらがんばっていたし、HINAは器用な子ではなかったけど一生懸命。ただ、Negiccoみたいに10年も20年も続くタイプのグループではないとは思っていました。時間が限られているところがガールズユニットの魅力だったりもするんで、本人たちが楽しくやれるうちはやっていきたいなと思っていました。

──YUI、HINA、WADAという名前の並びも強烈なインパクトがありました。1人だけ名字なんだ!?っていう(笑)。

名前もそうですけど、トマパイに関しては、会議をやって真面目にコンセプトを考えるようなことが1回もなかったんです。彼女たち自体がインスパイアの源泉になっているところがすごくあって。「どうやって決めたんですか?」と言われるような突拍子もないアイデアがポンポン出てくるような存在だったんですね。彼女たちじゃなかったらTomato n' Pineにはならなかったと思います。

Tomato n' Pineはクリエイターの創作意欲を刺激する、ラボのような存在

──改めて「ジングルガール上位時代」の話に戻りますと、先ほどJR東海のCMを例えに出しましたけど、直接的ではないにせよ、1980~90年代のクリスマスソングのムードを感じさせる世界観を意識したところはありますか?

東京の話にしたかったというのはあったと思います。どこの都市でも当てはまる話ではなくて、東京のおしゃれなカップルの話にしたかった。都会的なカップルを主人公にしたクリスマスソングを作りたいという気持ちがありました。

──「ジングルガール上位時代」というタイトルはどのようにして決まったんですか? 僕ら世代はピチカート・ファイヴのアルバムタイトル、あるいはその引用元となったイタリア映画「女性上位時代」をどうしても真っ先に思い浮かべてしまいましたが。

たぶんピチカートっぽいムードも少し欲しかったんじゃないかな。そういう音楽が好きな人に対する、うっすらとしたメッセージを遊びで入れていくというのはトマパイの曲でよくやっていましたね。

──ただ、あからさまに「渋谷系を狙ってます」という感じではなくて、トマパイはそこも面白いなと思ったんですよね。

「これって元ネタあれじゃん?」って誰かが言ってくれたら、「そうかも」って(笑)。そういう感じが楽しかったんでしょうね。

──「ジングルガール上位時代」はタイトル以外にも、ピチカート界隈のファンに刺さる雰囲気がありますよね。ジャケットの50'sっぽい雰囲気とか、MVに出てくる北欧的な家具の配置だとか。

彼女たち自身が、いろんなクリエイターの創作意欲を刺激してくれるんですよね。ジャケットの方向性が決まった時点で、MVはこういう感じにしようとか、各分野のプロから面白いアイデアがどんどん出てくる。そういう意味で、トマパイはいろんな人たちが自分のクリエイティビティを遺憾なく発揮できる現場だったんだと思います。ある種のラボのような。

──同じ時期に近い場所で活動していた人たちだと、バニラビーンズも徹底して北欧風の世界観を作っていましたけど、トマパイのクリエイションには、何かに極端に寄せすぎない柔軟性があるように感じていました。ある程度フレキシブルにしておきたいというところがあったんですか?

単純に、本人たちのキャラクターを生かすことを考えると、バニビほどコンセプチュアルでスタイリッシュなのはフィットしないと思ったんでしょう。彼女たちの個性を生かしつつ殺さないというところで言うと、本人たちの実体験はないけれど、ちょっと昔の時代のものを面白がってやってもらうのが一番輝くから、じゃあ次はどれをやろうかっていう。

「赤いヴァイナル奇跡を起こす」

──このシングルを名盤たらしめているのは、カップリング曲の存在も大きいと思います。中でも「ワナダンス!」は、ここまで完璧なソウルミュージックをやったアイドルソングがほかになかったので、アイドルのことはよくわからないけど「ワナダンス!」に釣られた、という人は多いと思います。

あの曲には玉井のこだわりが色濃く反映されていますね。歌詞の世界感も含めて。

──90年代初頭のクラブカルチャー的な雰囲気ですね。

芝浦にDJバーインクスティックがあった頃の渋谷とか西麻布とか、あの頃の空気感をトマパイの楽曲を通じて表現したいというのが当時、玉井の中で明確にあったんです。本当に面白いんですよね。あの子たちがやったら面白そうだというアイデアがどんどん出てくる。歌詞に「西麻布」とか「ミラーボール」とか具体的なワードが出てきたり、あとJ・TRIPとか実際の店舗名が出てくるのも玉井のアイデアでしたね。「夢の続きはまだ“赤い靴”」というのは、レッドシューズというクラブのことだったかな。今でいう“匂わせ”みたいな言葉を歌詞に入れてましたね。

