気鋭の新人アーティストにインタビューしていく連載企画「Who's Next?」。今回登場するのは、ラッパーのNatchan Montana(なっちゃんもんたな)だ。「彼氏のお金で行っちゃうバリ」と歌う「BALI」が振付動画とともにバイラルヒットし、一躍その名を広めている彼女だが、いったい何者なのか。音楽ナタリーではバリへ旅立つ直前の彼女に取材し、「BALI」の制作経緯を中心に話を聞いた。
取材・文 / 3NK
彼氏のカッコいいところを歌いたかった
8月のリリース後、TikTokの音楽チャートでさまざまなアーティストの人気曲を抜き去り、9月に入ってから2位まで上昇しているNatchan Montanaの「BALI」。本人としては、そもそもバズを狙って作ったわけではなく、彼女と交友のある人気ラッパーの何気ない言葉が制作のきっかけだったそうだ。
「彼氏がSad Kid Yazくんの友達だから、いつもYazくんのスタジオでRECしてるんですよね。そこで私が彼氏の金玉とか精子とかそういう下ネタの歌詞をラップしていたら、Yazくんに『知り合いだからちょっとリアルすぎるし、生々しいよね。もう嘘でもなんでもいいから、彼氏が高級車に乗ってるみたいなことをラップしてみたら』と言われたんです」
Sad Kid Yazのアドバイスを受けて「確かに下ネタだけじゃなくて彼氏のカッコいいところをラップしたいと思った」というNatchan Montana。そこで彼女が楽曲の題材として選んだのは計画中のバリ旅行だった。
「ラップで嘘をつくのはよくないと思うんですけど、彼氏がバリ行きの航空券を2人分取ってくれていたから、それなら嘘なしで曲にできるなと思ったんです。旅行の前に作って、実際に行ったときにInstagramのストーリーズとかでその曲を流したいなとも思って。バリで行きたいところとかを調べて、2、3日くらいで歌詞を書きました。『自分の金で行けよ』ってよく言われるんですけど、そもそもそういう曲なので」
そのユニークな歌詞もさることながら、中毒性のあるビートとフロウもヒットの大きな要因だろう。
「ビートはタイプビートです。去年の夏にBunnaB(バナビー)というUSラッパーがリリースした『Bunna Summa』に衝撃を受けたんですよね。夏ソングっていろいろあるけど、レゲトンとかじゃなくて、オルガン系というか、ちょっと昔のアトランタっぽいサウンドで。曲調自体が夏っぽいわけじゃないのに、なぜか夏っぽく感じるのがすごいなと思って、自分もそういう曲を作りたいと思ってビートを探しました」
あの動画は雨の中で彼氏に撮ってもらった
制作のきっかけとしては決してバズ目的ではなかったものの、そのキャッチーな曲調にバズの可能性を見出したNatchan Montanaは「彼氏のお金で行っちゃうバリ / 肌で感じてる夏から秋 / あたしはJUICYあなたVERSACE / Sideで歩くビーチまるでカニ」という15秒のフレーズに合う振付を自ら考案した。
「全然素人だし、別に踊れないんですけど、簡単で真似しやすくて、キャッチーかなと思う振付を自分で考えました。最後にカニのポーズでハケていくのをギャルちゃんとかが真似してくれたらカワイイかなって」
振付動画は、彼氏とともに東京都内で撮影された。
「海をバックにしたくて葛西臨海公園に行ったんですけど、なんかめっちゃ曇ってると思ったら雨降ってきちゃって。ちょっと弱くなった瞬間にスッて撮ったものの、撮影中も小雨が降ってました。動画ではわからないですよね。彼氏に撮影してもらったんですけど、雨宿りしてる人たちから冷笑されてるような空気で、彼氏も恥ずかしそうでした」
WatsonやElle Teresaの影響は大きい
彼氏はNatchan Montanaの活動に協力しつつも複雑な思いを抱えているそうだ。
「自分の金玉とか精子がどうこう言われるのが嫌だから、そもそも歌詞に出してほしくないし、私が有名になることに恐怖を感じているらしいです。こないだ私が『10万いいね超えたよ』って教えたら『ウワー』って。怖がってますね」
「まるおみたい肥えた彼氏のきんたま / あたしのあそこまるで糸魚川」(「MISO KING DISS」)、「抜け出せないはまり具合あたしのまんこかこたつ」(「JからG」)、「あたしの名器でさせてやる溺死」(「FUCKAMEMUSHIT」)、「いっぱい出たねカメムシとか精子」(「引っ越しFREESTYLE」)のように、ストレートな下ネタはNatchan Montanaの大きな特徴の1つだ。
ほかの曲よりは控えめな「BALI」にも「裸足でバトゥール、キンタマーニ / あたしのswim wearくるきんたまに」というラインがある。「金玉にくる」は女性ラッパーを揶揄する目的で一部の人々に使われている侮蔑的なスラングだが、その言葉をあえて逆手に取ろうという意図はあったのか。
「いや、普通にちょっとなんかうらやましいなみたいな。もちろん『金玉にくる』って差別的だし、すごく失礼でよくないコメントなんですけど、私のコメント欄には全然そういうのなくて。1回も言われたことないんで、ちょっと言われてみたいんですよね」
過激でオープンな下ネタを武器とするUSのラッパー、Sexyy Red(セクシー・レッド)が大好きだというNatchan Montana。国内ではWatsonやElle Teresaといったパンチラインメイカーに大きな影響を受けているそうだ。
