今、最もホットなラッパーが集まる東京の現場と言えば、東京・恵比寿に2011年にオープンし、今年15周年を迎えたEBISU BATICA。シーンのトップを走るラッパーたちが出演してきた日本語ラップの最前線であり、毎月さまざまなパーティが開催されています。この連載では、そんなBATICAのブッキングを担当している店長の一瀬公佑さんが特に印象に残ったパーティやラッパーを毎月紹介。今回は5月のパーティに出演したラッパーたちを振り返っていただきました。
取材・文 / 三浦良純
tissue clubのEL the BLUE主催パーティが100人集客
ゴールデンウィークはたくさんパーティがありましたけど、その中で特に盛り上がっていたのが「CIRCLE VOL.1」です。tissue clubというクルーのEL the BLUEが主催したパーティで、「高校生RAP選手権」で優勝したShamis、asaky、N7mというクルーのメンバーに加えて、hedoとかyounyamahashiとかKoGlowとか、この連載で以前紹介したようなメンツが出演しました。もともと別の界隈だった子たちなんですけど、いろんなイベントで競演することで仲よくなって、つながりができた結果、今回集まった形です。
BATICAでやるような普通のパーティって、ゲスト、ピックアップの枠に加えて、普通のライブ枠があるという形が多いんですけど、このイベントは同じくらいのキャリアのメンツが横並びで出演するような形で。それで、お客さんが100人くらい集まったんですよ。びっくりしたし、新しい何かが始まった感じがありました。
今回出演した子たちは、めちゃくちゃ悪いヒップホップじゃなくて、ガラージだったり、ロックだったり、わりと自由なサウンドで、メロディアスな曲も歌えるし、オーバーグラウンドで活動できる子たちだと思います。すごくいい子たちです。
Peterparker69以降の新世代・P'ortable room™︎
「CIRCLE VOL.1」の翌日には、P'ortable room™︎のリリースパーティがありました。P'ortable room™︎は、BATICAでは3回くらいライブをやってるんですけど、彼と一緒に仙台から上京してきた同居人のjrtrg(ジェーアールトラジ)というDJに「全然リスナーが増えないので聴いてください」と教えてもらったのがきっかけで。最初に聴いたときの印象は、ヒップホップのアプローチを取り入れたダンサブルなエレクトロサウンドで、音遊びが上手で……Peterparker69以降の人が出てきたなと思いました。
彼からリリパしたいって話を聞いて、自分はサポートだけして当日を迎えたんですけど、DJも含めて隙がないメンツだったし、めちゃめちゃいいパーティになりました。出演者のうちlymph、agulはP'ortable room™︎と同世代、fox4G、DAFTY RORN、STEMLUGERは彼よりキャリアがある上の世代です。自分の憧れの世代と同世代で固めて組むのがめちゃくちゃキレイだと思いました。
P'ortable room™︎は酔っ払ってMCがグダってましたけど(笑)、それもリリパならではだし、ライブはうまいので、このEPやリリパがきっかけでこれからいろんなイベントに呼ばれ始めるような形になったらすごくうれしいですね。もちろんP'ortable room™︎もいいやつです。
ストイックに盛り上げるARuM&SSP
24日には、ARuMくんとSSPくんのコラボ作「THE BOX」のリリースパーティがありました。「THE BOX」は個人的にもハマった作品で、「DirtyLove」とかめちゃくちゃいい曲が多かったんで、BATICAでパーティができてよかったですね。今回はナイトじゃなくてデイイベントだったんですけど、お客さんは友達同士で遊びに来たという感じじゃなく、ライブ目当てのファンが1人で来ている印象でした。今回も本当にいいパーティでした。
デイなんでライブ中にタトゥーを入れるみたいな事件はありませんでしたけど、ARuMくんとSSPくんはしっかりカマしてましたね。FAMILY BUSINE$$の面々もちょくちょく遊び来てましたけど、ARuMくんとSSPくんはめちゃくちゃ礼儀正しく接していて。ラッパー然とした見た目だけど、そこにあぐらをかかず、ストイックにラップをしてる硬派な人たちだと思います。そのうえで、もちろん遊ぶときは遊ぶ。いいお兄ちゃん感ありますよね。
ARuMとSSP以外もみんないいアクトで、gvsuk(グスク)もかなり話題でしたよね。ただ当日、自分は別の業務があり全部のアクトを観れてなくて……その点では個人的に悔しさが残るパーティでもありました。
“2030年のヒップホップ”を見せた5組
5月28日の「CASK」はこないだ紹介した通り、15周年興行のブッキングで疲弊していたときに組んだ企画なんですけど……これはもう“神回”でしたね。誘ったメンツ同士の相性やタイムテーブルも含めてばっちりハマって、演者さんにも「今日このメンツ以外ありえないですよね」と言っていただけて。
最初に出てもらったDaichi Wagoは、これが初めてのブッキングでした。「白ノ鬼」という曲のミュージックビデオを観て呼んでみたいと思っていたんです。思想や哲学があって、楽曲には激しさもあって……でも話してみるとすごく優しい人で。彼がMCで「2030年のヒップホップを見せる」と言ってましたけど、これが今回のイベント自体のテーマのようになっちゃって、その後の出演者も意識する流れになってました。そういう意味でも最初に出てもらえてよかったです。