──1つの物語として構成されている「ジングルガール上位時代」と違い、こちらの歌詞はパーツパーツで刺してくるというイメージで。「赤いヴァイナル奇跡を起こす」はすごいパンチラインですね。

視覚的なイメージから、「赤いヴァイナル」という言葉が最初に出てきたんじゃないかな。

──へえー。そういった要素にクラブミュージック好きが一斉に食いついて。

「ミュージシャンではない人だからこそできること」というのが一番体現されて、予想以上の結果を導き出すのはアイドルだと思うんですよ。男性も女性も。「ワナダンス!」はその成功例の1つだったんじゃないかな。音楽がすごく好きな人がやるのとはまた違う味が出たなと思います。

“いいところのお嬢さん”感

──アートワークのこだわりについても聞かせてください。

50'っぽいムードとか、ホームパーティのような雰囲気……あと“いいところのお嬢さん”というイメージには特にこだわりました。

──“いいところのお嬢さん”感は確かにトマパイにとって重要な要素ですよね。そこはかとない上品さ。

ガツガツしてなかったり、チャレンジ精神にあふれていなかったり(笑)。先ほどもお話ししたように、アイドル戦国時代を生き抜いていくために必要だとされていた要素を彼女たちが持っていないからこそ、できることがあったんだと思います。

──アナログ盤は帯もCDのものをそのまま拡大して再現していますけど、この「私たちのパーティーはこれから!」というコピーもジェーンさんが考えられたんですか?

コピーは私が考えています。この言葉もすぐに出てきましたね。トマパイ以降もいくつか音楽の仕事をしていますけど、アーティストにインスパイアされて、スムーズにイメージやコンセプトが湧いてくるということはほとんどなかったので、そういう意味でもトマパイは稀有な存在だったんだと思います。

どのグループも“奇跡の三点倒立”みたいなことをやっている

──その後、2012年8月にリリースされたアルバム「PS4U」は、Tomato n' Pineというグループの魅力を最大限に伝える決定打になった作品だと思います。アルバムを作るうえで最も大事にしたことは?

aagehaspringsが総力を挙げて作るということで、誰も直接的に口にはしなかったけど「音楽的にクオリティの高い作品にしよう」という気持ちは確実にチーム全員の心の中にあったと思いますね。「メンバーがかわいいからCDを買う」とかじゃない、クオリティの高い作品にしようと。その結果「ミュージック・マガジン」の2012年度J-POP部門ベストアルバムに選ばれて。あのときは、すごくうれしかったですね。優れた音楽作品として、ちゃんと認めてもらえたわけですから。

──「PS4U」の中で特に思い入れの深い楽曲は?

「キャプテンは君だ」ですかね。トマパイは最初2人組(小池唯=YUIと奏木純)でスタートしたんですけど、メンバーが辞めてしまって。そこにWADAとHINAが加入して3人組になったんですけど、吉田豪さんをはじめ2人組時代から応援してくださっているファンもたくさんいたので、そういう方々にちゃんと刺さるようなメッセージソングを作りたいなと思ったんです。これだけ時間が経っても好きだと言ってくれる人がいて、アナログまで出してもらえるんだから、彼女たちは本当に幸せですよね。

──Tomato n' Pineは2012年の年末に惜しまれながら“散開”してしまいます。音楽的にも高く評価されているこのタイミングでグループを終えるのはもったいない、という気持ちはなかったですか?

諸般の事情で活動を続けられなくなったので。3人いれば、それぞれに事情がありますから。例えば「学校を辞めてアイドル活動を続けなさい」みたいなことって、やっぱり言えないわけじゃないですか。事実上、続けられなかったから終わりにした、というのが正しい表現ですね。

──“散開”を決めたときは、やっぱり残念でしたか?

そうですね。「もうちょっとやりたかった」という気持ちは強くありましたけど、がんばって続けられるものでもないと思ったんで。あの年頃の女の子たちを集めて何かをやるうえで最初から覚悟していたところもあります。2人組時代も、いきなり1人いなくなっちゃったので、「まあ、こういうもんだよね」っていう。うちの子たちだけに限った話ではないんですよね。どのグループも“奇跡の三点倒立”みたいなことをやっていると思うし、誰も人生の責任は取れないですから。

──「あのまま続けていれば、こういうこともやれたかな」と思ったりすることはありますか?

むしろあのまま続けていたら、こんなふうにしてもらえなかったかもしれないですよね。あっという間にいなくなったからこそ、15年近く経ってもアナログを出していただけているような気がします。

失われていくこともアイドルのよさ

──トマパイの“散解”から13年が経ち、アイドルシーンもすっかり様変わりしました。CDというメディアが廃れて、今ではアイドルファンも配信で曲を聴くことが主流になっている。ジェーンさんから今のアイドルシーンをご覧になって何か思われることはありますか?

