ヤッホーみんな! 僕、キニナル君。音楽愛する大学生♪ 将来の夢は音楽でごはんを食べていくことだよ。でも、正直わからないことばかり。だからこの連載を通して、僕が気になった音楽にまつわるさまざまな疑問を専門家の人たちに聞きに行くよ。
ちょっと前のOasisの東京ドーム公演のあと、「音がよかった」みたいな感想がすごく多かったよね。「機材の進化はもちろん、PAのおかげだ」っていう意見も多くて。東京ドームに限らず、ライブ会場に行くといつもPAの人たちがいるけど、具体的にどんなことをやってるんだろう。気になって夜も眠れなくなったので、YOASOBI、小柳ゆき、竹原ピストル、Conton Candyといったアーティストのライブを手がけるMSI JAPAN 東京の谷下田慎之介さんに話を聞いてきたよ!
取材・文 / キニナル君 撮影 / ナカニシキュウ イラスト / 柘植文
音を大きくするのがPA?
──今日はよろしくお願いします! さっそくですが、PAっていったい何をするお仕事なんですか?
PAというのは「Public Address」の略で、直訳すると「公衆伝達」になるんだ。人の声や楽器の音を増幅して、たくさんの人に届けられるようにするのが基本的なPAの仕事だよ。日本ではライブなどの音響全般のことをPAと呼ぶんだけど、海外ではPAというとスピーカーのことだけを指す場合も多いんだ。
──なるほど! 音をでかくするのがPA、ってことなんですね!
乱暴に言っちゃえばそうだね(笑)。ただ、日本で「PA」というときはそれだけじゃなくて、どの音をどう出すかまで調整することをいうよ。だから「音響」とか「サウンドエンジニア」というほうが正確かもしれないね。
──その「どの音をどう出すか」っていうのは、具体的にどういうこと?
スピーカーから出てくる音のチューニングだね。EQ(イコライザー)で周波数帯ごとの出方を調整したり、コンプレッサーという機器で音を圧縮してバラつきを抑えたりしながら、それぞれの楽器の音をどのくらいの音量バランスで出すかっていう調整をしてるんだ。
──その作業を、ライブ会場でよく見るあの宇宙船のコクピットみたいな機械のところでやっているんですね!
そうそう(笑)。ちなみにあれはFOHといって……「Front Of House」の略なんだけど、客席側に向いたメインスピーカーの音を調整してるんだ。ライブPAには大きく2種類あって、お客さんが聴く音を調整するFOHと、演者が聴く音の調整をするモニタPAに分かれる。小さなライブハウスなんかだと「卓返し」といって、1人のPAさんが両方を同時にやることもあるんだけど、ある程度大きな会場ではそれぞれ別の人が担当することがほとんどだね。
──「演者が聴く音」っていうのは何?
例えばバンドの場合、大きな会場だとメンバー同士の距離が物理的に遠くなって、生の音がほとんど聴こえなかったりするんだ。バンドじゃなくても、オケを使うアイドルとかの場合も「キックが大きく聴こえたほうが踊りやすい」とかあると思うから、お客さんに届ける音とは別に演者が聴くための音を返してあげる必要があるんだよ。
──なるほど……。
さらに言うと、音って反射するでしょ? スピーカーから出た音が客席の壁に反射して、ステージに戻ってきちゃうんだ。大きな会場になればなるほど、そのタイムラグも大きくなる。普通に演奏してたら、少し遅れて聴こえる音が常に混ざっている状態になるんだよ。
──歌いづらそう……! 昔、学校の体育館でマイクを使ってしゃべったことがあるんですけど、自分の声がグワングワン反響してました。あんな感じってことですよね。
そうそう。そうなると、どの音に合わせて歌えばいいかわからなくなっちゃうよね。その状態を緩和するためにも、演奏音を正確に聴けるモニタが必要なんだ。昔はそれをスピーカーでやっていたから、よくアーティストの足元にステージ側を向いたスピーカーが転がってたでしょ? 通称「コロガシ」っていうんだけど。
──見覚えがあります!
最近だと「イヤモニ」といって、イヤホンでモニタする方法が主流になっているよ。そうすることで、ステージ上で演奏音とモニタ音が混ざらずに済むというメリットもあるし、昨今では同期(事前に用意した音源を生演奏と重ねること)を使う関係で、クリック(メトロノームのように楽曲テンポをガイドする音)を聴いて演奏しているアーティストが多いんだよね。クリックの音をお客さんに聴かせるわけにはいかないので、そうなるとイヤモニが必須になってくるんだ。そういう、コロガシやイヤモニを通してアーティストが聴く音を調整するのがモニタPAの仕事だよ。
ミキサー卓があんなに大きい必要あるの?
