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耳で楽しむ「シン・ウルトラマン」 (前編) この選曲は100点満点なのでは……!映画前半はまるで宮内國郎ベスト盤

2年近く前2022年05月31日 11:02

庵野秀明が企画・脚本、樋口真嗣が監督を務めた、ウルトラマンの誕生55周年記念作品「シン・ウルトラマン」。5月13日の封切りから2週間で観客動員数150万人を突破しているこの映画は、オリジナルに対するリスペクトが詰まった演出やストーリーなどが話題になっており、音楽面においても語るべきことの多い作品だ。

音楽ナタリーは今回、ロックシーン指折りの特撮ファンとして知られ、ウルトラマンに対する愛情と造詣が非常に深いタカハシヒョウリ(オワリカラ、科楽特奏隊)に「シン・ウルトラマン」に関するコラムの執筆を依頼。「耳で楽しむ『シン・ウルトラマン』」というテーマで、劇伴や効果音、主題歌などについて、ミュージシャン目線で、そして特撮ファン目線で徹底解説してもらった。

文 / タカハシヒョウリ(オワリカラ、科楽特奏隊)

はじめに

どうも、ミュージシャン・作家、オワリカラでボーカル&ギターを担当しているタカハシヒョウリです。

「シン・ウルトラマン」公開から3週間ほどが経過、興行収入20億円超えの大ヒットを記録しており、すでに鑑賞済という方も多いのではないでしょうか。かく言う自分も、1回目より2回目、2回目より3回目が楽しい……という不思議な現象に遭遇しまして、気付けば「シン・ウルトラマン」を4回リピートしています。

今回は、「耳で楽しむ『シン・ウルトラマン』」ということで、劇伴音楽や、効果音など、「『シン・ウルトラマン』の音にまつわる注目ポイント」を紹介していきたいと思います。

一度劇場で楽しんだ方も、これを読んでから、「音」に集中して鑑賞すると、また違った楽しみ方ができるガイドのようなものを目指しますので、よろしくお願いします。



※こちらのコラムは、作品のネタバレを多分に含みます。「シン・ウルトラマン」未視聴の方はご注意ください。
※曲タイトルの表記は、基本的にパンフレット収録の曲目リストに準拠しています。

 

前半は、まるで宮内國郎による「ウルトラマン」音楽のベスト盤!

まずは、映画を盛り上げる「シン・ウルトラマン」の劇伴音楽について。

「シン・ウルトラマン」の劇伴は、前後半でメインの作曲家が変わるという極端な構成となっていて、前半では初代「ウルトラマン」などで使用された宮内國郎氏による楽曲群を中心とした選曲、物語上の転機となるメフィラスの登場を境目に、後半では庵野作品に欠かせない鷺巣詩郎氏による新規楽曲群オンリーの選曲となる。これは、前半が原典である「ウルトラマン」の展開に比較的忠実であるのに対し、後半ではオリジナルの展開になだれ込んでいくという作劇構造と呼応するようになっているのだろう。

さらに、この「ウルトラマン」からの流用楽曲も2つに大別することができる。今回の「シン・ウルトラマン」のために再録音された「新録音源」と、55年前の「ウルトラマン」や「ウルトラQ」で使用された音源をリマスタリングした「流用音源」の2種類だ。新録はロンドンオーケストラ、リマスタリングは鷺巣氏が“ハリウッドの女王”と呼ぶエンジニア、パトリシア・サリヴァンさんが担当している。

「シン・ウルトラマン」の劇中で使用される新録の「ウルトラマン」楽曲は4曲あり、各戦闘のメインテーマとも呼べるものがそれにあたる。やはり映画の華であるアクションシーンを盛り上げる重要な楽曲なので、迫力ある音質と、映像とのシンクロ度の高さを求めての新録という意図だと受け取った(例外的に「怪獣無法地帯 レッドキングの襲撃(B1)」のみ、「ウルトラマン」で使用されたオリジナルのモノラル音源に、ステレオで新録の管楽器を追加した「新録管楽器によるステレオ配置」という音源が使われている。ちなみに、この楽曲は完全な新録も行われたようだが、そちらのバージョンは映画中では使用されていない。6月22日発売のサントラに収録)。

