JOYSOUND 音楽ニュース
powered by ナタリー
「JOYSOUND X1」公式サイトJOYSOUND公式キャラクター「ジョイオンプー」

奥田健介(NONA REEVES)がつづる旅エッセイ

2014年、大阪・天満「酒の奥田」。撮影はライターの宮内健氏。
8分前2026年05月20日 9:03

5月16日は松尾芭蕉が奥の細道に旅立ったことから“旅の日”に制定されています。多くの人にとって人生における大切な要素である“旅”。この連載では、旅好き / ツアーなどで各地を飛び回るアーティストに、旅をテーマにエッセイをつづってもらいます。

音楽ナタリーでは、今春公開の別コラム「東京ウブストーリー」にて、センスの光る言葉選びと見事な構成力で“オッケン節”全開のエッセイを書いてくれた奥田健介さん(NONA REEVES)に再びオファー。しかしご本人は“旅をしない派”とのこと。いったいどんなエッセイを書いてくれたのか、奥田さんセレクトの“移動中に聴きたい旅プレイリスト”とともにお楽しみください。

文 / 奥田健介

「ひとり旅」に燃やす情熱を「ひとり飲み」に注ぎ続けてきた

こんにちは、NONA REEVESの奥田健介です。3月末にアップされた「東京ウブストーリー」が有難いことにナタリー編集部で案外好評だったらしく、早くも二度目の依頼をいただきました。嬉しいか悲しいか、必ずどちらか一択で答えよと言われたら、嬉しいです。ありがとうございます。

ただ、今回のテーマは「旅」とのこと。困りました。なぜなら僕は自他ともに認める(?)滅多に旅行に行かない人間。興味がないのではなく、生きていく中でそういう選択肢が思い浮かばないのです。今まで飛行機や新幹線に乗った経験のうち、約85%が「ライブツアー」、10%が「帰省」、3%が「修学旅行」といったところ。Vol.8の伊藤大地くんのように、野生の勘を頼りに鉄道全路線制覇を目論むこともなければ、Vol.13の坂本真綾ちゃんのように、旅先での自分の心模様を静かに分析することもありません。小沢健二さんには「ぼくらが旅に出る理由」という名曲がありますが、自分の場合「ぼくが旅に出ない理由」を考えてみた方がよさそうです。

まず一番に思い当たるのが幼少期、家族で休日のお出掛け(時にはちょっとした小旅行も)から帰宅した際、両親が居間でお茶を飲みながら必ず口を揃えて「ああ、やっぱり我が家が一番」と呪文のように言っていたこと。あれを子供心に真に受けてしまったのではないかという疑惑。些細なことかもしれませんが、意外とあの手の刷り込みによって「旅」に対して奥手になってしまった、訳はないか。

次に思い出すのが小学校の修学旅行。確か伊勢志摩に二泊したと思うのですが、密かに想いを寄せていたコ含む女子部屋の様子はどうしても気になるもの。二日目の朝、さっそく食堂にて比較的話しやすかったAさんに「ゆうべ女子は部屋で何してたん?」とドキドキしながら質問したところ、返ってきた答えは「おなら大会」。てっきり好きな男子の話などで甘酸っぱく盛り上がっていたに違いないと思い込んでいた自分の心に芽生えた、「外泊」に対するニヒリズム。まあでも、それが原因ってこともないだろうな。

あと思い当たるのは、大学時代、先日惜しくも他界されたつげ義春さんの「旅もの」諸作にどっぷり心酔したこと。擬似体験といえば大袈裟ですが、東北や北関東エリアはじめ日本各地の「老女だらけの温泉地」は行ったも同然というか、全セリフを暗記するぐらい繰り返し読み返すことで、考えようによっては「実際行く」以上の濃密な追体験を脳内で遂行してしまった感があるのです(「海辺の叙景」や「やなぎ屋主人」に憧れて、千葉・大原の民宿に一泊したりはした。予想はしてたけど、イメージより「薄味」でした)。ごちゃごちゃと述べましたが、まあこの辺が現在に繋がる、今ひとつ「観光」に対して攻めの姿勢になれない遠因、って気はしなくもないです。

……個人的な話で恐縮ですが、ここまで書いて一旦筆を置き放置しておいたところ、4月末に52歳の誕生日を迎えてしまいました。51歳の頭では、この後どうやって結論めいたところへ持っていけばよいのか考えあぐねていたのですが、歳を重ねて何かが吹っ切れたのか、急にある大それた考えが去来しました。