──で、あのコクピットみたいな機械のことなんですけど……。
正確には、ミキシングコンソールという名前があるよ。僕らは簡単に「卓」と呼ぶことが多いけど。
──カッコいい! じゃあ僕も「卓」と呼びますね! ライブ会場で見かける卓ってすごく大きくて、めちゃくちゃいっぱいツマミやらなんやらがついてるじゃないですか。素朴な疑問として、あんなに必要なのかな?と思っちゃうんですけど。
例えばドラムがいるバンドの場合、まずバスドラムにマイクを2本立てて、スネアにも2本、それからハイハット、ライド、タム、フロアに1本ずつ、あとオーバーヘッドっていう上からシンバルを狙うマイクを2本使うので、これで合計10本になるよね。標準的なセットの場合、ドラムだけでも回線が10ch必要なんだ。
──ドラムだけで10ch!
だから、あの大きな卓のうち10列はドラムだけで埋まっちゃう。もちろんほかの楽器の音も同時に調整しないといけないから、どうしてもあれぐらいの大きさは必要になってくるんだよ。
──5人組バンドだったら、5chあれば十分なのかと思ってました。
ギターとかは1chで済むこともあるけど、人によっては特性の違うマイク2本で集音して混ぜたり、アンプを何台も使い分けたりする場合もあるので、たくさん必要になることもあるよ。それがバンドの人数分と考えると、けっこうな回線数がいるよね。さっきも言ったように、最近はシーケンス(同期)トラックを使うアーティストも多いし。
──ちなみに、あのでっかい卓はだいたい何chぐらいあるんですか?
スタンダードなものだと、32chだね。
──32! その32chを、実際に端から端まで全部使うことはあるの?
僕はわりと使うかな……っていうか、大抵は32じゃ足りない(笑)。
──足りないんだ!
なので、回線を切り替えながら使うことがほとんどだよ。ページを切り替えるようなイメージ、といったらわかりやすいかな? 1ページ目を出しているときはドラムやベースを調整できて、2ページ目に切り替えると同じツマミで今度はシーケンストラックを調整できる、みたいな。
──カードゲームのデッキを切り替えるような感じ?
そうかも(笑)。例えば僕が担当しているYOASOBIの場合、ボーカルは常に見ておきたいから固定ですぐ触れるようにしておいて、ほかの楽器類を別デッキにまとめてる感じ。それを切り替えながら……4デッキくらいは行き来してるかもしれない。
──そこまでしないと追いつかないぐらい、ライブってたくさんの音を扱ってるんですね……!
なんとなく、業界的に「48chを超えるかどうか」が基準になっているところがあるよ。フェスとかに行くと、「48chまでに収めて」と言われることが多いんだよね。現地の音響システムに合わせなきゃいけないから、あんまり回線数が多いと大変なんで……まあ、だいたい超えちゃうんだけど。
ドームライブの音がよくなった理由
──実際にライブが始まってから、そんなに頻繁にツマミやフェーダーをいじることってあるんですか?
人によるかなあ。僕はそこまで触らないかもしれない。事前にリハーサルスタジオでアーティストやスタッフと相談しながら「こういう音にしよう」というのを決めておくので、会場入りしたあとは最初に微調整するくらいだね。そこからあんまりいじっちゃうと、「最初に決めたことってなんだったの?」ということになっちゃうから。ただ、ドラムとかはライブ終盤になるとチューニングが変わってピッチが落ちてきたりするし、ボーカルにしても常に一定の音量で歌い続けられる人なんていないので、そこはわりと臨機応変に調整するかな。
──僕、ライブを観に行ったときに「1曲目は音がボワッとしてたけど、2、3曲目ぐらいから聴きやすくなった」と感じることがすごく多いんです。あれはPAさんが調整してくれているってこと?
ライブ会場の響きって、お客さんが入る前とあとでかなり変わるんだよ。僕らは「吸われる」という言い方をするんだけど、人の体が音を吸収して響きがかき消されたりするんだ。だからリハーサルのときと響き方が違ってきちゃって、本番の1曲目で「この帯域が減った!」とかをメーターで見ながら調整し直すことはよくあるね。その変化具合は会場や気候によっても全然違うので、実際にお客さんが入って音が出てみないと、どう変わるかは予測できないんだ。「ここ、リハーサルやりづらいんだよな」みたいな会場があったり(笑)。
──へええー……! あと最近、ドームとかの大きな会場で「音がいいな」と感じる機会が増えた気がしていて。昔、親に連れて行ってもらったときは「ドーム=音が悪い」というイメージだったんですけど……。
それはやっぱり、技術と機材の発展が大きくて。東京ドームでいえば、ステージ横にあるメインスピーカーのほかに、客席の間にバカでかい鉄柱みたいなものが立ってたりするでしょ?