今回は、そんな劇伴音楽の中から、個人的な盛り上がりポイントをピックアップして紹介していこうと思うのだが、その前に少し「ウルトラマン」の音楽について解説しておこう。

 

1966年に放送開始した特撮テレビ番組「ウルトラマン」の音楽は、前番組の「ウルトラQ」から引き続き宮内國郎氏が担当した。ジャズ畑出身、元トランペッターであった宮内氏の音楽は、地面から沸き立つようなビートと、軽快なブラスで、シンフォニックな“面”ではなく、リズミカルな“点”で鳴らすようなサウンドが特徴だ。

(「シン・ウルトラマン」で使われるかがファンにとっては1つの注目ポイントであった)主題歌「ウルトラマンの歌」も、同時代の子供向け番組の主題歌と比較すると、明るさの中にしっかりとエッジが立っていて、実はかなり洒落た楽曲だ。当時、テレビの前にいた子供たちは、この曲のビート、ブラス、そしてセブンスコードのスタイリッシュさに、それまで体験したことのない未来の響きを感じたはずだ。まさに「ウルトラマン」の空想と浪漫の世界を、サウンドの面からも確立したのが宮内國郎氏の音楽だったのだ。

 

では、「シン・ウルトラマン」に話を戻そう。

「シン・ウルトラマン」はオープニングから、宮内音楽のオンパレード! 「シン・ゴジラ」の際に原典から引用された伊福部昭氏の音楽は、ここぞ!という場面で伝家の宝刀のように抜かれたが、今回は「ああ! もうそんくらいの感じでバンバン行くのね!」と圧倒されるほど多用される。

「シン・ゴジラ」のロゴを突き破って現れる「シン・ウルトラマン」のタイトルクレジットとともに流れる「メインタイトル ウルトラマンOP(Q・M1T2+タイトルt5)」「メインタイトル タイトルB」から、“禍威獣”の脅威と“禍特対”の結成を描くダイジェストの「ウルトラQ テーマIII(M-2 T2)」へとなだれ込んでいき、怪獣出現を盛り上げる音楽も、そのどれもが「ウルトラQ」「ウルトラマン」からの宮内楽曲。

ここまで宮内音楽100%、まるで宮内音楽のベスト盤フィルムコンサート!

ウルトラマンが登場し、初陣となる透明怪獣・ネロンガとの戦闘では、「科特隊出撃せよ 電光石火の一撃(A1)」が新録バージョンで流れる。この戦闘は、胸で電撃を受け止めるなど「ウルトラマン」でのネロンガ戦をなぞっており、選曲も原典の再現となっている。

楽曲がストップし、無音になってからスペシウム光線を発射する流れも同じだが、ループの末にフェードアウトで終わるオリジナルに対し、「シン・ウルトラマン」版は楽曲の最高潮での“キメ”で終わるのが、新録ならではの盛り上がりポイントとなっている。

無劇伴の中で炸裂するスペシウム光線のあと、光波熱線の異常な威力に震撼する禍特対メンバーのコメントとともに流れるのは「無限へのパスポート ブルトンの最期(M2)」。不穏な楽曲が、突如出現した未知の巨人への恐怖を煽る素晴らしい選曲で、オリジナルのネロンガ戦ではウルトラマンが飛び立ったのち、主題歌の変奏曲「科特隊出撃せよ 大団円(A5)」で文字通り大団円的に明るく終わるのと好対照となっている。

ちなみに、この「無限へのパスポート ブルトンの最期(M2)」も新録が行われたようだが、劇中では使用されず、サントラのみの収録となっている。公式書籍「シン・ウルトラマン デザインワークス」に収録の庵野氏の手記によると、編集時にオリジナル音源に戻した楽曲が2曲ほどあるとのことだが、おそらくそのうちの1曲がこれだと思われる(もう1曲が、後述の「ミイラの叫び 出撃(M4T2)」か)。