続くIt’s US!!!!は、トライバルとかアフロビーツとか何でもアリなサウンドでラップしている多国籍ルーツの4MCのクルーです。日本とは違うバイブスですごくパワフルでライブをしてくれました。サウンドの気持ちよさと言葉のフレッシュさで聴く人が増えてる印象で、ライブのハッピーさがすごく好きなところなんですけど、抑えるところは抑えるライブをしていて、ただ爆発するだけじゃないんですよ。ライブ後には反省点を話し合っていたりして、さらに伸びしろがある人たちだと思います。
3番手のBYORAは、Shogo Mochizuki、MUKU、Urbanの3MCのクルーです。もともとはブーンバップのビートでラップしていたんですが、最近は音楽性に変化があって。リバーブが短かったり、エコーが近かったり、昔のロックっぽいバイブスがあって、バンドとの対バンも増えてますね。ライブもエフェクターやサンプラーを駆使したスタイルで、音が多くて面白い。この日、一番頭を振れるライブをしてました。
ラッパー1人、ベーシスト2人、ドラマー1人という構成のผ้าอ้อม99999は、一見イロモノ感があってわかりづらそうですけど、スカしてないというか、開かれていて、むしろまっすぐド真ん中をやってるバンドという印象です。バイレファンキなどのダンスミュージックを取り入れたラップをしつつ、アップデートしながら楽曲を作っている人たちで。高速のラップは絶対難しいと思うんですけど、すごくライブが上手で、この日もしっかりカマしていました。ライブ中は覆面なんですけど、それもQiezi Maboとかがフラッシュバックしてワクワクしますよね。
トリのBlack petrolは、自主企画をやったこともあるし、ラップ担当のSOMAOTAくんがソロで出ることもあるし、BATICAとすごく縁の深い6人組のバンドです。今回BATICAのセット的に6人で出てもらうのが難しかったんですけど、どうしても呼びたくて、人数を絞ったトリオセットで出てもらうことにしました。とにかくグルーヴ感がすごい人たちで、1曲1曲を演奏していくというよりは、ビートをつなげてしっかり展開を作っていくイメージです。SOMAOTAくんのラップも面白いし、言葉と音の両方で楽しめる、バランスのいいバンドだと思います。
「美味しいお店」も話題のFilix王
月末の「mid points」はみんな面白かったですが、やっぱりFilix王さんですかね。最近はテレビ番組風のミュージックビデオが話題で、僕もまんまとハマって見入っちゃってます。Filix王さんは、僕がスタッフとして働く前からBATICAに出演していて、キャリアも長いんですが、いろいろな形を経て今注目されているのはめちゃくちゃうれしいですよね。
Filix王さんの好きなところは、元芸人なのもあってテレビっ子なこと、出てくる固有名詞が僕的にすごく共感しやすいところにあります。ここ最近は引き出しと歌詞の作り方のセンスがより前に出ていると思っています。この日もライブでも途中までやってましたが、JNKMNさんとの新曲「美味しいお店」もよかったですね。心の底から三茶で遊びたくなりました。全然イロモノではなく、日本語ラップをまっすぐやってると思ってるので、幅広い層に聴いてもらえたら最高だなと思います。
あとNust Bもカッコよかったです。九州の方からここ最近引っ越してきた子なんですが、その前からちょくちょくBATICAにも出演していて、彼は器用で、パラメーターを五角形で表したときに正五角形になるようなバランスの取れたアーティストだと思います、ラップもキレキレでメロディも作れて、さまざまなビートにアプローチできます。彼から7月に出るアルバムのデモを送ってもらって、それを聴いたときにけっこう食らっちゃって、彼なりに行きたい方向が見えたような気もして。今後注目すべきだと思ってますし、リリースしたらすぐ見つかると思ってます。
「mid points」はラッパーがいろいろ試せる場所でもあると思うので、今後も続けていきたいです。
今月の注目イベント
・nullpo
6月18日の「nullpo」はsafmusicとかksr:3とか、シンガーソングライターやエレクトロアーティストをうまく拾ったイベントで……全員注目ですね。DJ陣も面白いですし、このカルチャーに必要不可欠な方たちを集めているので、誰か1人でも好きな人がいたらぜひ来てほしいです。
・洄游
6月19日の「洄游」は僕じゃなくて、別のBATICAスタッフの企画なんですけど、同じジャンルのアーティストを固めるのではなく、違うニュアンスの人たちをスタイルウォーズ的に集めたイベントです。P'ortable room™︎もいるし、「TOKIO SHAMAN」時代から活躍するOKBOYとか、多彩なアーティストが一度に楽しめます。
店舗情報
EBISU BATICA
クラブとライブハウスの両方のよさを引き出し、違った感性と人を紡ぐ新しいコミュニティ作りの場として、多種多様なシーンに対応するイベントスペース。1Fは40名前後、2Fは80名前後のキャパシティで、ドラムセット、アンプ、プロジェクターなども備えている。DJやライブイベント、展示からウエディングパーティに加え、飲み会、結婚式二次会、試聴会、プレス向け発表会、展示会、各種撮影など、さまざまな形態での利用が可能となっている。