──見たことあります!
あの柱にスピーカーが吊ってあって、ステージから遠いお客さんにはそっちをメインで聴いてもらってるんだよ。音響の世界には「システムエンジニア」という職種があるんだけど、その人たちが「この席にはこう聞こえるから、この位置にこの角度でスピーカーを置こう」というのを計算して、会場の音響を設計してくれているんだ。
──へええー、すごい! 逆に言うと、以前はステージ横にしかスピーカーが置かれてなかったってこと?
そうだね。しかも東京ドームには音量規制があるから、それだけではスタンド席の奥とかにまでしっかり音を届けるのは物理的に難しかったんだよ。それに加えて、今はスピーカー自体の性能も上がってるからね。昨今はスピーカーのコーンから丸い形に音を広げて飛ばすんじゃなくて、まっすぐ線で飛ばすイメージのものが主流になってきているんだ。
──かめはめ波ではなく、魔貫光殺砲ってこと?
厳密には従来のスピーカーはかめはめ波より広範囲に広がるんだけど(笑)、イメージとしては近いかな。それでだいぶ飛距離を出せるようになって、音質調整もしやすくなった。そういう進歩があって、今はドーム規模やアリーナ規模でもわりと満足いく音質と音量を届けられるようになってきたんだよね。
──あと、ちょっと余談ですけど、音って光よりも進む速さが遅いですよね。だから大会場ではスクリーンの映像と聞こえる音がズレるはずだと思うんですけど、あまりそれを感じたことがないです。もしかして、映像のタイミングをわざと遅らせていたりするんですか?
うん、映像さんが僕らに合わせてくれてる。まあ、映像自体も完全にリアルタイムで映すのは難しいので、そもそもディレイはあるんだよ。だから厳密にタイミングを合わせるというよりは、よっぽどズレてたらちょっと調整するぐらいかな。ステージからの距離によっても遅れ方は違うしね。
では、日本武道館は?
──以前、この連載で藤井フミヤさんに「日本武道館って何がいいの?」というお話を聞かせてもらったことがあるんですけど……。(参照:日本武道館でのライブって何がいいの?)
それもすごい話だね。
──そのときにフミヤさんが武道館について「昔はやりづらい会場だったけど、最近はだいぶ音がよくなった」とおっしゃっていて。それも機材の進化のおかげ?
そうだろうね。武道館はあの八角形という反射しまくる構造に加えて、天井がすごく高いこともあって、音響的にはかなりやりづらい会場なんだ。上から横から、いろんなところから音が跳ね返ってステージに戻ってくるので、かけてもいないリバーブが勝手にめちゃくちゃかかる。そもそも音楽をやるために作られた建物じゃないしね。それは東京ドームも同じだけど。
──“武道”館ですもんね!
ただ、武道館ライブにはかなりの歴史があるから、いろんな音響会社が試行錯誤を繰り返してきてるんだ。反射が多い構造はずっと変わってないけど、そこでいい音を鳴らすためのノウハウが溜まってきている部分もあると思うよ。もちろん機材の進化もあるし。
──なるほど……!
で、フミヤさんに関して言えば、たぶんイヤモニを使うようになってやりやすくなったんじゃないかな? 時代的に、昔は間違いなくスピーカーでモニタしていたはずだから、その違いは大きいと思うな。
──そういえば、急に思い出したんですけど……RCサクセションの1980年頃の武道館ライブの映像を観ていて、ステージがガランとしていることに違和感を覚えたことがあって。よくよく思い返してみると、忌野清志郎さんの足元にスピーカー類が何もなかったからだ!と今気が付きました。あれはどういうことなんでしょう? あの時代はまだイヤモニはないですよね?
たぶんだけど、サイドスピーカー(ステージの両サイドから演者へ向けた補助的なモニタスピーカー)の音と、会場の跳ね返りだけを聴いて歌っていたんじゃないかな。それでできちゃう人がときどきいるんだよ。
──えー! すごすぎる!
例えばDA PUMPのISSAさんなんかは、武道館やアリーナ会場のセンターステージで歌うときに、メインスピーカーの音とモニタスピーカーの音、上や横から跳ね返ってくる音が入り乱れる中で「反響音も聴きながら計算して歌ってる」と言っていたよ。しかも、それを踊りながらやってるっていう。
──信じられない……!
さすがに最近はイヤモニを使ってるけどね。たまにそういう天才的というか、とんでもないタイプの人がいるんだよ。清志郎さんもそのタイプだったんだと思うな。
会心の公演は東京ドームのYOASOBI
──谷下田さんがこれまでに手がけてきた公演で、「あれは会心の出来だった」みたいなライブはありますか?