ここで「新録のほうが音質がいいなら、新録を使ったらいいんじゃないの?」と考える読者もいるかもしれないが、当時の録音技術で限られた時間の中で録音された演奏には、微妙なズレや音の歪みがあり、その部分が再現できない独特の魅力ともなっている。そのため、必ずしも再録音して音質が向上したから、単純によりよくなるというものでもないのだ。それは、音質がいい“別物”だったりするのである。

「新録」と「流用」のどちらを採用するかというジャッジは、「選曲」としてクレジットされている庵野氏なりの判断基準で為されたのだろう(このあたりの経緯等は、おそらくサントラのブックレットに掲載されると思うので、楽しみに待ちましょう)。

「シン・ゴジラ」と「シン・ウルトラマン」で異なる、原典音楽への向き合い方

日常パートに流れる鷺巣氏による楽曲を2曲挟んで(「シン・ゴジラ」で流れた「Early Morning from Tokyo」のアレンジ違い「Early Morning from London」は、個人的にも大好きな楽曲なのでうれしい。ちなみにこれはもともと「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」のために制作された楽曲だったが、そのパートには映画「太陽を盗んだ男」からの楽曲「YAMASHITA」が選曲されたために使用されず、のちに「シン・ゴジラ」で使用されたという経緯があるようだ)、地中から出現する地底怪獣・ガボラ戦となるわけだが、その前に注目したい楽曲が「宇宙から来た暴れん坊 科学特捜隊(特捜隊のテーマ)」。「禍特対、出動!」というセリフとともに流れる「特捜隊の歌」のインストバージョン!という、ある意味で非常にベタで盛り上がるシーンなのだが、これが前奏部分しか流れないのだ。

メインのメロディが流れる頃にはバツンとカットされ、「虫がPC画面にたかってる」という盛り下がるシーンにつながるという、一種のギャグ的な扱われ方となっている。

せっかくならもっと聴きたかったと思うのが人の心ってものだが、「シン・ウルトラマン」のリアリティラインで「『特捜隊のテーマ』をバックに出動する禍特対」というのは、やや違和感を覚えるだろうと推測されるので、この曲の使い方は気が利いているなーと感心した。ギャグ的な前振りだからこそ、かなりノイズの目立つ音質でも成り立つだろうという選曲の“読み”を感じた部分でもある。

 

さて、ガボラ戦での新録曲は「ウルトラ作戦第一号 戦い」。ウルトラマンの戦闘シーンの定番曲であり、もちろんオリジナルのガボラ戦でも流れるのだが、この曲を新規録音の音質で聴けたのは素晴らしい体験だった。

こちらも、「盛り上がりのキメでガボラが“激ヤバ光線(禍特対談)”発射!」という新録ならではの映像とのシンクロで盛り上げてくれる。

だが、この戦闘での個人的な注目曲は、激ヤバ光線を体で受け止めたウルトラマンが、ジリジリと前進していくシーンで流れる「ミイラの叫び 出撃(M4T2)」。ここ、最高です。何度でも言います、ここ最高です。カッコよすぎる選曲。

勇猛な打楽器が印象的なこの楽曲、「ウルトラマン」の第12話「ミイラの叫び」では科学特捜隊とミイラ怪獣・ドドンゴとの戦闘シーンで流れ、さらに続くウルトラマンとドドンゴの戦闘にはBGMを使用しないことで、望まず目覚めてしまったミイラ怪獣と戦う虚しさ、とどめを刺すのをためらうウルトラマンを印象付ける役割も果たしている。

また、6月3日から公開される「庵野秀明セレクション『ウルトラマン』4K特別上映」に庵野氏が寄せたコメントでは、「ウルトラマン」の第26話「怪獣殿下(前編)」古代怪獣ゴモラ戦での使用に言及し、「M-4T2曲が流れカラータイマーの点滅音が響く中、ウルトラマンが美しくやられていく様」を作品選定理由に挙げている(参照:庵野氏コメント到着、記念トークイベント決定!映画『シン・ウルトラマン』大ヒット記念 庵野秀明セレクション『ウルトラマン』4K特別上映)。

ちなみにサントラの収録リストを見ると、この「ミイラの叫び 出撃(M4T2)」も新録されており、そちらのバージョンは使用されなかったようだ。き、聴きたい……!