今は配信がメインになってミュージシャンが音楽制作だけで食べていくのがなかなか難しい時代ですけど、CDが出てきたときに「レコードがよかった」みたいな声が高まったように、結局ずっとそういうことの繰り返しですから。これまでの歴史を踏まえて、最も新しいものが時代にとっての最適解だと思うようにしています。SNSでバズる曲がヒットしているのであれば、その最適解が世に出ているんだろうし。Tomato n' Pineみたいな存在が世の中の人に届くのは、あの時期がギリギリだったのかもしれないですね。間に合ってよかったという感じがありますけど。

──もし今この時代に、トマパイを立ち上げたときのように「この子たちで何か面白いことをしませんか」という依頼をされたとしたら、ジェーンさんはどうされますか?

トマパイのときもそうでしたけど、まず本人たちと話します。最初にいろんなことを話してリサーチして、イメージが湧くようなところまで本人たちの情報を入れてから、コンセプトを考えると思います。ただ、あの3人のようにインスピレーションを与えてくれるような子たちに会えるかどうか。それも大きいですよね。

──当時のことを玉井さんと振り返ったりすることはありますか?

当時の話をすることはないですね。最近はお互い忙しくて、ほとんど会っていないので。当時も玉井は忙しかったですけど、今に比べたら2人とも遊ぶ時間がありました。“遊ぶ時間”というのは、脳の中で遊んで企画に落とし込む時間のことですね。私もメンバーと一緒に衣装を買いに行ったりする時間があったくらいなので。活動していたのは実質3年くらいでしたけど、自分の中では期間限定の部活みたいな感じですね。

──きっとむちゃくちゃ楽しかったですよね?

そうですね、すごく楽しかったです。

──これだけ面白いクリエイティブが作品として残っているわけで。振り返って、この熱量のプロジェクトをもう一度やりたいと思ったりすることはないですか?

今、私は自分で文章を書いて、ラジオで話してという活動がメインになっているので、誰かを媒介にして何かを発信する機会がないんですけど、発注があれば、という感じですかね。

──単純な興味で聞いてしまいましたけど、この記事を読んで「ジェーン・スーさんに歌詞を頼みたい、プロデュースをお願いしたい」といろんな人が言い始めたら、それはそれで大変だろうなって(笑)。

agehaspringsまでお問い合わせお願いします(笑)。トマパイは本当に“奇跡の部活”でした。「あの先輩が部長だった時期のサークル、めっちゃ楽しかったよね!」というノリに近いと思います。

──その刹那的な感じがトマパイというグループのいいところでもあるんですよね。

例えば、あれからさらに5年ぐらいグループが続いて、すごいヒット曲が出ていたとしても、こうして15年後にアナログ化はされないと思います。大ヒットが出るというのは多くの人にわかってもらうということで、そうすると楽曲の表現方法もまったく変わってくるので。

──アイドルグループが解散したときに毎度思うのが「この曲が今後、歌われる機会はもうないんだな」ということなんです。解散自体も寂しいんですけど、楽曲が世に出る機会が失われてしまうことも同じくらい寂しくて。lyrical schoolが「TOKYO IDOL FESTIVAL」のステージで突然「ワナダンス!」のトラックをバックにラップをするというドラマもありましたけど。

そうそうそう。でも、そうやって失われていくこともアイドルのよさだと思うんです。例えば、さくら学院のバトン部も本当にいい曲ばかりでしたけど、あの時代に、あのメンバーだからこそ生まれた輝きがあったと思うんですよね。

──確かに。時代時代のいろんなマスターピースがある中で、今回再発された「ジングルガール上位時代」は間違いなくあの時代のアイドルシーンに強烈なインパクトを残したと思います。

そうですね。今聴いても全然恥ずかしくないし、色褪せない作品を作れたんじゃないかと思います。

プロフィール

ジェーン・スー

1973年、東京生まれ。コラムニスト、ラジオパーソナリティ、作詞家。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(毎週月~木曜 / 午前11時~)のパーソナリティを担当。毎週金曜17:00に配信されている話題のポッドキャスト「ジェーン・スーと堀井美香のOVER THE SUN」 が、2021年3月「JAPAN PODCAST AWARDS2020 supported by FALCON」にて、「ベストパーソナリティ賞」と、リスナー投票により決まる「リスナーズチョイス」をW受賞。2013年に発売された初の書籍「私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな」(ポプラ社)は、発売されると同時にベストセラーとなり、La La TVにてドラマ化された。「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」(幻冬舎)で、第31回・講談社エッセイ賞を受賞。2021年に「生きるとか死ぬとか父親とか」が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に。ほか著書多数。毎日新聞や「AERA」「週刊文春WOMAN」などで数多くの連載を持つ。

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