YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで3月6日から3月12日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングでは、2位に稲葉浩志(B’z)の「タッチ」がランクインした。岩崎良美が1985年に歌い大ヒットしたテレビアニメ「タッチ」主題歌のカバーで、Netflixによる「2026 ワールドベースボールクラシック」日本国内向けライブ配信の大会応援ソングとして話題になった。3月6日のMV公開から10日間で700万再生を突破し、現在も加速度的に勢いを伸ばしている。
32位にはkz × TAKU INOUE feat.初音ミクの「クロスロード」が登場した。ゲーム「ポケットモンスター」シリーズと初音ミクのコラボプロジェクトとして2023年8月にスタートした「ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE High↑」シリーズのラストを飾る1曲で、「未来に向かって進む瞬間」を描いたさわやかでエモーショナルなエレクトロポップに仕上がっている。
47位にランクインしたのは、ちゃんみなの「Let you go feat. HIROTO(INI)」。彼女のキャリアの初期からバックダンサーとしてともに時間を過ごし、代表曲の1つでもある「Angel」のMVで共演するなど関係性の深い西洸人(INI)とのコラボレーションとなっている。
52位にはチャーリー・プースの「Home(feat. Hikaru Utada)」がランクインした。共通の知人である音楽プロデューサーを通じて、チャーリーが宇多田ヒカルへコラボをオファー。その後、何度か楽曲に関するアイデアを交わしながら、チャーリーが自身の妻に向けて書き下ろした「Home」を完成させたという。
異色のコラボ曲が目立った今週は、下記の3曲をピックアップする。
サカナクション「いらない」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場8位
サカナクションの「いらない」は、中京テレビ・日本テレビ系ドラマ「こちら予備自衛英雄補?!」の主題歌だ。このドラマの監督を務めた加藤浩次のインタビュー動画によれば、脚本が固まる前からサカナクションに楽曲を担当してもらう予定だったという。加藤は「エレクトロな80年代の感じになるとは思っていなかった」と曲を受け取った際の驚きを語っていて、歌詞について「シンプルな歌詞であれだけ深いテーマを書けるのは、ほかにいない」と絶賛している。
“シンプルでありながら深いテーマ”とは、何を指しているのか。表面的には「君のことなんていらない」と繰り返し突き放しながら、内側では強く惹かれていく心理にある。冒頭で歌われる「暗い部屋」や「転がる黒いヘッドフォン」といった不穏なフレーズは、感情のねじれや心のざわつきを感覚的に可視化し、恋の衝動が理性を越えていく様子を印象付ける。繰り返される「いらない」という言葉と、「なのに感じている」「なのに探している」といった言葉が交錯し、理性と欲望のせめぎ合いが立体的に浮かび上がる。拒絶の言葉を重ねるほどに、本心が逆説的に強調されていく構造だ。「頭の裏側でバタバタするから」といったフレーズや、随所にある踊っている描写も相まって、抑えきれない焦燥と高揚が生々しく伝わってくる。
そして最後に「君の全てを知りたい」と言い切ることで、葛藤の果てに残る純粋な欲望があらわになる。拒絶と渇望が同時に存在する二重の感情。その揺らぎを、反復と比喩で研ぎ澄ませた言葉に落とし込んだ点に、この楽曲の深みがあるように思う。
MON7A「僕のかわい子ちゃん」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場10位
10位に登場したのは、MON7Aの新曲「僕のかわい子ちゃん」。今作は相手をもっと知りたいという衝動と、どこか消えてしまいそうな恋のはかなさを繊細に描いた楽曲だ。同作は優里とのデュエットによるコラボ映像も話題を呼び、こちらも43位にランクインしている。
歌詞の冒頭に登場する「教えて 好きな映画とか」「教えて 名前の由来とか」というフレーズは、恋の始まりにある素朴な好奇心をまっすぐに映し出す。相手の些細なことまで知りたいという思いがにじむ一方、「くだらない言葉は飲み込んだ」と続くことで、踏み込みきれない距離感や不器用な心情も浮かび上がる。
曲中で繰り返される「波」のイメージは、揺れ動く感情や定まらない関係性を象徴するモチーフだろう。海辺に立つ2人の姿は、始まりと終わりのどちらにも傾き得る、曖昧な時間を想起させる。「熱は弓を引いてた」という詩的な表現も、胸の奥で張り詰める恋心を印象的に描き出すフレーズだ。
終盤に登場する「今にも消えそうな君」という言葉が、この恋のきらめきにかすかな影を落とし、余韻を残す。柔らかなアコースティックサウンドを基調とした穏やかな曲調と、静かに揺れるメロディが、芽生えたばかりの恋心をそっとすくい上げていく1曲となっている。
KEY TO LIT「Burn Down」(Arena Tour 2025 WAKE UP THE FOOL)
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場68位
68位にランクインしたのは、KEY TO LITが昨年9月から10月にかけて5都市で開催した初のアリーナツアー「KEY TO LIT Arena Tour 2025 WAKE UP THE FOOL」より、千葉・LaLa arena TOKYO-BAY公演での「Burn Down」のライブパフォーマンスを収めた映像だ。5月15日にはこの映像を含むBlu-ray / DVDがリリースされることが決定している。
「Burn Down」は、“破壊と再生”を軸に据えた楽曲だ。タイトルが示す“焼き尽くす”という行為は、単なる破壊ではなく、過去や既存の価値観を壊し、新たな自分へと踏み出すための通過点として描かれている。歌詞には、自分を縛ってきたものへの反発や、偽りの自分を壊したいという衝動、そして痛みを伴ってでも前に進もうとする覚悟が全体に貫かれており、抑圧から解放へと向かう流れが描かれている。サウンドは重低音と歪んだシンセを軸に、静と動のコントラストを強調。抑え込まれた感情がサビで一気に解放される構造が、リリックのテーマと響き合っている。
そしてライブでは、その内面の衝動がよりフィジカルな表現へと昇華される。公開された映像でも、攻撃的なダンスや全身を使ったパフォーマンスによってエネルギーが一気に放出され、“壊して進む”という意志が観客にダイレクトに伝わってくる。映像として切り取られることで、その熱量はより鮮明に立ち上がり、楽曲の本質を強く印象付けている。