 

物語は、もう1人の外星人・ザラブの暗躍により、新たな局面を迎える。暗闇の中から出現するザラブに合わせて、「ウルトラマン」でもザラブとの接触シーンで使われた「遊星から来た兄弟 来訪者(L9)」が不安を煽る。

「ウルトラマン」は、怪獣とのバトルが魅力のエンタテインメントでもありながら、子供たちにとってはホラーやサスペンスとしての魅力もあったはずだ。ショック効果的に使われる「遊星から来た兄弟 悪魔の正体(K5)」など、一連のザラブのシーンには、まさにウルトラマンのサスペンス的側面を象徴する楽曲たちが選曲されている。

拘束された神永新二(ウルトラマン)を調べるザラブのシーンで流れるのが、アレグロで刻まれるピアノのメロディが斬新な「侵略者を撃て バルタン星人(C1)」。楽曲の魅力が際立つ素晴らしい選曲で、改めて「このピアノめちゃくちゃカッコいいな……」と恍惚としてしまう。

浅見分析官のバックアップで解放され、ビルを突き破って現出し、ザラブが変装した“にせウルトラマン”と対峙する本物のウルトラマン! 「ウルトラマンといえばこの曲!」という1曲、「遊星から来た兄弟 勝利(M5)」が高らかに鳴り響き、夜の街を舞台にしたザラブとの戦闘が始まる。

このザラブとの戦闘シーンが、映画内で宮内音楽が使われる最後のパートであり、同時に劇中もっとも盛り上がる音楽のポイントの1つでもある(実際、僕は「シン・ウルトラマン」を観てから、気を抜くとこの曲を自動的に口ずさんでしまう)。

「ウルトラマン」でもザラブ星人との戦闘シーンで初めて使用された「遊星から来た兄弟 勝利(M5)」だが、ここで流れる新録バージョンは、2回目から合いの手のように入る新たなストリングスメロディが追加されており、宮内音楽と鷺巣音楽の融合を聴かせてくれる。

さらに原典と同じ流れで、この曲とつながって使用されるのが「侵略者を撃て 空中戦(A2)」で、こちらも厚みを増した新録バージョン。原典を再現しつつ、最新の映像技術で描かれる外星人同士の超バトル、さらにそれを盛り上げるのはオリジナルをアップデートした名曲たち。“過去”と“現在”が拮抗して高みへと駆け上っていく、珠玉の名シーンとなった。

 

ここまでで、宮内音楽の引用パートは終わり、以降は鷺巣氏による劇伴のみが使用される。

正直、前半を彩る宮内音楽の選曲については、個人的に「これは100点満点なのでは……」と感じていて、「ウルトラマン」を敬愛する庵野氏の選曲、さすがの“ウルトラマン解像度”だ……と思いつつ、同時にあまりにも完璧で隙がなく矢継ぎ早に繰り出されてくるので、どこか機械的なサービスのように感じたという面倒くさい感想すらある。だからこそ、「宇宙から来た暴れん坊 科学特捜隊(特捜隊のテーマ)」の“ズラし”が印象深く残っているのかもしれない。

「シン・ゴジラ」では、要所でのみ挿入される伊福部音楽がサプライズ的な感動につながっていたことも間違いなく、「シン・ウルトラマン」では原典音楽への向き合い方が“異化”ではなく“再現”というまったく違うベクトルになっているのも注目したいポイントだ。

そしてもう1つ、触れておかないといけないのが「ウルトラマンの歌」の存在で、ご存知のように、こちらの楽曲は使用されていない。

ここまでやってくれるなら、どこかで「ウルトラマンの歌」のメロディを聴きたかったような、しかしこの世界観の中にあのメロディは合わないような……、そこについてはまだ自分の中でも整理がついていない。5回目を見たら、結論が出るかも……と考えてる時点で、選曲の術中に見事にハマっているのかもしれない。

<後編に続く>

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