モニタPAとして関わったものでいえば、YOASOBIの東京ドームだね(YOASOBIの“原点”が東京ドームに出現、5年前と今をつないだ「超現実」)。ikuraがバルーンに乗って客席上空で歌う演出があったんだけど、地上からかなり離れるので、無線でイヤモニに送る音やマイクから受け取る音が安定するかどうかわからなかったし、メインスピーカーから出る音をボーカルマイクが拾っちゃうという問題もあって。それをどう調整するか考えるために、リハーサルで僕が先にバルーンに乗ったんだよ。
──えー! PAさんがそこまでやるんだ!
PAが試さないことには、本人に話ができないからね。ものすごくビビりながら乗り込んで(笑)、どうにか上空でマイクでしゃべってモニタの聞こえ方を確認しつつ、スピーカーの前を横切る瞬間も実際に体感して。そのうえで、本人に「スピーカーに背を向けちゃうと出音がモロにマイクに被っちゃうから、なるべくスピーカーのほうを向いて歌ってほしい」と伝えたんだ。そしたら、リハーサルでも本番でも完璧にその通りにやってくれて、「モニタも聴きやすかった」と言ってくれて。ライブが終わってから、2人で「よくやったねー!」と讃え合ったんだよ。
──めちゃくちゃいい話! あとでうちに帰ったら、ikuraさんが向いている方向をBlu-rayで確認してみます。
ちなみにikuraだけじゃなくてAyaseもバルーンに乗ったんだけど、2人とも高所恐怖症なんだよ(笑)。それなのによくやったなあって。それを踏まえて映像を観ると、より味わい深いかもしれないね。
──ところで、僕らが普段使っているワイヤレスイヤホンって遅延があるじゃないですか。ライブで使うイヤモニは大丈夫なんですか?
多少の遅延はあるよ。有線のマイクやモニタスピーカーを使う場合に比べたらね。ただ、無線の規格も普通のワイヤレスイヤホンとは違うから……。
──そっか! さすがにBluetoothではないってことですね。
Bluetoothだと飛距離もまったく足りないし、キニナル君がいうように遅延もけっこうあるからね。ライブで使う無線システムは、ラジオやテレビと同じ電波帯を使っているんだ。だから空を飛んでも大丈夫なんだよ。もちろん、僕らのほうで「どうやったらあそこまで電波が届くかな」っていっぱい調整もしているしね。
いい音を出したい気持ちはみんな同じ
──僕は将来アーティストとして食べていくことが夢なんですけど、PAさんの立場からアーティストに知っておいてもらいたいことって何かありますか?
個人的には、MCのときになるべくマイクを離してほしくないっていうのはあるかな。しゃべるときにマイクを離し気味にする人がよくいるんだけど、あれは本人が思ってる以上に極端に音量が下がっちゃうんだよ。何を言っているのか聴き取りづらくなりがちなんだ。
──なるほど、気を付けます! あと何か、「こんなアーティストは嫌だ」みたいなのはあります? 大喜利みたいな質問ですけど(笑)。
(笑)。それでいうと、テンション感も含めてリハーサルをおろそかにされると僕らは困っちゃうかな。
──ちゃんとやってくれないとリハにならない、ってことですか?
そう。PAだけじゃなくて、照明さんも困るんだよ。リハで試していないことを急に本番でやられると、「いや、ここで急に前に来るんかーい!」みたいな(笑)。「そこまで照明当たらないよ! 行くならリハでやっといてよ!」っていうことがあったりするんだよね。
──よく知らないアーティストの場合は、とくにそういうことが起こりそうですね……。
すでに関係性のあるアーティストであれば、こっちもある程度は想定できるんだけどね。はじめましての場合は、例えば「本番用に喉を温存したいので、リハでは50%ぐらいで歌います」とか「本番でテンション上がったらめっちゃ前まで出ちゃうかもしれないです」とかってちゃんと伝えてもらえたら助かるよ。あとは「ギターアンプの音、大きすぎないですか?」とか、気になることは遠慮せずにどんどん言ってほしい。いい音を出したい気持ちはアーティストも音響屋も一緒なので、ちゃんとコミュニケーションを取ることが大事かなと思うよ。
──自分の都合だけを考えるんじゃなくて、「みんなで一緒にステージを作ってるんだ」という意識が大切なんですね!
そういうことだね。
──勉強になります! 今日はありがとうございました!
プロフィール
谷下田慎之介
1992年生まれ、千葉出身。2014年から下北沢Laguna / Daisy BarでPAを務めたのち、2017年にMSI JAPAN東京に入社。YOASOBI、小柳ゆき、竹原ピストル、Conton Candyといったアーティストのライブを手がける。
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