世の旅人が「ひとり旅」に燃やす情熱を、自分の場合は「ひとり飲み」に注ぎ続けてきたのではないか、という仮説。思えば上京後、牛丼屋と勘違いして入店した下井草の「養老乃瀧」にて、やむなくソース焼きそばをアテに3000円分生ビールを飲み干したことを起点として、以来三十余年、「晩御飯」と「晩酌」が限りなく同義の人生を歩み続けている自覚があります。

別に、一人グラスを傾けながらインナートリップしてるとか、混濁する意識の中で新たな風景を見つめてるとか、詭弁めいたこじつけをするつもりはありません。ただ一つ言えるのは、全国ツアーの移動日に時に単身で、時に飲み仲間と、各都市の気になっていた酒場を巡礼しながら得る感覚は、自分にとって正真正銘の「旅情」以外の何物でもないということ。これこそが俺にとっての「旅」だ、と声高に叫ぶつもりは毛頭ありませんが、特に関西方面の立ち飲みや角打ちは軒並み、名店揃いです。焼酎も濃いし。

そろそろ字数オーバーのようです。正直、こんな苦しい結びで許されるのか不安は残りますが、別のテーマだったらもっと正攻法な切り口で書ける気もするので、もし機会がありましたらナタリーさん、またお声掛けいただけると幸いです。原稿料を旅費の足しにするので。来たるべく世界一周旅行の。

移動中に聴きたい旅プレイリスト Selected by 奥田健介(NONA REEVES)

01. パット・メセニー「Last Train Home」
02. マーティン・デニー「The Enchanted Sea」
03. The Rah Band「Clouds Across The Moon」
04. ジェシ・エド・デイヴィス「Golden Sun Goddess」
05. De La Soul「Ego Trippin'(Part Two)」
06. RCサクセション「SUMMER TOUR」

プロフィール

奥田健介

1974年4月27日生まれ。滋賀出身。“ポップソウル”バンド・NONA REEVES のギタリスト。1996年、早稲田大学の音楽サークル「トラベリング・ライト」にてNONA REEVESに加入し、1997年11月にメジャーデビュー。ソウル、ファンク、80'sポップスなどに影響を受けた独自の音楽スタイルで支持を集め、これまでに17枚のオリジナルアルバムを発表している。またギタリストとしてレキシや坂本真綾、堂島孝平、一十三十一といったアーティストのライブやレコーディングに参加するなど、ソロでも活躍中。

JOYSOUND
JOYSOUND.COMカラオケ歌うならJOYSOUND

関連記事

「MY FAVOURITE BLUE ~ カジヒデキ、ネオアコを歌う。」告知ビジュアル

カジヒデキ、ソロデビュー30周年!記念ライブ第1弾でネオアコを歌う

12日
「YATSUI FESTIVAL! 2026」ビジュアル

モナキが「やついフェス」に初出演!最終発表でレキシ、井ノ原快彦ら67組追加

27日
7月18日に長野・飯山市文化交流館なちゅら 大ホールで開催されるNONA REEVESの音楽フェス「信州いいやまノーナ・フェス2026」の告知ビジュアル。

長野県飯山市「信州いいやまノーナ・フェス」今年も開催 ノーナ、堀込泰行、堂島孝平、藤井隆が出演

約1か月
20歳頃、カラオケボックスにて。当時、撮られることが大の苦手で、これが唯一残ってる写真。

滋賀出身・奥田健介(NONA REEVES)の上京物語~東京ウブストーリー~

約2か月
「SLENDERIE RECORD ファミリーコンサート2026 MUSIC POWER」キービジュアル

藤井隆の「ファミリーコンサート」今年も開催!SLENDERIE RECORDファミリー再び集結

3か月
NONA REEVES

NONA REEVESとGOOD BYE APRILが初ツーマン、ライブシリーズ「StoriAA」で

3か月
西寺郷太「Human」ジャケット

NONA REEVES・西寺郷太が80~90年代の歌謡曲 / ニューミュージックに向き合った“人間味あふれる”カバーアルバム

4か月
NONA REEVES

NONA REEVES「POP STATION」軸のライブ開催、会場はビルボードライブ東京

5か月
「藤井隆『light showers』全曲MV一挙初公開ライブ」告知ビジュアル

藤井隆「light showers」AI駆使して全曲MV制作、生配信で一挙公開

5か月