「やっぱりWatsonくんが現れてから、日本のラッパーもみんなダブルミーニングとか固有名詞を入れた歌詞を書くようになっていて、私もそのフォーマットに従ってワードプレイ重視で書いてる感じですね。しっかり韻を踏むのも大事で、まず踏む韻を考えてから、その間を埋めていく形です。Watsonくんやエルちゃんも下ネタが多いですよね。でも彼氏が言うには、エルちゃんの歌詞はギャルの下ネタ、私の歌詞はただ下品な人の下ネタで、全然違うらしいです」
お金を稼ぎたくてラップを始めた
もともとはTwitter(X)でレスバをするようなラップオタクだったというNatchan Montanaだが、そこから一歩踏み出してプレイヤーになったきっかけはなんだったのか。
「昔ちょっと試しに歌詞を書いてみたらめっちゃ書けて、私才能あるなって自分で思ったことがあったんですよ。そのときは実際にラップしてみることはなく、書いた歌詞も寝かせてたんですけど、そこから本当にラップを始めたのは、お金を稼ぎたいと思ったから。お金がなさすぎて、本気でお金が欲しいと思った日があったんです。でも、あまりにも自分は社不(社会不適合者)で、全然就職できる気もしないから、学生で暇なうちにラップで稼げるようにならないかなと思って。別に表現がしたかったわけじゃないです。恥ずかしいじゃないですか、ラップとかやるの」
アトランタのラップグループMigosの楽曲「Hannah Montana」と自分の本名を掛け合わせて活動名を決めたというNatchan Montana。ラッパーとなってお金を稼ぐため、彼女はまず動画の投稿を始めた。
「“ラッパーになるまであと100日”みたいなタイトルで、短めのラップの動画をTikTokに投稿してたんです。ラップというか歌詞を書くこと自体には自信があっても、最初はやっぱり聴かれるのが恥ずかしいから、人に聴かれる練習をしたくて。ワンチャンそれがバズったら、そのまま活動していけるし。それを10日くらい投稿したら、もともとTwitterで相互フォローだった友達のビートメイカーのMouseくんがビートをくれたんです。じゃあ、ちゃんとやってみるかとなって作ったのが『MISO KING DISS』。去年SoundCloudで公開して、今年の3月にサブスクで配信しました」
Natchan Montanaのサブスクデビュー曲は、彼女の友人などコアなラップファンを中心にして密かな話題を集めた。「あのラッパー売れてるまるでみそきんだ / コメ欄の子どもたち見ときーな」と歌っている「MISO KING DISS」だが、特定のラッパーへのディス曲ではないそうだ。
「あれはラッパーじゃなくて、リスナーへのディスです。有名な人が全然よくない曲を出すこともあるし、無名の人がいい曲を出すこともあるのに、ちょっと名前が売れてるラッパーがやることは全肯定みたいな権威主義のリスナーが多いじゃないですか。自分がリスナーのときにそういうのが嫌だなと思っていて。それで『みそきん(YouTuber・HIKAKINがプロデュースしたカップラーメンおよびカップメシ)』を食べたときに、これ同じだなと思ったんです。『みそきん』は普通においしいですけど、売り切れるほどではないですよね」
今はアルバムを制作中
「BALI」のリリースに先立つ6月にMouseとの共作EP「NATCHAN MOUSE」を配信し、ラップファンをさらに唸らせたNatchan Montana。その詳しい素性は知られていないが、収録曲「SUZUKI YUMA」で「このままいけばあたし新潟高校の落ちこぼれ」と歌っている通り、新潟の有数の進学校である新潟高校を卒業した彼女は、現在は東京の大学に通っているという。
「自分で進学校出身とか言うのキモいし、高校の名前まで出さなくてもよかったと思ってるんですけどね。ラップって具体的に書けば書くほどいいという価値観があるし、新潟の人に伝わるかなと。『自分で歌詞書いてないだろ』とか言われると思ったんで『私はちょっと賢いから書けるんだよ』っていうアピールでもあります。でも、高校の成績はほぼ最下位でした。高校受験はうまくいったけど、高校に入ってから全然努力できなくて。高3の頃にラップを聴き始めて、浪人生のときは勉強せずにずっとラップを聴いてましたね」
「BALI」ヒット後の展開が気になるところだが、今はアルバムを制作中だという。
「王道のラップがしたくて、今作ってるアルバムは全部オールドATLというか、Gucci Mane(グッチ・メイン)みたいな感じです。『BALI』みたいにキャッチーな曲はあと1曲くらい入るかな。『BALI』から好きになってくれた人にはちょっと気まずいんですけど」
アルバムはまだまだ制作途上で、リリースは来年になりそうとのこと。追い風に乗って矢継ぎ早に楽曲をリリースしていくつもりはないらしい。「BALI」の大ヒットによりイベント出演なども増えているNatchan Montanaだが、当初の目的であったお金はどのくらい稼げているのか。
「『BALI』がヒットしてると言っても配信の収益が入ってくるのは数カ月後なんですよ。実際どれくらい入ってくるのかも自分でわかんないし、今はまだ全然お金ないんですよね。とりあえずこれから彼氏のお金でバリに行ってきます」
プロフィール
Natchan Montana(ナッチャンモンタナ)
新潟出身で現在は東京を拠点に活動するラッパー。2026年3月にシングル「MISO KING DISS」を配信リリースして話題を集めたのち、6月にビートメイカーのMouseと共作したEP「NATCHAN MOUSE」を配信した。8月にリリースしたシングル「BALI」が現在TikTokを中心に大ヒットしている。


